第23話 進展
今朝はアレクスのパーティー総出で稽古に打ち込んでいる。シュナは今日は来ていないが、ティムはガルルと一緒にお手とお替わりを繰り返していた。
昨日の事があったので、アレクスとキールは特に熱の入った稽古をしている。2対4で綺麗に勝てたので強くはなっているのだが、力に溺れ「何でも暴力で解決」とならないように、精神面も鍛えなければならないと、エイルは頭を捻っていた。
「今日からアレクスとキールは、素振りの際に送気も合わせて行うように。ミーアとベルは俺と組手をしながら、攻撃と送気のタイミングを掴む様に」
基本の後は、いつも通りアレクスとキールは素振りの時間で、エイルは先ずベルと組手をすることにした。好きなようにボディーを打たせて、ベルに攻撃の感覚を覚えさせる。エイルは「気に一番理解のあるベルが気合の感覚を掴めれば、自分が説明するより皆んなの習得が捗る筈だ」と考えていた。
ミーアは同じく自由に打たせながら、隙ができたところへ軽く拳を当てるようにした。ホントに軽く、撫でる程度だが、攻撃に身構え身体を強張らせる防御のタイミングを掴んで、実践的な金剛の習得を目指してもらう予定だ。
ベルもミーアも「自分の身は自分で守ろう」と、そういう気合が籠もった良いパンチを打てる様になっていた。
「良し!今日の稽古はここまでだ。皆んな何か掴めたものはあるか?」
「エイルさん、素振りじゃ良く分かりません」
「その辺の木、切ってみても良いっすか?」
「ああ、それもそうだな······でもさすがに、勝手に木を切っちゃいかんだろうな······何か考えておくよ」
アレクスもキールも、気合が成功した時は武器を軽く感じてはいるのだが、それだけでは手応えを感じる事が出来ないでいた。
「エイルさん、俺達の中で誰が一番気を使いこなせてるんすか?」
「そうだな······その場でジャンプしてみろ、それなら目に見えて効果が分かるだろう」
キール達は輪になり、競い合ってピョンピョン跳ね始めた。次第に動作と送気が一致して、少し高く跳ぶ場面を見られる様になってきた。
「お!今の良いんじゃね!」
「おお!俺も来たぞこれ!」
「分かったよー!この感じだよ!」
「あ、出来た!あはっ、私こんなに跳べるんだ!」
ここで二つの発見が有った。見た感じのジャンプ力の強化具合は、ベル、アレクス、ミーア、キールの順で、その強化具合から、強化の最大値は気の最大値と比例する事が分かった。
そしてもう一つ、キールとミーアは練気が途切れ、強化が出来ない状況が多く発生していた。そしてその度に丹田呼吸法で気を溜め直していた。その事から、練気を途切れさせなければ気は無尽蔵である反面、気が抜ける、気が散るの文字通り、練気が途切れると瞬く間に消えて無くなるものである事が分かった。
なかなかの収穫を得て家に戻る途中、国防軍旗を掲げた一団が町へ向かって来ているのが見えた。
「国防軍だ······ダンジョンの増援が来たのか?」
「それは無いだろ?軍は冒険者業には手を出さない筈だろ?」
「あ!後ろに人を連れてるよー?」
「縄で縛られている様に見えるけど······」
その列は馬車が先行し、その後を縄で繋がれた賊の様な見た目の人と兵士がぞろぞろと歩いていた。
「昨日の奴等の関係じゃないか?駐屯さん達が捕まえたんだろう」
「駐屯さん達、仕事が早いっすね!賊はあれで全部なんすかね?」
「ああいう集団は10人前後が限界らしい。あんまり増えると、纏まりが無くなって維持管理が大変になるし、数が増えると目立ってしまうからな」
「エイルさん、もし私達があのまま攫われていたら······」
「そうなったらガルルとティムが黙っていないだろう。町から出た時点で二体に襲撃されて、あいつ等は加減なんてしないだろうからなあ······」
「───少し想像してしまいました」
「でも、それだとガルルとティムが処分されちゃうよ······」
「でも相手は犯罪者だから大丈夫だ!そうじゃないと冒険者は立場が弱すぎる!それこそ自分の身も守れない!そう思いませんか、エイルさん!」
熱弁を振るうアレクスに、エイルは「それはそうなんだけど······」と付けてから答えを返した。
「それは難しい『政治』的な問題なんだよなあ······ギルドは国の所有の機関じゃないだろ?冒険者に依頼遂行以外での武力行使を認めると、国が統治していない武力をギルドが保有することになって、その気になればギルドが冒険者を使って国を乗っ取る事も出来るから、あくまで冒険者業のみの制限を掛けているんだ。国としては、害獣駆除や開拓に兵を出さなくても良いから、そこは持ちつ持たれつなんだろう」
「エイルさんはどこで勉強したんですか?」
「うーん、偉い人と話をする、かな?せっかく領主様の息子と接点ができたんだ。機会が有れば色々と聞いてみるといい。彼等は俺達が知らないことを沢山知っているから勉強になるぞ」
「じゃあギルドで合ったら、一緒にクエストに行こうぜ!」
「キールはハーフエルフの子が目当てなんだよー」
「んな!?ちげーよ!何いってんだよ!」
((ああ······なんて分かりやすい奴))
エイル達は、家に戻り準備を整えてギルドへ向かった。大通り駐屯所前には、昨日と今朝の連中が合わせて16人、縄で縛られて晒し者にされていた。
こうして晒すのはエヴィメリア国王の風習で、被害者やその関係者、ついでに便乗した関係ない奴から非難と小石や小枝をぶつけられる。
今は被害者の女の子の両親と思われる人物が、筆舌に尽くしがたいものを怒りに変えて、晒し者達にぶつけていた。それに煽られて観衆もヒートアップしていく。その気持ちは分かるが、これはあまり良くない風習だとエイルは思っている。
ギルドへ到着し扉の貼り紙に目をやると、拠点作りの物資搬送の依頼がCランク以下対象で開始され、ダンジョンの方はC以上が対象と書かれていた。
「アレクス俺達はCだけど、どうすんだ?」
「報酬面は追加報酬もあるダンジョンが文句無しだけど、拠点の設営も手伝いたいところはあるんだよな······ミーアとベルはどっちがいい?」
「私はアレクスと一緒で悩んでる。ミーアはどう?」
「うーん······ガルルは荷物運びはしたくないと思うよ」
「そうか、ガルルも大事な仲間だからな!俺達は、ダンジョンの方を受けよう!エイルさん良いですか?」
「ああ、いいぞ。俺は戦いたいからな」
アレクス達はダンジョン捜索の依頼を受注してギルドの外へ出ると、デュオセオスのパーティーと出くわした。大怪我を負った獣人の男も同行出来る程度には回復している様だ。
「おはよう。皆元気そうで何よりだ。僕達は昨日から資材の運搬と設営の依頼を受けているよ。今日もそうしようと思うけど、アレクス君達はどうするのかな?」
「あっはい!俺達はダンジョンにしました!」
「うん、それが良いよ。君達は強いからね、力のあるパーティーはダンジョンの方に行ってもらわないと、そっちが滞ってしまうからね。支援は僕達の様な戦いの素人に任せておいてくれ」
キールがそわそわしているので、エイルはデュオセオスに一つ提案をした。
「少し奴隷と話をしても良いですか?」
「構わないよ。獣人の二人は共通語で通じるよ。ハーフエルフは、エヴィメリア語の勉強を始めたばかりだけど、分からない時はキャロルが訳してくれるよ」
アレクス達が質問を投げ掛けていくと、獣人の男は片言の共通語で、身体が回復した事と感謝の言葉を述べた。獣人の女の方は流暢な共通語で、家業が行き詰まって資金繰りの為に身を売った事を話した。
「お、おはよう!俺はキールって言います!貴女の名前を教えて下さい!」
「オハヨゴザイマス。ドレイ、ナマエナイ、デス」
「あ、ああ!そうか、そうだった。あー、貴女はエルフの国から来たのですか?」
「エルフ、クニ、ナイ。モリ、スクナイ、アツマル。タクサン、アツマル、デス。」
「エルフ······の国······は無い!森······少ない集まる?沢山集まる?」
「キールさん“エルフに国は無いけど、森に小さい集落が沢山有る”ですよ。エルフはエルフの森と呼ばれる大森林に、少人数の集団に纏まって散り散りに生活しています」
キールは最近エルフ語の勉強を始めたキャロルにサポートされながら、ハーフエルフと教科書の例文の様な会話を始めた。
それからアレクス達は、捕まった賊について聞いてみた。人攫いの賊達は、初めはダンジョンの捜索に出ている初心冒険者を騙して攫い、ギルドが方針を変えてからは町のならず者と結託して、規則で縛られている冒険者を脅して攫った。そして賊達は様々な訛りが混じっている事から、国際的な人攫い集団かも知れないとの事だった。
刑罰は王都へ護送された後、賊の幹部3人が処刑で、他の者は何処かでお国の為に強制労働に勤める事になった。
「それでは、ダンジョンの捜索宜しく頼むよ」
デュオセオス達と分かれて、エイル達は森へ歩みを進めた。
「キール!今日は幸先いいな!」
「キール、嬉しそうだったよー!」
「······俺、エルフ語の勉強するよ!」
新たな決意を胸にしたキールを茶化しながら、パーティーは森の奥へと入って行く。




