第25話 誰と組む
王前闘技大会───その期日とルールが発表され、町はその話題で持ち切りとなっていた。開催日時は、次の満月から月が一巡り半したくらい。これは第三王子とエルミアーナの結婚式の2日前を予定し、他の領主や隣国からの賓客が集まる事から、前祝いの様な形で開催される次第になった。
王都中央区の宮殿前に広がる公園に会場が設営され、王宮を背に王族及び来賓の席、その向かいと両翼に各領の選手団と一般用の席が用意される。
出場選手は現役冒険者(冒険者証を持っている者)3名で、補欠を2人まで用意でき、試合は各領の代表15チームと、国防軍の1チームの16チームによるトーナメント戦で優勝を争うことになる。組み合わせは当日抽選によって決定することになっている。
試合においての重大な禁止事項は殺人であり、それに係るルールは、大きく3つに分けられている。
①武器は非殺傷性の物を使用すること。相手に接触する部分は木製と限定し、矢先は木球に布を厚く巻いたものを使用する。
②魔法の制限及び禁止。魔法は風弾のみ使用可とし、視認できる様に色をつけること。なお威力については、自身が生身で無理無く耐えられる程度に調整すること。
③魔獣による事故の責任。魔獣使いの責任において、魔獣同伴での出場を可とする。当然躾けが行き届いているものとし、魔獣が相手を殺傷した場合、その程度に準じた罰を主人に与える。
勝敗等、試合の判定は国防軍が行い、内容は5つの条目で記されている。
①魔獣を含む選手は、首に赤い襟巻きを着用すること。着用法は、試合前に運営が一針縫う事で着用する。これが武器、魔法、魔獣等の攻撃により外れた場合、首から上に重大な損傷を受けたものと判断し、該当する選手の敗北を宣言する。
②胴体に対して損傷が有ったと運営か被攻撃側が判断した場合、即死敗北を宣言する。
③四肢に対して損傷が有ったと運営か被攻撃側が判断した場合試合を中断し、その部位から先が使用できない様に添木を黄色の帯で巻き固定する。戦闘を中断出来無い場合は、損傷した事に配慮し試合を続行すること。
④魔法による損傷の判断は、風弾のみに使用が制限されているが、実際には殺傷力の高い魔法を使用しているものとして扱い、胴体への直撃は即死を宣言する。
⑤自己申告による敗北は、極力しない事を推奨する。魔獣のみが残った場合、魔獣使いが指示を出せない状況になるので、魔獣使いの責任において継続か敗北を判断する。
大まかなルールは以上の内容で、詳細は駐屯兵に問い合わせるようになっている。
選手団(選手5名と付き添いの者5名まで)に対しては、国費で滞在の補助が出されるとも記されていた。
羊皮紙の隣には領主家が発行した紙が貼られ、他へ出ている冒険者パーティーが居ないことから、選手の選考会を5日後に行い、同行者は選手と協議した上で決定すると書かれていた。
そして波紋を呼んだのは、選考会の内容だった。当日運営審判にあたる国防軍の練習の為、実際に三対三のトーナメントを行い、その試合内容から判断するというものだった。上位チームから選ばれないのは、『初戦が決勝戦だった』の事態も想定される為である。ただし、現金な領民の為にちゃんと優勝等の商品も用意されていた。
「俺達は元々3人パーティーだからな! 選手になったら王都に誰を連れて行くよ? ファルは勿論フェザだよな!」
「ははは、当然だ! フェザさんにも羽を伸ばしてもらいたいからな」
「(毎日羽伸ばしてるんじゃねーかな? 暇で)シュナはどうする?」
「私は···お母さん······お母さんを連れて行って良い?」
「病気で身体が弱っているって言っていたな。親孝行か、良いぜ。そろそろ挨拶もしないとだからな」
「オルフゥ!」
エイルはオルフ達を見かけたので、声を掛けようと思ったが止めておいた。
「僕達は選考会には出ないよ。人と戦うことに興味が無いからね」
「私達はBランクだから、王都に行こうと思えばいつでも行けるわ。美味しい料理を出す店を教えてあげるから、ベルちゃんと行ってくると良いわ」
「あ、ああ、ありがとう。でも、興味が無いって、一応領の威信がかかってるんだぞ?」
「「どうせ王女様から指名が入っているエイル(くん)が連携取りやすい人達で固めるでしょ?」」
アンドレとキネカはそもそも興味が無いようだった。
その日の夕飯時、食卓を囲んだエイル達は選考会に出場するメンバーを選んでいた。とは言っても、一時的にとはいえ、誰かを外さなければならないので、話は進まず食も進んでいなかった。
「私が抜けようか? 私は一番短いからな。それに私はエルフだ、ここの民が出場したほうが良いだろう?」
「イリシュは強いんだから出ないと駄目よ。私が一番足手まといになるから、私が抜けるのが良いと思う」
「いや、ベルは足手まといじゃないぞ。魔法による搦手は戦況を変えるし、この規則だと対魔獣で有利なのは魔法使いだ。ベルは外せないんじゃないか?」
「「······」」
少し話して、また長い沈黙が続く。中々話が進展しない中でずっと沈黙を保っていたアレクスが、その沈黙を破り思いの丈を語った。
「皆んな聞いてくれ。俺はあの貼り紙を見てから、皆んなと同じ様に考えていたんだ。でも、全然結論が出なくてずっと考えてた······。それで俺の考えは夕食の前には決まったんだ。皆んなの話を聞いていて、俺の考えは正しいと思えたんだ······」
エイル、ベル、イリシュの視線がアレクスに集中し、アレクスは全員の顔を見回してからエイルと視線を合わせた。
「エイルさん、俺はベルとイリシュと組んで選考会に出場したいです。今の話の中でも、エイルさんが出るのは決定事項で、エイルさんを抜くという提案が一つもなかった。俺達はエイルさんに頼りすぎているんです!
だから俺は、俺達はエイルさんに教えてもらったカクトーギの成果を、俺達の強さをエイルさんに見せないといけないんです!」
そう言ったアレクスは、エイルから視線を外さずに、エイルの口が動くのを待つ。
イリシュは亡き最愛の人の友人で、自分の弟の様に感じていたアレクスの成長を嬉しく思い、優しい視線をアレクスに向けていた。
ベルは少なからずアレクスと同じ様な意見は有るにはあったが、エイルと一緒に組めないのは嫌なので、すがる思いでエイルを見つめていた。
「アレクス······お前の気持ちは理解した。───選考会の日は良い勝負をしよう」
そして夜も更けて来た頃、エイルは自室に一人でいた。
(今日は来ないか······へそ曲げちゃったかな?)
冬場は「寒いから」と、エイルの布団に潜り込んでいたベルは、春になっても当たり前の様にエイルの隣に居た。それが今夜は居らず、エイルは一人寂しさを感じながら目を閉じた。
エイルが中々寝付けないでいると、廊下からペタペタと足音が聞こえ、慣れた手付きでそっと戸を開け閉めする音が聞こえ、布団の横まで足音が近付くと、足音の主はちょこんと布団の端に腰を下ろした。
「エイル起きてますね? 寝ているときはキを練れませんよ」
「ルカ、今日は来ないと思ってた」
エイルはベルの真名を呼ぶと、ベルの隣に並んで座り肩に手を回した───が、叩かれた。
「······来ないつもりだった。けど、寂しかった」
ベルはエイルの胴に腕を回し胸に頭を預け、呼吸を重ねた。
「俺も同じだ。寂しいと思ってた」
エイルはベルの髪を撫でた───が、振り払われた。
触れたいけれど触れられたくない、そんなどっち付かずのベルの心模様に、エイルは愛撫を諦め呼吸だけ合わせた。呼吸を1つにする───そんな事でも二人にとっては重要な愛の儀式だ。
「なんでアレクスの意見に賛成したの? エイルは私と一緒に組んでくれると思ってたのに」
「······アレクスの言うことは分かるけど、それはアレクスの問題で、ルカを巻き込む事はないと思った」
「······なら、どうして?」
「成果を見て、体感してみたくなった。俺が教えた事が······俺達がやってきたことが、どれ程のものなのかを」
「なにそれ? そんなの毎朝いつでもやればいい」
「······ごめん」
「エイル、今は許してあげる。でも選考会のときは許さない」
ベルは拳を握り、拳槌でエイルの胸を叩いた。
「ははは······それで良いさ。ルカ、君を大切に思ってる。俺は何処にも行かないよ」
ベルはのっそりと顔を上げて顎を少し突き出した。流石にそれはエイルの方からやってくれという事だろう。
エイルとベルは、何秒か何分か、はたまた何時間か───やがてベルの嫉妬心が解消し独占欲が満たされるまで唇を重ねていた。




