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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第41話 責務

「ベル!ガルルはどこ?外に居るんでしょ?」

 アレクスもベルも何も言えないでいる。ミーアは、アレクスとベルに何度も食って掛かるが、二人は「我が身可愛さにキールとガルルを見捨てて来た」それをどう伝えるか言葉が浮かばず時間だけが過ぎ去って行く。


「エリー、ダンジョンに行ったパーティーが帰ってきたみたいよ」

 声の主は、出入り口の扉から顔を覗かせている鳥人種の女だった。

「ありがとうオフ。一緒に入って来てくれ」

 エルミアーナが返事をすると、オフと呼ばれた藍色の翼の鳥人種の女と、どちらもエイルに負けず劣らずの屈強な体格の人間種の男二人が入って来た。その後に続き、暗い顔のロック達が拠点の中に入り、エルミアーナを視界に入れるなり、背筋を伸ばして姿勢を正した。


「ご苦労様、君達も座って体を休まなさい」

 ロック達もそれぞれ丸太の長椅子に腰掛けた。アレクス達と顔を合わせようとしない事から、大体想像はついてしまう。

「ガルルは!?ガルルは一緒じゃないの?一緒に帰ってきたんでしょ?」

 ミーアがパナテスに詰め寄った。アレクスにもミーアの気持ちは分かる。分かるが───

(もういい加減にしてくれよ!なんでキールの名前を出してくれないんだ!)

 アレクスのミーアに対する憐れみの感情は、今はもう怒りに変わってきていた。


「パナテス、ダンジョンでキールとガルルの遺品は確認出来たか?」

 アレクスの溜まっていた怒りが一瞬で冷めた。「あの女には情けが無いのか?」そう思ってしまう程の衝撃だった。

「なんでそんな事言うんだよー!」

 場は更に凍り付いた。

「ガルルはまだ待ってるんだよー!」

 ミーアは脚を引き摺って、エルミアーナに近付いて行く。頭に血が登ってしまって、慌てる周りの様子も目に入らず、誰に向かって行っているかも気付いていなかった。

「だったらその翼で飛んで行けば良い。ミーア、君も理解をしているんだろう?だから行かない。現実逃避の優しい言葉を掛けて貰いたいだけだ」

「ぅ、うあぁ······ふざけるな!ガルルは死んでない!」

「おい待て!駄目だミーア!」


 アレクスが手を伸ばすが間に合わず、ミーアはエルミアーナの襟を掴んだ。

「ガルルは死んでない!生きてるんだよおぉ······待ってるんだよぉ······生きてるって言ってよお!」

 ミーアがそのまま捲し立てているが、エルミアーナの護衛も兼ねている仲間は動こうとしなかった。

 仲間に静止の合図を送くっていたエルミアーナの手が、ゆっくりと上げられ、ミーアを優しく抱き抱えた。

「君とガルルは父の視察に同行した時に見たことがある。ガルルは幼少から君と一緒に育って、大きくなってからは村を害獣から守ってくれていた。サリ村のブドウの収穫量が安定しているのは、ガルルの活躍のお陰だった」

「え?······貴女は、まさか───」

 ミーアが襟から手を放し、その場にへたり込んだ。

「私の顔が領民に知られていないのは、公務を父と兄弟に任せきりで、世界を遊び歩いていたからだな」

「ごめんなさい!ごめんなさい!お父さんとお母さんには罰を与えないで下さい!」

 ミーアも一気に熱が冷めた様だが、アレクス達には、もう事の顛末を見守る事しか出来ない。

「罰か、そうだな······何も無しでは他の領民に示しが付かんからな。まあ、今は大人しく話を聞くことだ」

 呆然としているミーアを、アレクスはベルと二人がかりで丸太の長椅子まで移動させた。


「さて、パナテス。遺品の事を聞いた途中だったな」

「あ、は、はい!ロックあれを······」

 パナテスに言われて、ロックがリュックから布に包まれた物を取り出した。

「アレクス、これ······キールの槍だ。昨日見せてもらって憶えてる。これ······『スズ·アーロイ』この刻印の反対側に、エル······フの文字······『キール』って、そこのエルフに······彫ってもら······って、自慢してたんだ!」

 アレクスはロックからソレを受け取った。相当な負荷が掛かったのか、柄は割れて、折れ曲がった茎が剥き出しになっている。こんな状態でも刃は健在で、目釘隠しの銅板には、制作者のスズの銘が彫刻されていて、その裏にはイリシュがエルフ文字で、『キール』とキズを付けた跡が確かに付いていた。

「ミーアちゃん、ごめん······ガルルのものは見つけられなかった。奥までは探せなかった。何かデカいものが近付いてくる気配がして、それで······探せなかった」

 ベルが、イリシュが、そしてミーアも声を出して泣いた。現実を見せられてしまった。


 アレクスは知っていた。分かっていた。決着は直ぐに着いていた。キールとガルルは直ぐに捕まっていた。戦いになっていなかったのだ。

「キール······俺だった───」

「おい!」

「お前がいき───」

「おい!止めろ!」

 バチン!と、エルミアーナがアレクスの頬を打った。

「アレクス、後悔はするな。お前達は最善を尽くした。ダンジョンの情報を持ち帰る事が出来た。後悔は託した者への侮辱と思え───」

 そう言ってエルミアーナは、上衣のシャツのボタンを外していく。アレクスは、エルミアーナの着ける見た事もない異国の下着の向こう、肩から腹へと掛かる大きな瘢痕に、目が釘付けになった。

「胸の傷痕は仲間が盾になってくれて、この程度で済んだ傷だ」

 エルミアーナはシャツを捲って脇腹を見せる。

「この腹の傷痕は、仲間の忠告を無視して魔物に抉られた傷だ。その後仲間は私を庇い、私を逃がす為に戦い全滅したよ。失った仲間は全部で8人いる。皆の命は神に拾われ、新しい命として再び世界に蒔かれただろう。だが、意志を拾うのは託された者だ。アレクス、キールは君に何を託した?」

 キールは、イリシュにプレゼントを渡せと、生還して次に繋げろと、アレクスに託した。ガルルもミーアをアレクスとベルに託して言った───

「キールは俺に······俺達に生きろと言いました。ガルルも一緒です。俺達は生きなければいけません」


 エルミアーナは暫くアレクスと目を合わせてから、記録を取っていた職員に身体を向けた。

「次は私達がダンジョンへ入る。順番の調整をしておけ」

 次にアレクスの方を向いて言った。

「明日は家族に報告する事が有る。長話しになるだろうから、ダンジョンアタックの準備は仲間が進める。アレクス、明後日だ。明後日、私達はダンジョンへ入りその魔物を討つ。アレクス、ベルカノール、ミーア、君達が持ち帰った貴重な情報を、何も知らぬ私達に教えてくれ」

 

 魔物についての報告が済み、まだ目を覚まさないエイルを、エルミアーナ達の馬車に乗せて町へ帰る事になった。

「エイルが気を失うなんて始めて聞いたな」

 そう言ってエイルを馬車まで運んだのは、エイルと幼馴染のヘリオだった。

 エイルとミーアとイリシュ、それとエルミアーナが馬車に乗り、アレクス達残りのメンバーは馬車に並んで歩いた。


 道中、ヘリオから「エイルは幼少の頃、転け方が上手くて怪我が少なかった」とか、「いざ喧嘩になったときは、我慢強くて、攻勢に出ればあっさり勝負をつけた」とか、「よく新しい遊びを提供してくれた」とか、エイルの昔話を聞きながら町へ帰還した。

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