閑話 ボロスの仕事(昔)
―――とある日の朝
「今日もまた冒険者か…」
この星に存在する数多の火山地帯の中でも比較的面積が広いこの地の王として我は君臨している。
数十年前に冒険者を誤って殺して以降狙われるようになり、様々な強者を倒している内に龍王と呼ばれるようになった。称号にも龍王があるので本当に王になったのだろう。
前にパラサイトという龍王が世界で一番大きい火山地帯に居たらしいが、それも遥か昔の話。今はこの我こそが最強なのだ。
しかし…中々に凄い揺れだな。そろそろ噴火か?…だとすれば丁度良いな。体の汚れを落とせる。
「あっ、居た居た」
「…ガキか」
「成人済みだわボケ」
「小娘風情が生意気な…」
「男だし」
「…ム?本当だ、これは失礼」
「ムカつくから斬って良いよねレイちゃん」
「ペットにするんじゃないの?…ってか暑い、脱いでいい?」
「だ、駄目だよ!」
「死ね!」
取り敢えず火球を吐いて牽制。とは言え…A級?とかいうクラスの冒険者はこれで一発だったな。まぁあのガキは死ぬだろう。
問題はその隣に居る女性、そして…何時の間にか居た執事服の老人だな。ステータスを見る限り何方もシードだが…嘘だろう、絶対に。
「……えっ、今の何?」
「さぁ…」
「牽制のつもりでしょう」
「あぁなるほど!テンペストの火球に比べればクソ程涼しいから何かと思ったら…牽制ね!」
何だと…?今ので無傷…それどころか涼しいと言ったのか…?
「調子に…乗るなよ!!!」
「せいっ!」
奴は腕を振るって我の獄炎のブレスを切り裂いた。よく見れば腕には魔力が纏わりついている。
そして気付いた頃には目の前に居て、その拳を振るって我の顔を思いっきり殴って来た!
「なっ…!?」
「やっぱ魔闘術は凄いなぁ」
「私一人しか使えていなかった故、後継者が出て私は嬉しい」
「おぉ、やるじゃんシード!」
「…貴様が本物か!!!」
「え?…あぁ、そういう事か。まぁ良いや、とっとと気絶してよ、自称龍王さん」
止まる事を知らない拳。それは我の体を守る鱗、甲殻を容赦なく破壊して行く。
「ッ…」
漸く止まったので反撃してやる、そう思ったが…我の肉体は地面に倒れたままで動かすことが出来なかった。
いや、力がもう入らないのだ。動かそうにも動かせない、凄く…悔しい。
「君はボロス!俺のメイドになってよ!」
自らの体を駆け巡る電流の如き奴の魔力。そしてメイド、という要望に応える為か我が肉体は一気に縮小を始めた。
だが不思議と嫌な気はしない。…負けたからか。これが魔族という種の性なのかもしれんな。
「…死ね」
「わぁ、人になって最初の言葉が死ねって何か感慨深いね」
「……あの二人は何だ」
「執事のデミちゃんと騎士のレイちゃん!まぁレイちゃんは騎士と言うよりヤバい人?」
「ん!?」
「な、なるほど。…魔王の名前なのだな、お前が付けたのかシードとやら」
「本物だよ?初代魔王デミウルゴス、二代目魔王レイ。俺が復活させた」
「……ハハッ…意味が分からないな。まぁ良い、お前のメイドになってやる」
「じゃあ一人称私ね」
「え?」
「命令!」
「此奴…」
――――数か月後
「起きろダメ主」
「まだぁ…」
「ちっ…」
無理やり布団を剥がし、ダメダメな主であるシードをベッドから投げてソファーに乗っけた。それからササっとシートを変え、着替えを彼の近くに置く。
「…それが着替え。朝ご飯は多分そろそろ作り終わるんじゃない?まぁラストが呼びに来ると思うよ」
「……ありがと」
「そう思ってるならちゃんと起きてくれるかなぁ」
そう言いながら部屋を出ると、デミウルゴスが袋を渡してきた。
「先月分の給料だ。白金貨30枚、白金貨75枚入っている」
「毎度思うんだが多くない?私大したことしてないけど」
「無駄に金が余るのでな。まぁ好きな服、武器、小道具を買うと良い」
「えぇ…?恨まれるよ?」
「シードは人を嫌う故、元々嫌われている。だが…魔族には好かれる様だ。魔族だしな」
「まぁ……うん、有難く頂くよ」
変わった主だけど…確かに優しい。戦う時はあれだったが、仲間になってから気付いた。敵には容赦ないけど、味方には死ぬほど優しい。
ただ自らも誰かに甘えたいらしく、中身は想像の数十倍子供っぽい気がする。
そう思いながら廊下を歩き、ちょっと広い部屋へと移動。それからソファーに座ってだらんと。
「…ん、ボロス」
「テンペストか。…菓子でも作ろうか?」
「大丈夫。ボロスはシードの専属メイドみたいなもの。私達に尽くす必要は無い」
「私が好きでやってるだけだから気にしないで。それでどうする?」
「…なら貰う。友達の好意は無下にしない」
「君等は皆揃って良い人たちだね。私は他種族と交流したことが無いけど…人間とか魔族は皆そうなの?」
「それは違う。魔族にも人にも死ぬべき輩は要る。皆が私達みたいなわけじゃない。それに私はボロスが友達だからこうして接してる」
「ふぅん。…友達、か。……今日は沢山作るから他の人も呼んでくれる?」
「ん、任せて」
―――小一時間後
「私は天才…」
そう言いながら先程の部屋に行くと、デミウルゴス、レイ、テンペスト、ラスト、シードの五名がちゃんと居た。
「はい、クッキー山盛り」
「「お~!」」
「流石だな、ボロス。材料は足りたか?」
「買ってきた。私は多少時空間魔法が使えるから、対象の時間を加速させたり出来る」
「やはり便利な魔法だな。だが使い過ぎるなよ。暴発すればあらゆる物質の時間が戻ったり加速したりする」
「勿論」
この魔法は便利だ。自らの動く速度を加速、減速させることが出来るし、植物に掛ければ成長速度を上げれる。
故に料理人は重宝するのだろう。と思ったがうちは使わないらしい。デミウルゴスは使わず料理してたし。
過去に暴発したことがあって、三日ほど時が戻ったとか。代わりに魔力を使い果たして数日動けなかったそう。
…御伽噺に数千年時を戻した神が居たそうだが、魔力規格外なんだろうな。てか時を戻したら記憶も無くなるから、普通そんな御伽噺書けない。
故に嘘なのだろう。それか神が自ら書いたとか?…ハハッ、無いな。
シードも使えるそうだが、使う事は無いらしい。自らの速度を加速、減速をさせる事すら滅多に無いとか。やっぱ魔力、まぁMPの消費が多いからだろう。
「ボロス、隣おいでよ!」
「…ん」
シードの隣に座ると、彼は私の頭を撫でてニコッと微笑んだ。
「ありがと!」
「……別に。給料の丁度良い使い道を見つけただけ」
「それでもありがと!」
「…どういたしまして」
「それじゃ食べよ!」
「「ん!」」
「…うっま!」
「凄いな、腕を上げたな、ボロス」
「すっご~い!やるじゃん!」
「……ん、やっぱボロスのお菓子は上手い」
「………フフッ…でしょ!」




