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【このラノ3位!】魔術漁りは選び取る  作者: らむなべ
第五部 影法師の誇り

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136.エピローグ -せめて味方を残して-

「だああ! ちくしょう!!」


 とある酒場にて、エメトは酒の入った樽ジョッキをテーブルに叩きつける。

 裏決闘場の面接会場でもあったこの酒場は満席で大繁盛……なのだが、エメト含めた客の景気は全くよくない。

 何故なら今この酒場に集まっているのは裏決闘場の関係者だからである。


「どうするエメトぉ?」

「だあ! 知るか!」

「あらら、ストレスもあって大爆発ね」

「仕方ないですよジェニーさん……エメトの兄貴、あのバウアーってやつのせいでずっと出場者と支援者(パトロン)のご機嫌取りしながら運営してましたからね。その結果がこれじゃあいらつきもしますよ」


 結果から言えば、賭博場ディスフラス及び裏決闘場リーズンは領主代理によって完全に閉鎖された。

 裏決闘場で起きた騒ぎによる怪我人はエイミーの活躍と、ロザリンドの指示によって事前に準備していたルイとコーレナの避難誘導によって最低限に抑えられた。

 ……が、明らかに賭博場の客では収まらない人数であるのは明白であり、そうなれば騒ぎも周りの声も大きくなる。

 非公認で魔術師同士を戦わせていた裏決闘場の存在を隠し通せるわけもなく、裏決闘場の地下は領主代理が派遣した魔術師によって調査の手が入ってしまった。

 客は全員仮面を被っていたので互いに知らんぷり、賭博場を遊んでいた正規の客か裏決闘場にいた客かを判別できるわけもなくうやむやに。

 胴元である人間はそもそもたまにしか顔を出していなかったので知らぬ存ぜぬを突き通せばいいが……働いていたエメト達には大打撃だ。

 何せ、胴元が完全に裏決闘場を切り捨てているので給金が払われない。


「ちくしょう! バウアーもカナタってガキもやっぱり貧乏くじだった!」

「でもあなたを助けてくれたのカナタちゃんのお友達よ?」

「覚えてねえんだよ! バウアーに頭叩きつけられたところまでしか!」

「私が覚えてるんだけど……」


 エメトは荒れに荒れていてジェニーも元部下も止められない。

 何せ金がない。金がないというのは人を特に余裕がない状態にするのだ。


「自分は支援者(パトロン)からの金があるゆえ、まだ大丈夫だが……実際君達はどうするのだ?」

「私はとりあえず体売って生活費稼ごうかと思ってるけど……あんた達はねぇ」

「俺は剣があるから傭兵でもなんでもやろうと思えばできるが他はな……」

「うるせえ余計なお世話だ! シメルタてめえも酒がまずくなるような話をするな! てか何でちゃっかりいやがる!?」


 エメトのテーブルには護衛であったダーオンと実質裏決闘場の最後の出場者になってしまったシメルタが同席していた。

 シャーメリアン出身のためこの国に帰る家があるわけでもないため、裏決闘場から逃げ出すついでにエメト達についてきたのである。


「よいではないか。今までの礼に今日の支払いは自分が持とう。ずいぶん世話になったからな」

「きゃー! 素敵!」

「シメルタさんごちそうになりまーす!」

「受け入れんなてめえらも!! ったくよ……」


 とはいえ、支払いを誰かに持ってもらうのは助かるのでエメトの文句はそこで止まった。

 奢りとわかってジェニーや他の元裏決闘場のスタッフ達から歓声が上がる。

 一先ず職場を失ったことは忘れようと全員が飲むペースを上げていると……酒場の扉が開いた。

 入ってきたのはこの酒場に似つかわしくない派手なドレスを着た貴族の女性。

 使用人を連れて堂々とエメト達の前へと歩いてくる。


「お楽しみの途中に水を差してしまってごめんなさいね、ここにエメトさんという方はいらっしゃるかしら?」

「あん? 誰だおばさ――」

「あ、カナタちゃんのお母様」


 酒場を訪れたのは今日まで魔術都市オールターに滞在予定であるロザリンドだった。

 突然現れた貴族の女性の正体をジェニーが言った瞬間、エメトは隣のテーブルの部下の胸倉を掴んだ。


「おい誰がおばさんだごらあ! お姉様だろ!!」

「あんただろ!?」

「あらあら、いいわよ別におばさんで。わたくし、あまりそういうの気にしないの。自分のこと美人だとわかっているから」

「ふふ、やっぱりマダムだわ」

「あら、ジェニーさんまた会ったわね。ありがとう、チップはまだ必要?」

「流石にプライベートでチップは貰えませんわ素敵なマダム」


 ジェニーがすぐさま椅子を持ってきて、ロザリンドはその椅子に座る。

 座るだけの所作すらエメト達から見れば美しく、飲めよ騒げよのムードからいきなり緊張感のある空気が走った。


「え、えっと……それで何の用でしょう……? 俺達はバウアーとは関係無いっすよ……?」

「ええ、わかっています。息子がお世話になった礼を言いに来たのよ」

「こりゃどうも……貴族の方にわざわざご足労いただいて……」

「あの決闘場の件は聞きましたわ。ここにいる皆さん全員お金に困ってるのではなくて?」

「まぁ、そう、ですね……」


 この酒場の代金でも奢りに来てくれたのだろうかとエメトは頭を掻く。

 貴族の礼が言葉だけなわけはない。それでカナタとの関わりを後腐れなく絶てという忠告を兼ねての来訪だろうか。

 そうエメトが思っているところにロザリンドは全員が耳を疑う言葉をかけてきた。


「でしたら、ここにいる皆さんディーラスコ家の情報屋になる気はないかしら?」

「…………は?」

「正確にはわたくしの息子達の、ね。二人とも今は側近として主人に仕えているだけなのだけど……いずれは人の使い方も覚えないといけませんわ。だから情報屋としてあなた達はわたくしの息子の手足になってほしいの」


 エメトの部下達は互いに顔を見合わせる。

 貴族との繋がりを隠すという意味では裏決闘場と同じだが、今回はまっとうに貴族に雇ってもらえるといううますぎる話だ。貴族付きの情報屋などなろうと思ってもなれるものではない。

 あまりに話がうますぎてロザリンドを疑う者も中にはいたが、あまりに金がない事実からそれを態度に出すこともできない。

 酒場に集まった全員はシメルタ含め、エメトがロザリンドの真意を見極めるのを期待して静まり返る。


「オールターには伝手がないから丁度いいと思ったのだけど……」

「どういうつもりです?」

「なにがかしら?」

「俺達はただのごろつきですよ。裏決闘場って場所だったから貴族と共存出来てただけだ……それを急に雇う? しかも情報屋として? 経歴もわからない俺達を? 施しのつもりですかい貴族様?」


 エメトは見定めるような視線をロザリンドに送る。

 この提案は貴族のただの気まぐれか否か。職場は失って責任なんてものはもうないが、自分を慕ってついてきてくれている部下はまだいる。

 そうでなくても、今がまさに給金も貰えず貴族に切り捨てられたという現状だ。

 馬鹿のように飛びつけるほど、貴族への信頼はエメトにはない。


「あら? カナタがあなたと約束したと聞いたのだけど?」

「約束……?」


 だが意を決したエメトとは裏腹に、ロザリンドはきょとんとした表情で問い返してきた。

 まるでこちらがこの話を元から承知していたかのような物言いにエメトの疑問はさらに深まる。


「カナタからあなたに平穏に過ごせる仕事を紹介してあげてほしいと相談されたのだけど……心当たりないかしら?」

「え……? ………………あ」


 そこでようやくエメトはカナタと協力関係を結んだ時の会話を思い出す。


"お前の仕事に協力する代わりに、俺が平穏に仕事できるように協力しろ!"

"乗った"


 確かに自分はカナタにこう言っていた。平穏に仕事できるように、と。

 カナタはその時の会話を忘れておらず、世話になった義理を果たすためにこうして母親に頼んでくれたのだとようやく気付く。


「少なくともわたくし達の庇護下にある以上、裏決闘場の職員よりは平穏だと思うのだけど……いかが?」

「あああー……! あいつ、まじで約束守りやがったぁ……!」


 エメトは疑った自分を恥じるように両手で顔を覆う。

 協力関係を結んだ時、カナタを利用しようという考えがあった自分がちっぽけな人間であることを思い知らされたかのようで。

 エメトは顔を上げて、晴れたような表情で部下達のほうを向く。


「喜べ野郎共……今度の雇い主は少なくとも、俺達を切り捨てはしないっぽいぜ」


 静まり返っていた酒場がエメトの言葉をきっかけに沸き上がる。

 金がないことを忘れるやけ酒から一転して、新しい仕事が決まった祝い酒へと。

 改めての乾杯の音が酒場に響き渡った。

 エメトを中心とした情報屋の誕生に店の酒が全て出てくる。


「おい誰か! マダムにも酒を!」

「いいえ、お気遣いはありがたいけれどすぐに出ないといけないの。後は息子達にお任せするわ」


 言いながら、ロザリンドは金貨をエメトに差し出す。


「それよりも最初の仕事がてら、裏決闘場の胴元について聞かせて下さる?」

「え? あー……顔を隠してたから正直よくわかってないですが、長身で暗めのおっさんでしたね……俺とやり取りしてたのも多分代理っぽかったとは思ってます」

「代理……?」

「ええ、一回……殿下(・・)にいい報告ができるってうっかり零してたんですよ……。深入りは寿命を縮めるのが常なので、当然聞こえない振りしてやりましたけどね」

「――」


 エメトの話を聞いて、ロザリンドは目を見開かせる。

 するとロザリンドはすっと静かに立ち上がってもう一枚金貨を差し出した。


「ありがとう、今日のお代はこれで済ませて頂戴」


 金貨で酒場はさらに盛り上がり、ロザリンドは笑顔を見せながら酒場を後にする。

 ロザリンドは酒場の外にまで漏れるエメト達の声を聞きながら、外に待機させていた馬車に乗り込んだ。

 がらがらと車輪の音を鳴らす馬車の中、ロザリンドは神妙な面持ちで呟く。

 そうさせるのはエメトが伝えてきた、殿下、という言葉。


「魔術都市オールターは在学中であるあの御方の膝元……他の王女王子が彼女の膝元で資金集めなんてことをするのはあまりに命知らず……。

出来るとすればあの御方と真っ向から対立している第一王子ファーミトン様と――」


 ロザリンドは険しい表情を浮かべ、窓から学院の方角を見る。



「――第二王女メレフィニス様本人のみ」


 

 その名は入学してから四年もの間、学院長ヘルメスが見張り続けている人物。

 スターレイ王国での後継者争いを苛烈にしている人物にして、下位の王子王女が継承権を次々と放棄した理由そのもの。

 自分の息子達が第二王女に目を付けられないことを祈りながら、ロザリンドはアンドレイス領へと馬車を走らせていった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

これにて第五部「影法師の誇り」及び魔術学院編序章終了となります。

第五部はエイミーの成長のお話であり、カナタが初めてその成長を手助けする側に回るお話でした。自分がしてもらったことを他人へと返すカナタからほんの少しの成長を感じてもらえたら嬉しいです。

お話の一区切りとなりますので閑話の更新後、一週間ほどお休みをいただいてから第六部の更新を開始します。

お休みの間、四部五部の間にいただいた読者の皆さんの感想にも目を通してお返事をさせていただきますのでもうしばらくお待ちください。一言でもお返しをと思っております……!感想やレビューは多ければ多いほど力になりますので今まで書いたことないよという方もぜひ一言でも残してくれると嬉しいです。

そしてこれからも「魔術漁りは選び取る」の応援よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
エメトはいい部下になりそう そりゃすれてこんなところにいるのに純真に約束を守る子供かーいってなったら恥ずかしさで死ねるw
エメト氏これ普通に優秀なのでは… 能動的に情報戦闘する諜報員じゃなくて受動的に集まってくる情報から違和感とかうっかりをちゃんと拾って相手に伝えられるのとてもいいですね 酒場のマスターとか将来的にやっ…
三下王女とは格が違いそうですよね そして、敵対する未来しか見えないというw
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