無月
―――城に戻ると、そこには一人の女性が居た。流石に対応しないのもあれなので応接室に移動し、一旦座って紅茶を飲んだ。
黒い長髪に赤い瞳、黒い瞳孔のその女性は何とも言えないオーラを出しながらこちらを見ている。…どうして毎度毎度美女ばっか来るのだろうか。お兄さん困っちゃうよ。
ってかスタイル良すぎじゃない?アウローラもかなり良いけど、この人も凄く良い。まぁうちの面々全員そうだし、師匠達もなんだけどさ。
「えっと…大丈夫ですか?」
「……あぁ、大丈夫だ。ちょっとあってな。…だけど挫けちゃダメなんだ、それだと絶対に…」
「簡潔に言うならば、私は貴方の配下になりたい。貴方の夢は素晴らしいと思うし、兵を率いる姿は圧巻されるものがある」
「じゃあ一つ良いか…?」
「何なりと」
「…配下になる奴に対して、俺は膝枕をして、とか抱きしめてくれって頼んだりするかもしれないんだ。…それでも良いか」
「構いません。王を支えるのが配下の務め。それで落ち着く事が出来るのならば喜んで」
「…早速で悪いんだが、ちょっと胸を貸してくれ。…泣きたい」
「分かりました」
彼女は俺の方に歩み寄り、そっと抱きしめてくれた。それから何も言わず、ただ背中を摩ってくれる。すると…当時の訓練の光景が脳裏を過り、徐々に涙が溢れてきた。
初めてスケルトンをちゃんと作れた日、師匠は笑顔で褒めてくれた。それから意地悪そうな顔をして色違いのスケルトンを作ったりして自慢してきた。
ご飯を偶に作ってくれたりして、偶に失敗して黒焦げの卵焼きを食べてた記憶とかもある。…でも嬉しかった、当時俺は一人だったから。俺にとって家族みたいな存在だったから。
「…お前は家族同然の人が殺されたらどうする?」
「分かりません。ですが…きっと努力して殺した人を殺すと思います」
「だよな。…ありがと」
俺はゼノを殺さないとダメなんだ。その為にあらゆることを努力しないとダメだ。そうじゃないときっと彼奴を殺せない。師匠の魔法を軽くあしらう程の実力者なんだから。
殺せなくても、せめて一発殴ってやらない時がすまない。何としてもあの顔に一発叩きこまないと。
「……名前を教えてくれるか」
「ノワルーナです」
「宜しくな、ノワルーナ」
「はい、宜しくお願いします」
落ち着いたので席に戻ってもらい、ちょっとした雑談を交えながらこれからの予定等々を話した。途中でアウローラも呼び、三人で色々と。
「ってわけで俺が居なかった場合はどっちかが色々決断する事になると思う」
「わかりました!」
「了解です」
「アウローラには前にも言ったが、兵士をどう扱うかはお前らに一任する。別に肉壁に使っても怒らん」
「そうなんですか?」
「あぁ。お前等がそういう事をするなら、そいつはきっと役に立たない本当の無能なんだろうって思うだけだ」
「信用し過ぎだよぉ」
「そうです」
「ハハッ…確かにそうかもな。でも良いんだ、それで」
ゆっくりと立ち上がり、そして窓の方に歩いてから外の景色を眺める。
「…尽くせるか」
「勿論!」
「当たり前です」
「ありがとう。…俺は当面色んな所に行って力を付けないといけない。その間、お前等に任せたい事がある」
「何でも言って!」
「全てこなしましょう」
「一つ目はこの場所の警備。メイド長のソーンが居るとは言え、危険であることに変わりはない」
「確かに。魔獣もそれなりに多いしね。開拓するならある程度は討伐してこちらの領域を誇示しないと」
「二つ目は俺の名の下で配下集めをして欲しい。浮浪してる強者ってそれなりに居るだろ?」
「私みたいなね!」
「分かりました。何名ほど?」
「任せるよ。別にそんな多くは要らないし、忠誠心誓う気がゼロの輩は…ね」
――――その後、一旦分かれてルナテクスの所に行き、授業を受けてからタルタロスの館に移動した。
「…アリエナ、って人が居てその人がシードの死霊魔法の師匠だったと」
「うん。ゼノは師匠を殺した」
「シードはどうしたい?復讐を望む?」
「勿論望む。でも…師匠の願いを叶えるのが俺の役目だと思うんだ」
「「願い?」」
「師匠は世界征服を目指してた。幼い頃の俺に自分の夢をよく語ってくれてたんだ。あとその壁になる相手が変態悪魔とか、氷の堕天使とか、奇怪な魔術師とかって言ってた」
「…私とジェネシスとアルマじゃん」
「確かに…」
「今思い返せばそうじゃん…」
「でも普通に記憶にないってかマジで戦った事無いんだけどなぁ…」
「私も。そもそも死霊魔法使いと出会う事が少ないし、私達と戦えるって事は死霊魔法以外も容易く使える存在の筈。そんな近接も出来る狂った死霊魔法使いなんて居ないよぉ」
「もしかして俺の事嫌いだったりする?」
「し、シードはほら!私達の弟子だから!」
「そうそう!まぁ今のはパルが悪いよね!」
「…フフッ…別に大丈夫だよ!でも二人が戦った記憶無いなんて…」
「死霊魔法使いとはそれなりにあるけど、う~ん…」
「それなりに居るけど、名前は聞かなかったからなぁ…」
「そっかぁ。まっ…それなら仕方ない!」
「んで強くなりたいなら今日から戦闘方面も始めよっか。私とは闇魔法、ジェネシスとは氷魔法。そんでその後に私達と軽く模擬戦」
「ん!了解!」
―――翌朝、魔の森にて
「―――改めて宜しくね、ノワルーナ!」
「えぇ、宜しく、アウローラ」
私は彼女の手を握り、その中々に狂ってる荒々しい魔力を自らの魔力で打ち消していく。すると彼女は驚いた表情を浮かべながらこっちを見てきた。
「凄いねノワルーナ!相当な手練れ?」
「別に。貴方こそ凄いね。魔力の扱いに関してはただの化け物よ。戦闘能力は…まぁ魔力でこれなら大体分かる」
「フフッ…そっちもね」
彼女はそう言いながら暁色の刀を引き抜き、そして少し離れた敵の所に一瞬で移動してその首を斬り落とす。それを複数回続け、あっと言う間に周囲のレッドタイガーを殲滅。
しかしそれをずっと見ていると、いつの間にか私の周囲にはキラーベアーの大型個体が複数体。チラッとアウローラを見ると、彼女はこっちを何か期待したような目で見ている。
「……これも殺ってくれればいいのに」
手元に大鎌を召喚して息を吐き、軽く一歩前に踏み出して周囲の敵を動けなくさせ、それから大鎌を一度だけ振るって全滅させた。
「今の何?」
「魔力を地面に流し込んだだけ。威圧の応用」
「凄いじゃんそれ」
彼女は私の方に一瞬で距離を詰め、その刀を振るってくる。なので一歩後ろに下がり、水の刃を地中で生成して地面を突き破らせて彼女の方に。
「ワオ」
まぁ彼女はちょっと驚いただけで、それを切断しながらこっちに迫ってくる。仕方ないので大鎌で刀を防いで見つめ合った。
「…実際どの程度強いの?」
「終焉シリーズには勝てないと思う。これからの行動次第で変わるけど」
「まーじか、結構強いんだ。でも私も負けないよ」
「知ってる。…ほら、エルフの所に行こうよ」
「おっけ~!」
互いに武器を仕舞い、再び歩き始める。奇襲を仕掛けようとする行動を窺ってる魔物は先に私が処理し、普通に突っ込んでくる馬鹿な魔物はアウローラに任せた。すると結構早めにエルフの集落がある結界の外側に到着。
「……こりゃ困ったね。この結界、私が知ってる中だと一番硬い。下手したら此処にあるかもよ、世界樹」
「あるよ」
「んんん?」
「本好きの貴方なら知ってる筈。エルフは人を他種族との接触をあまり好まず、人が少ない場所に移動する。そしてエルフが守る世界樹は遥か古来より魔が多い場所の中核に存在していた」
「誰が結んでたかはエルフ以外知らないけど、確か魔族とエルフの間で契約があったんだよね。この地に繁栄を齎す代わりに、魔族がエルフを守るっていう契約が」
「その通り。それはそれなりに長い間守られた。歴史上でも有名な初代の魔王が生まれ、それから三代目までそれは守られてきた。でも四代目はその契りを無視し、第一魔界へと移動」
「結果エルフは残されたと。…でも何でそこまで詳しく知ってるの?」
「契約を結んだ人とそれなりに親しいからね。今でも付き合いがある。それはどうでも良くて、多分…私は入れる」
「ずるい~」
「安心して。今回ちゃんとその人も来てるから貴方も入れる」
「その人は何処に?もしかして後ろの?」
「そうだよ。…何時まで後を付けるの?」
「――――フッ…気付いていたか。正直ゼノに襲われていた時は助けてやろうかと思ったぞ」
「別に大丈夫よ、それとも私ってそんなに弱く見える?」
「いや、終焉シリーズに至らないだけで十二分に強い」
「それはどうも。…あの時何で自己紹介しようとしたの」
「ゼノの奴、久々の再会故に私を忘れているかと思ってな。覚えていたが」
「うわぁ、ノワルーナが殺さないから知り合いなのかと思ってたけど…マジかいな」
「フフッ、驚いてくれて私は嬉しいよ。彼女は…言わなくても分かるよね」
私はクスッと微笑み、他の人には見える筈もない結界に触れる。見えない人だと結界を越えれず、触れた瞬間に別の場所に飛ばされる。ただ魔の森の中で地図もまともに機能しないから気付けない。
そして永遠に彷徨い続ける事がある。ただ一定以上の強者ならこの結界は見えるし、見えるって事は触れる事も出来る。入れるかどうかは別。
刹那、後ろの方の木々から彼女が姿を見せ、クスッと微笑んだ。
「私に任せると良い」
「勿論。貴方じゃ無いと開けられないからね、オメガ」




