第31話 景気付け
ギルドで抽選があった日の翌日。1番のアンドレとキネカのパーティーがダンジョンに踏み入った事で、とうとう本格的にダンジョンアタックが始まった。
町からダンジョンまでの道程は2時間程度歩く事になる。なのでアンドレ達は前線拠点へ前日入りし、翌日から万全の体制で挑んだ。
二人はただのバカップルではない。オルフとファルの様な国内を回らないファッションBランクと違って、国内を回って多くの経験を積んでいる。そんな二人のアタックが今後の指標になって来るだろう。
二人が戻って来たのは約三時間後くらいだった。大怪我は負っていないものの、簡単な手当ては何ヶ所かされていた。
報告では───
ダンジョン内は光る魚が飛んでいて、光量は何とか確保されているが、触ると破裂して臭いから触るな。
壁や床が鋭利な棘になっている。ある程度進むと広い通路と狭い通路に別れていて、広い通路の方にはゴブリンやオークの姿が見られ、狭い方は魚型の魔物が見られた。
ダンジョン内の好戦的な魔物は、壁の棘から自身を守るために、鎧や硬い鱗を持ったものばかりで、魔力切れは命に関わる。
───となっていた。
その日の午後、2番のCランクパーティーが挑戦し、アンドレ達が討伐した魔物を魚の魔物が食っているのを確認した。透けた体で、膨らんで浮き、光って、破裂すると臭い、『フロートランプ』と名付けられた魔物は、エイル達が発見した魔物だった。
このパーティーは手狭な通路でオークナイトと交戦し、倒し切れず逃げて戻って来たようだ。
「以上が現在前線拠点からもらっている報告です。最新のものは前線拠点の出張所で確認して下さい。くれぐれもご安全に、皆さんどうかご無事で」
エイル達は、アンナから1番2番のパーティーが持ち帰った情報を聞き、前日入りするために前線拠点へ向かった。
今は昼の4、エイル的には午後4時だろうか。前線拠点に着き、エイルで一つ、アレクスとキールで一つ、ベルとミーアで一つテントを借りて荷を下ろした。イリシュは容態の経過観察も兼ねてアンナの家に預け、ガルルは地面の棘で怪我をしない様に、鉄綿花の靴をタングに発注してあり、今回は採寸の為に町に待機している。
昨日今日で、昼前と昼後でダンジョンに入るというローカルルールが出来ていて、今は4番のパーティーがダンジョンに入っている。そして6番のパナテス達のパーティーも早々に到着した。
アレクスとキールは同級生のロックと話を始めて、エイル達3人は、パナテス、ニーノ、ジミーともう一人、肩に小鳥型魔獣を乗せた犬型獣人の女性と話をした。
黒の体毛に両目を覆う白の布が良く映えているこの女性は、エイルは名前は知らないが、ギルドで何度か見た事があった。
「パナテス、そちらの女性は?」
「彼女は、魔獣使いの募集に応えてくれた、ソロでCランクの魔獣使いの『フォス』さんです」
両目を布で覆った獣人のフォスは、目以外の感覚が発達しているのか、しっかりとエイルの方を向いて会釈をした。エイルも会釈を返してから、言葉をかける。
「フォスさんと仰るのですね。私も以前はソロで活動していました。Cランクの格闘家エイルと申します」
「カクトーカのエイルさんのお話は耳にしております。私は生まれつき目が見えないようで、お姿を見る事ができず申し訳ありません」
「いえいえ、そんな私などお見苦しい限りです。ところでCランクということは、ゴブリンを倒していらっしゃるのですか?」
「はい、一応は。───少し失礼します。ホォー!ホォー!」
フォスに呼ばれ森の中から飛んできたのは、灰色の大型の鳥型魔獣。ダルマの様な目力の有る大きな目と、広げた翼にも有る巨大な目の模様が特徴の、巨眼鳥と呼ばれる魔獣がフォスの隣に下り立った。
「マブロ挨拶をして下さい。───私はランクには興味が無かったのですが、害獣駆除の依頼の際に、マブロがゴブリンというのを倒してしまい、ランクがCになってしまいました」
「この子はマブロって言うの?町の外で見たことがあるよー!マブロー、私はミーアだよー」
「あら?元気な鳥人の女の子ね。獣の匂い······魔獣使いかしら?」
4番のパーティーはダンジョンから戻ると出張所で報告を行い、それなりの怪我を負っていた為、ちゃんとした治療を受けるために町へ急いだ。
晩御飯はパナテスのパーティーと一緒に食べて、フォスに懐いたミーアは、自分達のテントにフォスを呼んで一晩明かした。
「手と脚を動かしているのかしら?面白い事をするのね」
エイルは今朝の稽古は自分だけでも良いと思っていたが、結局全員起きて来て、おまけにフォスと──
「外に出るって言うから何事かと思ったが、何やってるんだ、それ?」
──出入り口が出張所と一緒になっているので、夜勤のギルド職員が見学に付いてきた。基本の稽古を終えたところで、エイルは景気付けにと、全員と模擬戦をすることにした。
「セヤ!───ハッ!」
アレクスの武器は鞘を被せた剣を使い、体幹が鍛えられたアレクスは、安定した動作から次へ繋げる動きが出来るようになっていた。隙が無く、エイルと言えど下手に踏み込めば相討ちを覚悟しなければならない。
「アレクス蹴るぞ!手に金剛を掛けれる様にしろ!」
エイルはアレクスが袈裟に振り抜き切り返すところへ、鍔に引っ掛ける形で足刀を入れた。剣を蹴り飛ばされ、隙だらけになったアレクスの頬を、エイルはペシと平手で軽く打った。
「うわー!参りました!」
「上達したな!本気で動かないと、もう捉えられないぞ」
キールも槍に鞘を付けての模擬戦だ。はっきり言って強い。高速の連続突きと穂と石突の波状攻撃には、エイルは防戦一方になるしか無かった。柄を叩き折って武器破壊をすれば勝てるだろうが、これから使う武器をブッ壊す訳にはいかない。ならば、エイルが狙うのは───
「ッシャア!」
「フンッ!」
穂と石突の変則攻撃。それのエイルの顎目掛けて繰り出された石突によるアッパー。そこへ合わせた金剛·功による気合の入った頭突きは「ゴッ!」っと重く鈍い音を立て、キールの握る槍を押し込んだ。
最良の握りを強制的にずらされたキールは、とうとう隙を晒す事になった。
「っげ!ああ〜、調子良かったんだけどな!」
「キール文句無しだ。お前達と稽古をしていなければ、俺は今お前に勝てなかったよ」
エイルは体勢を立て直せないキールの胸を貫手で軽く突いて一本を取った。
「今もの凄い音が聞こえましたが、大丈夫なのですか!?」
「なんか大丈夫そうだぞ?あれが百人殺しのエイルか······人間じゃねえな」
次はミーア、弓だとエイルの回避の訓練にしかならないので格闘戦だ。
ミーアは普段の組手と同じ様に、エイルの頭上か背後を取るように立ち回っている。このまま逃げ続けていればミーアは疲れて下りて来るだろうが、エイルとしてはそれはプライドが許さなかった。
エイルは正々堂々とミーアを空中で征するつもりだ。ミーアが頭上を取りに来る。そこへ気合いのジャンプ───
「きゃあ!え!ええ!?」
垂直に大ジャンプして、ミーアの両脇に腕を差し、背中で手を組んでロックする───ベアハッグだ。
そのままストンと着地すると、ミーアは地に足が着かずバタバタ暴れた。
「エイルさん!恥ずかしいよー負けで良いよー!」
「ミーア、立ち回りが上手かったぞ」
ミーアを放すと、翼で胸を抱いてフォスのところへそそくさと走って行った。
「よしよし、ビックリしたのね」
「いやぁ······あんなに跳べるか?人間辞めてんなー」
次はベルだが、魔力の無駄遣いをさせる訳にもいかず、エイルが「ベルとも格闘戦か?」と考えていると、ベルの方から提案が挙がった。
「エイルさん、少し魔法を使っても良いでしょうか?」
「良いけど、この後の事も考えろよ?」
「心配には及びません。2回だけです!」
そう言ってベルは半歩踏み出しガードを上げた。見た目は格闘戦を挑む形だが、何処かで魔法を使って来るのを、エイルは警戒しなければならない。
エイルもベルも、ガードを固めてジリジリと間合いを詰めていく───ズボッ!
「っうおおお!?」
「魔氷!」
突然地面が陥没し、対応が遅れたエイルの両足が氷で固定され、エイルが策に嵌るや否や、ベルは透かさずエイルに提案した。
「エイルさーん。降参してくれないと魔力が無くなってしまいまーす」
「······参りました」
氷の維持に使う魔力を人質に取られて、エイルは負けを認めざるを得なかった。
「凄いよベルー!エイルさんに勝ったよー!」
「スゲーぜ!セコいけどスゲーぜ!」
「ベル何をやったんだ?それに魔法は2回って!?」
「ああ、食らった俺も意味が分からない。1回目は何をしたんだ?」
「まず、対峙した時点から地面に魔法の土を少しずつ盛っていました。エイルさんがそこに乗ったところで、土の魔法を解除して氷の魔法で足元を固めました。エイルさんには、あの程度の薄い氷は簡単に砕かれてしまうので、降参を持ち掛けたのは賭けでしたが·····。土の魔法は慎重に展開したので、魔力を感じないエイルさんなら絶対に引っ掛ける自信が有りました!」
こうしてエイルは弟子達のそれぞれの成長を実感し、弟子達も大きな自信を付けてダンジョンに挑むのだった。




