第33話 悪の暗躍③
ここは絢爛豪華な調度品が並ぶあの応接室───。そこにはあの5人の姿が見られる。
「毎度、ありがとうございます」
部屋の奥側に座るのは、痩せと太っちょの二人組みの行商人の男。その痩せの方が、前払金として受け取った金の延べ棒を愛おしそうに撫でながら言った。
「それで1割だね。モノが全部運び込まれて5割、残りの4割は成功してからで······それで間違いなかったね?」
部屋の手前側に座るのは、上流階級に属する若い男と女。その男の方が背中の皮膜翼を畳んだまま、代金の支払い方法の確認を取った。
「ええ、間違いありません。毎度毎度」
痩せ細った獣尾の魔人種の行商人は、嬉しそうに手を揉み、痩せ細った尻尾を嬉しそうに振っている。
「───1600万リィン······本当にそれだけの価値は有るんでしょうね?」
額に一本角を生やした女は、行商人の手に渡った一本80万リィン相当の金の延べ棒に物惜しそうな鋭い視線を向けた。
「はっはっは! 複数のAランクパーティーが、万全の準備を整えて討伐するような奴も入ってますよ! それに新商品の試験も兼ねて、安価で提供させて頂いております。安い安い! で御座います」
背中の翅に黄金色を映した太っちょの翅の魔人種の男は、延べ棒に刻印されたエヴィメリアの国章を爪でカリカリ引っ掻きながらそう言った。
「はっ! 全く笑っちまうなァ商人さんよ! 道中気を付けねえとな!」
そんな物騒な事を言ったのは、蛇の様な尻尾をしならせ、入口付近の壁に背を預けた如何にもな人相の蛇尾の魔人種の男だ。
「おやおや、それは心配していただきありがとうございます。是非お仲間に伝えて頂き、間違っても私共を襲わないように、宜しく頼みますよ」
痩せの男はズシっと重たい袋を机に置き、人相の悪い男の方へ送くり、人相の悪い男は寄せられた袋を取り上げ中を覗いた。
「へっへっへ、これならずっと安心だ」
ジャラジャラと袋に詰まった日常で使いやすい銀の小判と銅の大判に、人相の悪い男の口角と尻尾は自ずからねっとりと上がってしまう。
「事が上手く運べば、もっと大きな金を動かす事が出来るようになる。諸兄とは長い付き合いになるだろうから、仲良くしてくれ給え」
「いえいえ、こちらこそ今後ともご贔屓に」
「クククッ! 皆悪い顔してやがる。人のカネを何だと思ってるんだか」
「私はあの女を身も心もメチャクチャにして、惨めに泣き叫ぶ顔を踏み付けて、蹴飛ばして、私がどれ程の屈辱を味わったか思い知らせてやれれば満足ですわ」
「クククッ! 怖いねぇ、男を寝取られた腹いせか?───おお、怖い怖い。そんなに睨まないでくれ」
何処かの地下の一室で、暖色の光源が5つの悪の魔を照らし出す。何かの私怨を発端に、利害を共有する者達は集まり、謀り、大事をなそうと画策していた。




