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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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森の王子

 翌日。領主家に泊まったアステオン達は、久し振りにグッスリ眠り、遅めの朝食を食べていた。

『美味しいですね。お兄様……』

『そうだな』

 献立は所謂“フルーツパスタ”。具は数種類の煮込んだ果物と、ピリリと程良くスパイスの効いた薄切りの燻製肉。ソースは木の実の油に塩味を足しただけのシンプルなもの。

 甘く柔らかい果物が故郷を思い出させてくれ、少し無愛想な態度を取るアステオンも、黙々と食べ進めている事から、口に合っている様だ。

『…これは何なのでしょうか?』

 エーデルアンジュがスプーンで掬った細短いものを見て言うと、ソルジオが自信なさ気に答える。

『これは……サングロリア王国の(フィデオ)と言う、穀物の粉を練って細く切ったものだと思います。地理的にここにも伝わっているのでしょう。ですが、こんなに短くはなかったはず……もしかしたら、料理人が私達に気を遣ってくれたのかも知れません』

 ソルジオの解説を受けてエーデルアンジュは感心し、短く刻まれた麺が乗ったスプーンを、口に運ぶのだった。



 絶望はもう終わり、希望に満ちた朝食のはずなのだが、グリシーヌの事も後に引き、これからが正念場である事から、まだ笑い合う様な気分にはなれない。そんな静かな、良く言えば上品な部屋に、コツコツとノックの音が鳴り響いた。

「どうぞ」

 ソルジオが答えると扉が開き、そこには子供と手を繋いだイリシュと、ハーフエルフのオリビーの姿があった。


 イリシュとオリビーは入室するなり、両膝をつき敬意を示し、ロティシュは訳が分からないと言った感じで突っ立っている。

 ソルジオが楽にする様に声を掛けると、イリシュとオリビーは直ぐに立ち上がり、見知らぬエルフを三人も見たロティシュは、早速イリシュの脚に隠れようとする。その可愛い仕草に、エーデルアンジュ達は自然と口元が緩んだ。

『その子は?』

 エーデルアンジュが聞く。すると、自分の事だと察したロティシュは、完全にイリシュの背後に隠れようとするが、抵抗虚しくイリシュに押し出されてしまった。

『ロティシュと言います。母親はリィズ、と私。父親は分かりません……』

 ロティシュの頭髪は、オリビーと同じで金髪が少しくすんで見える。耳も丸みを帯びており、見たところハーフエルフだ。


 アステオンとエーデルアンジュは、森の外側の集落を回る中で、ハーフエルフを初めて見る事になった。その生い立ちはグランヴィラージュに居る時に聞いていたが、純血でも、純潔でも無い事から、居ないものとして認識していた。

 だが、実際に会ってみて認識がひっくり返った。否、認識どころではない、世界がひっくり返った。


 それはグランヴィラージュの惨劇の記憶が、まだ生々しく残っていたからかも知れないが、仲間から冷遇される敵の血が混ざった子と、その子を産んだ母親を見ると、母子を忌嫌う同胞の気持ちが嫌と言うほど理解出来た。

 それと同時にグランヴィラージュの惨劇は、アステオンとエーデルアンジュに母子の恐怖と怒りと諦めを理解させた。そして、そんな事実を知っていながら、見て見ぬふりをし、こんな状況を作り上げてきた“弱く情け無い中央(自分達)”に虫唾が走った。



 だから「父親は分かりません」は、口に出しづらい事なのは分かる。だが、母親が二人とはどう言う事か。理解に苦しむ事だが、それがこの国の文化なのだろうとエーデルアンジュは思い、イリシュに聞いた。

『……そちらの方がリィズさんですか?』

『いいえ、リィズはもう……。こちらはオリビー。私と同じ時に奴隷としてここに来て、今ではここの住民として料理を提供する場所で働いています。今お召し上がりになられている料理は、オリビーが考え、この屋敷の料理人と一緒に作りました』

『!……そうなのですか』

 二人の母親とは、生みの親と育ての親と言う事らしい。全くイリシュと言う女性は幾つも複雑な事情を持っている様で、取り扱いに細心の注意が必要だと、エーデルアンジュは理解した。


 なので、折角イリシュが振ってくれた事だし、エーデルアンジュは話題をオリビーに変えた。

『オリビーさん、お料理とても美味しくいただきました。こちらの食器に不慣れな私達に配慮して下さった様で、大変助かりました。ありがとうございます』

『い、いえ……! あ、ありがとうございます!』

 たかがハーフの自分に、集落での扱いに嫌気が差し自ら森を捨てた自分に、エルフの王女が感謝の意を述べくれた。そう思うと、オリビーは反射的に床に両膝をついていた。



 エーデルアンジュは、「そこまでしなくても良い」とオリビーに言おうとしたが、動きを止めた。ソルジオも、イリシュも、オリビーも動きを止めていた。それは、アステオンがスッと立ち上がったからだ。


 アステオンの視線がオリビーに向くと、オリビーは背筋を伸ばし、スカートを握り締め、カチカチと震える歯を食いしばり、アステオンの動きを目で追った。

 テーブルを離れたアステオンは、あろう事かオリビーの方へ向かって来る。そしてオリビーと中間の位置辺りまで来ると足を止め、オリビーに言った。

『オリビー、貴女の料理には優しさがあり、とても美味であった。私からも感謝を言おう』

 その言葉にオリビーは何かを言おうとしたが、歯がカチカチと音を鳴らすだけだった。

『オリビー、近くまで寄っても良いか?』

 オリビーはまた歯をカチカチと鳴らす。アステオンはそれを肯定と受け取ったのか、肯定以外の返事を想定していないのか、オリビーの前に立った。



 オリビーはアステオンを見上げる。歳はオリビーと同じ19だと聞いているが、純血のアステオン顔はハーフのオリビーと比べるとまだ幼さが残っている。

 だがアステオンの目には、エルフの集落の戦士長や、領主ルキアノス、魔物に挑んだデュオセオスが見せた確かな力強さと責任が、もっとそれ以上に重く、濃く、宿っている様に感じられた。


 オリビーは声を上げて泣き出したかった。それは恐ろしいからではなく、畏ろしいからだった。

 アステオンが膝を折り、片膝をつく。二人の視線はほぼ同じ高さになった。そして近い。オリビーは平伏して顔を隠してしまおうかと思ったが、このまま頭を下げるとアステオンの股に頭突きをしてしまいそうな程近かった。


 オリビーは少し背を丸めて、少しでも頭を下げる努力をした。しかしそれを止めるかの様に、アステオンはオリビーの両肩を掴んで、オリビーの顔を起こした。

『私は今とても複雑な心境だ。私はここに来る間に、初めて混血を見た。とても衝撃だった。私達がグランヴィラージュでのうのうと生きている間に、森の外側の集落では、多くの血が流れ、多くの悲しみがあり、貴女の母上も辛き目にあった。

 しかし、私達がグランヴィラージュでのうのうと生きてきたからこそ、貴女が生まれ、貴女がここで働き、私は貴女の美味しい料理を食べる事が出来た』

 エーデルアンジュは兄と気持ちを同じくし、イリシュは森の外側に居た戦士として王子の言葉を聞く。ソルジオは名ばかりの王子の大きな成長に、オリビーは絶対に視界の隅にすら入れないと思っていた王子の目を独占出来た事に感銘を受けた。


 アステオンはオリビーから片手を離し、その手を広げてロティシュを招く。イリシュはロティシュの背中を押してやろうとするが、ロティシュはアステオンの顔を真っ直ぐに見詰めて自分から頭を撫でられに行き、その必要はなかった。

『いい子だロティシュ──』

 アステオンはほんの少しだけ、オリビーとロティシュを抱き寄せる。その力加減は強引さではなく、力強さを感じさせる程度。心理的には警戒心を覚えず、頼もしさを与える程度。


 肉体的にも精神的にも二人を引き付け、王子は宣言する。

『──過去は変えられない。だが、これから先の未来は私達が作っていける。だから私は森を取り戻し、エルフを護る! そして、エルフと外の人が望み、願い、祝福された混血が生まれる世界を作る!』

 言葉の意味を理解できていないロティシュも、意味も意志も理解できたオリビーも、未来を見据えるアステオンの真っ直ぐな横顔に惹かれた。

 中身はまだ願望や妄想の域を出ないが、兄が示した世界の展望にエーデルアンジュは共感し、その困難さを知るイリシュとソルジオは未来の王の姿と覚悟に感動し、頬を涙が伝う。


 森から叩き出され、世界を知り、心身共に追い詰められたアステオンは、与えられた施しを糧に、蕾のままだった天性のカリスマを開花させつつあった。

ヴィクトワの名前が出てきませんが、ちゃんと居ます。

ティム達に一目置かれている事でしょう。

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