第15話 ふくよかであらせられます
王女がやって来た翌日の朝、この日は特に早起きする必要もないので、警備にあたる兵士以外の町は平常運転だった。エイル達もいつもの時間に、いつもの河原で稽古に打ち込んでいる。
稽古場へ向かう途中に、警備の兵に怪訝そうな目を向けられたが、向かう先が町の外だったのでそのまま見送られた。国防軍の角山犬も何体か寄って来たが、ビオンに吠えられると騒ぎになりそうだったので、空気を読んで離れて行った。
そして今は休憩の時間で、それぞれ話を始めていた。
「昨日のフォスさんは、“フリーディア様に声を掛けていただけた”ってそればっかりだったな」
「あれはそーなっるしょ?だって、ホントに声掛けられたのフォスさんだけだったしぃ、特別感半端無いっしょ!」
アレクスの友人のロックの言葉に、シュナが羨ましそうに答えた。
「ロックはスズちゃんの家の後、パナテスさん達と何かやったのか?」
「ああ、パーティーで集まって焼き肉をやったんだ! 丁度そこにミーアも合流して、最終的にはタカーマガハーラの冒険者と一緒に火を囲んでいたな」
アレクスとイリシュとロックは、式典解散後はアーロイ武具店までは一緒に行動していた。その後、アレクスとイリシュはアーロイ武具店にそのまま居座り、アルミナとスズが食材不足の中作ったドワーフ風料理を摘み、ロックは自分のパーティーに合流していた。
「そうだよ~、ベルを探しても見つからなかったから、ビオンと一緒にマブロの所へ行ったら皆で焼き肉をしていて、仲間に入れてもらったんだよ。私はまだフリーディア様を近くで見ていないから、皆が羨ましいよー」
「ごめんミーア。私達は一通り見て回ってから、ここで星を見ていたの。焼き肉はタカーマガハーラの人達も一緒だったの?」
エイルとベルは街で食べ歩きをした後、この稽古場に来て、星を眺めながら星結び(星座作り)で遊んでいた。
「それはビオンに探して貰わなくて正解だったよ。タカーマガハーラのパーティーの魔獣が、お肉の匂いに釣られてやって来て、それから一緒になったよ。ビオンとその魔獣、グローズルフクスのミヤビちゃんが、喧嘩しそうになってハラハラだったよ~」
「ミア······グロなんとかって何?」
「グローズルフクスだよ~。角山犬を細くして、小麦色の毛並みがきれいで、尻尾がもふもふなんだよー」
「もふもふ!?」
「何それ触りたい!ドイツドイツ!?ここから見える?」
シュナとベルとイリシュは、キョロキョロともふもふの尻尾を探し始めた。
「ミーア、あの魔獣か?······あれは尻尾がモフモフじゃないか」
「こっちには居ないよー、町の反対側じゃないかな?」
女性陣は魔獣の話を始め───
「タカーマガハーラのナーベっていう料理が美味かったんだよ!茶色の汁で、変な葉っぱで出汁を取っていてさ、なんていうか······ウマかったんだ!」
「よくわかんねーな。茶色の汁って何だよ、泥水か?」
「なあロック。その変な葉っぱって『昆布』とか言ってなかったか?あと、茶色い汁は『味噌』を溶いてるとか?」
「そっすそっす!葉っぱはコーブとか言ってましたよ。汁はミッソの汁だったか、確かにそんな感じの事を言っていました!」
「エイルさん、なんで知ってるんですか?お母さんはタカーマガハーラ人でしたっけ?」
「あー、ヘリオから聞いたんだよ。あいつ等最後はタカーマガハーラに行ってただろ?」
「そうでしたね。ところでヘリオさん達は今何をしてるんですか?」
「冒険者引退して、婚活してるぞ」
男性陣も食い物の話しをしてから、続きの稽古を始めた。
(タカーマガハーラ······多分、高天原だな。ヘリオが言ってたのは、タカーマガハーラで千年前に獣人と鳥人が生まれて、その時から国号をタカーマガハーラと名乗った───だったな。千年───平安京とか鎌倉幕府か······うーん、全然発展してないなこの世界)
エイルは考えた。この世界には何人くらいが、あっちの世界から来ているのだろか?少なくとも、エイルと千年前にタカーマガハーラの1人、それとギルドの創設に関わって、英語を伝えた1人が二百年前くらいに来ている。
タカーマガハーラの人物は、何かしらの方法で獣人と鳥人という亜人種を創り出した。ギルドの人物は、ギルドという組織、制度を、共通語としての英語と天啓の儀を広め、ギルド加盟国同士の友好に一役買っている。
(俺はこの世界に何か残せるかな?)
エイルは弟子に稽古をつけながら、そんなことを思っていた。
稽古が終われば女達は化粧のために足早に帰宅をし、残された男達は魔獣をかまっていた。
「よお、ティム。御主人様に置いて行かれちまったな」
「ナーゴ、ゴロロロ······」
アレクスに撫でられたティムは、シュナにあまり構って貰えなかった鬱憤を、アレクスに戯れつき晴らしている。
「マブロは、フォスさんがそもそもここに来てないからな。良かったな、置いて行かれなくて」
「ホゥッ」
「ははは、何言ってるか分からねえ!」
ロックに話しかけられたマブロは、意味はお互いに伝わっていないが、一声鳴いて返事を返した。
「まさかミーアまでビオンを置いて行くとは、女心は良く分からないな」
「ガウゥッ! ワフ!」
「ビオン、お前は置いて行かれて正解だったか!」
エイルとビオンは組手を始めていた。まだまだ子供で何にでも突っかかりたいビオンは、遊び相手に困っていた。ティムやマブロ、それに他の魔獣も嫌がって相手をしてくれないし、リッキーには軽くあしらわれるしで、全力を出しても平気で、適度に反撃もしてくれるエイルは、ビオンにとって最高の遊び相手だった。
それはエイルにとっても同じで、ビオンは攻撃力はまだまだ大型の魔獣には劣るが、気合いを乗せた体捌きで、スピードだけなら一流だ。容赦無く噛み付いてくるビオンのお陰で、金剛の強度も計ることが出来たし、多少強くぶっ叩いてもビオンも金剛で耐えてくれる。お互いに丁度良い好敵手になっていた。
ビオンも満足して一段落付いたところで、アレクスがエイルに話しかけた。
「エイルさん良いんですか、ベルを放っておいて」
「良いんだよ。化粧の最中に話しかけると怒られるし、帰ってから感想を言ってやれば大丈夫だ」
「うわあ、ベルってそんなことで怒るんだ。······なんであんなに一所懸命になってるんですかね?」
「だよなアレクス、俺も思った。化粧して見せ合ってさ、何がしたいのか良く分からねー」
「誰が始めたかは知らないけど、流行りなんじゃないかな?まあ、ベルも「面倒くさい」って言ってたし、その内丁度いいところに落ち着くんじゃないか?」
そろそろ帰ろうか、となって帰り支度をしていると、王女が宿泊しているホテルを眺めて、アレクスがポツリと言った。
「───なあ、ロック。フリーディア様ってさ······」
「な、何だよアレクス、そんなに勿体ぶって······」
「おっぱいデカいよな?」
「はあ?······あ、ああ! おおっ! デカいデカい! デカかった!」
「だよな! スゲーよな! まさに王女級だったぜ!」
「バカみてーだけど、いいなそれ! 王女級!」
アレクスとロックは、自分の胸に手を当てて「これくらいだったか?」と、王女級の膨らみを表現し合っている。
「お前らなぁ······べらべら喋ってて、国防軍に聞かれるなよ。処刑されても知らんぞ」
「マジっすか!? 殺されちゃうんですか?」
「フリーディア様なら許してくれそうですよ?」
「フリーディア様が許しても、周りが許さんだろう。そういうのを許していたら、お前らみたいなおっぱい星人が増えて、いずれ歯止めが効かなくなるからな。だから王族の威厳を保つために、二人の首が見せしめに晒されるんだ」
実際にどうなるかは知らないが、エイルはそう言って手刀で首を切る動作をして二人を脅した。
「うへぇ、でもデカいんだよなぁ。抱かれてみたい」
「変態か!······やっぱ俺も変態で良いや。どうしたらあんなにふくよかに育つんだろう?」
「いいもの食って、運動していないんだろうな。多分フリーディア様は飛べないぞ」
「ええ!? それって鳥人種の意味が無いような······」
「王族が国の象徴だとすれば、ふくよかな胸は国が豊かな証拠で、飛ぶ事、即ち逃げる事が必要無いのは、兵が強く平和な証拠だな」
「あ! それなんか良いですね!」
「王族は国の象徴······象徴······!!」
「「おっぱいだ!!」」
意気投合したアレクスとロックは、ハイタッチをして、胸を殴り合って友好を深め始めた。
「ああ、そうだな、この国は平和だなあ」
その二人の向こうには、王女の宿泊しているホテルが有り、エイルは久し振りに見た“豊みと平和の象徴”を思い出し、二人の親睦会に交ざった。
こうして、王女を迎えたトルレナの町の、平和で騒がしい一日が始まるのだった。




