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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
王都編

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第38話 宿

 王前闘技大会に出場する領の合計は15になり、今回の大会に集まる選手団は、王都を8つに分けた区画に、それぞれ2つの領(一区画だけ一領)が割り当てられ、アルトレーネ領はエイル達が散策していた東南区に宿が手配されていた。


 オフィーリアの案内で宿に辿り着き、フロントに預けられた荷物を部屋へ運ぶ。旅慣れしているオフィーリアの荷物は必要最低限に纏められているのだが、ベルとミーアは余計な着替えが多く無駄に嵩張り、スズの荷物は愛用の工具箱が重い。イリシュは荷物こそ少ないものの、アレクスの父に作って貰ったサッカーボール大の小型祭壇を持ち込んでいた。


 エイルとアレクスで順に荷物を運び、エイルは最後にベルの部屋へ荷物を降ろし、扉を閉めた。

「すごい······大きい寝台!」

「ああ、これならゆったりと眠れるな」

 そのダブルサイズのベッドは部屋の真ん中に堂々と佇んでいる。水回りは無く、他に設置されている家具は、荷物を広げる為の机とその隣に鏡台が置かれているくらいだ。

 机やベッドには当たり前の様に高級感のある彫刻が施され、取手や飾り金具には贅沢に銅が使用されピカピカに磨かれ光沢を放っている。

 寝具の質や部屋の快適性は日本のビジネスホテルの方が格段に上だが、その空間に居るだけで自分が王にでもなったかの様な気分になれるのは、ビジネスホテルでは味わえない感覚だ。

「広過ぎて勿体無いですね······一人だと」

「そうだな、ルカ───」


 ───コン、コン

 暇を飽かしていると部屋のドアがノックされ、エイルが顔を出すとドアの向こうにはキャロルが立っていた。

「お二人でいらっしゃいましたか。夕食の準備が整ったとの連絡がありましたので、大広間へ移動して下さい」

 ベルの部屋にエイルが居る───察しの良いキャロルは余計な詮索をせず、要件だけ告げると次の部屋へ向かって行った。



 食事会場の大広間には、質の良い机と椅子は当然の事ながら、高級感の有る品々で飾り付けられ、各個室と違い監視の目もある為か、銀製の装飾品まで飾り付けられている。

「皆んな揃ったかな? 早目に来て良かったね。今日は私達の貸し切りの様だよ」

 同じ宿に泊まる他の領の選手団は明日到着する。なので今夜はアルトレーネ領の貸し切りで、明日からは全25部屋の宿がほぼ埋まり、大広間も2つの領の選手団で賑やかになることだろう。


「王都は広いだろう? 私も初めて来たときは驚いたものさ。何か気になる事はあったかな?」

 デュオセオスはアレクス達に王都の感想を聞いてみるが、そのアレクス達は見たことも無い料理に夢中でそれどころではなかった。


「───そうですね。デュオセオスさん、この魚もそうですけど、かなりの大型魚も流通しているんですね。これは海の魚でしょうか?」

 エイルは、ベルがフォークで突こうとしている魚料理を見て質問した。

 パリパリに焼き上げられた皮は香ばしい香りを立て、フォークで身を割れば脂が染み出して食欲を唆る。口に運べばホロッと崩れ、淡白な味に焦げの苦味がアクセントを付け、添えられた柑橘類のフレーバーが後味をスッキリさせる。

 多めの脂も柑橘類の果汁でさっぱりと頂け、ベルは目を丸くして喜んでいた。


「そうだね、この魚は海に面した西側の領で取れるんだ。フリーディア様の母君の故郷でもあるんだよ。トルレナではまだ出回っていないね、取り寄せようか?」

「そうですね、冬場に欲しいですね(鍋の具に使えそうだ!)」

「冬場に······? まあ、良いや。魚の市場も有るから見学をしてみると良いよ。他には有るかな?」


「この串焼きはヤギですね。味付けは塩だけですか? 甘味も感じる様な······美味しいですね」

 エイルはアレクスが夢中でがっついている串焼きを見て質問した。

 見た目は屋台に売ってそうな串焼きそのもので、少しクセの有る匂いの肉が一口大に切られ、串に3つ刺さっている。ヤギ肉はアルトレーネ領でも食卓に並ぶのは珍しい事ではない。食べ慣れた食材の筈なのだが、若者達は夢中に頬張っていた。


「これは給仕に聞いたほうが良さそうだね。───良いかな?」

 デュオセオスが給仕達に手招きすると、翅の魔人種の給仕が料理の説明を始めた。

「これは臭味の少ないヤギの子供の肉を、ドワーフの国の特産品である岩塩を板状に加工した物の上で焼いたお料理になります。

 岩塩はドワーフの国では命の結晶と表現されております。実は私、岩塩の欠片を口にしたことが有るのですが、先の表現通りの身体に染み渡る感覚と複雑な味わいで、お恥ずかしい話ですが、また1つ2つと、欠片を運ぶ手が止まらなくなってしまいました。岩塩板を交易品として流して下さるドワーフの国には感謝が止まりません。

 その岩塩の上で焼かれたお肉は、岩塩から程よい塩加減と凝縮された味わいが足され、簡単ながらもご満足戴けるお料理に仕上っております」

 給仕はドワーフのスズが居ることから、しっかりとドワーフを持ち上げつつ、ユーモアも交えて料理の説明をした。食いしん坊で有名な翅の魔人種からそんな説明をされると、美味しい料理が更に美味しく感じ、アレクスはお替りを要求していた。


「スズちゃん、アルミナさんは岩塩を使った料理をするのかな?」

「えーと······聞いたことが無いです。私はトルレナで生まれて、ずっとトルレナに居ましたから······ドワーフの国の事も良く知りません」

 エイルがスズに尋ねると、スズは困った顔をして答えた。タングもアルミナも、そもそもドワーフは全般的に性格が大雑把だ。仕事の説明も「見て覚えろ」くらいなものなので、わざわざ苦労して母国の食材を手に入れるのを面倒臭がる、娘に母国の話をしない、なんて事は十分に有り得る話だった。


「デュオセオス様、お父さんから王都のドワーフ自治区を尋ねる様に言われてて、クロムちゃんにも会いに行きたいんですけど······ドワーフ自治区って何処ですか?」

「やっと料理以外の話だね。やっぱりタングさんからは聞いて無いんだね······ドワーフ自治区は北区に有るよ。北区の中腹くらいかな? 音を聞いていれば分かると思うよ、日中は鉄を打つ音が響いているからね」

 ようやくお遣いの目的地の目処が立ったスズは、大勢の同族が赤熱した鉄を打つ姿と、火花を弾けさせる音と、鼻をくすぐる焼けた油の匂いを想像して悦に浸った。


「エルフの自治区は無いのですか?」

 イリシュが琥珀色に澄んだスープが入っていた器を机に置き、デュオセオスに聞いた。

「エルフはね······エルフの国とは国交が無いから、王国としてはそこまで配慮する必要が無いんだよ。エヴィメリア王家は、我が国へやって来たエルフが我が国で生きていける基盤は作ってある。

 彼女の様に基盤に乗れなかった暗部も有るけど、しっかり働けば並の生活は出来ることは、君もそうだし、今日も街で見て来たんじゃないかな」

「······感謝します」

 イリシュは領土を賭けた殺し合いを忘れ、新しい仲間と笑い合っている自分とオリビーを思い浮かべた。今日見た王都でもそうだ。見かけたのは3人程度だったが店に立っていた純血も混血も、皆それぞれが笑顔で働いていた。混血は流暢なエヴィメリア語を話していた事から、この地で生まれ育ったのかも知れ無い。

 まだ奴隷の首輪が外れていない者も居たが、この国の制度上、不自由であっても不条理ではない。敵と見るや、情けの一つも掛けなかった自分と比べ、圧倒的に情に厚い国策であった。それでもやはり、ほんの少しだけ、イリシュはドワーフの優遇を妬ましく思った。


「さて、大会まで後5日だけど、皆の友人も明日くらいから王都入りすると思う。皆で王都を存分に楽しんでくれて構わないけど、明後日の夜は第三王子夫妻と会食になるから予定を開けておいておくれ」

「え? ちょっと···今なんて?」

「だ、第三王······子?」

「夫妻······?」

 夕食の閉めにデュオセオスが何やら重大な事を告げ、この日の夕食会は解散することになった。

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