第51話 アルトレーネの門出
アレクス達が、ギルドでハートフィッシャーと名付けられたあの魔物を討伐して、行く手を阻む強敵が取り敢えず居なくなったところで、翌日からはダンジョン探索が通常通り再開された。
その日の成果は鉱石の採掘ポイントの発見と、下の階層への通路の発見だった。ダンジョンは蟻の巣の様に下へ向かって広がっていると予想され、最深部に向かって探索を進めて行く事になる。
この手のダンジョンは、当然の様に下層部の方が色々と濃くなっていて、魔物は強くなり、鉱石の品質も良く、宝飾品や武具用の鉄鋼材としての価値も高い物が出てくる傾向にある。
探索を進めて行けば、いずれはダンジョンコアに遭遇するのだが、これは倒す事が出来無い。正確には“倒してはいけない”で、ダンジョンコアの討伐は、ダンジョンの資源採掘プラントとしての価値の喪失を意味し、そんな大罪を犯した者はテロリスト扱いで、極刑に処される事になる。
その翌日、ギルドの魔法訓練場を貸し切って、エルミアーナ達が他国の文化展示即売会を開いた。彼女達は冒険から帰って来ると、こうしてお土産を披露するのが恒例になっている。
物品の量はそれ程多くは無いが、物珍しさに毎回多くの人が足を運んでいる。エイルはベルとアレクスを連れて、展示会の会場に来ていた。
「おお!土鍋があるじゃないか!」
「───エイルさん、なんすかドナベって、ここにはタカーマガハーラの『ナーベ』って書いてありますよ?」
「エイルさん、そのドは何処から出てきたんですか?」
「(何でそんな微妙な伝わり方してるんだよ)そうか、ナーベか······。ベル、コレ買って良い?」
「駄目です。家には(鉄)鍋があるじゃないですか、こんな脆そうなの何に使うんですか?」
「ベル······すごい美味そうな料理を思い付いたんだ。それにはこのナーベが絶対必要になるんだ」
「(······ゴクリ)リーダーのアレクスが良いって言ったら良いですよ」
「え?良いですよ。───それより何か二人······俺の両親に似て来てる様な気がします」
((ドキ!))
エイルとベルは感の良いところには気付かれているが、タイミングがタイミングなだけあって、アレクスには中々言い出せずにいた。
アレクスはあれから、元のパーティーに戻ってリーダーをやっている。イリシュは言葉の勉強ついでに、暫くエルミアーナのところに厄介になる事になっていた。
「うわ!何だあれ?なんであんな格好してるんだ!?」
「あれは······下着でしょうか?」
「だろうな」
展示されているアクセサリーや日用品の中で、ひと際大衆の目を引くのは、壇上で肌を多く露出させた、人間種と獣人種と鳥人種の女性だった。獣人は肌と言うか、体毛であるが───多くの人が集まったところで、領主家のメイドが説明を始めた。
「こちらの女性達が着けているのは、ファルファレーニョ王国の女性用下着です。胸を当て布に入れて、肩紐で持ち上げる事で、輪郭を美しく見せて女性の魅力をより引き立てて見せます」
「「お!?おおおおお!」」
モデルの女性達が少し前屈みになって、下着に矯正された胸の谷間を見せると、観衆から男女問わず歓声が上がった。
「この下着は上下共に、隠すべきところは隠しながらも、より女性らしい輪郭を強調する、王都でも主流になるつつあるファルファレーニョ王国の下着です」
「「うおおおおお!!!」」
モデルの女性達が、くるりと回ってみたり、セクシーなポーズを取ると、その都度観衆から大きな歓声が上がった。エイルの目には、まだまだデザインはダサく映るが、きっとこの町の下着事情は、今後ガラッと変わることだろう。
この下着イベントは人集めの為の前座で、多くの人の目が集まったところで鐘が打ち鳴らされ、降段した女性達に代わり、デュオセオスと領主家の長男レフテリオが登壇した。
「皆盛り上がっているところを失礼する。これより我が父、領主ルキアノスより発表がある」
先程と打って変わって静まり返った場内。警備の駐屯兵を引き連れて、領主のルキアノスと、珍しくドレスに身を包んだエルミアーナが登壇した。
「皆、娘の土産は楽しめたかな?少し私達に時間を頂こう。先ず、我が領土に発生したダンジョンについてだ。冒険者諸君の活躍により、当該ダンジョンの傾向が予想され、腕に覚えの有るものにも、鉱物資源としても有望であると判断され、ギルドはこれをAランクダンジョンと認定し、私はダンジョンをギルド加盟国の冒険者に開放する事を決定した」
一部のサクラから拍手と歓声が上がり、それが飛び火して会場がまた熱気に包まれた。
「これからこの町は多くの人を受け入れるため、宿泊施設の増築工事を始めとする街の区画整備、他国の異文化に対応する為の教育を進める事になる。特に文化は重要だ。我が娘も他国で多くの迷惑を掛けてきたようだ!ハッハッハ!」
民衆は笑って良いのか悪いのか分からなかったが、結局はサクラの仕事に釣られて、会場は笑い声に包まれた。
「皆、これから忙しくなるぞ。多くの異国の人と文化が入ってくる。我々もそれに負けぬよう、文化を取り入れると共に、我々の文化も持ち帰って貰える様に、また冒険者も、他の地域の冒険者にダンジョン探索を任せきりにならぬ様に、それぞれが持てる才を発揮して、この町を発展させてもらいたい」
会場がまた拍手と歓声に包まれた。ここまでは大半の者達の予想通りだが、冒険者になってからは、公の場でもパンツスタイルを崩さなかったエルミアーナが、ドレスに身を包んでいるところの意味が読めなかった。
「さて、次は娘のエルミアーナの事で、皆に報告がある。皆知っての通り、娘は16で冒険者になり、国を回って世界を回って、知見を広めて、今日もこうして皆に新しいものを知らせてくれた」
パチパチパチと拍手が鳴り響いた。頃合いを見て、領主が手を上げ、拍手を制して続きを話した。
「娘はダンジョン捜索開始の報を受けて帰国し、王都に立ち寄った。我が国ではAランク冒険者が他国に赴いた際は、その報告を国へ上げる事が義務付けられている。それは王宮で行われるのだが、そこで我が娘エルミアーナは、第3王子から求婚を受けた───」
領主が少し間を開けると会場がざわつき始め、民衆はエルミアーナの格好から、正解間違いなしの予想を立てた。
「───だがその時点では第3王子には王都の貴族の婚約者がいて、娘は回答を保留して町へ帰ってきた───。そして先日、娘から第3王子への回答の書簡を送ったところ、即日、第3王子との婚姻が決定した!」
拍手に歓声、それに指笛も混じって、会場は最高の熱気に包まれた。
(政略結婚······かな?)
王族としては、ダンジョンが発見された有益な領地との関係が作れるし、アルトレーネ領からしても王族がバックアップに入るようなものだ。エルミアーナも、それに見合った利益を国にもたらすダンジョンなのかどうかで悩んだに違い無い───と、エイルは考えた。
「実に目出度い事であり、娘からの申し出を受け、奴隷階級の地位返上を行うこととする!」
(恩赦······というやつか?そうなると───)
「エイルさん!ミーアが戻って来れます!」
「イリシュも、ってことですね!」
「ああ!そうだな!ミーアも帰って来るし、イリシュも堂々と名前で呼べるぞ!」
正式に手続きが終わるまでは、ミーアもイリシュも「名無し」で、名を呼ぶことは禁止だが、周りの喧騒で誰も聞いちゃいなかった。
そして、エルミアーナが一歩前に出ると、騒がしかった民衆も静まり返り、エルミアーナの言葉を待った。
「皆、ご機嫌よう。この度私は、第3王子よりお声を掛けて戴き、第3王子の妃となることを決意致しました。それに伴い、私は冒険者を引退して第3王子の隣に立てる様に、これから多くの事を学びます。第3王子と私が、王都とアルトレーネが強く結ばれる事は、皆が多くの恩恵を受ける事になるでしょう。アルトレーネの領民は、良く働き、畑を耕し、生活を支えます。また、力の強い者は魔物や獣から、生活を守ります。これからも、皆がアルトレーネを支え守って、より美しく発展させることを願います」
こうして領主家からの挨拶は終わり、拍手喝采とエルミアーナコールを背に受けながらアルトレーネ一家は退場していった。興奮冷めやらぬ群衆は、その勢いのまま酒を求めて街に繰り出すのだった。
2日後に恩赦の発布がされると、早速エイル達は領主の館へ向かった。
館の敷地へ入ると、デュオセオスの奴隷だった隣国の獣人二人とハーフエルフ、それとミーアとイリシュが、木陰に集まり話をしていた。
「ミーア!」
「ベルぅ!アレクスもエイルさんも来てくれてありがとう」
ベルとミーアが抱き合って再開を喜んでいる。取り付く島がないので、エイルは獣人二人とハーフエルフに話しかけてみた。
「貴方達はこれからどうするんですか?あー、お名前は?」
「俺はアドルだ!彼女と一緒にお店をスル!」
「私はビビアです。私達はデュオセオス様から援助してもらって、サングロリアの料理店を開きます。お店が始まりましたら是非いらして下さい!」
「私はオリビーでス。私は二人のお店手伝うシテ、ソロの冒険者シマス。マタ一緒シマショウ!」
「サングロリアの料理か。美人のハーフエルフの看板娘も居て、人気店間違い無しだな!食べに行くよ」
エイルは「贔屓の店が増えてしまうな」と、少し財布を気にしてやった。
「エイル、私ハ、パーティー、ナクシタ。モウイチド、パーティー、私イレテホシイ」
「あ、そうか!イリシュは今ソロになるのか!」
エルミアーナのパーティーは、リーダーの寿退社を期に解散する事になった。リーダーを失った喪失感から、ヘリオ達パーティーメンバーも冒険者を引退し、それぞれの道を歩む事になり、イリシュは現在ソロ冒険者だった。
「俺は勿論歓迎するよ。エイルさんもベルも良いですよね?」
「ああ、俺も歓迎する」
「私も歓迎するわ。───ミーアはどうするの?」
「私は戻らないよ。エルミアーナ様と話をして、ビオンの世話を続けさせて貰える様に話をしたよ。それで私はビオンの世話係として、領主様のお屋敷で働く事になったよ。だからパーティーには戻れない······けど、ビオンにも狩りを教えてあげないとだから、もうちょっと大きくなったら同行の依頼を出すから、一緒に狩りに行ってほしいよ!」
「それは当然よ!ね、エイルさん!」
「ああ、大歓迎だ!」
「ん!······ん〜?なんだか二人の距離が近い気がするよー?」
ひとつの区切りを付けたアルトレーネ領は、これからダンジョンという資源を有効活用するために、小さな変化を積み重ね、大きく変化していく。そしてエイル達もまた、新たな日が昇れば稽古で心技体を練磨し、もう戻らない日常に新たな日常を重ねて、新しい日常を生きていくのだった───まさかのとんでも無い訪問者が来るまでは
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。ひと区切りでありますので、宜しければ評価をして頂ければと思います。
ギルド編は起承転結の起で、風呂敷を広げました。次の章は承で、風呂敷の中身を投げ散らかします。
第三章がスッカスカなので、書き溜めも合わせて、週に2•3話ペースで投稿していきますので、引き続き宜しくお願い致します。




