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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
王都編

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第34話 トラブル

 ヘリオの自室にベコベコにへこんだ2つの鋼鉄の盾が飾られるようになってから数日、領主の館の前には選手のエイル達5人と、主将のデュオセオスと補佐のキャロル、整備士のスズ、相談役のオフィーリア、医療担当で医者の先生が一人。そしてそれら選手団を見送る者達が大勢集まっていた。

 エイル達は住民達にアルトレーネ領の優勝を誓い、二台の馬車に分乗すると、多くの声援の後押しを受け、王都へ向けて馬車を走らせた。



 ガラガラ───ガタガタ───と、なんとも乗り心地の悪そうな音を立て、幌にアルトレーネの家紋を刺繍した二台の馬車が、ハーゼル領を抜けてノーティアナト環状道から王都への街道を走っている。


「酷い乗り心地、腰が痛くなってきた······椅子が柔らかいからなんとか乗れてるけど、こんなものだったなんて」

「こんなものでも長距離移動には欠かせないのよ? 慣れればこんなものでもそれなりに休めるわ」

 一台の馬車の客車には、今話をしたベルとオフィーリア、それとミーアとイリシュとスズが乗っていた。


「あら? スズちゃん、馬車止めましょうか」

 スズのちょっとした異変に気付いたオフィーリアが声を掛けると、スズはもじもじしながら頷いた。

「御者さん、綺麗なお花を見つけました」

 程無くして馬車は停車し、スズは一人森の中へ入って行った。


「あれ? スズちゃんは、おしっこか?」

「「お花摘みです!!!」」

 馬車から降りて開口一番気の利かない発言をするアレクスに、女性陣から直ぐに訂正が入った。

「お、お花·····お花摘みは一人じゃ危ないんじゃないか? ベルとミーア、イリシュも連れお花摘みだっただろ?」

「アレクスお前······後でお説教だ」

 アレクスにはもう何も発言させまいと、エイルはアレクスにヘッドロックをかけて脇に抱えた。


 用を足している時間は老若男女、人も獣も関係無く無防備を晒す事になる。服を着込んだ人類は尚更だ。

 冒険者をやっていれば、「羞恥心など命には替えられない」と誰かを見張りに付けるのは当たり前になり、そこまで気にしなくなる。ただ、スズは普通の女の子であり、羞恥心の方が上回っていた。


 エイルとビオンの感による索敵にも、ベルとオフィーリアの魔法の索敵にも何も引っ掛からず、安全だと思って行かせていたのだが───

「ウゥゥ───ッ!」

 ビオンが突然唸り声を上げ、エイルも森の中からゆっくりと迫る何者かの気配を感じ取った。

(ビオンが唸る?······スズちゃんじゃない!)

 その場の全員がそう感じ取り、直ぐに領主の次男であるデュオセオスの壁になった。


「はいはーい! 手荒な真似はやめてね〜。金目のもの出してよ。このドワーフの子まだシてないのよ? 下衣汚す前にさっさと出してよね~」

「ごめんなさい······ごめんなさい······」

 角山犬に跨がるのは、黒地に鼻と手足が白の体毛の盗賊風の獣人の女。その女の前には、首にナイフを当てられて涙を浮かべているスズの姿があった。

(あ、あの女、あの時の······)

 エイルには心当たりが有った。春先に会ったエプリーという名の女盗賊だ。


 恐喝───それは殺人や誘拐等と違って国防軍が本気になる重罪では無く、やられた側も立場が高い者や強さに自身が有る者程言い出しづらくなり、盗賊が生計を立てる常套手段の一つになっていた。

「私の手元に有り、直ぐに渡せるのは金貨二枚、20万リィンだ。馬車の中には使い勝手の良い細かい額の硬貨が有るが、嵩張るだろう? それに王への貢ぎ物も有る。それに手を付けて、国防軍に全力で追い回されたくはないだろう?」


 デュオセオスは懐から金貨を二枚取り出すと、エプリーに提示した。人や馬車への危害と金銭の交換が目的だとが分かっていれば、やられる側も捨て金を用意して穏便に帰って頂く手段を取ることが出来る。

「······いいね! 金貨二枚、悪くないよ! そうだ、そこの頭の悪そうな鳥女、アンタが持って来てよ!」

 指を差されたミーアはオフィーリアの顔を見た。オフィーリアは「私じゃない」と憐れみの目で首を横に振った。

「私、頭悪くないよぅ······」


 ミーアはデュオセオスから金貨を二枚を受け取ると、中々手に取る機会の無いそれに生唾を飲み、エプリーのところへ近付いて行く。

「スズちゃんを放してよー」

「同時に交換。盗賊稼業は信頼が命、約束は破らないの。はやくぅ、フルールの背中汚しゃぶッ!!」

「私頭悪く無いよ!」

 ミーアは間合いに入るなり、ナイフを掴み取り渾身のストレートをエプリーの顎に叩き込んだ。

 鋭い踏み込みにエプリーは一切反応が出来ず、手に入れた20万リィンで何をしようかな〜と、幸せな表情で地面に転がった。



「うぅん───むにゃむにゃ······いたっ! 痛い! え!? 痛たた!───ぺッ! うわっ歯ぁ折れてる! 痛た! ちょっ、痛た! 石投げんな!」

 何かがぶつかる感覚で目を覚ましたエプリー。それはスズとミーアが投げ付けていた小枝や小石だった。


「さて、目を覚ましたところ早速だけど、君の身柄はこのまま王都の国防軍へ突き出させていただくよ」

「え〜それは勘弁してほしいですぅ」

 盗賊女エプリーは自分の置かれた状況を確認した。両手は後ろ手に縛られており、そこから伸びる縄の端は、何処かで見たことの有るガタイの良い男が握っている。

 相棒の角山犬のフルールは、少し離れたところで剣を持った男と女、それとこの辺りでは見ない二本角の山犬型魔獣に見張られている。女は左脚の膝から先が変な板になっており、顔の右側に垂れる金髪の横髪と尖った耳からエルフだと分かった。

 目の前には小石や小枝を拾っているドワーフ女とバカ女、小石や小枝というところが何とも可愛らしい。その隣にはさっきカネを出した身成の良い男が立っていて、傍らに侍女らしき女を従えている。

 その男はこの中で一番位の高い人物なのは一目瞭然で、情報通りならアルトレーネ領主家の次男だろう。


「貴方、デュオセオス·アルトレーネかしら?」

「如何にも。それにしても、賊風情に筒抜けか······極秘では無いにせよ、国防軍はずさんだなあ」

「国防軍はしっかりやってるわよ? 賊風情の情報網を舐めてはいけないわ───フフン、そこで取り引きなんだけど、そこの小っこいのはドワーフよね? あっちのカワイイ髪飾りを着けた金髪はエルフでしょ? 良い情報があるの。それと私の開放を交換してくれないかしらん?」

 エプリーは得意気に構えて、デュオセオスを見上げた。スズは何故か出た『ドワーフ』の単語に気を取られ、イリシュは『カワイイ髪飾り』と聞いて、少しだけ耳を傾けた。


 至って冷静に盗賊女を見下ろしているデュオセオスは、少し間を開けてから口を開いた。

「その情報とやらが、私達にどう有益なのか知らないが、そもそも信憑性は保証出来るのか?」

「有益かどうかなんて聞いてから判断すれば? 信憑性だって、あんた等が信じるかどうかでしょ?

 私は信頼が命だって言ったわよね。カネとドワーフを交換だって言ったのに、行き成りぶん殴って縛り上げるあんた等より、私の言葉の方が信頼出来ると思うけど?」


「そうか───そうだな。取り敢えず聞いてみようか」

「ああそうだ。話して上げても良いけど、先ずはそこの頭の悪い鳥女が自分の頭の悪さを認めてからね。だって信用出来ねぇもん! 約束守れねぇバカが! “私はバカです、もうしません”って言えたら行方不明者の話してやるよ!」


(性格悪いなコイツ······それよりも、なんかサラッと行方不明とか言ったな)

 エイルと同様に全員がエプリーの性格の悪さを認識し、それと行方不明者という言葉に意識が向いた。縄を掛けられ、身柄を握られているのはエプリーだが、話の主導権を握る事に成功したのだった。



「わ、私は、バ、バカです······もうしません」

「あーひゃっひゃっひゃ! いっひっひ! うひゃーはっは! えふっえふっオェェッ!······バーカ」

 皆から懇願するような目を向けられ、ミーアは要求通りの言葉を述べて、笑い転げ満足したエプリーに小バカにされ、悔しさのあまり天を仰いだ。


「さて、そのくらいで良いだろう? 君の話を聞こう」

「さてさて、何から話しましょうか? そうねぇ───“今日、アルトレーネ領から闘技大会に参加する選手団が出発する”その情報を貰った情報屋と同じ情報屋からの商談。『エルフの女とドワーフの女を隣国へ売り飛ばす、その前に欲しければ売ってやる』その期限が昨日、サングロリア王国へは今日出発。どう、良い情報でしょ?」

 同族を売る、その言葉に顔をしかめるイリシュとスズ。エイル達庶民にも胸糞悪い話だったが、デュオセオスは青ざめ、キャロルも深刻な表情を浮かべていた。


「デュオセオス様、これは······この話は信じて良いのでしょうか?」

「盗賊は信頼が命か······これは、かなり不味いぞ。“エヴィメリア王国からドワーフを買った”そんな事はあってはならない事だ」

 王都にはドワーフ自治区(エヴィメリア王国としては保護区だが)という、ドワーフが主権を持つ区画が有る。そこではドワーフの製鉄鍛造技術の見返りとして、ドワーフによる主権が保証され、国防軍によって保護されている。

 エヴィメリア国王は“自治区内だけ”なんてケチな事は言わず、王都内においてはドワーフの身の安全は保証しており、王都のならず者達にも“ドワーフに手を出すのはは不味い”という認識が浸透していた。


 しかし今現在、国防軍の調査が入り、行方不明が音も葉も無い噂でなく事実とされ、それが隣国で発見から保護される───そんな事が起これば、その主犯がならず者共だろうが、国家間の信頼を失うには十分過ぎる事態だった。


「場所は? どこに居る? どこを通る? 知っているのか!」

「知ってる───どうする?」

「エルフとドワーフ······君が話すようにその二人を助ける事ができた場合、君の身柄を解放する」

「貴方は約束出来る? デュオセオスさん。私は“貴方に情報提供した”なんて他に言わないわ。貴方も“捉えた盗賊から情報を得て解放しました”なんて言えないわよね? 盗賊は信頼が命よ」


「約束しよう。行方不明になっているエルフとドワーフを救うことが出来たならば、君の「エプリー、私はエプリーよ」───盗賊エプリーの身柄を開放することを約束する」

「私の身柄を解放する。その条件に、デュオセオス·アルトレーネが、行方不明のエルフとドワーフの救出を完遂出来るよう情報提供することを約束するわ」


 二人が約束を交わすと、エイル達はエプリーを馬車に乗せ、彼女の案内で急ぎ馬車を走らせるのだった。

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