146.子供達の証言
「わっかんねえよ! 気付いたら寝てた!」
「そっか、ありがと」
しばらくの追いかけっこの後、おやつと称してリメタが持ってきたお菓子で釣りながら子供達から話を聞くと……どうやら、攫われたと思われる子供の半分くらいは当時のことを覚えていないようだった。
それもそのはずで、聞けば最初の被害者らしき子供はもう三年近く前らしい。
なので、当時のことはほとんど覚えておらず、大人達が疲れて眠ってしまっていたと話すのを信じる子供も多く、全て特定できているわけではないのだという。
聞ける限りの話で共通しているのは急に眠くなったこと、そして起きた時にいつも以上に疲れていたことくらいだ。
「薬を使われてる……臓器ですかね?」
さらっと言うカナタにリメタは顔をひくつかせる。
「君、本当に十二歳……? 私も最初はそう思ったけど、お医者さんの検査を受けたら全くの健康体だって。そういう切り傷がないってのも確認したにゃ」
「そうですか……」
奴隷売買をしている国があるなら当然、臓器売買もある。
カナタはそういった国や非道な貴族に売るようだと思ったが、よく考えれば返す意味がない。
「そうですよね……臓器目的ならわざわざ子供を帰すんじゃなくて、丸ごと攫っちゃったほうがいいですもんね……」
「ねえ、君本当に十二歳? それとも昔攫われた経験があるとか? いちいちリアルにゃんだけど?」
「もうすぐ十三歳です。秋生まれなので」
「そういうことじゃなくてにゃあ……」
変わらない調子で返してくるカナタに、リメタはやっぱり普通じゃないかも、と考え直した。
教師だからこそわかるが、ここまで荒事に慣れている貴族の子供は珍しい。
学院に来る生徒も魔術は得意だが、大体が親に守られていて実戦経験などないので当然なのだが……カナタからは独り立ちしている魔術師と似た空気を感じてしまう。今こうして一緒に考えている様子はまるで同僚だ。
「もう少し話聞きたいですね」
「わかったにゃ……はい! 次おやつ欲しい人!」
「はいはいはい!!」
「猫チャ! 猫チャ!」
「もう一回はあり!?」
「二周目は後で!!」
リメタは子供達に人気なのか、それともおやつが人気なのか。
子供達のやる気が凄まじく、挙がっている手の力強さは子供らしからぬものばかり。
リメタは押し寄せる子供の挙手の中から一人を選び、持参したクッキーの袋を渡す。
「私は覚えてるよ! なんかくさいとこ連れてかれた! けどベッドはふかふかだったの!」
「うんうん、君は私にもそう教えてくれたもんねー」
「ねー!」
袋を渡されたその女の子はクッキーを周りの子に配り始める。
そんな姿にリメタは表情を緩めて、頭の上の耳をぴこぴこさせていた。
「他にそういう子いない? って聞いたら集めてくれたのもこの子なのよ」
「へぇ、ありがとうね」
「うん、お兄ちゃんもはい!」
「ありがとう」
カナタはクッキーを受け取ると、半分に割ってルイに手渡す。
ルイはカナタからクッキーを受け取ると、ハンカチに包んで懐にしまった。
カナタが仕事をしている間、ルイは仕事の邪魔にならないように黙っているせいか……子供達からは寡黙な美女として遠巻きから見られていて、真似するようにクッキーをしまう子供達も何人かいた。
彼女の本性を知ればその憧れも砕け散ると思うので、子供達が二度と出会わないのを祈るばかりである。
「もう一度聞くことになってごめんね? 一緒に攫われた子とかもいなかった?」
「うん、私みたいな子はいなかったと思うよ! とっても眠かったけど……でもちょっとだけ起きた時に見た部屋のことはちゃんと覚えてるもん!」
「そうよねぇ、少しでも覚えてくれていてありがとね」
「えへへ、偉い?」
「うん、偉い偉い」
満面の笑みを見せる女の子をリメタは撫でた。
「……」
「カナタさ……カナタ? どうしました?」
そんな微笑ましい様子を見てルイも温かい気持ちで見守っていたのだが、カナタだけは何かに気付いたように表情が固まっていた。
カナタは険しい表情を浮かべながら、女の子と視線を合わせるようにしゃがむ。
「今……私みたいな子は、って言った……?」
「う、うん……」
「ど、どうしたの? ちょっと、恐い顔しないでよ君」
カナタが恐いのか女の子は少し俯きながらリメタの影に隠れようとする。
リメタも少しむっとしながら注意するが、カナタはもう一度そのまま女の子に質問した。
「じゃあ……他に、大人はいた?」
「うん、いたよ……?」
「え……?」
リメタも驚愕を露わにしながら頷く女の子のほうを振り返る。
「おじさんがね、部屋で寝てたの。でも起きたら私一人だけ町で寝てたんだー」
「そっか、ありがとね」
「え……? え……? だって、前に……」
「え……? だって、一緒にさらわれてた子はいたって……?」
「そん、な……」
「リメタ先生……子供ってそういうものなんですよ」
子供は時に、言われた言葉をそのまま受け取ったり自分なりに解釈してしまう。
ごはんは食べちゃ駄目と言われればおかずだけを食べたり、夕方までに帰ってきなさいと言われれば一度夕方までに家に帰ってきて、その足でまた出かけてしまう子供だっている。
一見、屁理屈のように聞こえるものも子供が考えた末の思考であったりするのだ。
この女の子もまた子供はいなかったという真実を答えただけ。
リメタの役に立とうと、より正確に答えようとしただけだった。
「リメタ先生……消息不明の大人の人数は……?」
「あ……えっと……」
カナタは問う。当然リメタが知るわけもない。
子供が攫われて帰ってくる、という奇妙さからリメタが被害者は子供だけだと思い込んでしまったがゆえの空回りとすれ違い。
半分以上が当時のことを忘れている子供からの証言というのもあってその曖昧さからリメタは気付くことができなかった。
「ここの観光名所のプピラ湖は町よりでかい湖です。それに遊泳エリアと他のエリアが区切られてたってことは……そういう事故があったからエリアをわけたんじゃ……?」
「……っ」
「それに観光地なのもあってお酒の店もいっぱいありました……事故じゃないものを事故に見せかけるなんて簡単なんじゃ……?」
「これじゃあヒョウじゃなくてロバじゃない……くっそ……!」
リメタは自分が観光地で起きている奇妙な事件の調査を任されたのではなく、観光地で起きる悲惨な事件の解決を任されたことにようやく気付いて……その重大さに自分をなじった。




