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十九話 別れの決意

 私は、そろそろこの場所を去ろう、そう考えていた。

 それは単に魔術師試験の日程のことを考えて、というだけではない。

 ここ、ホーリーレイクズはノーアさんといい、街の人たちといい、長閑で落ち着いた安らぎを与えてくれる場所だ。

 しかし、いつまでもここで世話になるわけにも行かないし、どちらにせよ遠からずして別れる必要があるのだから、早いほうが、良いと思ったからだ。

 そのことをアリアに話すと、アリアも少しだけ寂しいそうな顔をしながら頷いた。

 私たちの意志は固まった。

 私たちはノーアさんにそのことを伝えに行くことにした。

 二階から一階へ階段を降りる。

 そして、階段を降りてすぐの部屋をノックする。

 すると、すぐにドアが開き、ノーアさんが言う。

 「俺の部屋に来るとは珍しいな、まあ入れ。」

 ノーアさんの言うとおり、私たちはあまりこの部屋を訪れることはない。

 私たちは促されるまま、中に入る。

 この部屋はノーアさんの寝室兼書斎といったとところで、壁には本棚があり、小説や辞書があったりするが、一番目を引くのはその経済に関する書籍の多さだ。

 ノーアさんは丁寧な性格なようで、ジャンル、著者と大まかに分けて二つに分かれている。まず、ジャンルごとに仕分けられ、その中でさらに、著者名を元の世界でいう、あいうえお順のような感じで仕分けられている。

 その中で棚の六割ほどは経済やビジネスと言った本が並んでいる。

 しかもそこに並んだ本たちは、どれも背表紙が薄れている。

 しかし、粗雑に扱った印象はない。

 むしろ、何度も何度も読み返されたのだとすぐに分かる。

 そして、見るとまだ新しい背表紙も見受けれる。恐らくノーアさんは、未だに商人としての勉強をしているのだろう。

 それは行き場を無くした情熱のやり場を見つけられずにいるということなのか、はたまた、単に経済などに興味があってのことなのかどちらにせよ、私には分からない。

 少しだけ部屋を見回し、ノーアさんが椅子に腰掛けるのを見てから私たちは、カーペットの敷かれた床に座る。

 そして私は口を開く。

 「ノーアさん、今日は報告しなければいけないことがあります。」

 ノーアさんは静かに続く言葉を待つ。

 「私たちはそろそろここを離れようと考えています。」

 ノーアさんはただ一言しかいわなかった。

 「…そうか、分かった。」

 その一言だけ、されどその一言には色々な意味があることを私たちは短い付き合いだが、わかっている。

 そこからはお互い黙った。

 と言っても、実際の時間では30秒と無かっただろう。

 先に沈黙を破ったのは、ノーアさんだった。

 「……いつ、離れるかは決まっているか?」

 と私たちに尋ねた。

 まだ具体的な日時は決まっていないので何かノーアさんの都合があれば合わせたい。

 「いえ、特別いつとは決まってません。」

 私がそう答えると、ノーアさんは少しほっとしたような顔をして、

 「そうか、だったら、一週間後の豊穣祭までいると良い。」

 と言った。

 それに対して私とアリアは顔を見合わせ、うなずき合った。

 「分かりました、そうしましょう。それはそれとして豊穣祭って何ですか?」

 私はその豊穣祭とやらはなんなのか気になった。

 でも前世から考えれば、恐らく、神様のような存在に作物の豊穣を祈る祭りだろう。

 ちなみにこの地域は街から少し離れると、田んぼや畑が多くある。

 理由としてはこの辺りは澄んだ湖が多く、 そこから、水を引くことで上質な作物が採れる。

 その品質は折り紙つきで、人族の領域の王の食事に出される、野菜や穀物の四割ほどはここホーリーレイクズのものらしい。

 これは少し街を歩いていたときに農家のおじさんが話してくれたことだ。

 農家の人たちは自分たちの作るものに誇りを感じているようで、とても楽しそうに仕事をしている。

 そんなことを思い出していると、ノーアさんが説明してくれた。

 「豊穣祭はな、お前たちの会った水聖龍王様に酒や今年採れた作物を捧げ来年も豊穣でありますように、という意味で行われる祭りだ。」

 もう何回目か分からないくらい思ったことだが、ティファさん凄くない?

 私たちは実はとても凄いものに会っていたと言うことを今更ながら、実感する。

 まあ、それはいい。たぶんノーアさんはそこまでに互いの心の整理をしよう、そう言いたいのだろう。

 そうだ、別れとは悲しいものでは無い。

 別れとは未来への一歩だ。明るい意味のはずだ。

 とりあえずことは決まった。

 一旦部屋から出よう。

 「なるほど、面白いですね。ありがとうございます。とりあえずあと一週間よろしくお願いします。」

 そう言って私は腰を上げる。

 それを見たアリアも少し遅れて腰を上げた。 

 「ああ、俺の方もよろしく」

 ノーアさんはこちらに背を向けてそう言った。

      ―――――――――

 一週間が経った。

 あの後は変わらず穏やかな日常を過ごし、時折、害獣や野生動物を狩り、狩猟者組合に持っていき、換金して貰い、少しお金を手に入れていた。

 ちなみに私たちは狩猟者組合に旅に出る前に加入している。

 それはラクロスが旅に出るなら登録しておいた方がいいと教えてくれたからだ。

 組合に所属していないと買い取りの際、手数料として、報酬から一割差し引かれるのだ。

 そんなこんなで一週間はあっという間にすぎた。

 今日は豊穣祭当日だ。

 街に出れば、人々の活気がいつも以上に高い。

 そして、目を引くのは店や家の前に木や草で作られた龍の置物があることだ。

 ホーリーレイクズでは豊穣祭の日は一日飾ることになっているのだそうだ。

 まあ、あれだ、ハロウィンのカボチャみたいなものだ。

 ちなみに私たちも作った。

 木材を集め、草花も集めた。

 それを使って龍を作るのだが、なかなか上手くいかない。

 木々をまとめて胴を作り、そこに頭と手足、そして尻尾を付ける。

 文字に表すと簡単だが、これが意外と難しい。

 特に頭の部分に苦戦した。

 頭は角や口などを作らなければいけない(もっとも私が勝手にやってるだけでないものもあるが)ので使えそうな素材が限られる。

 比較的飽き性のアリアは私の謎のこだわりのせいもあって、早々に離脱した。

 そこから紆余曲折あったが最終的にはこの辺りのどこの家より美しい龍の人形が出来たと自負している。

 それは間違いではなかったので正直ちょっと誇らしい。

 ただ、一つ不満があるとするならノーアさんの家は親しい人間以外基本的に来ないため、私の自信作があまり人の目に触れないことぐらいだ。

 そして、店はどこもかしこも豊穣祭にちなんでセールをしている、イベントごとのたびにセールなんかをする日本にも似ている、やはり人が大きく動く時が稼ぎどきと言うのはこの世界も同じなようだ。

 本番は日が落ちる頃からだ。

 内容は近隣の農家や狩猟者たちが今日この日のために集めた肉や野菜、魚、そして大人たちの何よりの楽しみ、お酒が振る舞われる。

 私は前世ではそう言った行事に縁が無かったので今日のことは密かに楽しみにしていた。

 「セレーネ、お前もなんか欲しいものあるか?」

 街を観察していたとき背後からそう声がした。

 振り向くとそこにはノーアさんとアリアがいた。

 そしていつの間にやら、アリアは綿菓子を持っている。

 「あ、ノーアさん!準備は終わったんですか?」

私がそう聞くとノーアさんは

 「ああ、大体終わった。まあでも、今日はお前たちと過ごしたいし早めに終わらせてきた。」

 と言った。しかし、照れくさかったのか、すぐにそっぽを向いてしまった。

 私は辺りを見渡す。

 そして、ある店が目にとまった。

 「私はあのジュースが欲しいです!」

 そう言って指差した先にあったのは、赤紫色をしたジュースだった。

 そのラベルにはドレインベリー&ヨーグルトジュースと書いてあった。

 私はこの果実がこの世界ではかなり好きだ。

 味で言うとブルーベリーに近いだろうか、だが少し弾力がありグミのような食感だ。

 これのジュースしかもヨーグルトも入っているなど興味を持つなというほうが無理だ。

 それを聞くとノーアさんは

「分かった、買って来る」

 そう言って足早に店へ向かった。

 さっき言ったことがよほど恥ずかしかったに違いない。

 そしても度つて来るとその手には三つもジュースがあった。

 「どうしたんですか?」

 少しはにかみながらノーアさんは

 「どうせなら広場で皆で飲もう、あそこでは今は魔術ショーをしているはずだ。」

 魔術ショーとはなんだろう気になる。私たちは広場へと向かうことにした。

 

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