閑話 『弥終』vs『無煌』
――これはシードが司書であるルナテクスに名前を教えてもらう以前の話
―――フィーニス島、それは地図の中央に存在する直径100㎞の島。フィーニス山と呼ばれる大きな火山を中心に、多くの活火山が存在している禁断の島。
地図の中央であるその島を中心に、半径500㎞のプロイビート海と言うのが円形状に広がっており、その海自体多くの魔物が生息している。
しかし島の付近に辿り着けば生命体どころか海藻すら姿を見せなくなり、島の上に至っては生命が生息できる状態ではない。
無風の島であるフィーニス島の上空は常に黒雲が渦巻き、フィーニス山の真上である中央は深淵でも覗いているのではないかと彷彿させる程に黒い。
「…って書いてあるんだけど…司書さん、マジ?」
「フィーニス島かぁ…。マジだよ。滞在するだけでも危険さ。君レベルなら行っても問題は無いけど、生息してる奴が問題」
「え?生命が生息できる状態じゃないんでしょ?」
「まぁとある個体を除けばね。…その個体がはっきりと確認された時期は忘れたけど、その個体についての有名な話ならある」
「おぉ~。どんなの?」
「紀元前11111年11/11、堕天した事で有名な熾天使ジェネシスが奴の縄張りであるフィーニス島に降臨」
「えぇ…?」
「縄張り争いではないけど、二人は殺し合いをした。勝負自体は引き分けとなっているけど、実際はジェネシスが戦略的撤退を選んだというべきだろうね」
彼女はそう言いながら俺の前に一つの本を置き、該当するページを開いた。何処から出てきたのか、という疑問を抱きつつ、取り敢えず本に目を通す。
――――紀元前11111年11/11
無風の大地に降り立つ一体の元熾天使。その羽は三対から一対に減って黒く染まり、しかも龍の如き翼に変わっていた。
そしてそれを見つめるはフィーニス山の山頂にある火口からゆっくりと姿を見せた巨龍。その鱗は黄金の如く煌き、その緋色の瞳は見つめるだけで死を覚悟出来る。
「君がコラプスか。この場所に私も住みたいんだけど」
「………」
刹那、吹く筈のない風が吹き始め、やがて暗雲が渦巻く速度が急激に速まっていった。
「ノー、そう受け取るべきかな?」
奴は翼を大きく広げてから二足歩行状態となって首をゆっくりと上に伸ばし、そして顔をこちらに向けて威圧を放ってくる。しかし熾天使たるジェネシスがそれでやられるわけも無く、威圧を放って対抗。
すると手の様にも使える前足を思いっきり火山の斜面につき、四足歩行の状態で一気に駆け降り、あっと言う間にジェネシスの目の前へ。
「…なるほどね、こりゃ想定外だ」
「―――――――!!!」
大地を揺るがす程の大咆哮。それは天使最強と名高いジェネシスであっても耳を塞ぎ、軽く吹き飛ばされる程。
「弥終って二つ名を付けた奴、天才だろ…。誰だっけな、忘れちった…」
彼女はそう言いながら跳び上がり、無数の剣を宙に生み出して一斉に放つ。しかしコラプスが翼を羽搏かせるだけで熱波が巻き起こり、一瞬で剣を溶かして消滅させた。
「どうしたもんか―――ッ!?」
悩む素振りを見せた瞬間、コラプスは五本指の前足を手の様に扱ってジェネシスを掴み、北の方へと思いっきり投げ飛ばす。
それから物凄い速度で龍も移動し、気付けば極寒と言われる最北の大地へ。
「今度は極寒だなぁ…」
「――――――!!!」
極寒の大地は常に猛吹雪が吹き荒れ、ある程度の耐性が無ければ一瞬で凍死してしまう程の大地。しかしコラプスが来た瞬間、訪れたのは大地を溶かす程の熱波。
「…その熱、君の体からなんだね。極寒の島が溶け始めてるよ」
刹那、口元に急速に溜まる魔力。それは如何様な魔物であっても怯え、本能に従って逃げたくなる程に魔力が膨れ上がっていった。
奴が首を上に伸ばした瞬間、雲は一気に霧散して行き、太陽が姿を見せる。だがそれも一瞬で、奴を中心に黒雲が渦巻き始めた。
「本気でやらないと不味いらしい」
ジェネシスも両方の掌に魔力を溜め始め、聖と闇の二つの球を生み出す。
「―――――――!!」
「くたばれ!!」
獄炎を遥かに凌駕する終焔のブレスと、聖と闇が混ざった光線がぶつかり合い、激しい衝撃波と共に巨大な爆発が巻き起こる!
白い閃光に包まれた後、辺り一帯は完全に消し飛んだ。残ったのは轟々と燃え盛る海だけ。
「えっぐ…」
ジェネシスが呟いたその時、真横に移動していたコラプスの噛み付き攻撃によって脇腹を抉られ、そのまま軽く吹き飛んだ。
「ッ…!?あっちは炎の残像か…!」
痛みを我慢しつつ放つ氷魔法。それは海から巨大な氷を生み出してその体を貫こうとするも、コラプスは翼を羽搏かせて一瞬の内に上空へ。
「………」
「驚いた?終焔でもありゃ溶かせないよ。私の氷なんだから」
「…愚直なり」
「喋れるんか~い」
ゆっくりと氷の上に降り立ち、宙に浮かぶジェネシスを睨むコラプス。それからゆっくりと頭上を眺め、こう言った。
「……貴様の計算通りか」
重低音の凄い声。それはやはり天地を揺るがし、海を大きく波打たせる程に威圧感がある。
「誰に言ってるの?私こっちだけど」
ただ海が波打つ音と雷鳴だけが聞こえる中、コラプスはずっと上を見つめ、ただ静かに魔力を放ち続けた。
ジェネシスは回復魔法で治療をし続けながら、奴が見つめる方向を訝し気な表情をしながら見つめる。
「……喋る気は無い様だな、アルマ」
刹那、天から降り注ぐ無数の隕石。それに対してコラプスは無数の火炎弾を口から放って大半を破壊。ジェネシスも氷の槍でそれらを破壊した。
「アルマって例の魔人?」
「…まとめて葬ってくれる。―――逃げたか」
――――そこから始まる一か月にも及ぶ戦い。それは最北で行われている筈なのに、正反対の最南端にまで影響を及ぼしていた。
結果として最北に存在するのは終焔が燃え盛る海と、中央にあるちょっとした氷山。そう、もう誰も立ち入れず、誰も生息できない場所となったのである。
コラプスは負傷しつつも大した怪我では無く、逆にジェネシスは腕や片翼、脚を失う程の重傷を負い、撤退。
「―――な~んてことがあったのよ」
「怖すぎじゃない?えっ、アルマとか言う知らない個体出て来てるしもうカオスなんだけど」
「ジェネシスは知っての通り例の熾天使。コラプスは敵意さえ見せなきゃ特に何かしてくるわけじゃない優しめの龍。領域内に入っても怒らない」
「優しいな…。他の龍種は基本怒るもんね」
「そうそう、だから一応友好的とされてる。んでアルマは魔人だね。観測されるのは稀で、何処かの国の皇帝らしい」
「皇帝?」
「うん。まぁ詳しい事は不明だよ。っと…今日は此処までだね」
「今日もどーも」
「気にしないで~」




