226.プロローグ -彼の呼び名は-
「聞いたかい。オルフェ様が二人目の弟子をとるらしい」
「その才能に足る人間が見つかるまでと頑なにずっと枠を空けていたのに?」
「どうやらヘルメス様の推薦で弟子を取ることになったそうだ」
「あのオルフェ様でも序列二位の推薦は流石に断れないか。実質今のスターレイ王国の魔術師のトップだものな」
「……しばらくはオルフェ様に近付かないほうがいいな。機嫌がよくなるまでは」
「あの人が機嫌よかった日っていつだ?」
「さあ……?」
スターレイ王国は単騎で都市一つを支配できるとされる宮廷魔術師を八人……いや七人を抱えている。
その内の三人が王都に常駐しており、後進の育成や自らの魔術をさらに上の段階にと励む場所こそが魔術機関アプレンティス。宮廷魔術師と宮廷魔術師に選ばれた魔術師だけが所属することが許される少数精鋭の機関である。
「ヘルメス爺様の推薦というだけあってすでに実績を積んでいるとかとか」
「魔術学院の生徒だろう? どう実績を積んだんだ?」
「実績を積もうと思って積んだようではないみたい……去年の第二王女の事件は覚えてるてる?」
「当然。第二王女が幽閉塔に収容されたのは大事件だった。大事件だったが……言葉を選ばずに言えば、いずれやるだろうなという印象でしたからね。そこまで驚くことかな?」
「そこじゃなくてなくて。問題は、その推薦された弟子ってのが、第二王女の計画に巻き込まれて、そのまま阻止しちゃったって話なのよなのよ」
「王族じゃなきゃ宮廷魔術師入りだって言われていた第二王女を……!? あの事件はヘルメスさんが解決したんじゃないのか?」
「違うみたいなのよなのよ。どうどう? 気になってきたきた?」
「それが、本当ならね」
王都の中心部はまさに絢爛豪華。大国の王都に相応しい眩さがある。
しかし、その煌びやかさに惑わされてはならない。
ここは王侯貴族どころか平民でさえも時に仮面を被る……魔を孕んだ万魔殿。
噂が噂を呼び、情報と権力が飛び交って……運すら持たぬ者は最後には。
「ほら、かなり前にも噂になったでございましょう? 公爵家を狙ったデナイアルが返り討ちになったという事件」
「デナ兄めっちゃイケメンだったのに残念だったよねー……え、もしかして……?」
「あなたイケメンならなんでもいいと仰るの? あれよ? まぁ、いいわ。そう、デナイアルを返り討ちにしたのも第二王女の計画を阻止したのも同一人物だという話です……四年前にディーラスコ家が迎え入れた養子だそうですよ」
「うっそー、すごー。それがアプレンティスに入ってくるの?」
「そうよ、オルフェ様の弟子として」
「オル兄―!? えー、いいなー! 私もオル兄の弟子になりたーい」
「あなた、お姉様に聞かれたら殺されますわよ。ただでさえ最近しょうもない事でいらいらしておいでなんですから」
「そのお姉様が聞いちゃったんだけど?」
「「あ」」
「いい度胸だね?」
アプレンティスに所属するものは全員が大なり小なり牙を持っている。
野心、欲望、権力、財力、家柄、魔術の腕。
使い方にこそ差はあれど、アプレンティスにいる魔術師は全員が捕食者だ。
望んで向かう学院とは違い、上に立つ者から選ばれた力の持ち主だけがここに所属することができるのだから。
学院が羊を狼に化けさせる場所だとすれば、アプレンティスは狼の牙を研ぐ場所。
まだ羊に過ぎない者が放り込まれたところで生き残れるわけもない。
「それでそいつの名前は?」
「カナタ・ディーラスコだってだって。公爵家の側近」
「カナタ……不思議な響きだな。社交界に顔を見せたことはないはず」
放り込まれたのが羊であれば、その場にいる狼は容赦なく喰らうだろう。
放り込まれたのが狼であれば、その場にいる狼は新入りを容赦なく喰らうだろう。
何にせよその場にいる狼達に立ち向かう牙がなければ生き残ることはできない。
「でもねでもね。もう一つ、呼び名があるって。なんだっけかなかな」
「二つ名? まだ見習いの魔術師に?」
「そうそう、確か……」
…………しかし。
放り込まれたのが狼を餌にする何かだとしたら。
野心、欲望、権力、財力、家柄、魔術の腕。
狼が絶対だと思っていた牙を恐れず、意思一つで逆らう怪物であったなら、狼達は果たしてその怪物に牙を剥くことができるのだろうか?
「“魔術漁り”のカナタ」
牙を剥いた狼達は果たして……無事でいられるのだろうか?
いつも読んでくださってありがとうございます。
ここからは王都編序章。第九部「怪物の狩場」となります。




