師匠、全員危険
―――深夜
「…なんでだと思う?」
「ん~私はシードの在り方や優しさ、そしてその真っ直ぐな姿勢が好きだから惚れたんだよねぇ。シードは?」
「悪魔救済の為に只管頑張る姿が好き。後はやっぱ他人の道に寛容で、否定しようとしないのが良い!」
「フフッ、ありがとう!…昔の人達が恋をしなかったのは、互いにある程度のリスペクト精神を持ってたから。それってどういうことか分かる?」
「心の距離が開く…?」
「そう、その通り。私の場合、終焉シリーズの皆やリームングとかとはかなり仲が良かったからそういう精神も無く話せてた」
「なんかお互いに尊敬し合ってると…ちょっと距離が開くのかな?」
「ん~どうだろぉ。何か心の底から尊敬してる、とかじゃなくて取り敢えず尊敬しておく、その取り敢えずがあるから距離が開くんじゃないかなぁ」
「…本当の意味で尊敬してないって事?」
「と思うよ。私はさ、ジェネシスの氷魔法に対する熱心具合は尊敬してるし、リームングっていう人魚の歌に対する思いは尊敬してる。でも全員のそれに心から尊敬してるかと言えば別。一応仲間だし、凄いねって言っといたほうが良いかなぁって感じで。…雰囲気を守る為のそれがある」
「なるほどね…」
「全員がそうだったかは分からないけど、でもある程度の強者だからこそ争えば面倒になる事は自覚してる。だからこそ節度を保つために互いにリスペクトし合う。それ故に距離はちょっと開き、元々そうそうしない恋がより一層…」
「超絶納得や…!」
すると長い温泉から上がったジェネシスが鼻歌を歌いながらやって来てソファーに座り、俺の方を見ながら膝をポンポン叩いた。
「良いの~?」
「勿論!」
そう言われたら寝転がって膝枕をしてもらう他にない。と言う事でソファーの上で寝転がりその膝に頭を乗っけた。
「………天国」
「可愛いなぁ」
「ちっ…」
「怖いて。ってか何の話をしてたん?」
「何で恋をしないのかなぁって思って!」
「あ~。まぁ強者が恋しないのは面倒事を起こしたくない故のリスペクト精神が存在してるからだねぇ。パルがもう言ってそうだけど」
「言ったよ~ん」
「んじゃそゆことだよぉ。私とパルみたいな関係は結構レアだからさ」
「こういう関係が男女だと…?」
「どうだろ、結局恋するかどうかっていろんな要素が絡み合った後の結末だからさ。難しいんじゃないかなぁ」
「ほへぇ…」
「…ジェネシスはシードの事をどう思ってるの?」
「え?………分かんない」
「?」
「へぇ~?」
「強いて言うなら弟と思ってる。家族みたいなもんかなぁ」
「うわっ、本心だ…」
「当たり前でしょ…。嘘つく理由ないじゃん」
「ねぇジェネシス」
「な~にシード」
「…俺も姉って思ってるよ!」
「スゥゥゥ………可愛い」
「グヌヌ…」
とまぁ平和に過ごし、その日はそのままタルタロスの館で寝た。翌朝は早めに来たオメガに三人揃って起こされ、顔を洗って食卓に。
「…オメガが作ったの?」
「そうだ」
「カレー以外作れたんだ…」
「酷い誤解をされているようだな。普通に作れるぞ」
机の上に並んでいるのは刺身や漬物、サラダなど色々。それを全て彼女が一人で作ったらしい。
「…凄いね」
「そうか?まぁありがとう」
「それじゃ食べよ~」
「「うん!」」
「頂きます」
「「いただきま~す」」
―――朝食を食べて平和に過ごし、一旦図書館に移動してルナテクスを探すと置手紙が置いてあった。
『シードへ。今日だけ司書お願い。明日一冊本を上げるから』
本て…。でも彼女が書いてる本ならかなり欲しい。多分禁書よりも素晴らしい内容の本しかないからな。マジだぞマジ。
「まぁ今日ぐらいは良いか。しかし仕事内容は…」
彼女が何時も座ってる場所に座ると、仕事内容が何故か頭の中に次々と浮かんで来た。恐らく記憶を操作する拷問系の魔法の一つを応用してるんだろう。
「怖い師匠だな、本当に。ってかパルとジェネシスに連絡しないと」
『……パル~』
『――うぃうぃ、どしたの~?』
『今日司書をやらなくちゃいけなくなったから行けない、ゴメン!』
『それは仕方ない!連絡ありがとね~!』
『ん!』
念話を切り、延滞してる人が居ないかを書類を見ながらチェックし、空調を調節しながら適当に本を読みながら時間を過ごした。
この本はルナテクスが用意してくれた歴史書。パルが褒める程に細かく書いてあるから相当何だろうな。教科書みたいな感じだが問題も付いてて、答えも別冊で用意してくれてる。
午後はこういうのをやってるって伝えたら用意してくれたんだよねぇ。めっちゃ優しい師匠だと思う。口は凄く悪いし、分からない時は阿保なのお前みたいな顔をするけど超丁寧に教えてくれるもん。
無理な人は絶対無理だと思うよ。そういうの大丈夫です!って人じゃ無いと無理。後身体が強く無いと無理。失敗すると強烈な魔法を突然放ってくる系の師匠だから。
パルは親身になって教えてくれる。ただし怒らせると一番ダメな系統の師匠でもあると思う。居眠りとかすると、満面の笑みで半殺しにしようとしてくるからね。
でも愛情たっぷりで最早愛が溢れてる授業だから大好き。それにパル自身が当時を生きてる人だからこそ、当時の情景とかを交えながら教えてくれる故により一層納得しやすい。まぁ近代史はパルが寝てたらしいからジェネシスが殆ど補足してるけど。
ほら、今は近代史やってるけど、昔からの戦争だと古代史とかに戻るじゃん?そういう時に二人が色々情報を教えてくれるんよ。
んでジェネシスは関連事項も同時に教えてくれるから、知識の幅を広げやすい。んでどの程度理解出来ているかを、俺に授業させて確かめる。自分で授業すると色々分かるよね、本当に。
ここが足りない、とかここはこうしたほうが良い、とか人に教える時のアドバイスや情報を教えてくれるから凄い。一番先生として向いてると思われる。
「…あれ?シード様、何を…?」
「一日司書だ」
「大変っすね…」
「お疲れさまっス!」
「おう。…静かに過ごせよ」
「「はい!」」
兵は本当に極僅かしか来ず、勿論騎士や魔導士も殆ど来なかった。だからなのか基本的に図書館内は静寂で、俺のページをめくる音が一番煩いレベル。
―――昼過ぎ
「――――あの…」
「…なんだ」
「何を…してるんですか?」
「見ればわかるだろ、司書だよ。…何だ?本でも借りる気か?」
「い、いえ…」
やって来たのは例の聖女。流石にカウンターの中にまで入ってくる気はないらしく、前に立って俺が読んでる本を見ようとしてくる。
「…あっちで座って読め。鬱陶しい」
「酷くないですか?」
「知るか。…用が無いなら帰れ」
「お勧めの本教えてください」
「は?」
「お願いします」
彼女はそう言って頭を下げた。本を読んでる奴もその状況には驚いたらしく、こっちの方を見ている。
「…ちっ、頭を下げるな。お勧めの本を取りに行くのは面倒だしカウンターの中に来い」
「へ?」
「早くしろ…」
彼女は不思議そうにしながらも中に入り、俺が用意した椅子に座った。
「…歴史の本だ。嫌なら自分で探しに行け。まぁ俺が読んでるのだけどな」
「細かいですね」
「当たり前だ。…今は近代史だから」
「……有難う御座います」
「礼を言われるようなことはしてない」




