第24話 模範
「今、最前線になっているところでは、甲冑を着たゴブリン『ゴブリンナイト』とか、海の生き物と獣をくっつけた様な魔物が出て来ている様だ。きっとここのダンジョンコアは、海を経由してここまでやってきたんじゃないかって予想されてる。エイルさん海って見た事ありますか?」
「(今世では)見た事無いな。土産話には聞くけどな」
アレクスが最新の情報を述べて、パーティーで再確認をする。広範囲に出歩いているのがオークナイトだけなところを鑑みると、今アレクスが言った魔物は、この森の生態系に淘汰される程度のザコか、オークナイトを追い出す強者かだ。そして、いよいよダンジョンの入り口が近い事も意味している。
「今日は捜索に出ているパーティーの数が少ないですね。どこかのパーティーと合流したいんですが、見当たらないですね」
「ギルドからして空き気味だったからな。丁度休みが被ったか、他のCランクの多くが拠点設営を選んだかだな」
「信号魔法を上げてみますか?」
「それなら私が上げるよー。ベルは魔力を温存してね」
ミーアが青の信号を上げると、後方から二組のパーティーが来ているのと、前線にも二組のパーティーが居るのが分かった。
「さて、アレクス。後ろを待つか、近いところに行ってみるか、どうする?」
「進んで近くのパーティーと合流しましょう!」
エイル達はアレクスの判断で、近くのパーティーと合流するために森の奥へ進んだ。
外傷を見るに人類との戦闘によるものではない多種の魔物の死骸が転がっており、この辺りでもダンジョンの魔物と、在来の魔物との熾烈な縄張り争いがあったのが想像できる。
死肉を漁りに来た生態系弱者達は、大柄なガルルを見るなり尻尾を巻いて逃げて行くので、余計な戦闘をすることがなく、目的のパーティーのところへ辿り着いた。
「······マジか、あいつらかよ」
「昨日のイチャイチャの人達だよ······」
「エイルさんは、あの方達をご存知なんですか?」
「スゲー知ってる。幼馴染だからな」
「Bランクに幼馴染が居るって、最初の日に言ってたっすね」
目の前の二人は、男は女の肩を抱き、女は男の腰に手を回し、「邪魔すんなよ」と言わんばかりの嫌そうな表情でエイルを見ている。
「『アンドレ』、『キネカ』······邪魔して悪かった。こっちのアレクスがこのパーティーのリーダーだ。同行してもらいたいんだが······邪魔か?」
ペアルックの軽装鎧を身に付けたアンドレとキネカは、ちょっと見つめ合ってから、髪を左に流しているアンドレが挨拶をした。
「邪魔ではないよ。僕はアンドレ。アレクス君、今日は宜しく」
続いて、長い髪を右に流しているキネカが挨拶をした。
「私はキネカよ。みんなとは昨日も訓練場であったわね。宜しくね」
「はい!アンドレさん、キネカさん、宜しくお願いします!俺はアレクスです!こっちがキールで、ミーア
と、ベルカノールです。それと幼馴染と聞いています、エイルさんです」
アレクスが紹介し終えると、キネカがにこにこ顔でエイルに手を振った。エイルはシッシと手で払って二人に言った。
「子供達の教育に悪い事はするなよ?」
「その子達新顔だから16でしょう?もう大人よ。ちゃんと教育しないといけないわ。アレクス君、エイル君は手本になってる?」
「······良いか皆んな、男女の事はこの二人に聞くんだ。人目を憚らずイチャイチャする以外はまともだ」
アンドレとキネカと行動を共にして直ぐに、ベルとミーアがキネカに手懐けられた。まだまだ乙女な二人には、冒険と言う名の旅行デートの話は、新鮮で興味をそそられるものだった。
「その領のお料理はどんなものがあるんですか?」
「そうね······ちょっと寒いけれど、冬の時期の海の幸が美味しいわ。料理とは言えない様な、ただ焼いただけのものがお勧めよ」
「なんで?焼いただけだと味が薄いよー?」
「冬の海の新鮮な魚介はここの川魚と違って、脂が乗っていて味がしっかりしてるのよ。臭味が気になったらちょっと柑橘類の汁を搾ってあげると良いわ」
「はぁ······美味しそうです」
「海の有る領の人はズルいんだよ〜」
「ふふ、彼と寄り添って暖を取りながらじっくり焼けるのを待つのよ。美味しそうな香りを感じながら、炎の揺らめきに照らされて、そうね······ベルは真名をそっと囁かれるの」
「素敵です······」
「私も魔人種の名付けが良かったよぅ」
「ミーアは暖かい翼で大切な人を優しく包むのよ······そのお返しに、彼は熱いのを我慢してエビの殻を剥いて、ミーアの口にアツアツのエビの身を運んで愛を囁くの······“ありがとう、愛してるよ”」
「お腹も心も満腹だよー!!!(エビって何?)」
「私も暖かい羽毛の翼が欲しいです······(エビって何?)」
ベルとミーアの目は、まさに夢見る少女の目になってキネカを尊敬の眼差しで見ている。そんな会話をしている間も、アンドレとキネカはピッタリくっついていて、蚊帳の外のエイル達は、ガルルを構って暇潰しをしていた。
エイル達も良い加減退屈になってきた頃、ガルルがピクッと反応し、エイルも何かの気配を感じた。
「おーい、魔物が居るようだぞ」
「困った魔物だ。こっちの都合も考えてくれ」
アンドレとキネカが一瞬で気持ちを切り替え抜剣し、戦闘モードになった。
「アレクス、お前は剣と魔法を活かした戦い方を模索していたな。この二人は参考になるからしっかり学ぶんだ。アンドレの適職は剣士、キネカは魔法使い、その二人がお互いに高め合って辿り着いた答えだ」
「エイルが随分持ち上げてくれたけど、只の教科書通りだけどね。後輩に背中を見せるのが先輩の努めだ。キネカ、そういう事だけど良いかな?」
「ええ、良いわ。アンドレ、敵はゴブリンのナイトが3体よ」
索敵の魔法を展開していたキネカが、索敵の結果を報告した。超音波エコーの様に返ってきた魔力の様子で、敵の大きさ、形、装備を予測するのだが、言い当てられるようになるのは本人の経験次第だ。
キネカは魔石を一つ取り出して、ゴブリンが潜伏する茂みに向かって放り投げた。
「マギアネモスニース!」
魔石に付与させた魔法を茂みの上空で発動させ、風刃の雨を浴びせると、潜んでいたゴブリンナイトが飛び出した。
全身を甲冑で覆われたそいつは、オークナイトを小さくした様なものだ。人が戦うには鉄に包まれて厄介だが、1メートル程度の体格では、大型の魔獣に蹂躙されてお仕舞いだろう。
「え?二人共アイツ等と斬り合うのか?」
キールが驚きの声を上げた。剣士のアンドレだけでなく、キネカも一緒に完全武装のゴブリンに向かって行ったのだ。
剣が交わり、鋼が打ち合う音が鳴り始めた。一対一になるように一体を魔法で牽制しながら、二人はわざとらしく鎧に剣を当てて、「剣が効かない困ったぞ」を演出していた。そして、アンドレが一転して攻勢に移り、自ら斬り込んで鍔迫り合いに持ちこんだ。
「マギアフォティアフローガ!」
鍔迫り合いから発動した魔法の火炎が相手を焼いた。炎に巻かれたゴブリンは転がりながら悶絶して、他のゴブリンもアンドレの炎の剣の見た目に圧され、足が竦んで動けないでいる。
「マギアパゴスロンヒ!」
キネカが悶絶するゴブリンに止めの魔法を打ち込んだ。魔石でブーストされた超重量の氷槍は、容易く鎧を貫いてゴブリンを地面に縫い付けた。
「マギアネロオミクリー」「マギアパゴーノクリオ」
そしてアンドレが火炎を消し、霧を噴く剣に切り替え、キネカは凍結の魔法を発動した。その状態で一つ二つと切り結ぶと、ゴブリンの鎧の中に溜まった霧が凍りつき、満足に関節を動かせなくなったゴブリンは、静かに二人の剣に命を差し出した。
「アンドレさん!キネカさん!さす───」
アレクスが二人に賛辞を贈ろうとしたが、アンドレがそれを手で制し、キネカが話しを始めた。
「一般的に魔物は人類に仇なす敵、問答無用で殺すべき対象として教えられているわ。それは当然ね、魔物は野生の獣より強いし、大型になれば人里まで下りてきたときの被害は甚大よ。ゴブリンが人類の女を襲うのは知ってる?」
アレクス達は首を横に振っている。アンドレとキネカはエイルに「教えとけよ」と目で語り、キネカは溜息をついて続けた。
「ま、この国では聞かない事例だから知らなくても良い事ではあるわね。ゴブリンやオークは、欲求不満を人類の女で代用しようとするのよ。でも彼等は服の上から男女を見分けられないと言われているわ。私達が腰巻きや鎧を着たゴブリンの雌雄を見分けられないように······」
そう言ってキネカは最後に倒したゴブリンの下半身の鎧を脱がした。
「「うっ······」」
「女の子······少し顔付きが男と違うのよ。数え切れない程のゴブリンを殺しているうちに分かるようになってしまったわ」
キネカはゴブリンの鎧を戻し、兜を外して討伐証明として耳を切り落とした。
「耳で良いというのは、ギルドの配慮かも知れないわね、知らなくて済むもの。あなた達、これからゴブリンを殺せる?男と女が交われば、当然子供が産まれるわ。私達と同じなの。これからもゴブリン······魔物を殺すなら、この事実を背負って欲しいのよ」
アレクス達も力を付けてきて、戦いに勝つ喜びを覚えて来る頃だった。そんなところへ先輩冒険者から的確に釘を刺されてしまった。
「アレクス君とキール君はどう思った?」
「俺は······ゴブリンに女も子供も居るって聞いても、人類に仇なす敵に変わりありません」
「俺もっす。ベルとミーアをそんな目に合わせないように、敵は倒すっす!」
アンドレに聞かれ、アレクスとキールは「もしかしたら──」を想像したが、その可能性は既に歴史に否定されているので、従来通りの意思を示した。
「ふふっ、ちょっと意地悪しちゃったわね。報酬や快楽目的で命を奪ってほしくないのよ」
「魔獣化出来る魔物でさえ、本質は害獣である事に変わりは無いんだ。僕は彼女を守るし、彼女も僕を守る。畑が荒らされるなら、その害獣を駆除する。ここのダンジョンも、早期に発見して人類の管理下に置く。野放しにすると町の生活に支障が出るからね」
「ありがとう。心得まで指導してもらって······また暫く見ない内に、随分成熟なったな」
「エイル君もこんなに大きくなっちゃって!──この!──この!」
自分の腕力ではマッサージにしかならない事を知っているキネカは、エイルの肩を遠慮無くぶん殴っている。
「彼等が聞き分けが良いのは、エイルの指導の賜物だろう?エイルもランクを上げて、彼等と国を回ってみると良いさ───久し振りに僕にも殴らせてくれ!」
エイルをサンドバッグにして、スキンシップを楽しむ幼馴染み達の背中を追って、アレクス達は森の奥へと進んんで行く。




