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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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来訪者④

 レヤンとエルフの女は向き合い、左手を見せ合っている。傍から見れば奇妙な光景であり、いつまでもそうしている訳にはいず、会話のボールを握っているレヤンは、社交辞令的な話をふった。

「貴女も弓を───」

 レヤンはそこで言葉を止めた。エルフの戦士は弓を使う、それは常識だ。そんな無難な話題で会話を繋ごうとしたレヤンだったが、目の前のエルフの左手は弓を持てる様な状態ではない。社交辞令の全くの逆効果だ。


 相手への配慮が足りない上に再び沈黙を作ってしまった迂闊さに、レヤンは後ろめたい気持ちで一杯になった。だがそんなレヤンの心配をよそに、沈黙はエルフによって破られる事になった。

「お気になさらず、私は今でも弓を使います。……そうだ、お暇ならミットでも蹴りませんか?」

 そう言ってエルフはミットが置いてある場所へ歩いて行く。そして、さも当然の様にミットを持って返って来た。

(……ドージョーの関係者か?)

 レヤンがそんな事を思っていると、エルフは手際良くミットを構え、レヤンに「蹴って来い」と促した。



 バン───バン───と、やや気の抜けたミットを打つ音が鳴る。相手は手練れだろうが、女。身体の強靭(タフ)さは見た目通りだろうと思ったのと、身体のハンデからレヤンが手加減をしているからだ。

 そんな加減した蹴りでも、受けているエルフは眉を顰めており、レヤンは「まだ強いのか?」と更に加減をするが、その配慮は直ぐに否定された。

「もっと強く蹴って大丈夫です。……ああ、そうだ。一度代わってみましょう」

 そうしてエルフは、「オネガイシマス」とレヤンにミットを渡し、レヤンは「シツレイシマス」とミットを受け取った。


 レヤンは稽古でミットを使ったばかりで、使い方は分かる。相手をしてくれた男の蹴りも痛いには痛かったが、ミットが有れば平気な程度だった為、レヤンはミットの防御力に全幅の信頼を置いていた。

「では蹴るぞ。腹に力を入れろ」

 エルフの口調が強くなり、途端に魔物との実戦の様なピリついた空気感を感じ取り、レヤンは身構える。

 エルフの方はレヤンの姿勢が整うのを待ち、蹴りの間合いに半身で立つ。既に心身共にいつでも打ち込める万全の状態であり、エルフは直ぐに行動に移した。


 鉄の左足がその場で軽く一歩踏む。同時に右手が左肩の上まで大きく振りかぶり、右半身の筋肉を引き伸ばす。

「シィッ!」

 そして、気合の発声とともに右手が振り下ろされるのは解放の合図。引き絞った弓が矢を放つが如く、目一杯伸びた筋肉は縮み、右脚を引っ張った。


 エルフの脚は大きく弧を描いてミットへ向かう。否──確かに蹴るのはミットだが、ミットはそこにあるから当たるだけ。エルフの蹴りはミットの向こうのレヤンの腹へ狙いを定めていた。


 ズドンッ───!


 と、重い音が鳴り、ミットがくの字に変形する。想定外の衝撃でレヤンの足が一歩下がり、何かから逃げる様に、もう一歩下がった。

(──っっう! なんだこれ!? これが人の蹴りか?)

 ミットがあった。腕もあった。だが、内臓(はら)に効き、息が詰まる。


 レヤンとエルフの体格は然程変わらない。だが、レヤンが全力で蹴ったところでこうはならない。全力疾走からの体当たりをすれば、レヤンにも同じ重さが出せるかも知れないが、目の前のエルフの女の蹴りには、その重さで貫き通す威力があった。

「あ…大丈夫ですか!?」

「……! だ、大丈夫…です!」

 正直言って大丈夫ではない。しかしそれは、相手の心配に意地を張ったのと、相手が女だからと全く無用で余計な配慮をしてしまった事への罪滅ぼしだった。


 そうは言っても、意地や根性でどうにかなる代物ではなく。「もう少し優しく」と言うのも格好が悪い。

「いやあ、強いですね。もしかして、ドージョーの関係者の方ですか? 聞いた話ですけど、ドージョーを始めた最初のメンバーにエルフの女性が居たと……あ、──」

 取り敢えず、適当な世間話で休憩の時間を稼ぐ。そう思って世間話を切り出したところ、レヤンはアレクス達が言っていた“火傷をしたエルフの女性”の事を思い出した。

「──もしかして、アレクスさんのパーティーの……エルフの方ですか?」

 まだ一年も経っていないとはいえ、流石に一度聞いただけの名前は忘れてしまっていた。


 だが、それが切っ掛けでイリシュの方もアレクス達の土産話を思い出し、フィットネスに参加して居る中に隻腕の銀髪の女を見付けると、レヤンを“狡猾なゴブリンの件”の弓使いの男だと理解した。

「ああ、あの(れ…れお…ん? 違うな、れ…やん? だっけ)……その節はどうも、アレクス達がお世話になりました。私はイリシュ·イーロアスです」

 イリシュの方は、アレクス達がたまに思い出話をしていた事から多少は憶えていたが、確信が持てず自己紹介ではぐらかした。

「俺はレヤンです。いえいえ、あの時は本当にこちらがお世話になりまして……あ、あれ? イーロアスって確か……」

 イーロアス。それは領主となったアレクスが名乗っている姓だった。



 やがてフィットネスの時間が終わると、関係者は自ずとレヤンとイリシュの所へ集まった。

「フリードもこっちに来るにゃ〜」

「な~に恥ずかしがってるし! ほら、お父さんみたいに、喜んで女の胸に飛び込んでけ!」

 顔合わせが終わると、サイラはロティシュにモフらせフリードも呼ぶが、フリードは内弁慶と人見知りを発揮し、シュナの胸に抱きついて離れない。


 レヤンとシュリアは、イリシュと立ち話をしている。

 二人はロティシュを「娘」だと聞くと、アレクスとの子供だと思った。しかしそれはイリシュに否定され、次にイリシュの見た目から、アレクス達に会う前につらい事があり、その時出来た望まぬ子だったのではないかと思った。


 その予想もはずれ、しかして事情はもっと複雑であり、二人はイリシュが話さなければ深く聞く気にはなれず、イリシュも話した以上に話すつもりは無かった。

「キールさん…同じ男として憧れます」

「リィズさんもロティシュちゃんを助けるために……。でも、ロティシュちゃん、今とっても幸せそうです」

「ありがとう。ロティシュはとても良い子で助かっている。ところで……二人はどうなんだ?」

 イリシュの話は一段落付き、話題はレヤンとシュリアに移る。


 当然イリシュの方も、二人の事を土産話以上に知る由もない。第一印象は悪かろうが、事情が事情であり、大団円であり、根底には浅からぬ愛があったのだから、アレクス達からはすれば“仲が良い二人”であり、そう伝えられているだけだ。


 突然始まった恋バナに、サイラとシュナの耳は耳聡くピクっと動き、レヤンとシュリアはつい目が合ってしまい顔を背ける。

「……」

「……」

 黙りこくる二人。二人はアレクス達と別れた後、お互い謝り、許し合った。何度も謝り、許し、いい加減にそれが煩わしくなり、「もうこれっきりにしよう」と折り合いがついた。


 お互い嫌う理由は無く、二人旅はお互いの事をより良く知る切っ掛けになり、一緒に居るのが当然の様になっていた。

 しかし、アネリーゼの事を思うとお互いどうしてもあと一歩が近付けず、「自分達はそういうのじゃない」と言ってしまうのは相手を突き放してしまう様で、それも言えない付けず離せずのもどかしい関係だった。


 そこにイリシュは言う。

「アネリーゼは呪いじゃない」

 二人は同時にイリシュの顔を見る。

「アレクスがロティシュのお父さんになってくれて分かった。私はキールへの愛を思いながら、キールを()()にしてしまっていた。

 ……もし私が頑なに一人を貫いていたら、きっとロティシュは不幸になって、私も不幸になってしまう。それでは幸せを願ってくれる精霊の本質とは違う。それではキールを悪霊にしてしまう。リィズだって、ロティシュの幸せを願っている───」

 イリシュは一旦区切る。ここまでは自分事。


 そして、ここからはレヤンとシュリアに向けたお節介。

「───だから精霊となったアネリーゼだって、レヤンの幸せを、シュリアの幸せを願っている。もし二人がアネリーゼのせいにして素直になれないのなら、二人はアネリーゼを呪いを振りまく悪霊にしてしまう。そんなのは嫌だろう?」

 イリシュの言葉を聞き、レヤンとシュリアは何か憑き物が落ちたような感覚を覚えた。そしてそれを確かめ合う様に、今度は少し長く見つめ合ってから、周りの目を気にして目を反らす。


 それにシュナは余計な茶々を入れず、サイラはオム、ルドラ、アリーシャ、ダミニの事を想う。イリシュはレヤンとシュリアの後ろで、キールとリィズ、それともう一人精霊になった誰かが、優しく微笑んでいる姿を見た気がした。

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