第11話 ご興味をお持ちになられました
翌日、エイルはアレクスと共にギルドの魔法訓練場に居た。より大勢に聞いてもらいたいと、会場が手狭なギルドから手広い訓練場へと、急遽変更が掛かったからだ。
仲間を呼びに走った者も、急に呼ばれた者も、ぶうぶう文句を垂れながらも、会場が広くなった分、アルトレーネ領に居る多くの冒険者が一堂に会していた。
カンカンカン!と鐘が打たれると、騒がしかった会場も一転して静まり返り、領主と駐屯隊長とギルド長が、設けられたステージへと登壇した。
「皆、ご機嫌は如何かな?冒険者の諸君には、日頃から領民からの依頼をこなして貰い、感謝している。さて、皆知っての通り我が娘は───」
領主は、第三王子と娘のエルミアーナの結婚式の行われる時期を伝え、そして今回招集をかけるに至った経緯を話した。
「───今日皆に集まって貰ったのは、王宮にて国王と王族の皆様方と会食をした際、第三王女のフリーディア様が、我が領に大変興味をお持ちになられ、我が領へお迎えする事が決まった」
領主がそう言い切ったところで、集まった冒険者達は、それぞれ思い思いの事を口に出し、会場が一気にざわついた。
「エイルさん!王女様ってやっぱ美人なんですか!?」
「見たことは無いけど、そりゃあ美人だろうさ」
「······ベルよりもですか?どうなんですか?」
「お前なあ······でもまあ、多分美人の次元が違うと思うぞ。身に着けている物からして質が違うだろうし、立ち振舞なんかも、エリーの格をもっと上げた感じだろうな」
エイルとアレクスが他と一緒なって話していると、再び鐘が鳴らされ会場は静かになった。
「さて、諸君。これからが本題だ。第三王女を御迎えするにあたって、何が必要になるだろうか?───町の整備が必要だ。景観の改善や、住民への作法の指導は私達が行うとしよう。では諸君らには何を頼みたいのか、それは第三王女が領内を移動する際の護衛だ。それを国防軍と共同で行ってもらいたい」
少し間が空くと、誰かがしびれを切らして口を開き、再びお喋りが始まる。冒険者達が注目を欠いている中、駐屯隊長はずいっと前に出て、士気高々に声を張った。
「私はアルトレーネ領駐屯隊長のプローク·オンブラントである!冒険者諸兄には日頃から魔物対策に力を貸して頂き感謝している!第三王女の護衛には、第三王女近衛隊と、国防軍第一大隊第三中隊が当たる事になっている!こんな大戦力に挑む愚か者は居ないと思われるが、万全を期して諸兄らにも護衛の隊列に加わって貰いたい!」
そこまでネタを与えると、駐屯隊長はわざと間を空けて冒険者達に話をさせた。
「エイルさん、第三中隊って何人居るんですか?」
「ここの小隊が23名編成で、一個中隊が三小隊編成だって聞いたことがあるから······69で、そこに中隊長とかが付くから、70人は超えるんじゃないか?」
「アルトレーネ領を守ってる兵の三倍以上ですか!?それって───」
「まあ、冒険者も居るからってのも有るだろうけど、アルトレーネ領の二千人の命より、第三王女一人の方が重いって事だ」
「めっちゃ凄い人って事ですね!」
「ん?ああ、まあ······そうだな(そうだけど······TVとかで見る事も無いし、本当に雲の上の人って感覚なんだな)」
「エイルさん!なんでそんなに冷めてるんですか!?王女様が、凄い人が来るんですよ!」
エイルとアレクスだけでなく、だいたいどこのグループも同じ様な話で盛り上がっている。アルトレーネ領の人々の殆どは王の顔も知らないし、そもそも王都にすら行ったことすら無い。
Bランク以上の冒険者は、国内のギルドなら依頼を受ける事が出来るので、他の領に移動するついでに王都に寄ったりはするが、ただの一般人上がりの冒険者が王族を見る機会に恵まれる事は無かった。
なので冒険者達は想像と妄想で第三王女フリーディアを勝手に創り出し、勝手に盛り上がっていた。
カンカンカン!と試合終了のゴングの様に景気良く鐘が打ち鳴らされると、三度会場に静寂が訪れ、領主と駐屯隊長は最低限の躾が出来ていることに、そっと胸を撫で下ろした。
「アルトレーネ領の冒険者の皆さん、大勢の前に顔を出すのは始めてですが、私が前ギルド長の後任として配属されました、ユリア·ユースティティアです」
次に話し始めたのはギルド長だった。駐屯隊長の後なのと、丁寧な言葉を使っているのもあって、声量が小さく感じられ少し気の毒だが、しっかりと声を張って話を続けた。
「エヴィメリア王国の第三王女をお迎えするにあたり、昨日、領主様と駐屯隊長と共に、護衛に係る会議を行いました。
先ず、第三王女の護衛という重要な任に、エヴィメリア王国由来の組織で無いギルドが関わらせていただける事は、大変に光栄であり、名誉なことであります。
前日の会議で、ギルドはアルトレーネ領と駐屯兵団から、護衛の増員依頼を受けました。受付範囲はアルトレーネ領所属の冒険者の者、内容は領内の移動の護衛。領境で待機し、第三王女の隊列が到着したところで列に加わり、トルレナの町までの警戒と場合によって脅威の排除です。
これはアルトレーネ領の威信を掛けたプロジェクトになるので、他のギルド所属の冒険者はこの依頼を受ける事は出来ません。ですが、街道付近の魔物の駆除を、ギルドから事前に出しますので、是非こちらの依頼で活躍して下さい」
ギルド長が話し終えると会場はどっと沸き上がった。アルトレーネ領の冒険者は当然ながら、それ以外の領の冒険者も、自国の王女の護衛に一役買える事を喜び。他国の冒険者は、エヴィメリア国の王女の安全確保と、あわよくば御尊顔を拝むことが出来たならば、最高の土産話を持ち帰れる事になる為、期待に胸を膨らませていた。
Aランク冒険者は他国に足を運ぶ事がある以上、戦争案件を持ち帰る事が無い様、ギルドがランク認定をする際に思想調査や素行調査が厳重に行われている。
軍事力や世論の調査と報告は、外交官同士で当たり前にやっている事なので、明ら様なスパイ活動でなければ、国もギルドもお互い様と目を瞑っており、今回の行軍の見た目上の戦力も、それぞれの国へ持ち帰り報告される事だろう。
その後、領主が話を纏めて冒険者達の集まりは解散し、次は商工業関係、その次は建築関係、農業関係と住民を集め、第三王女を迎える為の政策と準備を展開していった。
エイルとアレクス、オルフとファルは会場を出た道端で、興奮冷めやらぬ思いの丈を語っていた。
「オウ!エイル、アレクス!お前達も当然、王女様の護衛の依頼を受けるんだろ?」
「そりゃあまあ当然、王女様にもしもの事があっちゃいけないからな。盾は多いほうが良いだろう」
「盾かよ!王女様が見てるんだぜ!もっとこう······なあ、ファル!」
「積極的に敵を倒して、活躍しているところを見せたいな。アレクス君もそうだろう?」
「はい!格好良いところを見せたいです!」
「そうだそうだ!そしたらよぉ······手ぇ握ってくれるかもよ?」
「マジっすか!王女様と握手······手ぇ洗えないです!」
「手だけじゃ無いぜ!エイルの間抜けが敵を止めそ損ねて、なんと王女様の目の前に来てしまった!そこに颯爽とアレクスが割って入り、バッサリと敵を倒した!すると王女様は───はいファル!」
「アレクス君に感謝の言葉を掛けて、やさしく抱きしめましたとさ」
「「うおおおおおお!!」」
(握手くらいはするかも知れないけど、そりゃあ無いだろ?そもそも───)
「お前等、王女様が襲撃されて欲しいのか?」
アルトレーネ領の重役達が胃を痛める中、庶民達はお祭り騒ぎで盛り上がっている。エイルも当然、第三王女を一目見たいと気持ちは昂ぶっているが、それ以上に「厄介事を持ち込んでくれた」と、他の庶民よりは重大に受け止め、冷静に周りを見ることが出来ていた。




