十五話 因縁
そうして、村に4日ほど滞在して、食糧や衣料品をある程度購入しておいた。
ちなみに資金に関してはある程度は持たせて貰ったが、それはできるだけ使わないようにしようと、私とアリアは決めていた。
ならばどうしたのか?
それは私たちには魔術という、才能がある。
それ故に便利屋のような仕事を請け負って、お金を稼いでいる。
その街ごとにどの程度の賃金をくれるかは異なっている。
それは単に経済的な差から来るものではない。
いや、そういう側面がない、と言うわけでもないが、一概に全てがそれに起因するかと言えば、そうではないということだ。
その差の理由をあけすけに言うならば、差別、とでも言うべきか。
この大陸には普遍的に格差と争いが満ちている。
それは前世でも散々、どれほど拒もうとも否応なく見せられてきた。
それはもしかすると人が生きるのに避けて通ることは出来ないのかもしれない。
だが、そんなことにウジウジ言っていた所で何が変わる訳でもない。
そんなことをしている暇があるのなら一円でも多くお金を稼ぐ方がよほどいい。
具体的にはそこの村や街の住人から、人族だから、亜人だからと言われ安く買いたたかれる。
もちろん、差別のない地域もあった、そうした地域は必ずと言って良いほどに、街には様々な種族が居る。
逆に言うと、差別的な地域は同じ種族しかいないような閉鎖的な街だった。
人間、誰であろうと知らないものは怖いし、警戒するものだ。
そんなこんなしながら森を歩く。
今後北方のメソロジアに向かっていくと徐々に寒くなってくる。
現に今の時点で、気温は日本で言うと、10~11月並みの気温、すなわち15度ほどと、少し肌寒いといった感じだ。
ただ悪いことばかりでもない。
私はこの世界に生息している生物を観察したり、絵を描いたりするのが好きだった。
気温が変われば、植生も変わる。
そうした変化を観察することが出来て私としては嬉しい、そしてアリアも、苦手な虫系魔物が出てくる頻度が減るので少し嬉しそうだ。
だが、気になるのはアリアの表情や声音が北方に近づくにつれて、緊張したような、恐れのようなものを含む事が多くなっている気がする。
勿論、疲労やストレスによるものかもしれない、でも私にはそうは思えなかった。
このあとに何かが起こらないことを願うばかりだ。
さて、そんなことを考えていると、突如として、辺りに歌声が聞こえてきた。
「微睡みの中へさあ落ちて♪真っ白な悪夢が貴方を包む♪」
と、美しいソプラノの歌声が聞こえると同時に、膨大な魔力がある一点に収束していく。
そこで私は気づく。
これは何かしらの魔術の詠唱だ!
それも生半可な威力ではないこの攻撃が直撃すれば、まず、命はないだろうこのレベルの威力だと防御結界は意味を成さないだろう。
辺りの気温が下がって来ている恐らく、氷雪系の魔術だろう。
しかも、この魔術は逃げられるほど狭い範囲ではない。
こうなったらこちらの全力で威力を軽減するよりほかにない。
「アリア!火炎爆散を全力で溜めて!!」
火炎爆散はアリアが得意とする魔術の一つで、彼女が扱える魔術の中では一番火力が高い。
「…あ、アイツは!大地の怒りよ、その煮えたぎる炎熱の暴威を我が元に顕現させよ!火炎爆散!!」
アリアの中級魔術は私の上級魔術と同等の威力だ。
私もアリアが青い魔鉱石のついた杖を構え、詠唱を始めると同時に妖帝蛇を構え龍の蒼炎を出力する。
すると、荒ぶる蒼い炎がうねるように私の手の元で暴れ回る。
それを押さえつけ、まだ放ちはしない。
それにしてもアリアの顔がさっきから殺意のこもった瞳で声の先を見つめている。
「静かに命が舞い落ちるあの雪のように♪」
そこまで歌ったとき魔力の集中が最高潮に達する。
その莫大な魔力は寒冷に変換される、そしてその寒冷は私たちを確実に殺そうとするものだった。
「静かな純白の死」
その言葉と同時に襲撃者と私たちの距離、およそ50メートルと言ったところか、その間にあった木々や岩と言ったものが凍り、そしてその瞬間に跡形もなく消え去った、あとには粉々の氷と真っ白な光景だ。
その魔術が放たれたと同時に、私とアリアは魔術を放つ私たちの放った魔術が正面から寒冷の魔術にぶつかる。
しかし、その瞬間私たちの放った魔術は一瞬にして大きな寒冷の暴威に飲み込まれた。
そのまま寒冷は私たち襲いかからんとしていた。
その時私はあまりに場違いな事を考えていた。
この真っ白な光景がただ美しい、そう感じていた。
その時だった何故かその真っ白な寒冷が、私の30cmほど前で止まっていた。
ふと見ると、そこには血のような赤色の髪がたなびいていた。
「あ、アリア…?」
そう、その赤髪の人物はアリアだった。
しかし普段の美しい白髪が赤く変わっているだけでなく雰囲気までもまるで別物だ。
アリアは私に見向きすることもなく、ただ敵だけを見つめていた。
「奪わせない、これ以上、私から大切なものを何一つだって奪わせない!」
その表情は怒りに染まっていた、そうすると敵がこちらに悠然と歩み寄ってくる。
近づきながら黒髪に和服のようなデザインの服を身に纏う女はこう言った。
「おやおや、誰かと思えば、その色変わりの髪はブランリールの生き残りじゃないか!」
生き残り?もしかして、アリアの家族は…
「黙れ!私の家名を口にするな!私の家族はお前に殺された!」
そうアリアが叫ぶ。
私はまだ震える手足を動かし、立ち上がる。
そうか、アイツはアリアの大切なものを奪い去った敵だ。辛いだろう、怖いだろう、そして何より、その時の力も何もなかった自分が憎いだろう。
私もアリアのその感情の全ては分からないが多少分かるつもりだ。
私が彼を救えなかった気づけなかった、あの焼けつくような果てのない後悔を。
そして仇にその罪を償わせたいだろう。
でも、このままあの女と戦えばアリアも私も死ぬ。
だからここで私のやることは決まっている。
(永遠の迷霧!)
(土盾)
(拡散水泡弾!)
今この場では水魔術を使えば即座に凍る。
だから、土盾を女の周りを囲むようにして生成する。
そしてありったけの拡散水泡弾を土盾に向けて放つ、土と氷を使った即席の足止めを使用と考えたのだ。
そう動くと同時にアリアを引っ張る。
そして、少し前の地面に向かって土槍を放つ、これは生前のラノベ主人公のまねだ。
彼は着地で足の骨を折っていたそうならないことを祈ろう。
この間は3秒程度。しかし正面からドゴンッと言う鈍い音がした。
アリアがここで我に返ったように叫んだ。
「セレーネ!離してよ!アイツは私が絶対殺すの!」
そう言いながら私の手を振り払おうとする。それを見て私は怒鳴った
「今の私たちじゃアイツを殺す前に私たちが死ぬ!アイツをどうするかは勝てるようになってから考えてよ!」
「……」
アリアは私がそう言うと、憮然とした表情をしつつも、抵抗することは止めてくれた。
そしてあの圧倒的な脅威からなんとか逃げ延びる事に成功した。なお足は折れた。
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???
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その日は雨がしとしとと降っていた。
雨はボクの肩を濡らしているがそれすらも心地よく感じた。そしてこの場所にしては珍しく、亜人に話し掛けられた。
「おい、そこのお前」
その人物は偉そうにしていた、でもボクには関係ない。
「やあ!ボクに何かようかな?」
誰であろうと話をしてみたいんだ。
「口の利き方が成ってないぞ!魔族の分際で!」
そう言われてもなぁ、ボクは生まれてこの方、丁寧なしゃべり方なんて無縁だったからなぁ
するとその亜人は大きくため息をつくと
「はあ、とにかく、お前にやって貰いたいことがある。」
そう言うと何をして欲しいのかの具体的な説明をしてくれた。
そしてボクはその話に乗った。
だって面白そうだったから。




