二十話 幻想術技団
私たちは開けた広場に着いた。そこではちょうどパフォーマーの人たちが挨拶をしているところだった。
怪盗のような見た目をした若い男が高らかと声を上げる。
「今この瞬間から私たち幻想術技団が幻想の空間へと誘いましょう。さあ!それでは諸君!レッツショータイム!」
パチンッと指を鳴らす音と同時にまだ日が落ちきっていなかった明るい空を半径50mほどの範囲に幕を下ろしたかのように暗くなった。
しかし、すぐに光が差した。さっきまでと違うのはその光はある一点のためだけのものであるというところだ。
そこには何もなかったが、霧のようなものが漂い始めたかと思うと、突如としてそこにピエロの面をした人が現れた。
ピエロは杖を取り出し、3回振った。
すると鈍い音と共に空に花が咲いた。
「わあ…!」
私は思わず声を漏らす、それは紛うことなく花火だった。
私は自分自身に複雑な感情を感じた、なぜだか懐かしいような、寂しいような、悲しいようなそんな感じ。
そこでふと思いつく、私はこの光景を前世に重ねているのかもしれないと思った。
それは遠い日の当時は気づくことさえなかった、当たり前の日常に対する羨望だったように思う。
この世界に来て、叶った願いが沢山ある。
私は隣を見るアリアやノーアさんも上がり続ける火炎の花に目を奪われている。
その表情を見ていると、私は堪らなく愛おしく思える。
それは私の成長かもしれない。
前世では私は他者を信じることも、世界に期待することもなかった。
だけど、異世界に来て、人の優しさや強さ、世界の美しさ、儚さに気づいた。
私は周りに恵まれている。
そう思いながら、アリアたちを見ていると、アリアはそれに気がつき、こう言った。
「セレーネ!見てよ!これ魔術なの!?綺麗だからよそ見しないであんたも見なさい!」
それを聞いて前を見る。
すると、派手な花火が連続して咲いている。
そして音がやんだ。
そこで、スポットライトが上に向けられた。
皆光に釣られるように上を見る。
そこには、鳥のような仮面をかぶった人がいた。
しかもその人はなんと空に浮かんでいた。
鳥仮面はそのまま空中でパントマイムを始める通常のものでも十分に面白いが、空中で行うことで足場ですらも演技ができる。
落ちそうになるところなどは迫力満点だ。
そして何より驚くべきことは、先程のピエロ含め、魔術を無詠唱で扱っていることだ。
これは各個人最低でも2級以上の魔術師であることを示している。
この鳥仮面の空中パントマイムは恐らく風魔術の応用だろう。
とはいえ、ここまでの精度で魔術を操れるとなると、戦闘になれば1級の実力はあるだろう。
私は、魔術とは武力や生活のために使う力だと考えていた。
しかし、それだけではなかった。
私が知っていた魔術は表層にすぎなかった。
魔術とは本来自由なものだ。力とはいつでも危険と楽しさを同時に兼ね備えている。
だから、魔術を武器として使うことも、こうして、人を楽しませるために使うことも、どちらも魔術の一側面なのだ。
もしかするとこのショーは様々な人に魔術の「楽しさ」を伝えたいために生まれたものなのかもしれない。
そう考えながら、私は手に持っていたジュースを飲む。
口に入れるとまろやかな酸味と甘みが同時に広がる。
思わず笑みがこぼれる。
「美味しい…」
そう呟いて私は再び前を見る。
私が視線を戻すとそれとほぼ同時に、鳥仮面が慌てたように動くと、そのまま地面に向かって、真っ逆さまに落ちていく。
「…ッ!?」
私は反射的に魔術を使う。
まず、突風を鳥仮面の下から放つ、そして勢いを殺し、土盾を空中に出現させる。
そこに鳥仮面が静かに落ちる。
「…ふう」
なんとか悲劇は回避できた。
そう思うとほっとした。
その瞬間、背後に人の気配がした。慌てて振り向こうとするが、その前にパチンッという聞き覚えのある音を聞いた。
そして身体が動かせなかった。
(拘束の魔術か…)
すると声がした
「お客様ご無礼をお許しください。」
彼はさらにもう一度パチンッと指を鳴らす。
すると、辺りから音が消えた。
正確には私と彼だけを囲う結界のような魔術が使われたようだ。
それと同時に私への拘束が解けた。
彼を見る。
そこには予想通り、最初の挨拶を行っていた、怪盗のような姿の男がいた。
彼は目が合うと話し出した。
「少々手荒になってしまいましたことを改めてお詫び申し上げます。さて、お客様少しお話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
彼は丁寧に話しつつもどことなく楽しそうな、興奮したような気配を滲ませていた。
とりあえず話してみようと私は思った。
それは、彼が話したいと言っているからだけではなく、私自身も彼らに対する興味があったからだ。
「はい、いいですよ」
そういうと、彼はニヤリと笑う。
「ご協力感謝いたします。私が言いたいことは一つだけです。」
彼はそこで言葉を切った、
「ですが、その前に一つ質問をします。先程私の団員を魔術を用いて落下を止めたのは貴女ですね?」
私は彼の言葉の真意をイマイチ測りかねていた。
可能性として考えられるのは大きく二つだ。
一つ目 私の介入をよく思っていないため注意をかねて私に声を掛けた。
二つ目 団員を助けたことのお礼をしたくて私に声を掛けた。
……どちらかと言えば一だろう。
よく考えたら、あのレベルの魔術師がそう簡単に魔力操作を誤ることなど無いだろう。
とすれば、あれすらも演出で、舞台を盛り上げる演目の一つでしかなかったのではないだろうか?
そう考えつつ、とりあえず素直に答える。
「……はい、その通りです…」
そう答えると彼は心底可笑しいといった感じでアッハハ!と笑うとこう言った。
「何を勘違いなさっているのですか?私は貴女のことを気に入ったのですよ!」
「き、気に入った…?」
私はその想定外の答えに思わず、声を裏返し、そう聞き返した。
「ええ、貴女はその幼さで無詠唱魔術を極めて高い精度で使用することが出来る、そんな子供を私は見たことがありませんでした。だからこそ、一緒に観客たちを驚かせるようなショーをしてみたい、そう思って声を掛けました。」
それは私にとって正直、嫌な申し出と言えた。
私は人前に出ることや目立つことがあまり好きではないし、何より私程度の魔術はここの団員なら誰でも扱えるだろう。
そう思い、やんわり断ることにした。
「申し出はとても有り難いのですが、私では力不足と思いますので…」
そこまで言いかけたところで、いつの間にか近づいてきていた、彼が私の手を取る。
「大丈夫です。貴女なら出来ます。私は貴女のイメージを見てみたい。」
「…私の…イメージ?」
「はい!魔術とは扱う人によってに同じ魔術でも魔力の質や魔術の形に違いがあります、それは何故か?答えは魔術はその人のイメージで構築されるからです、とは言え、魔術にもある一定の法則性がありますから、それを無視した魔術は基本的にあり得ませんが…それはさておき、貴女は先程の基礎の魔術だけで団員を助けましたが、貴女の実力であれば応用の魔術が使えるはずです。」
応用の魔術が使える、そう言われても、具体的なやり方が分からない。
「どうやったら出来るようになりますか?」
私はそう尋ねた。
「そう難しいことはありません。そうですね…たとえて言うなら、白い紙に魔力というなの絵の具と魔術という筆を使い、貴女だけの世界を描き出す、それが応用というものです。基礎はその道しるべに過ぎません。」
その言葉を聞いて私もやってみたくなった。
もしかするとこの人なら私の知らない世界を見せてくれるそういう確信が何故かあった。
「さっきのショーのことですが参加してもいいですか?」
彼はニヤリと笑うと
「もちろん。」
と呟いた。




