アメリカ生まれの転校生
二学期の終わりに先生が言った。
「新学期から、このクラスに女子が転校してくる。中野と同じで帰国子女だ」
その言葉で、クラスの何人かが僕を見た。
先生が言った通り、僕・中野英五は帰国子女。日本に戻るまでは、英語圏をあちこち移り住んでた。
おかげで、英会話だけはクラスの誰よりもできる。もちろん、先生よりもね。
その分、日本語に弱い。特に、方言で話されるとお手上げだね。
それにしても、帰国子女の転校生か…。どんな人かな…? 仲良くできたらいいな…?
そうだ! もしも日本語で困るようなら、僕が通訳しよう。そしたら、それをきっかけに仲良くできるよね?
☆
冬休み最後の日、僕は転校生の夢を見た。
夢の中の転校生は、たどたどしい日本語で自己紹介を始めた。
「えーート、アたしわ、xxxxxxデす」
クラスの何人かは笑いをこらえてる。これ、話してる本人には、結構ダメージなんだよね。
見かねた僕が助け舟を出す。
「Miss xxxxxx, I'll translate for you, so please introduce yourself in English.」
(xxxxxxさん、僕が通訳するから英語で自己紹介して)
彼女は、ほっとした顔で。
「Please and thank you.」
(ありがとう、おねがいするわ)
こうして、僕は転校生と仲良くなれた。夢の中で、だけどね。
☆
始業式の日、クラスはざわついてた。
先生の隣には、活発そうな女の子が立ってる。
僕は、夢が現実になることを期待しながら先生の言葉を待った。
「えー、今日からこのクラスに入るノナカ ユメさん。アメリカ生まれでアメリカ育ちだ。みんな、仲良くするように」
転校生はノナカさんというのか。あ、細かいことだけど、どんな漢字か分かるまで、名前はカタカナ表記だよ。
先生の言葉は続く。
「じゃあノナカさん、自己紹介して。…えっと、ミス、ノナァカ、プリィーズ、イントロデュ~ス、ヨォウアスゥェルフ」
先生の英語、相変わらずだなぁ。何回聞いても吹き出しそうになっちゃうよ。
事前に打ち合わせしていたんだろう。ノナカさんは軽く頷き、一歩前に出た。
「Hello everyone, my name is Yume Nonaka.」
さすがネイティブスピーカー。発音に日本人らしさが全然ない。
でも、それは逆に日本語が不自由だってことで、バイリンガルな僕の出番は確定なわけで…。
ん!? ノナカさん、黒板に向かったぞ。あ、チョークを持った。これは、自分の名前を書く流れだよね…。
カキカキ、カキカキ
……えっ!?
僕たちに向き直った彼女の後ろの黒板には、きれいな字で「野中結愛」と縦書きされていた。
彼女はにっこり微笑むと、
「クラスの皆さん、初めまして。 野中結愛です。仲良くしてくださいね」
と僕なんかより上手な日本語であいさつ。そしてウインク。
「「「うおぉぉぉぉぉっ!!!」」」
僕以外の男子全員が雄叫びを上げ、僕のささやかな夢は叶うことなく終わった……。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
最初は真ん中パート無しで投稿しようと考えていましたが、思いとどまりました。
(無くても「ゆめのなか」の話になってますが、テーマから外れますので)




