第48話 師と同じ世界へ
リッキーに乗ったレオニダスが広間へ飛び込む。レオニダスは武器に剣と弓を携行しているが、主力は槍斧。レオニダスの槍斧は槍の刃と斧の刃が一体になった様な簡素で無骨な形状をしており、武器としての機能を追求した故の美しさがあった。
「ゴブ2!オーク1!キメラ1!ガーゴ4!魚2!」
レオが周囲を確認して、指差しながら敵の種類と数を報告した。事前にオフィーリアが索敵した答え合わせだが、漏れが無い事の確認を受けたエルミアーナが叫んだ。
「変更無し!くれぐれも足元には気を付けろ!敵も二度目だ、慣れている!」
リッキーがゴブリンキメラに向かって駆け出す。レオニダスとリッキーは、ゴブリンキメラに取り付き、弓を封じるのと討伐が仕事。
次にイリシュが突入し、イリシュはガーゴイルと魚の討伐、その後は他に加勢。
その次はアレクスとエルミアーナが入り、ゴブリンナイトとオークナイトが、イリシュの邪魔をしないように対処と討伐。最後にオフィーリアが入り、全体を見て必要なら援護を行う手筈になっている。
ドサッと、矢が刺さったガーゴイルが一体落ちて、レオニダスはリッキーを巧みに操り、リッキーの瞬発力から繰り出す鋭い踏み込みと槍斧の重い攻撃で、キメラを削っていく。
「アーク!右のゴブリンだ!私は左!」
「はい!」
アレクスは右のゴブリンに向かった。ゴブリンはアレクスを迎え討つ為に剣を振り上げる。アレクスもゴブリンを一太刀で斬り伏せる為に剣を振り上げた。
「キアイ!一閃!」
アレクスの一太刀はゴブリンの剣を押し返し、兜を斬り裂き顔面をバックリ斬り付けた。ゴブリンは断末魔の叫びを上げると、パタリと動かなくなった。
エルミアーナは右手に剣を、左手に盾を装備している。エルミアーナはゴブリンの剣を盾で受けて、剣で顔面を一突き───エルミアーナがゴブリンの攻撃を防いだ様にしか見えない無駄の無い動きで、ゴブリンを一突きで仕留めた。
「アーク続け!」
アレクスとエルミアーナは攻めの勢いを殺さず、オークナイトへ向かった。
「アークは右から!コイツの大剣は受けるな!飛ばされる!」
オークの腕力から繰り出されるあの大剣を、真っ向から受け切れる者はここには居ない。だが、受け切れないならば受け流せば良い。
「エリー!コイツは俺がやる!」
「な!?いや、やれ!エイルの技を見せてみろ、アーク!」
アレクスは剣を構え、この後にやらなければならない事を想像する。
『アイツの射程ギリギリを見極めて、攻撃を合せて触手の先っちょから削っていけ』
アレクスは踏み込み、オークの攻撃を誘う。そして、相手の剣を迎え討つのではなく、太刀筋に倣いオークの大剣を払う。エイルから教わった相手の拳を手で軽く叩いて軌道をずらす、格闘技の技術パリング。それを剣に応用する。
アレクスは集中する。剣の軌道を見切り、最小の力でオークの剣をいなす。
アレクスは集中する。左からの横薙ぎを、剣の腹を叩いて上ずらせた。レオはゴブリンキメラの首を飛ばしている。
アレクスは集中する。上からの斬り下ろしを、正面に構えた剣を少し振ることで地面を叩かせた。オフが魚の魔物に魔法を放ち、イリシュは弓でエリーは魔法で、ガーゴイルを狙っている。
アレクスは集中した。アレクスとオークが、剣戟を繰り広げている。他の魔物を掃討した仲間達は、アレクスの戦いを見ていた。
アレクスはアレクスと周囲を見ている。オークの足元を見なくても、オークの足の運びが分かった。注視していなくても、オークの剣の握りがよく分かる。
オークが読み辛い小振りな太刀筋に変えても、オークの足の運びが、手の返しが、視線が、アレクスに次の動きを教え、アレクスはアレクスの身体を的確な運びで動かした。
アレクスには息を吸うように周囲の状況が集まり、吸った息を吐くように対応し、アレクスは自然体と成していた。
アレクスは気合の一振りで、オークの剣をカチ上げ、気合の一振りでオーク両手を斬り落とし、気合の踏切で高く飛び上がった。
「キアイ一閃!」
その最後の一振りは、オークナイトの兜を割った。
「まさか、本当に一人でやってしまうとは······」
「エリー、いつでも俺に加勢できるように気を配ってくれていて、ありがとうございます」
「そこまで見てる余裕が有ったのか······凄えな、俺だってリッキー無しじゃ、オークナイトは倒せないぜ」
「魔法も無しで······信じられないわ」
「très bien!」
皆それぞれの仕事を終えて、あの魔物に立ち向かう場が整った。
ギルド編は後4話です。
次回投稿は来週末になります。R5.7.2




