十八話 湖の古龍
私とアリアは、ノーアさんの元で凍傷や体力が回復するまで4日間お世話になった。
私たちはある程度回復したので観光することにした。
そこで、ノーアさんにおすすめの場所はあるか、と尋ねると、しばらく考えて、
「ここからだと少し遠いが、8キロぐらい西へ行くと一際大きな湖がある、あそこなら何かしら面白いことはあるだろうから興味があれば行くといい。」
そう言うと、近くにあった紙と年季の入った万年筆を手に取り、丁寧に地図まで書いてくれた。
礼を言い、玄関へ向かう。
「それじゃあノーアさん、行ってきます。」
私がそう言う。
アリアがドアを勢いよく開けると、
「おみあげ、期待しててね!」
と、明るい、夏の向日葵を思わせるような笑顔でそう言った。
ノーアさんは照れたような笑みを浮かべると
「ああ、待ってるよ、とにかく気を付けてな?」
「「はい!」」
私とアリアがほぼ同時に答えた。
―――――――――
二時間ほどして、湖にたどり着いた、道中は特に何もなかったが、街並みはかなり整っていた。
そこで、手近にあった、パン屋でサンドイッチを買った、ちなみに私がハムタマゴ、アリアがカツサンドだ。
そしてこの町について驚くことがあった。
それは、この町では井戸の水をそのままで飲めるのだ。
これはかなり凄いことだ。
何せ、井戸の水というのは色々な雑菌等が多くいるので、必ず、煮沸してそうした、雑菌や微生物を殺す必要がある。
しかしここの町では、その必要がないようなのだ。
それが何故かは分からないが、とにかく綺麗な水なのだ。
そして二時間書けてたどり着いた、湖はというと、圧巻としか言い様がない光景だった。
そこには、半径2kmはありそうな大きな湖があった、しかし、それだけなら驚くほどのことではなかった。
何が私たちを驚かせたのか?
それは、その湖の周囲の木々や動物は、異様な大きさだった。
例えば木々は通常、高さ30mと言ったところの物が多かったのに、ここでは軽く倍はあるだろう。動物も、サンドフォックスなどは通常、30cmくらいの体長で体毛は土に似た茶色で尻尾が一本ある、と言うのが、この生物の特徴だ。しかし、ここに来たときに少し遠くに居た、サンドフォックスは、体長は1mほど、体毛は金色、極めつけは尻尾が五本あった。
以前、野生動物の生態や見た目が載っている本を読んだことがある。
そこにはサンドフォックスについてこう書かれていた。
「サンドフォックスは尻尾に魔力を蓄え、そこから魔術を放ち、獲物を狩る。また通常、尻尾は一本だが魔力が多い環境ではまれに、複数の尻尾を持つ個体もいる。」
ここで見たサンドフォックスは恐らくかなりの魔力を持っていたことだろう。
このことに湖が関係しているのは明らかだ。理由は湖の奥から、凄まじい魔力を感じるからだ。
しかし、嫌な感じはしない。
むしろ、神聖ささえ感じさせる魔力だ。
私とアリアは思わず息をするのも忘れるようにこの光景に見入っていた。
「「…!?」」
私とアリアは同時に身構えた。
地面が揺れ始める、それは次第に大きくなってきている。そして、湖の奥から感じた膨大な魔力の持ち主が近づいてきていることに気づいたからだ。
そして、湖のなかに黒い影が見えた。
「…大きい!」
私は大きさに驚いた、細長い影は軽く15mはあろうかという巨体だった。
すると、影が水面から水を巻き上げながら、現れた。
その姿に私は見とれた。
それはあまりに美しい、龍だったから。
龍の見た目は青色の鱗に鋭く光る白い瞳、そこに黒目はなかったが、だからこそその瞳に強く引き込まれるような感覚がある。全体で見ると、存在自体が神(見たことないけど)にも等しい神聖さを持っていた。
「其方らは何者だ?」
龍はテレパシーのような直接脳内に響く声でそう言った。
私は一瞬固まっていたが、すぐに気を取り直して名乗る。
「…はい、私はセレーネ・アンリエット。ウェスティーイヤーズから参りました。」
私がそう名乗ったことで我に返ったアリアも続けて同じように続ける。
「私はアリア・ブランリール。……メソロジア出身よ」
すると、龍は
「我は五聖龍のうちの序列二位、水聖龍ティファだ。」
まさか、こんな凄そうな存在に出会えるとは想像すらしていなかった。
私はノーアさんに感謝した。
私は思った疑問をそのまま口にした。
「ティファ様はどうして私たちの前に姿を現されたのですか?」
五聖龍というのが何かは正直、分からないが、恐らくはかなりの大物なのだろう。
だが、そうであるなら私たちの前に何故現れたのか?
そう考えたのだ。
すると龍―ティファはフハハッと悪役のような笑い声をあげるとこう言った。
「その様な畏まった話し方をせんでもよい。我のことはティファでよい。」
そこで区切ると、ティファは続ける。
「何故其方らの前に現れたか、それは其方らの運命を視たからだといえよう。」
「運命を…視る?」
アリアがその言葉にキョトンとしながらそう呟く。
「左様、我ら五聖龍はそれぞれ、何らかの形でにこの世界に存在する者を観測する力を持っておる。序列順だと、誕生と滅亡を観測する力、死と生を観測する力、文明を観測する力、厄災を観測する力、歴史を観測する力だな」
私はとても面白くその話を聞いていた。
私は最初、ティファの力は運命を視る、とか操るとか、そういう直接的な能力かと思っていた。
しかし、今の話が本当ならティファは死と生を観測する力だ。この文面だけで言えば、運命を視ることは出来ないはずだが、この能力において、死と生は点に過ぎないのだろう。
この能力の本質は、その生命の生まれてから死ぬまでを、線として観測することが出来る能力なのだろう。
それをティファは運命、と洒落た言い回しをしたのだろう。
そう考えていると、アリアはそこにあまり疑問を持たなかったらしく。
「ティファさん、その運命ってどういう物だったの?」
と言った。
するとティファは少し気まずそうに
「アリアよ、済まぬが我が視た、運命、ひいては君たちの未来について我の口から明かすことは出来ぬ。それを伝えてしまえば運命の均衡が崩れかねないからだ、理解して欲しい。」
と言った。
アリアは少し不満げな顔をしていたが、理解はしたらしく引き下がった。
ティファは少し柔らかい表情をすると
「その詫びと言ってはなんだが少し其方らの運命について話そう。其方らは共に一般とは逸脱した過去を持っている。特にセレーネ、お前は永遠とも言える時間を生きた我を以てしても数奇な運命をたどっていると言える。」
その言葉に私は少なからず驚いた。
まさか、私が転生者と言うことも知っているというのか?
ここは一つしらを切ってみよう。
「…何のことでしょうか?」
すると、ティファはさも愉快と言った風に、フハハッと笑うと。
「お前も面白いことを言うものよ、分かっておる癖に、この我にしらを切るか!実に面白い、我は気に入ったぞ!」
あ、ちょっと下手打ったかもしれない。
ティファは許してくれたが、こういう上位存在には嘘やごまかしはしないほうが得策だろうから、今後は気をつけよう。
そう反省しているとティファが話を再開した。
「まあそれは良い、それでお前たちの運命が交錯することは決まっていた。そして今から先の未来、お前たちにはさらなる試練が待ち構えている。だが既にその道から逃れることは出来ないだろう。だが、そこからは違う、お前たちの選択次第で幾つかの分岐がある。我は…お前たちに何をしてやれるわけではは無い、ただ、できるだけ、良い運命にたどり着くことを祈っている。」
私はつばを飲んだ。
その言葉にはティファの真摯さがあった。
だからこそ怖いのだ、その運命が私とアリア、どちらにとっても試練となるのだろう。
私とアリアはその試験を乗り越えられるだろうか?
もし、乗り越えられなければその先にはどんな運命が待っているというのか?
私はただ一つだけ、一つだけ願う。
私たちがその試練すら乗り越え、大切な人たちと笑い合える運命であって欲しい、と。
少しどんよりした空気が漂っていたがそれを霧散させるようにティファは言う。
「さて、我のような老人の長話を聞いて疲れたであろう?我からの餞別として、お前たちにこれをやろう。」
そう言ってふわふわと私たちの元に移動してくる10cmくらいのそれは最初私が見惚れていた、青い鱗だった。それは私の手元で止まった。
「それは我の鱗だ。それを持っているとある程度の魔除けや厄除けになるだろう。そしてそれには……いや、何でも無い。忘れてくれ。とにかく、それは御守りとして持っておくと良い。では、さらばだ!」
そう言うと鱗は私たちの手に収まった。
そして私はそれを防具のポケットに入れた。
そこで
「ティファさん!また会える?」
アリアが聞く。
しかしティファは何も答えなかった、だがそれが答えと分かった。
私は
「…ありがとうございます!」
そう言うと私はアリアを抱き寄せた。
アリアは一瞬、抵抗したがすぐにやめた、理由は私が小声で後でモフらせてあげるから…と言ったからだ。
「ティファさん、私たちは……絶対に試練を乗り越えて見せます!」
と言った。
それ半分は本心で、半分は決意だ。
それを聞くとティファは満足げに頷くと、次の瞬間には影も形もなくなっていた。
そこで、私はアリアを解放した。
私は非現実的な体験の残響を噛みしめていた。
ポケットから、鱗を取り出す。それを改めて眺める。この宝石と見紛うような美しい鱗が、あの時間が現実であったことを物語っていた。
手元の鱗を見ていると、今度はアリアに抱き寄せられた。
「今日はセレーネ公認でモフれる!」
そう言うと六分ほどモフられた。
―――――――――――
そして、周囲を散策すると前世の世界に近いような生態系に感じた。
これは恐らくは人族の領域にほど近いからだろう、やはり生態系も人族の領域に近いほど弱い種や小さな種類が多くなってくるようだ。
しばらく散策したあと、私たちはノーアさんに、ジャイアントマロンのケーキを買った、理由はよく、ジャイアントマロンと名のつく食べ物を食べていたから、恐らく好きだろうと思ったからだ。
そして家に着く頃には既に日は落ちかけていた。
「ただいまー!」
アリアが言う。
「ただいま戻りました。」
するとノーアさんは、
「おかえり。」
と言って近くに来た。
「ノーアさん!今日凄いもの貰っちゃった!」
ノーアさんは柔らかな表情を浮かべると、
「ほう、どんなものを貰ったんだ?」
アリアがおもむろに鱗を取り出す
その顔には、「これがどや顔です。」と言ったような、自慢げな表情をしていた。
それを見たノーアさんは目を見開いて絶句していた。
少しあってノーアさんは絞り出すようにこう言った。
「………こ、これはどこで誰に貰ったんだ…?」
アリアは疑問というように
「これそんな凄いの?」
と聞いた。
私も正直、ティファが凄いことは分かるが、この鱗の価値については分からないのでそこは専門家の意見が気になるところだ。
「あ、ああ、と言うか凄いとかそう言う次元じゃない、これはもし仮に売るとしたら国か大都市の大物貴族くらいしか買えない値がつく…ざっと純金貨三千枚…ってとこか?いや、もっと?」
それを聞いて私とアリアは同時に
「「純金貨三千枚っ!?」」
と声を上げた。
これは日本円換算なら一億円ほどだ。
ちなみにこの世界のお金は、
高い順に一枚あたり
純金貨=三万円
金貨=三千円
銀貨=千円
「」
銅貨=三百円
厳密には少し違うかもしれないが大体こんなところだ。
「ティファさん凄っ!」
アリアが驚いたように言う。
その言葉にまたノーアさんは目を見張る羽目になっていた。
「ティファ……ティファ?水聖龍神ティファ!?」
あれ?なんか神とか付いてる。
でも、あの龍水聖龍としかいってなかたような…?
「お前たち!水聖龍王に会ったというのか!?」
ノーアさんが興奮を隠せない様子で叫んだ。
「はい、ティファさんの方から出てきて少しお話をしました。」
「そうか…」
ノーアさんは諦めたようにそう言った。
「水聖龍王は創世の龍と言って、この世界を創った五聖龍王のうちの水に関わるものを創り出したと言われている最古の龍の一人だ。」
ノーアさんがため息をつきながらそう説明した。
ティファさんなんか思ってたより凄かった。
アリアは
「凄いね!でもそんなことより、ノーアさん!ジャイアントマロンのケーキ買ったからみんなで食べよっ!ね?」
と言ってノーアさんの手を引く。
ノーアさんも苦笑しつつも、
「そうだな…」
と言ってリビングへ向かった。
私だけ置いて行かれたようになってしまった。
「もう!ちょっと待ってよー」
そういうと靴を脱ぎリビングへ向かった。
そのあと、みんなで食べたケーキはとても美味しかった。




