第36話 二巡目
あれから3日経って順番が一巡し、それから特に順番を入れ変える事無く2日経ち、これからエイル達は2回目のダンジョンアタックに挑む。
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アレクスのパーティーが帰還した後のダンジョン探索の進捗は、フォスが小鳥や小動物の魔獣を使って、ダンジョン内の大まかなマップの制作に貢献した。
何匹か帰って来なかったものもいたり、魔獣からの伝言をフォスが視覚的に上手く説明出来なかったため、漠然とではあるがダンジョンの形状が判明した。
狭い通路の方は、途中でエイル達が見つけた狭い出入り口に繋がる縦穴と、ダンジョンの奥へ繋がる通路に分岐していた。
広い通路はそのまま一本道で、その先は鳥人も鳥型魔獣も羽を伸ばせる程の広い空間になっているようだ。
その空間で狭い通路と合流し、その奥にはまだダンジョンが続いていると予想されるが、まだ確認は取れていない。
9番のデュオセオスのパーティーは、狭い通路内で鉱脈を発見して持ち帰り、現在鉱石としての性質と価値を鑑定中だ。
10番のカマッセの所属するパーティーは、狭い通路経由で広間まで出て、負傷者を出しながらも、そこの空間の状況を持ち帰った。地に足が着いている魔物は、甲冑系の魔物ばかりで、飛行能力を持った有翼のゴブリン『ガーゴイル』も確認したのと、その空間には地面の棘が無い事が確認できた。
そして12番の取りのオルフのパーティーは、大型魔獣の中でも小柄なティムを絡めた連携で、オークナイトやゴブリンキメラを征して広間へ抜け、カマッセ達の情報の裏付けを取った。広間の中に踏み込むと、魔物達に一斉に視線を向けられ、全力で逃げ帰った。
そして二巡目の1番のアンドレ達からは、広間から魔物を誘き出して数を減らす作業が始まっていた。
エイル達は二巡目の挑戦に向かうために、パナテス達と一緒に拠点へ前日入りした。今回はガルルも同行するし、フォスもマブロを連れて行く。
イリシュは激しい動きをすると転んだり、言葉の理解が足りないので連携が取れなかったり、武器もアレクスのお下がりだけというのもあって、今回は拠点で待機をする事になった。
夜は皆で火を囲み、パナテスが持参した酒を酌み交わし、朝は日課の朝稽古を行う。今朝のギャラリーはパナテスのパーティーと、ギルドの職員3人だった。
後半の稽古は、アレクスとキールはイリシュに枝を投げてもらい、キールは槍を、アレクスはスズが鍛えた新しい剣を振った。
アレクスの新しい剣は、柄は使い慣れた物をそのまま使い、使用者の力と体幹が向上したことで、剣身を従来の物より1割程度長くして重量を増加し、無理のない範囲で攻撃力の強化が図られた。
刃はキールの槍と同じく質の良い鋼を使い、鋭いエッジは手入れを怠ってもある程度保たれる。自力で刃を研ぎ付けることも出来るが、「あまり刃を立て過ぎると、大きく欠けるようになってしまう」様で、その塩梅はプロのコツが有るようだ。
ベルとミーアは、ミーアが飛んで布のお手玉を投げ、ベルはそれを回避か防御をする。ガーゴイルの攻撃手段が、上空からの石や武器の投擲らしいので、その対策としての回避と防御の特訓であった。
「フォスさん、後でマブロにあれを頼んでも良いですか?」
「あれと言いますと?───上から石を落とせば良いのですか?」
「い、石?あれは布を丸めた球ですよ!エイル
さーん、その球後で貸して下さーい!」
パナテス達も後でこの特訓を行うようで、パナテスは、ガルルとマブロに挟まれ窮屈そうにしているフォスと、特訓の段取りの相談を始めた。
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そしてアレクスのパーティーは再びダンジョンに踏み込んだ。イリシュをパナテスのパーティーに預け、アレクスとキールを先頭にエイルが続き、荷物を積んだガルルとミーアとベルが後についた。
通路は整地されたと言っても、まだ小さい棘は見逃されて残っており、底の薄い靴では歩けたものではない。鉄綿花の靴を履いたガルルは、足に被せられた異物に不快な表情を浮かべているが、お陰様で足を傷付ける事無く進んでいる。
「砕いた棘が綺麗に無くなってる?ダンジョンが食って、また生えてくるとかか?」
「あー?なんか、心無しか新しい棘が出て来てねーか?」
「えー!?折角綺麗にしたのにまた生えるのは嫌だよー!」
人の鼻毛が抜いても抜いても生えて来るように、この棘もまた生えてくるのだろう。侵入者を拒む為に棘が有るのだろうが、身の危険を省みず、好奇心で侵入してくる人類に目を付けられたのが、ダンジョンコアさんの運の尽きだった。
「ウゥ!ガルウ!」
「お?ガルル敵か?投擲槍をくれ!」
キールは隣に付いたガルルの荷から、投擲槍を抜き取り構えて進んで行く。
「ん?ゴブリンナイトだ。キール、ここは俺達でやるぞ!」
アレクスとキールはゴブリンナイト程度なら、もう危なげ無く任せられる程度に成長していた。このあとも数体のゴブリンナイトと遭遇したが、アレクスとキールで難無く処理していった。
「ゴブリンばっかっすね?」
「きっと立場の弱いゴブリンが外に追いやられているんだろう?」
「魔物の社会も厳しいっすね!」
そしていよいよ通路の先に例の広間が見えてきた。オークナイトが悠々と歩いているのが見えるが、手前側にしかフロートランプが浮いておらず、奥の方は真っ暗で、広間の空間を把握する事は叶わなかった。
「キール、エイルさん、先ず俺達3人が飛び込んで状況を確認します。それからミーアが入って、ベルはガルルの靴を外してから入ってくれ」
アレクスはメンバーからそれぞれ了解の旨が返って来ると、剣を両手でしっかり握り大きく深呼吸をした。
「良し!それじゃあ、キール!エイルさん!行くぞぉぉ!」
キールとエイルは、アレクスの無駄に大きい掛け声に続いて駆け出した。
広間に踏み込むと、多くの魔物からの視線の圧を感じられた。広間の奥行きは暗くて良く見えないが、まるでドーム球場───とは行かないまでも、かなり広いその空間の地面には棘は無く、水がチョロチョロ流れて、狭い通路の方に流れ込んでいる。
「ギィ!ギィー!」
天井から鳴き声と共に、有翼のゴブリン『ガーゴイル』が騒がしく飛び立った。武器として使う石を拾いに地面に下りたガーゴイルの姿は、ガリガリの貧弱なゴブリンの背中に、コウモリの被膜翼を取り付けた見た目だった。
ガーゴイルは貧弱な腕で拳大の石を両手に1つずつ掴み、3体の合計で6発の投石をエイル達の頭上へ運ぶ。
「キール、落とせるか?」
「いやぁ、上に投げるのって難しいっすわ」
キールはガーゴイルからの投石を警戒しつつ投擲の姿勢を取るが、上手く狙いを付けられないでいた。
「私が戦うよ!何体?」
「3体だ!ミーア、無茶するなよ!」
アレクスは飛び出したミーアに敵の数を伝えた。
「お!ミーア漸く飛べるな!頑張れよ!」
キールは自由に羽撃ける様になったミーアを応援した。
「ミーア、しっかり狙って射てよ───ん?」
「「ってミーア武器は!!?」」
ミーアは手ぶらだった。




