第50話 勇者達の帰還
エイルはベルとヘリオと共にアレクス達を見送ってから、アンドレとキネカの二人と合流して、幼馴染4人とベルとで、ヘリオの奢りで軽食を食べに行く事になった。
街の飲食店には、エルミアーナ達を見に来た住民達が、興奮冷めやらぬその足で向かって行ったので、エイル達はヘリオの顔パスで、庶民は殆ど足を運ばない町の高級ホテルカロアリギアに、お茶と簡単な料理を用意させた。
「ねえヘリオ、ダンジョン発見の連絡が行ってから大分遅い帰還ね。今回は何処まで行ってきたの?」
「その一報を受け取ったのは、極東のタカーマガハーラに滞在していたときだった。タカーマガハーラは獣人種鳥人種の発祥の地だって言われているところだ」
冒険者間の文書の遣り取りは、鳥の魔獣を使ってギルドが郵便事業の様な事をやっている。手紙を送る用事の無いエイルには関係無い話だが、ひとつ気になる単語が有った。
(たかま······がはーら?······だっけ?どこかで聞いたことがあるような気がするな)
「観光を楽しんでいたの?」
「着いたばっかで、楽しむ余裕が無かったぜ。エリーは書簡が届いて直ぐに、連れて行ったコブ馬を売払って馬に買い替えて、帰りの行く先々でも馬を交換しながら最速で戻ってきたんだ。客車も車輪がぶっ壊れる前に買い替えて来たんだぜ」
コブ馬は、背中に栄養を蓄える大きな瘤が有るエイルの認識するところのラクダだ。歩くペースはゆっくりだが、休憩無しで昼夜問わず歩けるので、時間に余裕のある長距離移動に重宝されている。
「流石だね。もの凄い金遣いだ。でもそれならもうちょっと早く着きそうなものだけど?」
「ははは······ちょっと王都に寄ってな。内容はエリーが話すからそれまで待ってくれ」
話が一区切り付いたところで、エイルは気になった事を聞いてみた。
「なあ、ヘリオ。その、なんだ?たかまがはらの話を聞かせくれよ」
「タカーマガハーラな。やっぱこことタカーマガハーラは西と東の端っこ同士だろ?ちょっとしか滞在しなかったけど、違った文化があって面白かったぞ!あ、エイルと一緒で、飯を食うのに二本の棒を使うんだよ!」
「あの、私もエイルさんが二本の棒でご飯を食べているのを見て驚いたんですが、子供の頃からそうだったのですか?」
エイルは外食ではその店の食器を使うが、家での食事は自作の箸を使用しており、ベルも気にはなっていた。
「あの時からよね、天啓の儀。あれから暫くは、右も左も分からないみたいになっていたわね」
「話は通じるし、エイルであることに変わりはないんだけど、行動が何か、知らないものに触れる感じだったね」
「その頃から変な言葉がポロッと出るようになったな!」
「私も知ってます!夢の国の言葉ですよね!」
「そうそう!エイルがベロベロに酔ったときに、ニポンとか言う国の話をし始めてさ!他にも国の名前を出して、チキューがどうとかギンガが何だとか言い出したんだ!」
「ウチューのウチュージンも出てきたわ!」
「ユホーって乗り物に乗って、ウチューの他のワクセーからチキューに来るんだよ」
「何ですかそれー?エイルさん今度話して聞かせて下さい!」
そう言ってベルはエイルの肩をペシペシと叩く。そんな何気ない仕草を見て、アンドレとキネカはニヤニヤとエイル達を見ていた。
「他国の冒険の話はまたしてやるよ。異国の文化展もあるしな。───エイル、俺はダンジョンの話が聞きたかった。キール君は残念だったけど······話せるか?」
ヘリオの言葉を聞いてベルがビクっと反応した。
「ベルちゃん、私と席を外そうか?」
「大丈夫です。みんな立ち直って前を向いています。私も歩き出さないと、キールとガルルに笑われてしまいます」
それからエイルは、アレクス達に会った日の事からヘリオに聞かせた。そしてダンジョンであの魔物に遭遇して、キールを投げ飛ばし、強い衝撃を受けて意識を失ったところ迄を話した。
そこからはベルに交代し、涙声で語るベルにアンドレとキネカは涙を流して心を向けて、ヘリオは静かに耳を傾けていた。
「───すまんなヘリオ。アレクスの為に残ってもらってしまって」
「お前が気を失って転がってたあの日に、エリーから交代の相談は受けていた。あの人はアレクス君の手を引っ張ってやる気満々だったぞ」
「そうか······、あの人らしいな」
「だな。それに俺が行ってもお前の二の舞だっただろうな。あと、あのエルフの奴隷は、お前達から何も話が無くても、交渉して連れて行くつもりだったみたいだぞ」
「何だ?やけに気に入られてるみたいだな?」
「単純に戦力増強だ。あのエルフは満足に動けないだろうけど、どうせ接近戦なんてまともに出来ない相手だ。遠距離攻撃が得意な奴をパーティーに入れた方が良い」
ヘリオも魔法は使えるが、使えるというだけであまり得意では無い。魔石を大量投入しても、精度やセンスが改善する訳では無いので、専門家に変えてしまった方が何倍も良い仕事をする。
小腹が満たされると談笑も終わり、エイル達は町の教会へ向かった。教会は町から少し離れたところにあり、裏手に広大な敷地を持っている。その裏手の敷地は火葬をした遺灰を撒き、霊の依代を神の御許へ還す為の神聖な場所とされていて、そこに足を踏み入れる者はまず居ない。そもそも神聖云々を抜きにして、そんなところに入る気にはならない。
キールとガルルは、遺品の灰を身代わりとしてここに撒かれている。
整地された石畳の道の先にある建物は、アルトレーネ領では領主家の屋敷と並んで、一部石造りの立派な建物だ。補修されながらも何百年選手の建物の為、生えた苔や、青錆で緑青に変色した銅が相応の厳かさを醸し出している。
エイルは苔生した感じが結構好きではあるが、ここの住民は苔はあまり良く思っていないようで、目に付くところの苔は払われてしまっている。
聖堂の奥には、物事の始まりと終わりを司るそれぞれの神の像が安置されていて、左右の壁に沿っては、他国から伝わった神の像を並べている。
最新の新訳版の神話だと、“他の神を招いて役割を与えた”とかになっており、エヴィメリア王国が他国民の受け入れに寛容なところは、これがひとつの背景なのかも知れない。
邪気の無い顔の神父に、ヘリオが全員分のお布施を支払った。普通に暮らしているだけでは滅多に見ることの無い、金ピカの硬貨だった。一枚で10万リィンのそれには、神父の顔もまるで黄金色に光輝いている様だった。
二柱の神の前で跪き、手を合せて指を組む。よくある祈りのポーズで祈るのは、キールとガルルの魂の転生と、アレクス達の無事だ。さすがに金ピカの力は凄まじく、神父は祈りの詞を読み上げるサービスを付けた。
信心深く無いエイルは、年に一度顔を出せば良い方で、お布施もお賽銭感覚で小銭を出す程度だったので、こんなサービスが有るなんて事は知らなかった。
エイル達はお祈りを済ませて教会を出た。正面に見えるのは畑と、家畜の餌場兼町の魔獣達の生活スペースの草原、その奥にダンジョンが有る広大な森が広がっている。更に奥の山へ向かって傾斜しているので、切り開かれた拠点設営の場所は確認出来た。
「ヘリオ、お前は拠点で待っていなくて良いのか?」
「ここに置いて行ったって事は、ここで待ってろって事だろ?お前こそあっちで待たないのか?」
「ここに元気に帰って来るって信じてるからな。それに骨折が痛むから、往復なんて出来ない······」
「さすがのエイルも骨が折れていると大人しくなるのか!」
「ふふ、大人しくしててもらおうかしら?ねえ、ヘリオ。久し振りの故郷なんだから、一緒に何か受けましょ」
「そうだねキネカ。ヘリオ、のんびり採取でもしようか?」
「うん、良しやろう!───さて、薬草引っこ抜いて、故郷の健康に貢献しましょうかな!」
三人は即断即決で歩いて行ってしまった。彼等の背中を見送ったところで、ベルがエイルの手を握った。
「私達はどうします?」
「そうだな、少し散歩しようか」
散歩は口実で、アレクス達の事が気になって居ても立っても居られなく、少しでも近くに行きたいだけだった。
草原に家畜の牛の群れが来たので、エイルとベルは畑の畔道を歩いて草原まで抜けて、牛飼いの家族に挨拶して、牛に手渡しで草を与えて遊ぶ。
牛に餌をくれてやるエイルとベルは、ヘリオ達がダンジョン側の森へ向かっていくのを見た。彼等も依頼を口実に、少しでも近くに行きたかった様だ。
丁度良い木陰に腰を下ろして、それからどれくらい経っただろうか。ガラガラガラ───と馬車の音が聞こえてきた。
「エイル、アレクスが帰って来た!」
「ああ、きっとそうだな。迎えに行こうか、ルカ」
森から出てきた馬車の客車の幌は外されていて、エルミアーナ達3人とイリシュ、そして、エイル達に向かって元気に手を振るアレクスが乗っていた。
「エイルさーん!やりました!俺達、アイツを倒しました!」
「ああ!良くやった!本当良くやってくれた!」
エイルは骨折の痛みも忘れて声を張り上げ、アレクスを迎えた。
アレクスが持ち帰ったのは、土産話と魔物の触手の一部と疑似餌の部分、それとキールとガルルの冒険者証だった。アレクスとエルミアーナ達の服と身体の赤汚れは、それを何処から拾って来たのかを物語っていた。
冒険者証は、ガルルの物はエルミアーナがミーアに渡し、キールの物はエイル達でキールの家に帰す事になった。これで、キールとガルルを家に帰してやれて、エイルも気持ちに一つの区切りが付いた。
ダンジョン探索の処理は、エルミアーナ達でやってくれることになり、エイル達は、エルミアーナの計らいで、再びホテルカロアリギアの宴会場にお世話になり、仲間を集め、勇者アレクスの冒険譚に耳を傾けるのだった。
48話時点であと4話と書きましたが、削ってまとめたら1話減りました。次がギルド編最終話です。




