表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

楓の木

作者: カトゥー

 “まったく、暑すぎる... 夜で気温32℃の湿度60%ってやばすぎる。”

俺は藤原啓介、大学生2年生だ。田舎から上京してきて一人暮らしをしている。今年は大学にも慣れてきたし友達も増えたしで結構お金使っちまって今エアコンは節約で使ってないのだがとにかく暑すぎる。だから夜中の2時なのに目が覚めっちまった。とりあえず水飲んだんだけどそれども暑さは変わらないから眠れるわけがない。そこで俺は近くのコンビニに行き事にしたんだ。300円の電気代とアイス3つで240円ならアイスの方が安いしな。でも正直外出たくないんだよな。なんでって?暑いからでもなく遠いからでもない。コンビニまでの道が嫌なんだよ。

 

アパートを右にでて2つ目の十字路を左に曲がってまっすぐ進む。しばらく歩いたら公園が見えてくるから公園の手前で右に曲がる。でまっすぐ進むと信号があって信号を渡るとコンビニがある。これだけ聞くといたって普通の道だよな。問題は公園周辺なんだ。むかしもの公園は墓地だったらしく反対を押し切ってつぶして公園にしたんだ。怖いのはここからで公園を作った人が次々に事故にあって怪我をしたり場合によっては...って感じなんだ。それだけじゃなくてそこで遊んだ子供からは足を触られたとかいないはずの女の人がいるだとか。とにかくやばいうわさだらけなんだ。噂だけでも怖いのに公園周辺に街灯が1つもないんだ。だから余計に雰囲気がな。

 だから正直夜だけは絶対行きたくないんだが..背に腹は代えられないから行き事にした。アパートを右に出て2つ目の十字路を左に曲がってまっすぐ進んだ。いよいよ公園が見えてきた。マジでここだけ異世界ってぐらい空気が違う。あまり何も考えず俺は公園の手前えを右に曲がった。さっきまであんなに暑がっていたけど暑さなんてそんなの気にしていられない。毛が逆立つ感触に襲われながらなんとか俺はコンビニに着いた。

 

 俺は店に入ってお目当てにアイス2つを手にした。3つにしようと思ったんだがおにぎりが半額になってて小腹もすいてたしおにぎりを買ったんだ。レジには30代くらいの男の店員がいた。

「お会計が234円になります。」

俺は250円をトレーに出した。

「250円お預かりします。お客さん公園の近く通ってきたでしょ?」

「どうして、そんなこと?」

「お客さんの毛逆立ってますよ。それに私もあそこにはあまりいい気がしていなくて」

「そうですよね」

「特に2時3時あたりがやばいみたいなんで気を付けてくださいね」

「はあぁ」

なんでそんなこと今言うんだよって思いながら俺は店を出た。


 コンビニを出て来た道で帰った。あの公園に差し掛かろうとしたとき公園に植えてある確かあれは楓の木が揺れた。風も吹いていないし一本しか揺れていないんだ。まるで誰かがその木を意図的に揺らしているようにしか思えない。公園には誰もいないのにだ。俺は“疲れているから揺れているように見えるだけだ”と自分に言い聞かせて早歩きで家路についた。だけど、なぜかわからないが公園を過ぎてから心臓を握られる感覚に陥っていた。そして視線。誰もいないのに視線を感じる。俺は必死に“これは暑さのせいでそう思っているだけだ”と言い聞かせようとするが同時に“ならなんで公園を過ぎたあたりから感じるようになったんだ”と言う疑問が言い訳を全部打ち砕いてしまう。そんなことを考えながら歩いていると1つ目の十字路に差し掛かった。その時、

"あぁ.."

と言う女に人の声、正確にはうめき声が俺の右耳に聞こえた。しかも吐息のおまけつきで。俺は恐怖も感じていたが少し腹が立っていたんだ。

“なんで俺がこんな怖い思いしなきゃなんねーんだ。俺よりもっとクソみたいなやついるだろ。なんでそいつらに行かねえんだよ”ってな感じで。だから俺は思い切って振り返ってやったのさ。でもめちゃくちゃ後悔したけどな。

振り返ると女が立っていた。病人が着る服を着ていて髪は整えられてはいない、いわゆるボサボサ。体は一般的な体格だった。顔は...顔はあんまり覚えてない。ただ..目が...目が血走っていて一目見てわかる

“この女性は苦しんで死んだと、死の間際まで生に執着していた”と。

そんな目を見ちまった俺は文句を言ってやろうって気はとうになくなっていてすぐさま走った。走り出すとき女は何か呟いたような気がしたがそんなのは無視して俺は走った。


 猛ダッシュで家についてカギを閉めて俺は袋をそこら辺に投げてベッドにくるまった。幽霊にあったことが怖いんじゃない、あの目、あの目が脳裏に焼き付いてしまったことが怖い。ベッドにつるまって数分が経った。俺の緊張はある程度落ち着いてきた。せっかく買ったアイスだが正直肝が冷え切っているので必要ない。だから俺はおにぎりを食おうとしたその時、“ガチャ”って音がしたんだ。玄関の方から。俺の肝はまた冷え切ってしまった。

“確かに鍵は閉めた、間違えない..のになんで玄関が開く音がしたんだ..あいつが...”

俺は居てもたってもいられず玄関に行きドアを確認した。確かに鍵はしまっている。のになんで音が鳴ったのか。だから俺は確かめたくなってしまったんだ。あの音が本当にドアを開けた音なのか。俺は恐る恐るカギを開けてドアを開けた。ドアの前には誰もいなかった。しかしやはりさっきの音はこのドアを開けた音だと言うことは確定した。俺はドアを閉めカギを閉めようとしたときあの視線を感じた。そして見なくてもわかる、この視線はあの女のものだと。

“ギシッ、ギシッ”

と確実に俺の方に近づいてくる足音。俺は恐怖で動くことはできなかった。いやこれは動けなかった。たぶん金縛りだろう。

「ぉ、い、ぃ、り...」

と言う声が俺の右耳のまた聞こえた。それを聞いた後の記憶はない。気づいたら俺は夏だって言うのに布団にくるまっていた。夏のせいなのか冷や汗のせいなのか布団はびしょぬれだった。


 俺はすぐさまネットで良い霊媒師を探してその人に会いに行くことにした。3日後予定通り霊媒師の由美さんに会い行った。彼女は40代の女性で指折りの霊媒師らしい。

「今日はお願いしまっ」

「あなた憑いてるね」

「えっ?」

「目が特徴的な女性だね、血走ってる。あたしも結構色んな事経験したけどこんなのは初めてだね。」

「俺やばいですか?」

「いや、むしろ逆だね。彼女あんたを守ろうとしているんだね。」

「守る?」

「たぶんこの娘あんたの知り合いじゃないかな、相当な力であんたを守ろうとしてる。心あたりないかい?」

「いやっ」

「中学生の時かな、この娘があんたを守り始めたのは」

「はっ!」

俺は思い出した。中学生の時、そうだ中学生の時俺には幼馴染がいた。俺たちは家も近いこともあって幼いころから兄妹みたいな関係だった。けどその幼馴染が病気になってしまったんだ。最初はあいつも気丈に振る舞ってたけど病状が悪化してあいつの命が尽きそうになった時あいつはあいつの家族に俺を呼んでくれって頼んだんだ。それで俺は病室に行った。

そうしたら気丈に振る舞っていたあいつとは違って必死に痛みに耐えているあいつがいた。

痛みに耐えている血走った目、生に執着しているような目で俺を見つめて俺の手を強く掴んでこういった。

「私は啓介のことがずっと好きなの、だから忘れないで私のこと、絶対に!」

「忘れるわけないだろ!俺だって楓のこと好きだから!」

すると彼女は息を引き取った。

「俺はなんで楓のことを..」

「中学生のことの出来事ならあなた自身が無意識に記憶から消したんだと思う。思い出したくない記憶だから」

「俺は..」

「お礼を言いに行きなさい。彼女あなたを守ったんだから」

「守った?」

「あの娘あなたを守るために出て来たのよ」

「何から?」

「命の危機からよ」

「えっ?」

すると由美さんは俺の今住んでいる地域を言い当てた。

「なんで知っているんですか?」

「ニュース見てないの?」

そうすると由美さんはスマホであるニュースを見せてくれた。それは俺の近所のコンビニ、つまりあの日行ったコンビニが取り上げられていて内容は30代の男の店員が半額シールを張ったおにぎりに毒を盛っていたと言うものだった。半額シールがついているので購入した人は体に不調があっても気づかなかったらしい。被害者は数十人に及ぶ。逮捕された男は

“3日ほど前に盛ったやつは生死にかかわる量を入れたからどっかでくたばってる”って言ったらしい。3日前の買ったのは俺で記事にあった写真もレジを打っていた店員だった。

俺はその時気づいた。あの時「ぉ、い、ぃ、り」と言っていたがあれは「おにぎり」だったんだと。俺は涙があふれてしまった。


 そのあと由美さんの元を去りその足で楓に会いに行った。線香をあげてお花もきれいにして手を合わせた。

「ありがとう、ごめん楓のこと忘れてしまって。」

そういった時墓地に植えられている楓の木が大きく揺れた。風も吹いていたし何本も揺れていたから必然的なことなんだけど俺にはその景色が美しく思えた。

俺はバケツをもって楓の元を去ろうとしたときもう一つ思い出したことがある。


「私は啓介のことがずっと好きなの、だから忘れないで私のこと、絶対に!」

「忘れるわけないだろ!俺だって楓のこと好きだから!」

「ホント!うれしい、でも忘れたら、」

楓の呼吸が荒くなって俺は背中をさすった。

「忘れたらあたし啓介のこと迎えに行くから」

と真剣な声と血走った目で言って息を引き取った。


車に戻るとあの日買ったおにぎりがあった。そして

「はやくこい」

と言う冷徹な声がはっきり聞こえた...


読んでいただいてありがとうございました。少しでも皆さんが楽しめていただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ