閑話 世直し
―――とある日
歴史に残るあの日を忘れたことはない。いや、忘れる人はきっといない。あれは全ての生命体が己の無力さを、そして先人が恐れていた存在の強さを改めて思い知った日なのだから。
長年大した活動を見せていなかった終焉シリーズ。だからこそ現代を生きる人間、そして魔人にとっては記憶から薄れる、若しくはそもそも知らないという事態が多発していた。
そんな中で起きたのが『世直し』とも言われるあの大事件。『憐憫』という二つ名を持つ悪魔パルパータが起こした大事件。これを知らない人は恐らくいない。どの歴史の授業でも習うレベル。
あの大事件が起きた日、私はあの日、まだ孤児だった。その日もいつも通り朝に置き、窓から差し込む朝日を眩しがりながら顔を洗って朝食を食べる食堂に向かう所だったと思う。
―――0年1/1
「皆、ごはんよ~!」
「「は~い!」」
「今日のご飯は何かな~!」
「パンにスープと予想!」
「フフッ、正解だよソーンちゃん!」
朝食を当てた私は、ちょっと嬉しい気分になりながら席に座った。他の子も次々と座り、神父さんが来るまでワイワイ皆でお話。だが刹那、聞き覚えのある声が響き渡った。
『やぁやぁ、平和に暮らしている人間、そして魔族の所君!私だよ、パルパータだよ!ついさっき勇者が挑んできて死んだから、前に言ってたあれを実行するね!30分後に実行するから!』
ざわつく孤児院。すぐ神父様が入って来たかと思えば、他の大人と話し合って強固な結界を張り始める。
『ただし幾つかの巨大国家の首都は破壊しないから安心して!首都以外は基本的に消滅させま~す!まぁあと隕石が降ってくるけど、それは…頑張れ!』
「み、皆…大丈夫ですよ、我々が付いています」
「「は~い!」」
…大丈夫なわけがない。私には分かる、多分…急いでこの街から出ないと死ぬ。死なないわけがない。勇者が負けたなら…絶対に死ぬと思う。
あの勇者はかなりのお人好しで魔族を全滅させる系じゃない。だからこうして私の様な孤児、そして邪神教の神父さんも生きている。
お人好しとは言ったけど、でも敵と判断した相手は確実に殺す程の強者。あの龍種だって結構が討伐されていたはずだもん。それなのに…負けたんだ。
「神父さん!トイレ!」
「ん?あ、あぁ、行ってらっしゃい」
私はそそくさとトイレの方に行き、途中で道を変えて窓から外へと出て全力ダッシュ。とにかく駆けた。敷地を、街の通路を、とにかく思いっきり。疲れたら少しだけ休み、またすぐ走るの繰り返す。
すると漸く出入口が見えてきた。城門は降りてないから…逃げれる!
「ん?そ、ソーン!?お前脱走してるのか!?」
「逃げるの!」
すると門兵的な役割のお兄さんが私の存在に気付き、掴まえようとしてきた。だがそれは叶わない。そして私が逃げるのもどうやら敵わないようだ。
何せ小さめの隕石が遂に降り始めたのだから。その一つは城壁に直撃し、地面がそれなりに揺れ、衝撃波等々で城壁の破片が思いっきり飛んでくる!それがお兄さんの上半身を押し潰した。
「ッ…」
足が少しだけ動いてるのが気味悪い。でも如何しよう、私は一体何処に行けば良いの…?
すると結構離れた場所に巨大な火柱が立った。恐らくあの悪魔の魔法だろう。既に設置していた魔法陣を起動させ、街を燃やし尽くしたに違いない。
もうじきこの場所もきっと同じことが起きる。ならせめて…せめて魔法陣の外に行かないと…!
とか思っていると雲が霧散し、馬鹿みたいにデカい隕石が姿を見せた。それは物凄い勢いでこの街の近くに迫ってきている。
「もう…!」
取り敢えず急いで街の外へと逃げた。それでも走るのを続けていると、凄まじい衝撃波と共に無数の瓦礫が背後から飛んでくる!
「やばっ…!」
――――それからどの程度の時間が経ったのだろうか。それは分からないけど、私は森の真ん中に飛ばされたらしい。それしかわからない。ってか全身が痛すぎる。
「此処って…結構距離あったような…」
何があったのかを理解しようとしながら起き上がろうとすると、何故か右手が地面に付けない。不思議に思いながら顔を横に向けると、右腕が無かった。
足も動かないから何事かと思いつつ、左腕を酷使してちょっと体を起こしから見てみると、明らかに変な方向に折れ曲がっている。痛みが無いのは多分もう麻痺しちゃってるのだろう。
「グルルルル…」
「えっ、嘘…。魔物は生きてるの…?」
やはり魔物が多く存在する森だ。ヤバい、どうしよう。このままだと食われちゃうよ…。しかも相手は黒狼、獰猛なヤバい奴。
「―――――――!!」
遠吠えの様な咆哮。それの直後、草木が揺れて次々と同族が出現していく。こうなると左手から魔法を放っても勝てない。まぁ…初級すらまともに使えないけどね。
そもそもこの群れは基本的に兵士三人で一体を倒すような相手。それが群れとなれば詰んでるんですよ。しかも両足骨折、片腕損失とか…。
「―――おっ、群れだ。何処に居るのかと思えば此処だったのかぁ」
「グルル…!!」
「ガァ…!」
「おぉ怖い。な~んて僕が言うと思ったか」
赤い髪の女性が多彩な攻撃で黒狼の群れを殲滅し、私の横にやってくる。それからその赤い瞳で体を見つめてきた。
「な~にをしたらこんな体になるのかねぇ。てか何故に生きてる?余程生命力が高いのかな?まぁ奇跡としか言えないね」
「え…っと…」
「まぁ取り敢えず回復っと…」
手が顔に触れたかと思えば、変な音と共に足が治り始め、右腕が生え始める。何事かと思ってると、その人は私を見ながら体を伸ばした。
「あっ、もしかしてさっきの世直しの生き残り?パルの灼熱を耐えた?にしては火傷跡が少ない…。って事は隕石の衝撃波で吹っ飛ばされたのか」
「…多分…」
「何歳?」
「10です」
「なるほどねぇ。これからの予定はあるかな?」
「とくには…」
「なら僕に付いておいで!君は…うん、僕の最初の配下にしてあげる!」
「えっと…有難う御座います?」
「うんうん!あっ、僕は………今度名前を教えるね!ササッ、案内するよ~」
―――ふらつく私を抱え、その人はでっかい城へと案内してくれた。それから色々な場所を案内してくれ、私の部屋も与えてくれたのだ。
理解するのは大変だったが何とか城内の構造を把握し、次は何をすれば良いのかを教えてもらった。とは言え掃除や庭の手入れだったので私でも出来る。
「――――って感じ!」
「頑張ります」
「フフッ、ありがと~!」
―――それから数日間生活を共にしていると、突然一人の女性が訪問してきた。その人はなんていうか…カッコいい装束を纏ってるんだけどちょっとだらしない。
シャツが一部ズボンに仕舞われてたり、そのシャツのボタンを間違って閉めてたり…なんか色々とツッコミたい。
「君だ~れ?侵入者って訳でもなさそうだけど…」
「―――僕の配下だよ。初めての配下なんだけど、凄く良い子なんだよね~」
「遂に作ったのか~!」
「その声…!」
「うん?」
貰っていた短剣を取り出し、その人の方に向ける。だが二人共止めず、それどころかその悪魔はこちらに一歩踏み込んだ。
「私が憎い?」
「憎い」
「なら刺しても良いよ。内臓をぐちゃぐちゃにしても良い」
「………」
「私は私の進むべき道を進んだまで。君は自分の歩む道ってある?」
「え?」
「自分がどんな風に生きたいかを考えて行動するのが一番良いの。私はただ悪魔の救済、その為に行動してる…と思う。彼女は魔法の研究のために」
「そうね」
「悪魔の救済の為に…」
「君達は無関係かもしれない。でも…人が死ねば必然的に悪魔は召喚されなくなる」
「………」
「まっ、君がどう生きるかは君自身が決めて、その上で行動して」
「…私は…主人の為に生きると同時に、精一杯生き続けて生を謳歌します」
「フフッ、直ぐ決めるなんて凄いね!それじゃ私はどうする?」
「信念を貫く人、定めた道を進み続ける人は…多分凄い人です。だから恨まず尊敬します。その道は嫌いですが、貴方は尊敬します」
「…私は悪人だよ」
「?」
「………まぁ流石にそれは分からないか」
「貴方の善悪の価値観は希少よ。私とも違うし」
「そうだっけ」
「私は自分に善悪を付けないから。全て私の判断で善悪を決める。貴方は全員が悪と正義両方を持ってるって言いたいんでしょ」
「そうそう!」
「善悪両方を…?」
「難しい話だから気にしない方が良いよ、僕もよく分かってない」
「なるほど…」
「ってか何の用?僕に用なの?」
「この場所の所有権を私に頂戴!」
「ヤダ」
「ケチ、じゃんけん」
「…良いよ?」
「「…じゃんけん―――ポン!!」」
「っし!」
「むぅ…」
「僕の勝ちだから、もう無いよ」
「へいへい、まぁ君に託せば安心っちゃ安心だから良いや。所で名前、何だっけ」
「嫌味?僕は…ルナテクスだよ」
「そうだった、メンゴ~!ほんじゃまたね!取り敢えず長らく寝る」
「おやすみパル」
「うん!」
その人は消え、私は改めて自分のご主人、ルナテクス様を見た。
「僕はルナテクスって言うんだよ、宜しくね!」
「………偽名だったりしますか?手帳に書いてある名前が…」
「僕は色んな名前を持ってるの。親友には本名を教えてる。君は僕の信頼できる配下だから教えてあげた」
「なるほど!」
「ってわけで宜しくね、ソーン」
「はい!」




