第18話 基本になるところ
前回の賭博行為の配当は、賭けに参加したのが36人として
総額 1000リィンx36人=36000リィン
店 3600リィン
アレクス 3240リィン
カマッセ 2916リィン
親 2624リィン
勝ち配当 23620リィン÷15人=1575リィン
です。
勝ちが24人だった場合、配当が984になって割れますが、連中は騒げれば良いので細かい事は気にしないでしょう。
エイルはお天道様に起こされ、のそのそと支度をしていると、気配に気付いたアレクスが「頭イテー」と身体を起こした。キールは······起きる気配がない。
エイルとアレクスが乾いて不味い口を濯いで待っていると、女部屋からベルとシュナが出てきた。ミーアは起きない様だ。
「シュナ、ズボンは無いのか?」
「だって着替え持って来てないし」
ミーアのズボンを勝手に借りようとしたが、サイズが小さかったらしいので、エイルのズボンを貸すことになった。ブカブカだが、スカートで稽古されるよりはマシなので、裾を引き摺らないように軽く上げをしてから出発した。
「ハア!ハア!ベル、体力あるね!」
「私もそんな感じだったから、直ぐに走れるようになるよ」
何時もの如く、エイルとアレクスは先行して軽く組手を行う。その内にベルとシュナが、ガルルとティムも連れて到着した。
「ハア!ハア!しんど!」
シュナの呼吸が整ったところで、シュナには説明しながら基本の稽古を行う。アレクスとベルがそれなりに様になって見本になったので、シュナの動きの習得はスムーズに出来た。
「あ!キクキク!凄い効いてる気がする!」
基本の稽古が終わるとシュナはお尻と太腿をパンパン叩いて「キクキク」言っている。ベルもお尻を触ったりしているので、明言はしないが気にはしているようだ。
次は型の稽古という自由時間だが、アレクスは今日はオークナイトを想定して剣を振っている。エイルでは剣を教えることができないので、アレクス任せになってしまうが、それでももう「剣に振られてる」なんて言わせないレベルには成長していた。
ベルとシュナは攻撃が魔法主体なのもあり、打撃にはさほど興味が無いので、エイルは魔人種二人の意見を聞きながら、気の扱いを詰めることにした。尤もシュナは気を錬る事が出来ていないので、あまり参考にならないかも知れないが。
「ふーん、タンデンは下腹部ね。子宮ってこと?」
「男にそれ無いだろ?臓器とかじゃなくて、そういう場所ってことだ」
「ふーん······ベルの方が分かり易い!その辺ね!」
どうやらエイルでは気の量が多過ぎて、何処が中心か分からず、ベルの方は気の量が少ないので場所の特定が容易に出来た様だ。
エイルは攻撃と防御の気をシュナに披露して見せた。
「へー、その一気に流れる感じのが攻撃のキで、身体にジワっと広がるのが防御のキなの。ふ~ん、ベルは出来るの?」
「防御のコンゴーなら───っん!どうだった?」
「うっすい!ベルうっすいよ!」
「薄いか······だとすると今のベルが金剛を使っても、防御技としての価値が無いのか?」
「じゃあ、攻撃は?ベル!ほら、パンチ!パンチ!」
ベルとシュナが何故か組手のマネごとを始めた。その動作からシュナの方は殴ってると伝わって来るが、ベルは手を伸ばしているだけで、エイルには人を殴る感覚が掴めていないように感じられた。
「おーい、ベル。ベルは誰か殴ったことはあるか?」
「え、ええ〜!無いですよ!」
(やっぱりか、でも魔法でゴブリンとか殺してたからな······その感覚が分からないな)
「そうだな······ベル、俺を力一杯殴ってみるんだ。シュナも手本でやって良いぞ」
「ホント!?やった!じゃあ遠慮無く───痛った!硬ったいな!ベル、こんなの何しても平気!やっちゃえやっちゃえ!」
「それでは、エイルさん失礼します!──や!──や!」
「なんか違うな······殴るんだ!ベル!叩くんじゃなくて、こう······力一杯殴るんだ!」
「ベル!こう!こんな感じ!ムカつく野郎を思い浮かべて──こう!」
シュナはもう拳の当て方を覚えて、遠慮無くエイルの胸を打ってベルに指導をしている。ベルも次第に打ち方を覚えて、エイルの胸を強く打てるようになってきた。
「殴る!──殴る!──殴るっ!」
「良し!そうだ今のは殴ったぞ!その調子だ!」
「今の感覚······やっ!──やっ!」
「良いぞベル!気だ!気合を入れるんだ!」
「キアイ······ふぅ──やっ!──やあっ!」
「ああー!ベル!今今今!今流れた!キが流れた!」
「今の感覚······魔法と一緒です」
「「······そうなの?」」
エイルは魔法が使えないので、「魔法と一緒」と言われてもピンと来ず、ベルに魔法の感覚の説明を求めた。ベルは「基本になるところは一緒」と訂正を入れた上で説明を始めた。
「例えば攻撃魔法の基本、風弾は魔力の塊を飛ばします。魔力の流れを操作して、中心に向かって魔力が収束圧縮する球体を作り、進行方向と逆の収束を解いて推進させます。風刃は収束の形を鋭利な刃状にしたもので、氷槍は錐状に収束させた魔力を氷へと変えます。魔法はその魔法に必要な魔力の動き、変質させたい対象······氷や炎をよく観察して想像出来れば使用が可能です。キは身体の動作を把握出来れば、その通りに気を流せます······流せると思います。なので実際の動作とキの流れが合わさったときに、キアイという魔法になるんだと思います」
「あ、ああ、ありがとうベル。これで皆に説明し易くなったよ」
「それなら私も、キを作れれば直ぐに使えそう!」
「でも攻撃のキアイが難しいの。魔法は全部自分の都合で出来るけど、キは身体の動きと一致しないとだから······動きながらなんて出来る気がしない」
ベルが「魔法は自分の都合で」と言うように、現状エイルも自分の都合でしか気合を使えていなかった。脚を止めて「これからこれをする」と念押しした上で、ようやく気合の入った打撃を打つことが出来ていた。
エイルはアレクスを呼び付け、ベルからもう一度話しをしてもらい、アレクスにも理屈を知った上で日々の稽古に活かしてもらう事にした。
「身体の動き······セイケンストレートは、腰を切って、肩を入れ、拳を突出し、そして当たる瞬間に拳を固めて、グウっと最後のひと押し──」
アレクスがストレートを打つたびに、拳が風を切り、服が擦れ肌を打つ音がバシィ!と鳴り、フォームの仕上がり具合を報せている。
「よし!アレクス、胸貸してやる。今のお前の全力ぶつけて来い!」
アレクスもベルも、偶然気合の入ったパンチを打てたとしても、まだまだ威力が目に見えて向上するレベルに無かった。それでも確実に、格闘技術と気への理解は深まっていた。
家に帰ると、キールとミーアはまだ夢の中で、シュナは着替えに戻り、ベルは朝食の準備を始めた。今日はアレクスのパーティーは冒険者は休みにし、休暇を楽しむ事にした。
オルフとファルも、バカほど飲んだ翌日はダラダラ過ごすタイプなので彼等のパーティーも休みだ。
「ん、んああ?何処だここ?あれ───俺、酒場で」
「よう、キール!酷え顔だな」
「あ!朝の稽古!アレクス、起こしてくれよ!」
「死んだ様に寝てた奴が言うな!」
アレクスは剣の手入れをしながら、起きて来たキールと今日の予定についてやり取りを始めた。
「おはよー······ここ何処ー?」
「ミーア······凄え頭だな」
「アレクスが居るー。ここは、お家?」
「そうだけど、ミーア、髪の毛食ってるぞ?」
アレクスは剣の手入れをしながら、とんでもない寝癖のミーアに今日の予定を告げた。
支度を整えたキールとミーアが、自分の洗濯物を揃え終わると、ベルの料理も完成した。
「今日は麦のお粥にしてみました」
お粥というよりはお茶漬けの方が見た目が近いが、あまり細かく分類されておらず、柔らかく炊いたり汁が多ければ粥である。ベルのお粥には、とろとろに煮た数種類の果物が入っていた。
「ふーふー······あーうまっ!優しいぜ」
「これなら食べられるよー」
朝食を食べ終えたエイル達は、洗濯物を抱えて街へ繰り出した。




