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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第33話 それは最も使われている魔法

 ピクピク痙攣するオークナイトに、キールが一突き入れて止めを刺した。


「この為に鍛えた技だけど、これはちょっと酷いな······ナンマンダブ、ナンマンダブ······」

「何ですか手を合わせて?ナンマン······?」

「お祈りでしょうか?」

「指を組まないのー?」

「そうっすよ。指を組まないと“ちゃんとしないと次は魔物になるぞ”って、親に怒られるっすよ」

 エイルがついつい手を合わせ、念仏を唱えると、案の定アレクス達の視線を集めてしまった。

「あー、これは······そうそれ!格闘家式の死者へのお祈りだ!」


 エヴィメリア国の宗教では、霊は世界に一定で、基本は同じ種で輪廻を繰り返すとされている。人は人、虫は虫。魔物は魔物───

 人はまた同じ家族になれるように。パートナーの魔獣や、ペットや家畜も、また同じ飼い主のところへ戻って来れる様に祈るのが、ここの輪廻転生の考え方だ。犯罪抑止の為か何なのか「罪を重ねると魔物の霊に落ちる」とも教えられている。

 

「エイルさんは教会の人なのー?」

「俺はただの農家の人だ。これは自分自身が殺戮の化身にならない様にするための、格闘家の心の儀式だ。命を奪ってしまったなら、せめて次の世では幸せになれますようにと······はい、ナンマンダブ、ナンマンダブ───」

「「ナンマンダーナンマンダー───」」

 アレクス達もエイルと一緒になって、良く分からない呪文を唱えて手を合わせた。アレクス達の世代にとって、神話はエロコンテンツであり、あまり信心深くはない。生活様式は神話を根幹にする教会の教えに従うが、そこにプラスαされる程度の事には、信仰心より興味の方が勝る。

 ギルドが勢力を広めてからは、教会の影響力と信仰心が下がって、神に奇跡を祈るより天啓の儀で適職を知り、自分の力に自信を持つ者が多くなっていた。教会としてはギルドは気に入らない相手であるが、生活、心情の根底は教会の神話の教えに依る所のものなので、商売敵にはなっていなかった。



 エイル達は、またひたすら棘を叩き割りながら通路の奥へ進んで行く。カンカン!と鳴る金槌の音に紛れて、カシャカシャと鉄の擦れる音と一緒に、コッコッと杖をつくような音が混じって聞こえてきた。

「大きいのが1体です······でも、オークとは形が違う様な気がします。何でしょう?下が広く大きくて······何かが乗っている?」

 気配に気付いたベルが、誰に言われるでもなく索敵をしていた。しかし内容は不確かで、今までに見た事が無い形状の魔物がいる様だ。

「また、石投げて見ますか?」

「いや、止めておこう。デカイのが全力で走って来たら······怖い」

「「賛成!!!!」」


 退路確認の為、ベルは出口側の索敵に注意を向け、エイル達は通路の奥側へ注意を向ける。正体不明の魔物もエイル達を警戒してか歩みが遅い。そして、お互いがゆっくりと、遂に顔を合わせる事になった。

 敵はアーマースパイダーの様な魔物······の頭に、鎧を纏った人の形をした上半身が乗っていて、頭はフルフェイスの兜で完全に守られている。

「エイルさん!あの鎧、ゴブリンナイトが着ていたのと一緒じゃないですか!?」

「ああ、そうだな。アレの中身はゴブリンなのか?」

 鎧は同一で、背格好も同じに見える。違いはフルフェイスなのと、下半身がアーマースパイダーになっている事だ。アーマースパイダーにゴブリンが乗っている訳では無く、生えている。その場合の主導権───脳ミソはどっちのを使っているのだろうか。


「全員戦闘準備だ!上のヒト型の部分が飾りと願いたいが、あいつの腰······弓と矢筒が付いていないか?」

 エイルの言葉で全員が敵の弓矢を確認し、緊張が走った。遮蔽物も逃げ場も無い場所で、ガチガチに防御を固めた正に重戦車からの一方的な攻撃が想像できてしまったからだ。

 只突っ立って居る訳にもいかないので、一か八かミーアが翼を広げて威嚇をすると、敵も両の手を腰に回して、手慣れた動作で矢を番え、間髪入れずに矢を射った。


 エイルは飛んできた矢に手刀を叩きこんだ。しかし、その矢は只の矢ではなく、鏃から羽根、矢筈まで鋼鉄の一体型の矢だった。

 ケツを叩かれた矢は、クルクルと力無く回転してミーアの方へ飛んで行く。ミーアは金剛·盾を使った翼で受け、鏃はミーアの翼の羽枝をハラハラと散らせて地面に落ちた。

「ミーア!大丈夫か!?」

「ちゃんと稽古していて助かったよぅ······。ごめんなさい、私何も出来ないよ······」

「気にするな!アイツの頭は人型の方の様だな!アレクス、キールも俺の後ろに来い!矢は俺が落とす!」

 敵の脚が早くないのがせめてもの救いだった。矢の軌道を読んで正確に迎撃出来る距離にも限度がある。

 金剛で矢を防げる保証も無く、エイルは射られる矢を叩き落とし、距離を保って後退しながら仕留める方法を考えた。

「───ベル、あの上のヤツを氷らせて隙を作れるか?」

「はい!時間が掛かりますが、確実に凍らせて動きを止めます!暫く矢を凌いで下さい!」

 ベルの手のひらから、ヒュゥゥと冷気が敵に向かって走り、甲冑に薄っすら霜を付け、次第に重なり魔物の人型の部分を靄で包んでいく。エイルはその間も、矢継ぎ早に飛んでくる矢を手刀で落とす。地味な絵面だが、集中を切らせばその時点でお仕舞だ。


 ───アーマースパイダーの頭にくっついている人型が、ポロッ······と矢を落とした。氷の層が厚くなり、鎧の可動域を圧迫し始めたのと、芯までじっくり冷やされた筋肉が動かし辛くなっていた。

 瞬間凍結では表面くらいしか凍らず、今朝エイルにやったように氷で固めるのも、氷を割られてしまえばそれまでだ。ベルが子供の頃からやってきた氷室のメンテナンス。その生活魔法の応用が、今、人型の動きを完全に止めた。

「行くぞ!」

 アレクスとキールに合図を送り、エイルは魔物に向かい駆け出した。魔物はまだ自由が効く2本の腕の爪でエイルを迎え撃つ。

「邪魔すんな!」

「これでも挟んでろ!」

 アレクスとキールがそれぞれの爪に刃を噛ませ、エイルの道を確保する。エイルはトップスピードのまま踏切り体を半回転。スピードと体重と遠心力に気合いを上乗せし、人型が必死に上げたガードの両腕諸共、跳び後ろ蹴りを顔面に叩き込んだ。


 エイルの蹴りが兜を打ち抜くと、魔物の下の部分の力が抜けて崩れ落ち、頚椎の支えを失った頭がプラプラと揺れていた。

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