十話 兄妹の試練
私たちは先程迷惑な族長様に遭遇した場所から歩いて十分ほどの街の外れにある「シュバレリア武具店」と力強い文字で書かれた、木製の看板がぶら下がっている店に来た。
父さんが扉を引くと何も付いていないにも関わらず、チリン、という風鈴のような懐かしい感じの音がした。
そして私たちが、店内に入ると、カウンターにはこの辺では珍しい人族の女性が座っていた。
顔は白髪のショートヘアーにつり目で瞳は紅く、年の頃は三十代半ばと言ったところか。
彼女は私たちを一瞥し、ニヤッと笑うと立ち上がり
「おや、ラクロスじゃないか。そんな大人数であたしの店に何しに来たんだい?まさか、そこのおチビちゃんたちに武器でも買ってやろうってことかい?」
と、冗談めかして言った。
すると父さんはふっ、と笑うと
「ああ、そのまさかだ」
と、いたずらっ子のような愉快そうな顔でそう言った。
彼女は笑いを引っ込めて、真面目な顔をした。
「あたしの店は子供用の玩具を扱ってる訳じゃない、あたしの店は品物も上質だが、客は選ぶんだ。生半可な実力の奴には売らないよ?」
父さんは
「シュバレリア、お前は相変わらずだなぁ、だがこちらもそんなこと分かったうえで来てる」
と、こちらも真面目な口調で言った。
というか名前が店名なんですね、なんか騎士とかにいそうなカッコいい名前!
するとシュバレリアはアッハハと豪快に笑うと
「それは青の残影も同意見ってことかい!?」と驚きと興奮を感じさせる声音で言った。
青の残影こと母さんは
「ええ、そうね」
と、短く返した。
シュバレリアは私とオリバーを見て少し考えてからこう言った。
「…あんたらの言うことは分かった、だけどあたしは自分で見た物以外信じないんでね申し訳ないけどあたしとこの子たちで二対一の模擬戦をしよう。それがこの子たちに物を売る条件だ。飲めるかい?」
父さんと母さんは顔を見合わせるとうなずき合い、シュバレリアに対して不敵な笑みを浮かべこう言った。
「「もちろん!」」
それを聞いたシュバレリアは再びアッハハと笑うと
「あんたらがそこまで言うんだ、なかなか面白いことになりそうじゃないか!決まりだ、裏に回りな。」
そうして、私たちは裏の庭に案内された。
シュバレリアは武器を取りに行くと言って
その場を離れた。
隣にいるオリバーを上げると目に見えて緊張しているのが分かった。
そう私が父さんと魔術の練習をしているとき、オリバーは母さんから剣を習っていて、 夜には毎日腹筋・腕立て・スクワットをしている。
だからこそ、母さんたちは二人ともシュバレリアに実力を認めさせられると考えたのだろう。
私はオリバーがどれだけ強いのかは知らない。
だけど、いまその大きな背中には絶対に勝つ、という強い決意のような物が気迫となって現れているように感じた。
するとオリバーは、
「セレーネ、一つ言っておく。俺は主に風神流を使う。」
風神流は、疾風のごときスピードで先手を取る流派だ、つまり私にそのスピードにあった支援を頼む、と言うことか。
「分かりました。兄さん」
兄さんはこくりと、うなずいた。
私たちは短く言葉を交わした、その言葉は互いに足りないが、私たちにはそれで十分だった。
その時シュバレリアが木刀を三本持ってきた、短剣、長剣、大剣だ。
そしてシュバレリアは
「好きな剣を取りな。」
と言った。
オリバーは近づくと木の短剣を取った。
シュバレリアは真面目な表情でそれを見つめている。
「もうセレーネはいいのかい?」
とシュバレリアは言ったので、私は。
「はい、私は魔術師なので剣は要りません。」と答えた。
シュバレリアは驚いた顔をしてこう言った。
「ほお?ウェービーの魔術師とはね、珍しいこともあったモンだねぇ」
そしてシュバレリアは長剣を持った。
すると、
「ルールは簡単だ、あたしに二人の内どちらかが一撃入れればそっちの勝ち、当てられなければそっちの負けだ、簡単だろう?」
シュバレリアは母さんのように強い、と確信させるだけの風格がある。
それ故に簡単なわけあるか!と、言いたい所だが、そんな気持ちではシュバレリアに勝つなど夢のまた夢だろう。
私たちは強い、一撃入れるくらいなら出来る!
試合開始の合図は審判の母さんと父さんが
「「双方構え!……始めッ!!」」
といって始まった。
そう言うと同時にオリバーが音もなく高速でシュバレリアに斬りかかった。
いうまでもなく、それは師匠には遠く及ばない速度だ。
しかし、シュバレリアがもし油断していたならその一撃は彼女の身体にたたき込まれたかも知れない。
だが、シュバレリアはその大剣の横凪でオリバーの短剣にぶつけた、すると木のぶつかる鈍い音が響いた、力の差は一目瞭然だった、オリバーは短剣でその一太刀を受け止めたがまともに受けたため元いた私の前に戻って来た。
ゲホッと咳をして、手が震えているが戦えないほどではなさそうだ。
そして私はシュバレリアの背後に無数の土の針、唯一無詠唱で私が使える中級魔術土針を放った。
正直これで仕留められると踏んでいた。
だが、シュバレリアはギリギリのところで横に飛んで躱した。
すると、「さぁて、あたしもそろそろカウンターと行こうかねぇ」
と言うと、一歩前に踏み込んだ、いくら大剣といえど流石に射程外だ、と思いかけて、 そんな無意味なことするわけが無い、そう考え直し、警戒をする。
するとぬるりとした気配を感じた、私は身構える「剣よその鋭さを以て空間をも切り裂け!真空斬!」そう言って振り下ろした大剣から高速の斬撃が飛んできた。
「ッ!!防御結界!」
私とオリバーを囲むように結界を展開する。
それと同時に斬撃が結界に着弾した。大剣で直接叩かれたような振動があった。
オリバーは何が起こったのか分からないといった感じの呆然とした表情浮かべる。
おそらく、魔力を使ったのだろうと私は思っている。理由は詠唱のようなものをしたとき何かが剣先に集まるような感じがしたからだ、あれは魔力だったと思う。
「今のを防ぐとはなかなかやるじゃないか!」
私は石弾を放った。それと同時にオリバーが背後から斬りかかる、挟み撃ちだ。
ちなみに話さずとも連携が取れるのは私のというかウェービーの能力ゆえだ。
「風の精霊よ、その暴威を示せ!風爆!」
「!?」
剣士ではなかった!見誤った!シュバレリアは魔術も剣も両方とも扱えるのだ、不味い、崩される…私は石弾とオリバーをはじいてもなお威力を保つ魔術を受け、宙に浮いた。
その隙を逃さずシュバレリアは私に一気に近づく、その瞬間脳内に閃光のようにしてアイデアが浮かんだ、ただそれは一か八かの賭けだ。
私が成功させなければいけないことだ。
だけど今なら、今だからこそ出来る気がする。
(オリバー!最速の一撃を出して!)
(??…分かった)
オリバーは何も言わず、何を理解したわけでもないだろう、ただその上で私を信頼してくれた。私はそれに応えなければいけない。
「ハァアアア!」
と叫びオリバーはシュバレリアの背後から突撃する。
「甘い!!」
そう言ってオリバーをはじこうと振り返り、大剣を横凪する、その速度がオリバーの最速に追いつく……はずだった、しかしそこでオリバーは追い風を受けたように加速した。
その速度は師匠に迫る速さだった。
「何!?」
オリバーは紙一重で大剣を躱した。
大剣が振り切られたその瞬間、懐と背中はは無防備だった。シュバレリアは魔術を無詠唱で使えない。
「水球!」
「取った!」
私とオリバーはそういうとシュバレリアに剣と魔術を打ち込んだ。
「うっ…」シュバレリアは小さく声を漏らした。そこで審判が「そこまで!」と告げた。
私とオリバーは顔を見合わせると、目に涙を溜めながら、笑った。
「私たち勝ったよオリバー!勝ったよ!」
「うん…ありがとう!俺を信じて任せてくれてありがとう。」
最後の攻撃でオリバーが加速したのは私が苦手としていた風魔術の風付与を使ったからだ、その前にシュバレリアの魔術やオリバーの動きを見てヒントが得られた、だから使えた。
そしてシュバレリアの一太刀は速い。
私の魔術だけでは足りなかった。
オリバーの全力と、私の魔術、そのどちらが欠けてもこの勝利は無かった。
そうしているとシュバレリアが近づいてこう言った。「一撃も入らないと思ってたんだがねぇ、まさか二発も入れられるとは思わなかったよ。」
と言って私たちの頭をその分厚い手で撫でてくれた。
「グスッありがとうございます。」
「うぐっ、ありがとうございます。」
するとシュバレリアは「いいんだよ、それにここまで楽しませて貰ったんだ、あたしがオリバーとセレーネ二人に合う武器を腕によりをかけて用意しておくよ。」
「「はい!よろしくお願いします!」」
私たちは口をそろえてそう言った。
私はそう言ったと同時に猛烈な睡魔に襲われた。
そして抗う間もなく、私は眠りへと落ちていった。