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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第29話 女水入らず

 エルフのイリシュがギルドでパーティーとして登録され、男達3人は拠点設営の依頼に向かい、女達3人は町を散歩して回る事にした。


◁◁◁

 キールがイリシュを連れてきたとき、ベルとミーアは恐怖の感情を覚えていた。

 エルフなんて希少な奴隷は高額で、今の自分達ではとても返せないと思った。しかしそれは落ち着いてから思った事で、イリシュを見たときはその異常さに恐怖した。

 タオルを咥えさせられくぐもった奇声を上げ、キールを引っ掻いて、腕を押さえれば身体を擦り付けて、顔を出る限りの体液で汚して、魔物とは違う怖さ、人の悪意ともまた違う、狂ってる───。何かを間違えば自分もこうなるんじゃないかと、そう思うと怖くなってベルとミーアは震えていた。

 淡々とイリシュの身体に刃物を入れるマルコも怖かった。包帯が取られていく毎に露わになるイリシュの身体も怖かった。

 怖いと思う反面、可哀想とも思った。きっと頭の半分以上は髪は生えない───。左手は鳥人の赤ん坊の様で、自分の赤ちゃんにおっぱいをあげる事もできない───。

 イリシュが新しい包帯で巻かれたときは、「キールはこの子を助けたんだ」と思った。しかし、「キールはこの子を助けるべきじゃなかった」とも思った。この子はきっと、このあとずっと苦しい───。苦しんで結局死んでしまう───。そう思っていた。

 稽古のときは気分が楽だった。稽古の事だけに打ち込んで、他の悩み事はその時だけは無くなった。

 エイルからは「集中と執着」の話を以前に聞いていた。第三者の目で自分を中心に捉え、万象一切を受け入れ()()を目指すべきなのだが、今は自分の目で自分の目の前の稽古に()()したかった。


 稽古から戻ると、イリシュは今朝までが嘘の様に落ち着いていた。ミーアが少し話してみた印象は「困ってる」だった。きっといろいろ覚えておらず、自分の状況は?ここは何処か?周りの人はどういう人物か?等、情報を集めている様で、無理矢理スプーンを口に入れられた時は、イリシュはちょっと怒っていた。


 ベルとミーアは散歩だと言って家を出た。ガルルを連れて故郷のサリ村まで長い散歩をした。子供の頃もベルとミーアとガルルは村の果樹園を冒険して遊んでいた。森まで入ったときは怒られた───

「ミーア······このまま逃げちゃおっか?」

「······私は······分からないよ」

「エルフの子、大怪我をしていてもエルフだよ?きっと凄く高いと思う。そんなの、どうやってギルドに払うの?」

「······ごめんね、ベル。私がアレクスに声を掛けたからだよ······私が間違ってたよ」

 16歳の天啓の儀でミーアは魔獣使い。ベルは魔法使いの適職を授かった。授かったと言っても、ミーアはガルルと一緒に育ったし、ベルの魔法の才能はミーアでも分かっていた。しかし16歳までの人生と全然関係無い事を言われる人もいるので、それは不思議だった。


 ミーアはベルを誘って冒険者になった。家族からは反対されたが、家を継ぐのは兄だし、どうせ自分は何れ出て行く。どうせなら町で暮らしたいので、冒険者をやって良い男を見つけたかった。

 ギルドで冒険者として登録して、その流れで剣と槍を持った二人組に声を掛けた。見た目は悪くなかったが、汚れるのは嫌うし、依頼の獣を殺すのをためらうし、頼りなかった。

 アレクスが「四人で家を借りよう」と言ったときは少し身構えたが、結局そんな事は起こらなかった。


 ミーアは信じられなかった。怪我をしたベルを今日会ったばかりの男と一緒に、森に置いてきた事を───

 アレクスに呼ばれギルドに行くと、慌ただしい中にキールを見つけ、咄嗟に怒鳴り付けてしまっていた。しかし、それを遮って二人が声を掛けてきた。

「その子と一緒に居るのは俺の友人だ。あいつなら命に変えても君の友達を守っているさ」

「貴女は確か魔獣使いよね?貴女の魔獣を貸して欲しいの!」

 森の上空に赤い花が咲いた───鳥人の男は直ぐに森へ向かって羽撃いて、ミーアは受付嬢に翼を引っ張られ町から出て、ガルルに乗って森へ向かった。受付嬢は騎士、ミーアよりガルルを上手く使()()()森を駆け抜けた。

 脚を引き摺るベルを見つけて、ベルもミーア達を見つけて叫んだ。

「エイルさんが!エイルさんが一人で!助けて下さい!」


 ベルとミーアは、長い思い出話をしながら、長い散歩をして家まで戻って来た。

「結局、戻って来ちゃった······」

「うん······話をしようよー。パーティーだから······」

「うん······」

 イリシュは何となく変わっていた。目の色が変わったというか、光が入ったというか、生きようとしているのが分かる。ご飯も美味しそうにたくさん食べて、ベルも嬉しく思った。

 治療費の方は驚く程高かったが、イリシュの代金は驚く程安く、心配する程ではなかった。キールとアレクスの実家の物を売って、それでも足りなかったときはエイルの実家の物も売って、それでものときは何とかしてミーアとベルには迷惑を掛けないと、アレクスは言った。

(───男気かな?)

 ベルとミーアもイリシュを支えたい、見守りたいと思っていた。何かそこから除け者にされたみたいで、ちょっと寂しく、ムッとした。だから「代金は報酬払いで折半だ」と言ってやった。


 それからイリシュは目を離す度にどんどん元気になっていった。イリシュはとうとう自分の脚で立って、歩いて、跳ねる事ができた。

 そして、イリシュのパーティー登録は、アレクス達からキールへの贈り物で、これでイリシュは名実ともに仲間になった。デュオセオスからは「奴隷の立場があるから、その辺りはきちんと守るように」と念を押されたので、一緒に飲食店には入れず、公では名前を呼ぶ事も気を付けないとだが───


 このあと男3人で拠点設営のクエストを受けて、キールはイリシュに格好良い所を見せようとして、無理してたくさんの荷物を持って行った。

▷▷▷

 

「イリシュ、この子がガルルだよ。ガルル、この子はイリシュ、私達の仲間だよ」

 今は町の外縁部で、ミーアがイリシュにガルルを紹介している。ガルルはイリシュの匂いを嗅いで、血の匂いのする場所を避け、右脚に頬擦りして挨拶をした。

「ガルル、ヨロシク」

 イリシュもガルルを怖がらず、ガルルの頭を撫でて、ミーアとベルと一緒にガルルの毛を櫛で梳かして綺麗にした。


 魔法の訓練場が近いので覗いてみると、誰も使っておらず、受付けでフェザが暇そうに不貞腐れていた。

「おや?ベルカノールとミーア······その子が例の───見ての通り貸し切りだ。好きに遊んでいくと良い」

 フェザから弓矢を借りて、ミーアは弓の練習をする。ゴブリンを模した的を選んで、先ず一射───

(隣の架空のゴブリンには当たった筈だよー)

 続けてミーアの第二射は───腕に当たった。

「ミーア!ワタシ、ワタシ!」

 イリシュがやりたがったので、ミーアはイリシュに弓を渡した。ハーフエルフが弓が得意だった事から、イリシュも弓が得意だとは思われるが、今は溶けてくっついた左手では弓を上手く掴めず、悔しそうにしていた。

「───っと、これで良いかな?」

 フェザが弓を手に取り、イリシュの左手にピタリと添わせた。

「merci!」

 ミーア達にはイリシュの言葉は伝わらなかったが、気持ちは伝わった。イリシュはフェザの胸に背中をピタリとくっつけて、矢を番えて弦を引き絞る。照準はフェザの左手を操り射った───


「───ブっハ!」

 フェザが吹き出した。矢は───ゴブリンの股間に的中していた。

「「───ぷっ!あはは!!!」」

 ベルもミーアも油断してドツボにはまってしまい「女だけとは言え下品過ぎ」と思いながらも、笑いを堪えきれずフェザと一緒に笑っている。イリシュは最初こそ「自分の弓の腕」を笑われたかと思ったが、直ぐに笑いの対象を理解して「森の外はそういう文化なのか」と空気を読んでやった。

「ワタシ!ワタシ!」

 イリシュが再び矢を番えたが、フェザの()はぷるぷる震えていた。

風精霊の(シルフィード)風道(ヴァンルーツ)

 イリシュが掠れた声で魔法の名を呼び、エルフの魔法と共に矢を射ると、放たれた矢は水が川を流れるように風の道を流れ、ゴブリンの股間の粗末な細い棒を真っ二つに割った。

「「あはは!!!!」」

 追い打ちを食らったベル達3人は、品性の堤防が決壊し腹を抱えて笑い。イリシュはその3人が可笑しくて笑った。


「──ははは······今のがエルフの『精霊魔法』か。初めて見るが、やはり魔力の使い方が違うのか」

「はは······ふぅ。私達の遠隔魔法(マギアティレフォノ)と違って、周りの魔力をそのまま使っている感じですね」

「その様だな。人類とエルフの間には悲しい過去があって、エルフの魔法を解明したかった人類はエルフに······な。今は“根本的に違うからどう足掻いても無理”で結論が出ているから、もうそんな事はないがな。奴隷のキミ、弓を貸してくれ」

 フェザはイリシュから弓を受け取り、矢を番えた。

「先輩方が模倣出来たのはここまでらしい───」

 フェザがピンポン玉くらいの直径の魔力糸を延ばし、風の魔法に変えると全員の髪がふわっとなびく。そして放たれた矢は風の流れで加速され、ゴブリンの頭を粉砕した。

「こんなものだ。魔力は垂れ流し、距離は足りない、起動は変えられない。長所は威力が上がる······が、やっぱり精度が落ちるから実用化はされていないな」 

「先生、因みに何処を狙ったんですか?」

「え!?そ、それは、その、アソコだ······」

「普通に外しましたね」

 フェザがベルの言葉に傷心していると、イリシュは弓をぶんどり、ベルにずいっと押し付けた。

「ベル!arc!arc!」

「え!ええ?私も?······魔法で良いかな?」

「ベルカノール分かっているな?アソコが満点だぞ」

 ベルとミーアは、このあとキールへの土産話を沢山作って家路についた。

異世界人の言語は

エヴィメリア語は、ギリシャ語をそのままか、ちょっと弄ってます。

エルフ語は、フランス語をそのままか、ちょっと弄ってます。

文法なんて分かりません。

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