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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
王都編

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第32話 大会に向けて

また、ちょっと長いです。

 選考会決勝はベルの騙し討ちでエイルが呆気なく敗れ、清々しい程に綺麗に騙したベルは称賛され、只々間抜けを晒したエイルが顰蹙(ひんしゅく)を買って幕を閉じた。


 後日、王都から派遣されてきた兵士が改善要求などを集めて持ち帰り、協議の末ルールが若干改正された。

 鎧、兜、手甲等、防具を着けた箇所への攻撃は、攻撃の重さは考慮せず二度目で死亡または負傷の扱いになった。これは鎧の様な体毛を持つ魔獣の胴体にも適応される。


 試合に出場出来る魔獣使いの人数が、各チーム一人までに限定された。これは他の領地でチーム全員魔獣使いで、6対3の闘いが発生したことが原因だった。補欠を入れて3人まで魔獣使いの登録はでき、相手に合わせて出場させる魔獣を選ぶ事は出来る。

 騎士の扱いも、人と魔獣でセットの扱いだったが、魔獣が死亡した場合は人が残れる様になった。その逆は細かな制御が出来なくなるので、安全面を考慮し、魔獣だけが残る事は引き続き無しだ。


 人種の制限も設けられ、ハーフを含むエルフは一人までと決められた。エルフは戦力的には魅力ではあるが、自国民では無く、エルフばかり見せられても国王は面白く無いだろうからだ。

 ドワーフの方は制限無しだ。ドワーフの国とは友好な関係を築いていて、ドワーフの製鉄鍛造技術とドワーフから見れば巨人に当たる労働力を交換している。国としては国内で快活に活躍するドワーフの姿をドワーフの国賓に見せ付けたいところだが、冒険者をやっている物好きなドワーフが国内には一人だけなので、単純に制限の必要が無いだけだ。

  

 アルトレーネ領からはエイル達の格闘技、それによる身体強化の事も報告された。格闘技に関しては「素手なんて不利なだけでしょ? 武器を使う使わないは個人の問題だから好きにしろ」という判断が出され、一応そういうイカれた奴も居ると周知はされた。

 気による身体強化は話してもピンと来ず、「人が人をふっ飛ばすなど信じられん」と声が上がった。

 打撃は鎚で打つようなもの、肉体は鋼の如き強度、そんな事を信じるものは居らず、大会を見て判断しようとなった。


 シュナの「平地じゃティムが活躍出来なかった! 森林を再現してよ!」という主張は、死角が出来てしまい判定と警備に支障をきたす事と、何より王族、国賓に観られる大会であり、視界が開けていたほうが好ましいということで残念ながら叶わなかった。

 


 アルトレーネ領からの選手の選抜は、無難に優勝準優勝の中から行われた。アンナは子供と旦那を置いていくのが嫌だと辞退したので、実質的にアレクスのパーティーがアルトレーネ領の選手として王都の大会へ向かうことになった。

 第三王女フリーディアの手前、エイルを選ばない訳にはいかない領の上層部としては、無難な結果になり安堵する事が出来た。


 選手団を纏めるのは、領主家次男のデュオセオス。その補佐にメイドのキャロルが同行する事になった。

「キャロル、エイルさん達の準備は順調かな?」

「はい。皆様、本戦に向けて稽古を積んでいらっしゃいます。ミーアさんも、今日も仕事を休んで闘い方の指導を受けております」

「そうか、ミーアは休みか······それは淋しいな。ミーアが館で働くようになって、館が明るくなった気がするよ」

「あら? 以前はそんなに陰鬱でしたでしょうか?」

「以前より君の笑顔を見る機会が増えて嬉しいということだよ」

 少しばかり照れ臭くなったキャロルは、火照った顔を隠す為、そそくさと温かいお茶を淹れに厨房へ向かった。



 ギルドの魔法訓練場にはミーアとシュナとフォス、それにファルとフェザが集まっていた。

「私もビオンと魔法を搦めて闘いたいよ。だからシュナとフォスさんには、魔法の上手な使い方を教えて欲しいんだよー!」

「ミアは細かい事苦手そうだけど、教えてあげるよ! おまかせ〜」

「ビオン君に何を持たせるかだけど、ビオン君は角が二本有るのよね? どうせ被せ物を着けるから、角に着けてしまうのが良いわね」

 シュナとフォスは、ビオンに持たせる魔法の媒介(アクセサリー)を何にするかを話し合っている。


「ファルさんには、鳥人の接近戦を教えて欲しいよ」

「エイルのところで鍛えられているだろうから、俺が教えられることは少ないかもな。俺が教えられるのは剣になるけど、大丈夫か?」

 ファルはミーアに剣を教え。

「···あ、あれ? 私は······暇?」

 フェザは暇を持て余した。



 町の外ではビオンのところへ魔獣達が集まっていた。平地ではビオンと体格差のないティムが通常戦を、マブロが対空戦を、リッキーが対大型戦を、そしてミヤビが対幻術戦を指導していた。今も何も無い空間に一生懸命攻撃を仕掛けるビオンの首に、ミヤビがそっと甘噛みをしたところだ。



 森の中では、イリシュとオリビーが模擬戦を繰り広げていた。闘いは接近戦に移り、鍔迫り合いで力負けしたイリシュが尻餅をついたところで一段落となった。

『ハアッ! ハッ! ハアッ!───長期戦は···体力が······持たないな。ハアッ! ハアッ!······熱も籠もって、頭がぼうっとする』

 イリシュは服を捲って、少しでも早く体温を冷やそうとパタパタと仰いでいる。

『······酷い火傷ですね。直ぐに冷えた手拭いを用意致しますイリシュ様』

 オリビーは持って来た籠の中からタオルを一枚取り出し、氷の魔法で冷やしてイリシュの首の後ろに当てた。

『ひゃあ! フフ、気持ち良い。ありがとうオリビー。それと、気安く呼んでくれと言っているだろう?一時期一緒に奴隷をやっていた仲なんだから』


 オリビーは次のタオルを取り出し、氷の魔法で冷やしながら、少し物哀しい表情で話した。

『何処の誰とも知れない人を父に持つ私は、エルフの中で最下級です。それが経緯はどうあれ、純血統の、それも戦士長だった方の名を気安く呼ぶなど出来ません。

 それに私は、イリシュ様が同じキャラバン隊に居た事に気が付かず、介抱も出来ずに、イリシュ様に辛い思いをさせてしまいました』


 イリシュはオリビーが差し出したタオルを、どこか遠い目で受け取った。

『エルフの戦士長······そんな誇りはもうあの地に捨てて来た。私は死にたく無い一心で奴隷商に助けを求めたのだからな。

 そこからは薬で意識が朦朧として、痛みも何も分からなかった。薬が切れて意識も痛みも···全て思い出したとき、キールが優しく抱いてくれていた』

 イリシュはキールからの贈り物の髪飾りを、愛おしそうに撫でながら話した。


『はい、彼は勇敢で優しい方でした。アドルとビビアが店をやっていられるのも、彼が···彼とガルルが助けに入ったからです。丁度その時使用していた槍の穂先は、今イリシュ様と共にあります』

『それは初耳だ。オリビー、キールのその話を聞かせてくれないか?』

 イリシュはキールの愛槍を打ち直した短剣を抜き、その磨かれた刃に自分とその傍らにキールの笑みを写し、オリビーの話に耳を傾けた。



 アレクスはオルフに指導を受けながらアーロイ武具店に通い、新しい武器を開発している。アレクスとスズが工房に入り、店ではオルフとアーロイ夫妻がお茶を嗜んでいた。

「オルフ、お前が先生か? 女遊び以外に教えられる事があったか?」

「馬鹿言っちゃいけねぇぜ! アレクスに必要なのは女だぜ? あいつは女を知れば一気に強くなるさ」

「あらあら、女の子の口説き方だけ教えて上げて頂戴ね」

「任せときな、直ぐに孫の顔見せてやるからよ!」

「ガハハハ! ちったあ遠慮して物言え!」


 一方、工房の二人は───

「アレクスさん、私が良いところに動かすので、アレクスさんは思いっ切り打ち付けて下さい」

「ああ、分かった。スズちゃん······じゃあ、行くよ!」

 カンッ!───カンッ!───

アレクスが高く振り上げた鎚を振り下ろし、スズが赤熱した鋼を狙った打撃点に移動させる。鎚が鋼を叩く度に、不純物が火花となって飛び散って鍛えられていく。数日前から始めた共同作業はもう板について、二人の相性の良さを物語っている様だった。


「スズちゃん。デュオセオスさんから、同行者を誰か一人選んで良いって言われたんだ。スズちゃん、良かったら一緒に王都に行かないか?」

「え!? 私で良いんですか?」

「うん、スズちゃんなら木製の武器の手入れも出来るし、ベル達もスズちゃんが居れば喜ぶと思って」

「え···木の扱いなら、アレクスさんのお父さんの方がお上手かと思いますよ?」

「そうか、親父かあ······しょうが無「行きます!  私武器のお手入れを手伝いに付いていきます!」良かったあ、俺スズちゃんと一緒に王都を見たかったんだ! 嬉しいよ!」

「ははは······(それを先に言ってください!)」



 エイルとベルは、エイルは実家の田んぼで筋トレと称し代掻きを、ベルはヘリオの実家でエイルの両親やご近所さんと田植えの手伝いをしていた。トラクター等無いこの世界では、近所の家畜を総動員して順番に代掻きを進め、ご近所総動員で順番に田植えを行っている。その中にはアンドレとキネカ、それと元Aランクパーティーの、ヘリオとオフィーリアの姿もあった。


 オフィーリアは他の鳥人種の見様見真似で翼で苗を抱え、片脚で立ち、もう片方の足で苗を取り、列を蛇行させながら植えていく。

「私、ベルカノールさんの特訓に来たはずなのに、何でお田植えのお手伝いをしているのかしら? ああっ! 羽に泥が跳ねてしまったわ!」

「オフはお嬢様が板に付いちまったからな! こういう仕事に慣れとけば相手の幅が広がるかもよ!」

「フン! 大きなお世話ですよヘリオ!」

 オフィーリアは右隣りのヘリオの向こうで、無駄にイチャイチャしながらも慣れた手付きで整然と一直線に苗を植える一組のバカップルを視界から外し、左隣りのベルに話し掛けた。

「───ベルカノールさん、魔法使いの強さ······というか、まあ、大体そんな感じのそれは、殆ど才能次第のところがあります。大魔法は、まだでしたね?」

「はい! 大魔法はまだ使えません」

「でしたら、大魔法を創りましょう。それだけで大丈夫です」

「え? でも、大会では大魔法禁止になっていますよ?」

「大魔法は魔法使いそれぞれの到達点の様なものです。大魔法は自分の才能を形にした様なもので、そこに達するということは、自分の才能を熟知して使いこなせているということです」

「私にも、出来るのでしょうか?」

「大丈夫です。ベルカノールさんなら直ぐにできます! もう直ぐに! さあ、それでは直ぐに特訓をしましょう! さあ行きましょう!」

 オフィーリアはベルの腕を引っ張って、田んぼから上がって行った。



 この日の作業も終わり、エイルとヘリオは夕焼け色に染まる随分と賑わうようになった町を、棚田から一望しながら話をしていた。

「世界を回ってみて分かったんだが、俺の『盾使い』もお前の『カクトーカ』と同じで他に例を見ない戦闘職だった」

「そうなのか? まあ、盾使いって何だ? ってところはあったからな」

 エイルはコスモスの様に放射状に花弁が開いた雑草を毟り取り、盾に見立ててヘリオに向けた。


「ああ、やってることは盾振り回してるだけだ。それで、この前の選考会を見て『盾使い』はお前由来じゃないかと思った」

「何でだ? 16以前は格闘家要素なんて無かったと思うぞ?」

「それ以前もたまにケンカしただろ? ケンカが上手いってのも変な言い方だけど、お前、なんかやたらと強かっただろ? 殴り方や蹴り方が綺麗だったというか······そんな感じだ」


 ヘリオはその辺に落ちていた丁度いい枝を拾い、エイルの盾を突付く。

「そうだったか?······無意識かな?」

「無意識かよ! 天啓の儀はそいつの才能を言い当てるって言われてるな。だからお前にはその才能があった。それで、俺はお前に殴られるうちに身の守り方の才能が芽生えたんじゃないかってな!」

「はっ! それで世界にはばたくAランクか! 俺も鼻が高いな!」

「何で鼻が高くなるんだ? まあ、そこでだ。大会の景気付けにいっちょやるか!」

 ヘリオはエイルのファイティングポーズの真似をして、ワン・ツーと拳を付き出した。


「ああ、良いね! ヘリオ、お前とやるのは何度目だっけ?」

「知らん。いちいち数えていない。取り敢えず俺が全勝だ」

「お前が盾を持つ様になってからな!」

 エイルは雑草の花を親指で弾き、ヘリオに向けて飛ばした。

「エイル、今のお前の力で俺を超えて行け!」

 飛んで来た花をキャッチし格好良く決めたと思ったヘリオは、得物が無い事に気付き全力で家まで走って行ったのだった。

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