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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
王都編

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第9話 制圧

 唸り声を上げる角山犬2体はまだ待機だ。一応素性を確認してからでないと、万が一、億が一にも「王族がキャンプに来ていた」なんて場合は、高過ぎる代償を払う事になってしまう。


 短弓と剣と大型のウエストバッグを装備した坊主の兵士と獣尾の女兵士が、ジリジリと距離を詰めて行く。少し後方に鳥人の兵士が短弓持ち、長剣を引きずって付き、獣人の兵士は長弓を手に取り、兜に木の枝を刺してお飾り程度のカモフラージュを施し、狙撃の準備をしている。

「相手も交戦する気ということは、相当腕に自身が有るって事じゃないですか?」

「賊にも冒険者崩れが居ることもあるからな。そういう奴は一芸秀でているが、なあに、所詮は半端者だ。それにな、まだ相手さん方は俺達が何者か特定できていないだろう」

「······それもそうですね」

 エイル達は未確認の相手を、集めた情報から賊だと想定して最大限の警戒をしているが、相手方はどうだろうか。村人が徒党を組んで来たか?同業者が来たか?町から駐屯兵が来たか?用心深い奴なら駐屯兵を選ぶだろう。


 村の角山犬達の警戒を掻い潜って、エイル達を監視していたとは考え辛いので、賊達も自分達の魔獣が警戒しだしてエイル達の接近に気付き、取り敢えず臨戦体勢を取ったのが筋だ。

 まだこの時点では、お互いに素性が知れ無い者同士が偶然偶然の出くわした体で、坊主の兵士が声を掛けた。

「もっしも~し!こちらは国防軍第三大隊、第二中隊、第一小隊アルトレーネ領駐屯隊所属、第三分隊で~す。お宅様はどちら様でしょ~か?」

 木の陰から少し顔を覗かせて所属を告げた坊主の兵士の目には、人相からして明らかに賊と覚しき連中が映った。まあ賊で正解だろうと思いながらも、坊主の兵士はマニュアル通りに返答を待った。


「ああ駐屯さん!駐屯さんか!良かった助かった!俺達は旅をしていてな!仲間の具合が悪くなっちまったんだ!良かった良かった、これで助かるぜ!」

「───ああ、確かに1人蹲ってるな。助けてやるが、先ずは武器を捨てろ。それと天幕の中の二人も外に出せ」

 坊主の兵士の口調が変わった。坊主の兵士は相手の言い分を信用していないし、その口調の変化は仲間に想定通りの事態である事を伝えるのに十分だった。


「武器はあんた等も捨ててくれ、怖くて堪んねえよ。それと天幕の中の二人は女だ。まだ支度が出来てなくてよお、ちょっと時間が掛かるんだ」

「お前等の言い分は聞かない。俺達に敵意が無い事を示して貰おうか?」

 外に居る男三人は顔を見合わせてから短弓を手放した。

「───ほら、捨てたぜ。少しは信用してくれよ」

「後ろを向け、そこの蹲ってる奴は腹を見せてみろ。出来なければ武器を隠し持っていると判断する」

 男達は坊主の兵士の指示に従わない。坊主の兵士は覚悟を決め、分隊長に聞こえるように最終通告を出した。

「指示に従え!さもなくば交戦の意志と見なす!」

 獣人の兵士が矢を番え、鳥人の兵士と獣尾の女兵士も短弓を構えて戦闘態勢に移る。───エイルの感覚で約5秒の猶予の後、分隊長が声を上げた。

「捕縛だ!」

 分隊長の指示を受けて、駐屯兵達が一斉に矢を射った。賊の男達は、姿勢を低くして両脇に捌けて駐屯兵達の矢を躱すと、テントの中から矢が放たれ、弓矢と魔法の応酬が始まった。


「これが賊との戦い······」

 エイルは一対一の模擬戦や、ナイフを持った町のゴロツキなら相手をした事があるが、賊と戦った事は無かった。魔物とは違う優れた連携と、弓と魔法の正確な遠距離攻撃に、エイルの目は釘付けになっていた。

 

 激しい応酬の中、木の陰を隠れて渡り、弓を構えた賊の男の頭へ、獣人の兵士の放った矢が命中した。

「へっへっへー、一丁上がりだ」

 駐屯兵が捕縛様に使用する矢は、短弓なら鏃の刃を潰して殺傷能力を下げ、長弓用は潰した鏃に更に布を厚く巻いている。当たりどころが悪ければ死んでしまうが、比較的軽装な賊を行動不能にするには丁度良い威力だ。


「ピィーッ!」「ピュイーッ!」

 テントの中から指笛の音が二つ響き、その音を聞き、その意味を理解した駐屯兵達は、顔を強張らせた。

 この指笛の正体は賊達の魔獣への攻撃の合図だ。賊達の魔獣の角山犬は、待ってましたとばかりにテントの裏から勢い良く飛び出し、賊の前衛を庇うように展開した。


「おーい!分隊長!こっちも魔獣を出してくれ!」

「バッかもん!村の大事な魔獣を危険に晒せるか!」

「そんな殺生な······でも、魔獣の殺生は許してちょ!」

「許可する!」

 分隊長の承認で、坊主の兵士達は通常の装備に切り替えた。


 山犬型魔物の角山犬は、エヴィメリア王国に多く生息しており、山犬や山猫が家畜化し易いように、角山犬も魔獣として使役しやすく、冒険者のみならず、広く使役されている。

 人を乗せて走り回れる程の体躯から繰り出される膂力は、味方に付ければ頼もしいが、敵対した場合はその脅威を存分に味わう事になる。


「頭を押さえろ!」

 その指示で動いたのは鳥人の兵士だ。力強く羽撃いて一気に上昇し、敵がそれを目で追い生じた隙に、坊主の兵士達は弓と魔法を放ち、獣人の兵士は角山犬の目を狙って矢を放ったが、角山犬は首を少し捻って、強靭な体毛で矢を受け流した。人が扱う武器で角山犬の体毛の鎧を貫くのは容易な事ではなく、太刀筋の見切りを要求される。


 矢を射られた角山犬は獣人の兵士に反撃しようと駆け出したが、獣尾の女兵士の炎弾の弾幕が行く手を阻んだ。角山犬は火を嫌う───というより人だって余程訓練を積まなければ、目の前に火の玉が迫れば回避行動をとる。

 そのように、ただの忌避感や見た目の圧力からの条件反射だが、炎の弾幕は足止めには有効な手段だ。魔力消費の問題は、国防軍に優先的に供給される潤沢な魔石によって解決されている。


「連鎖雷撃網用意!」

 分隊長の指示を受け、坊主の兵士と獣尾の女兵士は、複数の魔石が等間隔に付いた紐の束を、腰の大型ポーチから取り出し、投げる準備をする。

「放て!」

 分隊長の指示で、坊主の兵士と獣尾の女兵士が放った紐の束は、網の目に交差し、二体の角山犬の頭上を覆った。

「ピゥイイー!」

 主人の魔獣使いの指笛を聞き、賊の角山犬の一体は、網に対して身構えていた体を反転させ、走らせた。

 それと同時に坊主の兵士が紐の端を放し、獣尾の女兵士が雷の魔法を発動すると、魔力が紐を走り、繋がれた魔石に接触し増幅され、連続してけたたましい炸裂音と目が焼ける様な閃光を放った。

 

 網をかけられ直撃した角山犬は、意識は保っているが体は麻痺し、他の賊も魔獣もエイルも村人も炸裂音と閃光に身構えた。その一瞬の隙を、空中に居た鳥人の兵士は見逃さなかった。


「チエェェイッ!」

 急降下の加速度と対大型魔獣用の長剣の重量を利用した斬撃が、角山犬の首筋の毛をかき上げる様に繰り出された。

 毛を掻き上げればそこは地肌だ。角山犬も所詮はデカい動物であり、首を両断なんてする必要はなく、太い血管さえ断てれば、放っておけば失血で死ぬ。

 鳥人の兵士は、角山犬を斬った勢いのまま低空を飛び、賊の男二人へ剣から雷の魔法を流し、場を制圧した。



「お~い。天幕の中のお二人さん、外は片付いたぜ。投降するなら手荒い事はしませーん」

 残っている敵の戦力はテントの中の賊二人と、テントの裏へ避難した角山犬一体だ。一先ず攻撃の手が止んだので、坊主の兵士が投降を呼びかけた。

「わかった!投降する!なあ、刑は軽くしてくれるんだろ?」

 テントの中の男が交渉の声を上げた。

「ああ、素直に投降したと上には繋いでやる。その後はちゃんと反省して更生する姿勢を見せるんだな」

「へへへ······反省しますって、痛い事しないで下さいね?」


 テントから男がゆっくりと顔を出し、外の様子を伺ってから、先ず手に何も持っていないことを示し、テントから一歩踏み出した。

「もう一人居るだろう?」

「ヘヘヘ、一緒に投降するんで、直ぐにでガァッ!?」

 エイル達にも突然の出来事だった。突然倒れた男の背後には、ゴツい棍棒をしっかり握った猫型獣人の女が立っていた。

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