幕間 -夏季休暇前の決意-
「はっはっは! またカナタがやらかしたか! ルミナも大変だったな」
「やらかしたなんて言い方……セルドラお兄様ってば……」
裏決闘場での出来事が落ち着いた頃、私はセルドラお兄様に事の顛末を報告した。
セルドラお兄様自身、今回の一件は独自に調べているでしょうから改めて報告をする必要はないのかもしれませんが……これも兄妹同士の交流ということでちょっとしたお茶会の場を用意してくださいました。
もしかして、気を遣わせてしまったのかもしれません。
「どうだエイダンも乗り込みたかったか?」
「自分はセルドラ様の側近ですから」
「悪いな、手柄を立てさせてやれなくて」
「自分の実力はわかっています、自分はまだ戦闘の面でカナタのようにはできません」
セルドラ様の後ろに立つエイダンはカナタの話を聞いて少し悔しそうにしている。
やはり兄として思うところがあるのでしょうか……?
けれど、エイダンもセルドラお兄様と真摯に向き合っている側近の方なので、悔しがる必要はないと思う。
実際、セルドラお兄様の魔術の実力はめきめきと伸びているという話。
セルドラお兄様はやる気になればあっさりこなしてしまう人だと妹の私はよく知っているから、正直に言うと驚きもあまりありません。
今までは少しだけ足踏みをしていただけ。
セルドラお兄様が本気を出せば当然とまで思います。
「それで?」
「はい?」
セルドラお兄様がにやにやとこちらを見てくる。
……この顔をしたセルドラお兄様は私が嫌いな時のセルドラお兄様だ。
これからからかうぞ、と顔が言っています。
私は誤魔化すようにカップに口をつける。紅茶の香りが動揺しかけた私を落ち着かせて――
「惚れ直したか?」
「っ……! ――!!」
紅茶を吹き出しそうになるのを、淑女の誇りにかけて何とか抑える。
そう、私はアンドレイス公爵家の息女ルミナ……いくら兄にこんなからかわれ方をされても淑女らしくあり続けます……!
「な、ななな、せ、せせ、セルドラお、お兄様ってば何を言って……」
そう、そもそもセルドラお兄様には私がカナタを好きなことは言ってないはず!
「なんだ? お前まさか気付かれないとでも思ってたのか?」
「な、なな、なんのことやらですね……」
「墓参りの時空気読んでお前ら二人にしてやっただろうが。ばればれなんだよお前」
「せ、セルドラお兄様……!」
顔が熱い。紅茶が熱いせいですね。
ええ、きっとそうです。
「なあエイダン?」
まるで私に呆れたようにため息をつきながらセルドラお兄様はエイダンのほうに視線をやる。
そう、そうです。エイダンはあの墓参りの場にもいませんでした。
私の気持ちがわかるはずがありません!
「こ、こほん……自分の口からは、その推測でしかないので……あー、その……」
目を逸らしながらあんなに言いにくそうにさせてしまっている!?
これはばれていますね!?
「ルミナ様、言っておきますが私は誰にも言っていません、ルミナ様がわかりやすすぎるのが問題かと」
「うう……わかってるわコーレナ……」
ずっと後ろで静かにしてくれていたコーレナにすら言われてしまう私。
これだけ言われるのだから私は本当にわかりやすいのだろう。
これでも秘めた気持ちを表に出すのが恐いと感じているのですが、全然表に出ているのかもと考えると複雑です。
「というか、知らないやついるのか?」
「か、カナタには恐らく……」
「ああ、あいつはな……」
「弟が迷惑かけます……」
「カナタはその方面と縁が……」
私のわかりやすさにも呆れていたが、どうやらカナタの鈍さにも同じ反応。
セルドラお兄様達からの話によれば私はわかりやすいらしいので……もしかしたら私の思いはカナタの鈍さに救われているのかもしれない。
「それで? どうだったんだ?」
「か、かっこよかったですけど……」
「はっはっは! だろうな、惚れた男の活躍だ、お前にとっては眼福だったろうよ」
……実際カナタの活躍は凄まじかった。
裏決闘場に潜入するという危険な役目を自分から志願し、それだけではなく潜入先の職員と協力関係になって作戦をより円滑に進めるという手際の良さ。
そして私達とエイミーさんが協力するきっかけになった要注意人物バウアーを圧倒して魔道具を回収……ロザリンド夫人を呼んだのもカナタなので、今回の一件のほとんどがカナタの手によるものといっていい。
そ、それに……少し見てしまいましたが、成長したカナタもかっこよかったですね……。
「ルミナ、何をだらしない表情をしている?」
「し、していません!」
「そうか? まぁ、いい……こんな風にからかってはいるが応援はしているぞ、正直カナタをどこかの家の女にとられるのは避けたいからな。お前とくっついてくれるのなら安心できる」
「セルドラお兄様……!」
「まぁ、駄目だったらお父様がてきとうにアンドレイス家と繋がりのある女とくっつけるだろうがな。最悪そこのコーレナでもいいわけだ」
私は無意識にコーレナのほうへと振り向いてしまう。
どうしましょう。私は普通の顔ができていたでしょうか。
コーレナにこんな風に顔を逸らされたのは初めてです。
「俺が言いたいことがわかるか?」
「……わかりません」
「すねるなすねるな。要するにだ、本当にくっつきたいのならお前が惚れているだけでは駄目だということだ」
「……!」
それは確かに、その通りだと思いました。
私は今回の一件でさらにカナタへの思いが大きくなっているけれど、逆は違います。
私は未だにただの主人……特別な目で見られるためには何かしらの変化が必要なのは明らかです。
「もうすぐ夏季休暇だ……俺が得た情報によればお父様はどこかへ旅行に行く計画を立てていると聞く。そこがチャンスだ」
「ちゃ、チャンス……!」
「ああ、普段のお前とは違う顔を見せてやれ。休暇だからな思う存分はめを外して思い出を作るんだ……カナタはそういうのを大事にするタイプなのはなんとなくわかるだろう? そうした特別な時間を一緒に過ごせば必然……わかるな?」
「な、なるほど……!」
カナタへの思いに足踏みしている私への完璧なアドバイス……やはりセルドラお兄様は天才だと思います。
「休暇の間に見せつけてやれ! アンドレイス公爵家の息女ルミナの実力を!」
「はい!」
決行はもうすぐ来る夏季休暇。学生時代の休暇は特別だと聞いたことがあります。
セルドラお兄様のアドバイスを受けて私はやる気十分。
ですが、やる気十分な私と気合いの入ったアドバイスを送ってくださったセルドラお兄様とは打って変わって、コーレナとエイダンは何か複雑そうな顔をしておりました。
一体なぜでしょう……と思っていましたが、私はこの夏改めて気付くのです。
決意したからといって、私はセルドラお兄様のように物事をあっさりこなせるような人間ではなかったということを。
特にカナタのことに関してとなれば、なおさらでした……。
以下、複雑そうな顔をしていた二人の心の声。
(無理だろうなぁ……)
(日和るだろうなぁ……)
一区切りの閑話でした。
第六部は明日から更新開始となります。




