145.普通?の子供
「休暇中にごめんねほんと……」
「いえ、大丈夫ですよ」
翌日、カナタとルイはリメタに協力の旨を伝えに行った足で子供達の証言を聞くべく一緒に街へと繰り出した。
カナタが学院の生徒なのもあって、休暇中に駆り出してしまったのをリメタは申し訳なさそうにしている。
「リメタ先生がずいぶんやる気なのが気になって、自分が協力したかっただけですから」
「たはは……やっぱりわかる?」
「何か理由があるんですか?」
「そりゃもう子供達のため……にゃんて、かっこつけられたらよかったんだけど」
「違うんです?」
「んー……そりゃちょっとはあるけど、メインは自分の出世のためにゃ」
リメタは気まずそうに目を逸らす。頭の上の耳もへたっていた。
「私の目標はスターレイ王国でタミア公国出身初の宮廷魔術師になることなのにゃ。そのためには魔術師としての実績と、第四域への到達が必須……今回、ようやく実績作りのチャンスが巡ってきたから気合い入りまくりってわけ……!」
「へぇ……」
「ごめんにゃ……こんな自分本位で……」
リメタは疑念を持たれないためにと自分の意気込みを正直に話したが……今になって少し後悔しているようだった。
担当ではないとはいえ自分は教師でカナタは生徒。子供からすれば子供のためと言って欲しかったかもしれないと、そっとカナタのほうを見る。
「いいですね、目標があるって」
「……そ、そう?」
「はい、先生にもそういうのあるんですね」
カナタの反応が思ったよりも好意的で、リメタは拍子抜けしてしまう。
昨日シャトランに頭を下げた時のことといい、今自分の目標を語ったことといい……リメタの印象はカナタにとってあまりにいい要素しかないのだが、当然リメタはカナタの過去など知らないので何故かはわからない。
「どうにゃ? 学院は?」
「楽しいですよ、色々な人と会って色々試して特級クラスの自由さも助かってます」
「それはよかったにゃ、特級クラスは最初何をやったらいいかわからない……とか言う子もいるからにゃ」
「自分もそうでした……シャンクティ先生に相談して、ようやくって感じです」
「あ、そっか。シャンクティのとこにゃね。シャンクティってまだ猫被ってるにゃ?」
「特級クラスのみんなは気付いてますけど、まだお淑やかキャラやってますね」
「にゃっはっは! 毎回そうだからあいつ!」
「猫なのはリメタ先生なのに」
「猫違う! 豹っ!」
「はは」
チェスティの町を歩きながら、雑談を交えながら子供達のとこを目指す。
リメタはちらりと隣を歩くカナタとルイを見た。
ルイは主人であるカナタに気を遣っているのか会話に入ってこないのでわからないが、少なくともカナタ相手には最初にあった気まずさも話している間にどこかへ行ってしまった。
「……案外、普通」
リメタは少し肩の力が抜けて、足取りが軽くなった。
宮廷魔術師を倒し、入学前に学院長にも呼び出された危険人物。
リメタはカナタに爆弾のような印象を抱いていたのだが、今隣で歩いている分には普通……どころか少し大人びているようにも見えて、接しやすくすら感じる。
「自分と相性いい属性とかはわかった?」
「色々使ってみたんですけど、たぶん闇ですね」
「ほほう?」
魔術師は最初こそ広く浅く魔術を学ぶが、魔術領域が上がるにつれて自分と相性のいい属性を絞り込む傾向にある。
ダンレスであれば火属性、ブリーナであれば水と闇の二属性、デナイアルは自分で辿り着いた無属性など……より極め方を専門的に、具体的に、そして自分らしく研ぎ澄ましていく。
広く学ばなければそもそも第三域に辿り着けないので第三域に到達できる魔術師以上に限られるのだが、早い段階で意識したほうが成長が早い場合もあるのだ。
「後は火が初めて覚えた魔術なのもあって自分的には扱いやすいというか、術式をいじりやすいです」
「術式をいじりやすいはちょっと君特有だからわからないけど……ふんふん、属性の絞り込み方は納得かにゃ。闇とそれを際立たせる火で概念相性もよさそう」
「そういうものなんですか?」
「そういうものにゃ。んー……? 初めて使ったのは火だけど相性いいのは闇だと思ったんだ……? 何か心当たりみたいなのある?」
カナタは少し考えるように上を向く。
今日は雲一つない青空で、日差しが降り注いでいる。
そんな綺麗な空を見て、昔の自分が置かれていた状況を思い出した。
「一年以上、薄暗いとこに縛り付けられていたことがあるので多分そのせいで闇と相性よくなったのかも……?」
「え!? にゃにそれ躾とか!?」
「いや、あんまり覚えてないんですよね……でも、大切ではあったと思うので」
カナタは傭兵団に引き取られる前、とある村にいた時の事を思い出す。
母親が死んだ後、ぽっかりと何もなくなったかのような頭で辿り着いた村……最初こそ村の一員として扱ってくれたが、途中からは殻潰しとして薄暗い小屋に繋がれていた。
なんだかんだ自分を生かしてくれた人達なので感謝はしているのだが……あの村の人達はどうしてるかな、と浸る気にまではなれない。
そんな風にほとんど記憶にない昔のことを思い出していると、小さな広場が見えてきた。
そこには何人か遊んでいる子供達がいて、カナタは確認するように指を差す。
「あ、リメタ先生……あの子達ですか?」
「え、そ、そうだけど……き、気になる……! やっぱスターレイの貴族って厳しい……!? 伯爵家って案外怖いのにゃ……」
カナタを養子と知らないのでディーラスコ家に勝手に恐れおののくリメタ。
何があったのか追及したい気持ちを抑え、仕事のためにと切り替える。
子供達に恐がられないように笑顔を作りながら広場へと小走りで走っていった。
「はーい、みんにゃー! 今日はお友達連れてきたよー!」
「あー! 猫ちゃ先生だー!」
「猫先生だー!」
「猫違う! 豹っ! ヒョウ! がるるるる!」
「きゃー!」
リメタは一瞬で子供達に混じり、追いかけっこが始まる。
流石は教師というべきか。幼い子供の扱いも手馴れているのかもしれない。
そんなリメタを見て、ルイはカナタに耳打ちした。
「あれあの先生の鉄板ネタなんですかね?」
「はは、かもね」
「むむむ……私も何か一つ……」
「対抗しようとしなくていいから」




