表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/272

第45話 クロス

 エイルはベルと一緒にパーティーの家を出ると、先ずは銭湯に向かった。入浴を済ませて落ち合い、エイルの隣を歩く風呂上がりのベルからは、いつも以上に香水の良い香りを強く感じる。それは、ベルが量を増やした訳では無く、単純に物理的に距離が近くなったからだった。



 アーロイ武具店に着くと、いつもアルミナが作業をしている机に、アレクスがポツンと座っていた。

「いらっしゃいませえ、ごよう───!エイルさん!」

「アレクス、お前······それ、店番か?」

 アレクスは頭をポリポリ搔いて照れ隠しをした。

「今、タングさんとスズちゃんは仕事中で、アルミナさんは、イリシュの髪を編んでやるって奥に行ってしまって───。それより!エイルさんついに復活ですか!」

「ああ······その、なんだ。ベルに叱られて······な?」

「へ?叱ってなんかいませんよ!」

「それは効きそうですね!ところで身体は大丈夫ですか?骨が折れてるって聞いてますけど?」


 エイルはベルの手前、格好つけて平静を装っているが、実のところめちゃくちゃ痛い。

「『心頭滅却すれば火もまた涼し』、『心頭』、即ち自己を、『滅却』、消し去ってしまえば、痛みを感じる事はない。『自然体』の極意、『無念無想の境地』だ」

「シントー?······ムソー?」

「シゼンタイは痩せ我慢ですね!······痛いんじゃないですか!?安静にしてください!」

 エイルは痛みを紛らわせるついでに、適当な事を並べてみるが、ベルに見事に図星を突かれてしまった。


「───アレクス、ベルから聞いている。ギルドには、このパーティー名義で借金があるからパーティーの解散は出来ない。だからお前だけがこのパーティーを抜けて、エリーのところへ行け。彼女なら、イリシュの所有権の移譲も上手いことやってくれる筈だ」

「そうか、借金の事を失念していました。すいませんエイルさん!ありがとうございます!······でも、お金はどうすれば?」

「今後の事は、今回の事が終わったら考えれば良い。金をどうするかとか、そんな事は今は気にするな、次はお前が死ぬぞ。戦いの場では集中して雑念は捨てろ、自分が生き残る為に必要な情報だけを集めるんだ」

 エイルはアレクスを否定しない。エルミアーナに、アレクスとイリシュと今は戦力にならない自分の思いも託して、キールとガルルの仇を討たせ生還させる。これが今のエイルに出来る最大の助力だった。


「あら?エイル君、元気になったみたいね。良かったわ、ウチの人が出来映えを見せたがっていたの。ちょっと呼んでくるわね」

 奥の部屋からアルミナとイリシュが入って来て、アルミナは工房へタングを呼びに行った。

「エイル、ゲンキ、私ハ嬉シイ」

 イリシュは横髪を三つ編みにして、キールのリボンで飾り付けていた。

「イリシュ、そのリボンはキールのか?似合ってるぞ、良い物を貰ったな」

「アサ、シュナ、ツケテアゲタ。アナタ、見ナイ!」

 そう言ってイリシュは「フン!」と、ヘソを曲げてしまった。


「今朝の稽古のときに、シュナに着けて貰ったんですよ。なのにエイルさんは塞ぎ込んで部屋から出て来ないので······」

「いやあ······済まない。イリシュ、許してくれ!」

 イリシュはカツカツと義足を鳴らし、エイルの目の前まで歩み寄った。

「エイル、アナタ、オトナ、デス。アレクス、ベル、コドモ。アナタノ、ツヨイ、見ル、スル!ヨワイ、見ル、イケナイ!」

 大人のエイルは見本となって、子供達に弱いところを見せるな。そう言いたいのだろうとエイルは理解した。

「もう弱音は吐かない。約束だ」

「ヤクソク?」

 エイルは小指を出してイリシュの小指と絡め、指切りをした。それを面白がったイリシュによって、エイルはアレクスとベルともヤクソクの指切りをやらされた。


「もう終わりましたか?」

 工房の扉からスズが顔を出し、エイル達の様子を伺っていた。約束の儀式が終わった事を伝えると、スズに続いてタングが例の武器を持って入って来た。

 机の上に2つの物を乱暴に投げ上げると、自分は椅子によじ登った。エイルは黙っている。扱いの雑さを指摘しても、「この程度でぶっ壊れるモンが実戦で使えるか!」と逆に怒られるだけだと知っていた。


「オウ!エイル。弄ってみてくれ」

 エイルはタングに頷き、その武器の一つを手に取った。外観は、指先から上腕を包める革の手甲の手のひら側に、短弓が金具でしっかり固定されている。この革の手甲を紐で締め上げ固定すれば、物を掴めないイリシュでも弓を保持する事が出来る。そして手甲の上腕の外側部分には、何かの接続用の構造物が付いていた。


 もう一つ、こちらは重く、弓自体が鉄で出来ている。イリシュの義足にも使ったバネ鋼を、アーチ状にして弦を張ってあり、この弦を引くのがピニオンとラックの機構だ。かなりゴツい構造になっていて、これの重量の殆どはこの部分が占めている。

 ピニオンをハンドルで回せば、ラックが弦を引く構造になっており、トリガーは逆転防止の爪が兼用して、横に引き抜く事で矢を発射する。エイルの前世で『重孥(クロスボウ)』に属するだろう武器だった。


「完璧ですね!試射はしましたか?」

「当たりめえだ!装備して撃ってみろ!」

 エイルは、使用者のイリシュに見せながら武器を組み立てる。先ずは紐で手甲を腕にしっかり固定し、手甲側の楔形状の雌型の溝に、重孥の雄型をはめ込んで、ネジでガッチリ押さえ付ける。

 ヒビの入った右腕では回せないので、ハンドルはイリシュに回してもらう。カチカチ、カチカチ、と爪がピニオンの歯に噛む音が鳴り、ラックの爪が弦を引く。カチ···カチ···と、音の感覚が長くなって、ハンドルを回せない程重くなれば、巻き上げ完了だ。


「エイル、矢はコイツだ」

 タングが取り出したのは、投擲槍の柄に羽根を付けた、矢を単純に投擲槍で代用させたモノだった。

「それで的はコイツだ」

 続けてタングは、床に無造作に転がっていた鎧を起こした。その鎧の胸には、背中まで貫通した孔が穿たれている。

「一発ぶっ放してみたらこの通りよ!鎧を貫通して、壁にも穴開けて、弓の固定台もへし折れちまった!人の腕がぶっ壊れ無い威力まで落としたとつもりだから、狙いを付けて撃って見てくれ!」


(マジか?···落としたつもりって、俺で実験する気か!?······大丈夫なのか?)

「エイル!撃ツ、早ク!」

 イリシュに急かされエイルは覚悟を決め、重孥に弾をセットして、的に照準を付けた。

 エイルは逆転防止爪の脱落防止ピンを抜いて、トリガーとなる引き抜き用の紐をイリシュ渡した。

「いいか?1、2、3抜く!······良い?大丈夫?」

「ダイジョブ!」

(······絶対大丈夫じゃない)

 

「いくぞ?───1!───2!───さ『ジャゴン!』ぃってえええええ!」

 鎧と矢の鉄と鉄とが激しくぶつかる音、折れた肋骨に衝撃が響き、上がるエイルの絶叫。胸から槍を生やして転がる鎧。胸を押さえ、痛みを堪えるエイル。

「良し!鎧は貫けるぞ!完成だ!」

「お父さん!ラックが抜け落ちて無い!この構造で大丈夫だよ!」

「あ!良いこと思い付いたわ。このラックの先端に杭を付けるの。そうすれば打突武器としても使えるわ!」

「お母さん!それ良い!お父さん直ぐにつけようよ!ね?」

「良い案だ!暇を見て作って見るか!」

「「······」」

 アレクスも、ベルも、イリシュですら、そしてエイルは痛みも忘れて絶句した。親子───紛れもなく、このアーロイ武具店の親子だった。


 その後、イリシュが何度か試射をして、使用感覚と衝撃を体に慣らし、改善の要求を伝えた。イリシュの武器の調整と、アレクスの剣の研磨も終わり、精算をしようとすると、タングがアレクスを止めた。

「今回は死んだら代金はいらねえ。使用者が死んだら、それは俺達が不良品を納めたからだ。だから、きっちりキールの仇討って金払いに来い」

 アレクスはその言葉を受け止め、深く頭を下げた。


「アレクス君、ちょっと待ってね。ほら、スズ、早く言い出さないからアレクス君、格好付かないわよ」

 アルミナに背中をドンと押されたスズは、手の中に隠していた物をアレクスに見せた。

「あ、あの、アレクスさん!これ、ドワーフの国で、安全の意味を持ったお花の飾りです!アレクスさんを守ってくれるように、願いを込めて打ちました!剣を貸して貰っても良いですか?」

 スズの手には、細い花弁が十字に開いた銀細工の花が乗っていた。アレクスが剣を渡すと、スズは鞘の飾り紐のところへ花飾りを括り付けた。

「アレクスさん、無事に帰って来て下さい!」

「ありがとうスズちゃん。───約束だ」

 アレクスはしゃがんでスズの手を取り、小指を絡めると、覚えたばかりの指切りの儀式を行った。


 エイル達はアーロイ武具店を後にして、パーティーの家に戻り、明日の為に早めに睡眠を取った。



 翌朝、エイル達はいつもの稽古に、エイルがまだ走れない為、歩いて向かった。

「シュナ、果物ありがとう。オルフとファルにも伝えてくれ」

「どういたしまして。オルフとファルには自分で伝えてよ。どーせ後で会うんだから」

 シュナとティムと合流して稽古を始めた。元気なのが二人もいなくなったので、寂しい気持ちは拭えないが、それも受け入れて行くしかない。


「さて、アレクス。アイツの事だが、金剛に頼るな。俺からはこんな程度の事しか伝えられないが、金剛である程度外側は守れても、身体の内側はしっかりダメージを受けてしまう。だから、基本に忠実に“避けて当てる”それを徹底するんだ」

 大型の魔物を相手にすれば、脆弱な人の身体など鎧を着たとて一溜まりもない。なのでリーチの長い武器、遠距離攻撃の武器、そして魔法を発展させて来た。


「エリーも決着は大魔法で狙う筈だ。それまでアイツの射程ギリギリを見極めて、攻撃を合せて触手の先っちょから削っていけ!───最初の幻覚は、そこはエリー達も引っ掛かるかも知れない。だからアレクスの直感を信じて、エリーを助けてやれ!───俺からはこんな程度のことしか言えないが、アレクスならやれる!」

「はい!あの触手を切り落として、お土産に持って来ますよ!」

 アレクスがグッと拳を握り、力こぶを作って見せると、シュナが突付いて掴んで「硬い」「大きい」「逞しい」等、男心を刺激する言葉でアレクスを奮い立たせ、遊び始めた。


「エイルさん、アレクス。私からも伝えたい事があるの······」

 このあとベルの口から語られた事は、まだ憶測の域を出ないが、気の特性を示唆する内容だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ