第1話 アルトレーネの風景①
王都編でございます。
強い日差しを受け、山から畑まで青々とした葉が茂る季節も過ぎ、今は木々も色付き始めた収穫の時期。色とりどりの森の中には、今では立派になった前線拠点の施設がちょこっと見えている。町も老朽化した施設の改修や新築で、街並みが急ピッチで変化している最中だ。
今エイルはベルの出身のサリ村に来ている。ギルドの依頼でも無く、ただの収穫の手伝いでだ。アレクスとイリシュ、それにシュナも相棒のティムを連れて手伝いに来ていた。
「それじゃあ、アレクス君投げるよ!」
「任せて下さい、ベルのお兄さん!」
エイルとアレクスは、ベルの父と兄と一緒にリンゴの収穫をしている。今は鳥人種のベルの兄が、高い所のリンゴをもいで、アレクスに投げて渡しているところだ。
「や、やあ、エイルさん、手伝ってくれてありがとう。若い男手が多いと、作業が早くて助かるよ」
「リンゴの木は実家にも一本だけ有りますから、何とか手伝えていますよ。おと······ベルのお父さん」
ベルの両親は二人共人間種だ。そこから長女が人間種、長男が鳥人種、そして次女の魔人種のベルが産まれている。何とも不思議な生態の世界だ。
女達は隣のブドウ畑でブドウの収穫をしている。ベルとベルの母、それと既に結婚しているベルの姉が手伝いに来て、そこにイリシュとシュナも一緒になって、和喜あいあいと作業をしていた。
ティムはと言うと、荷車の牛の隣で大きな欠伸をしながら、日向ぼっこを満喫いるところだ。
この日の作業も終わり、お土産の果物をティムの背に乗せて、町まで体感2時間の距離を歩いて帰る。町には国内から多くのA・Bランク冒険者が集まって来ており、夕飯時になると街は今まで以上に活気に溢れている。
他国からのAランク冒険者の受け入れは、ある程度自国で資源を取ってから、次の春先には解放される予定になっている。
「やあ、オリビー。5人だけど空いてるか?」
「大丈夫です。片付ければ空きますので、ちょっと待って下さい」
エイル達は夕飯を食べに、元奴隷の獣人種のアドルとビビアの店コンパネーロに来た。彼等の元主人、領主の次男デュオセオスの助力もあって、隣国サングロリア王国の食材や調味料を仕入れ、手軽に隣国の家庭料理を楽しめると評判になっている。
更に、同じく元奴隷のハーフエルフのオリビーが夕食時にはバイトに入り、「金髪のねーちゃんが居る」としっかり看板娘に定着していた。
「オリビーは、この国の言葉上手くなった」
「ははは······、お客さんが良く話し掛けてくれますので。イリシュ様も、もう十分に言葉を覚えているではありませんか」
「みんな良く話してくれるから」
イリシュも、もう十分に日常会話はこなせる様になっているが、パーティーの枠からあまり出ないイリシュよりも、より大勢の社交の場に居るオリビーの方が、必然的に言葉の扱いが上手くなっていた。
「みなさん此方へどうぞ。今日はもう麺が無くなってしまって、ご飯かパンのどちらかでお願いします」
この店の料理は、三種の主食から選べる日替わり定食方式で提供されている。安定した物流が有るわけでは無いので、たまに連日同じものが出たりもする。
「よう。美味そうな麺料理だなファル」
「ああ、美味いぞ。今日は麺料理を食べに来たからな。彼女の分まではあって良かったよ」
「私は、貴方と一緒なら、何でも美味しくいただけます」
「フェザ先生の彼氏ってファルさんだったんですね」
「ファルがデートなら、オルフは家で一人なの?」
「オルフはタイショーのところへ行くって言ってたぞ」
隣のテーブルにはモヒカン鳥人のファルと、その立派な鶏冠に惚れたギルドの魔法訓練場の教官のフェザが、二人分盛られた料理を仲良く取り分けて食べていた。
本日最後の麺にありついた仲睦まじい二人にはなるべく触れないようにエイル達が話をしていると、エイルとベルが頼んだご飯と、他の三人が頼んだ薄焼きパン、それと大皿に盛られた人数分の料理が配膳された。
大皿に人数分盛られた今日の日替わり料理は、唐辛子で辛味を効かせたピリ辛肉野菜炒めだ。それをご飯や薄焼きパンに乗せるなり、麺に混ぜるなりして家族で取り分けて食べるのが、アドルとビビアの国のメジャーな家庭料理だ。
その中でも人気なのが、この町では食べて来られなかった麺で、小麦粉を練って、切って、茹でただけのしっかり素材の味のする硬い食感の中太麺が、その斬新さから人気を呼んでいた。
「エイルさん、少し食べてくれませんか?」
「ああ、良いよ。俺もちょっと足りないと思ってたからな」
ベルはお腹いっぱいの様で、エイルがベルの食べ残しのご飯を食べているのを、アレクスとシュナがニヤニヤと覗いている。それを見たイリシュも、口元を隠してクスクスと笑った。
「アックぅ、私もお腹いっぱい。ほら、た、べ、て」
「嫌だよ、シュナが噛じった様なヤツ。食べ切れないならイリシュみたいに先に分けておいてくれよ」
「な!?ひっど!アック最低ー」
「シュナ、私が食べる。これはキールのだし、私はまだ食べたい」
イリシュは自前のテイクアウト用の布を取り出し、千切った薄焼きパンと料理を少し包んで持ち帰る。
エヴィメリア王国の死生観だと死者の霊は即転生だが、エルフの死生観だと死者の霊は集落を守る精霊になる。なので、エヴィメリア王国の宗教では、神に対するお供物はあっても、死者に対するお供物は無い。一方イリシュは、部屋に簡素な祭壇の様な物を作って、毎日キールにお供えをしていた。
料理を食べ終わり支払いを済ませ、厨房のアドルとビビアに挨拶をしてエイル達は店を出た。店の中でもそうだったが、知らない顔をよく見るようになっている。顔触れはダンジョン目的の冒険者と、商魂逞しい商人と、単純に観光目的のちょっと裕福な人達だ。
町にお金を落としてくれるのは良いが、Bランク以上の冒険者は人格も見られているとはいえ、酒が入ればトラブルも起こす。お陰で駐屯兵も忙しく働くようになった。
シュナを家に送って、エイル達は新居へと向かった。アレクスがあの魔物の討伐報酬金でかなり金額を持ち帰ったのと、領主家から「第3王子の妃を救った報酬」としてとんでも無い額を頂戴した事で、パーティーの拠点として一軒家を買うことが出来た。
2階建てで、一階はダイニングキッチンと広めの部屋が一部屋とトイレがあり、二階は少し狭いが部屋が3部屋有った。アレクスは一階の部屋を使うということで、二階はエイルとベルとイリシュで、それぞれ一部屋使っている。
ゆったりと浸かれる風呂が欲しいところだが、今そんな設備があるのは、銭湯と領主の屋敷くらいなものだ。エイル達は、今日の汚れを濡れタオルで拭い、明日を迎える為に眠りにつくのだった。




