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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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来訪者③

 レヤン達は“タナーカーリュー(田中流)カクトーギドージョー(格闘技道場)トルレナ支部”へと足を運んだ。


 大きな東屋の様な道場は稽古の様子が良く見え、そこでは大勢の門下生達が、裂帛(れっぱく)の気合で拳を突き、蹴りを出し、まだ離れた場所に居ても、その勇ましい声にビシビシと身体を打たれる様だった。



 そんな熱気のある道場に向かう途中。物陰に目を遣ると、一人の男が独りで身体を動かしていた。その男はサイラ達も知る人物で、

「あっ、昨日シュリアがやっつけた人にゃ」

「ああ〜あ、あはは、レヤンと戦った人か! 名乗っていたが何と言ったか……」

 カマッセだった。


 カマッセの方もレヤン達に気付き、少し気不味そうに顔を合わせる。先に声を掛ける役を無言で譲り合い、渋々シュリアが口を開いた。

「あ、あの、その……大丈夫ですか?」

「ああ、ええ。俺はもう大丈夫です。ええと、そちらの貴方の方こそ……」

「俺ももう大丈夫です!」

 一発で倒されて後の事は知らない。一発で倒したと思ったら一発で倒された。つい頭に来て不意打ちで殴り倒してしまった。


 『昨日の敵は今日の友』『拳で語り合った仲』とも何か違う、何とも言えない三角関係。必要以上の暴行が無く、競技や遊戯の枠に収まっていた事から、お互い特に恨みはない。寧ろ不意打ちをしてしまったシュリアが、一番罪悪感に苛まれているくらいだ。


 昨日の今日でバッタリ顔を合わすのも、ベビーブームに入ったとは言え、トルレナの人口が3千人台に差し掛かったばかりの、まだまだ小規模な町である事から不思議ではない。

 だからそれは不思議ではないのだが、レヤン達には道場が目と鼻の先なのに、こんな所でコソコソと稽古の真似事をやっているカマッセが不思議でならなかった。

「こんな所で何をやっているんです? ドージョーの稽古には参加されないのですか?」

 レヤンが聞くと、カマッセは一瞬ドキッとしてから、「よくぞ聞いた」とばかりにふんぞり返る。

「俺もちょっとは噛じったさ。でも、やっぱり喧嘩は自分の力でやるべきだと悟ったよ。エイルに聞いたら、そう言うのは“ガリュー”と言うらしい。だから俺はガリューを極める事にした! 今はまだまだだけど、いずれは大将の店でエイルを! いや、先ずはアレクス…さんを倒してやるのが夢さ!」

 と、カマッセは語った。


 田中流を陰でコソコソ真似ているのだから、それは田中流ではないのかとは思うが、エイルも全てを一から始めた訳ではない。

 衛留の格闘技も、この世界の剣や魔法の戦闘技術も、建築も料理も、全てに過去の礎があり、今が成り立っている。

 レヤンもシュリアもサイラも、カマッセも、ギルドの天啓の儀により才能は知らされている。だが、それも自分の才能だけで今の技を持てている訳では無く、誰かの模倣や、教えがあっての事だ。

 だからこそ新たに未来を作るのなら、過去を網羅した今を学び、身に付けてからでなければ、その先が無い事を知っている。


 それから男達は何度か言葉を交わし、

「───カマッセさん、ガリュー頑張って下さい」

「レヤンも強くなれよ! 次はもっと良い勝負をしよう!」

 そして、再戦を約束して別れた。もしかしたらどちらかが最強(エイル)に届くのではないのかと、誇大妄想(大きな夢)を心に抱きながら───




 レヤンは稽古に途中参加し、指導員のロックにフォームを直されながら、突きと蹴りを繰り返し、ミットを叩いた。

 シュリアは「片腕だから」と遠慮し、サイラはこの後に行われる、女性向けのフィットネスの方に興味がある様だ。


 稽古が終わると、レヤンは見学の二人の所に戻って来るなり、握った拳を突きつけて言った。

「なんだか強くなった気分がする!」

 まさかそんなものは本当に気分、気持ちの問題だろうと思った二人だったが、レヤンの拳の変化に目を奪われる事になった。


 今朝までのレヤンの拳は、中指の第二関節が高く、そこから指が両側へなだらかに下っており、手の甲と指の成す角度も鈍角になり、拳のシルエットは丸みを帯びていた。

 それが今は四本の指は平ら、手の甲と指の角度も直角に見え、指の付け根がゴツゴツと盛り上がり、四角く握り締められた拳のシルエットは、鉄拳と言って差し支えが無い代物だ。

「スッゴイにゃ! 本当に強そうだにゃ!」

「確かに…、これで殴られたら痛そうだ。拳の握り方だけでこんなにも印象が変わるのだな!」

 そしてサイラとシュリアは、ガチガチに固められたレヤンの拳を、握ったり、突っついたり、指を解こうしたりと触り続けるのだった。



 それから暫く時間が経つと、若い女達が続々と集まり出し、フィットネスの時間が始まった。その場を仕切るのは薄桃色の髪の蛇尾の魔人種の女で、シュリアとサイラは、貸し出し用の道着を借り、稽古に混ざった。


 この稽古の趣旨は“相手を倒す為の心技体の強化”ではなく、“心身の健康の為の運動”であり、突きや蹴りも少し大袈裟なくらいに全身を使って動き、掛け声も無呼吸にならない程度の発声で、空気を揺るがす気迫は無い。

 ミット打ちやスパーリングなどの“痛そうな事”は無く。身体がぶつかるのは、両者膝をついて袖を取った状態からの膝相撲くらいで、それも勝敗がどうのこうのよりも、どっしり構えて押したり引いたり耐えたりで、体幹を鍛えるのが目的だ。


 体幹を鍛えるのが目的なのだが、

「───にゃぁい! また負けたにゃ! シュリアは馬鹿力にゃ!」

「ば、ばか…違うぞ! ぜんぜん力は使っていない。サイラがバカみたいに押してばかりなだけだ!」

 目的の理解に乏しい初心者は、ただの力比べになりがちだ。二人の膝相撲を見ているレヤンは、隻腕のシュリアがサイラをものともせず転がしているのを、これでもう3回も見る事になった。

「……シュリアに支えてもらってる様なものだから、横に煽ってやれば簡単に転がるのか。……子供らだって、しっかり出来ているんだけどなあ…」

 大人の児戯に飽きたレヤンは、子供の膝相撲に目を移す。


 稽古には、大人に混ざり子供も参加している。その中にはまだ幼児と見える子供が二人居り、レヤンはその二人に興味があった。

 どう見ても最年少の赤色の道着を着た人間種の男の子は、膝立ちのルールを無視して立って相手に挑んでいる。

 その相手をしているのは、男の子よりも少し歳上そうな緑色の道着を着たハーフエルフの女の子で、サイラの様に何が何でも押し倒してやろうとする男の子を上手に操り、趣旨に則った稽古をさせていた。

「色付きのドーギか。…権力者の子供かな?」

 講師の魔人種の女も、大人のハーフエルフも、他の子供も大人も、多少の刺繍はあるが道着の色は白。その二人の子供だけが色付きの道着を着用しているのは、明らかな特別感(親のエゴ)が感じられた。



 レヤンが見学を続けていると、近付いて来る足音が聞こえた。ジャリ、と砂利を踏む音に、時折カツ、と硬い音が混ざっている。

 レヤンは「杖でもついているのだろう」と、あまり気にしていなかったが、その足音はレヤンに向かって行き、背中から声を掛けた。

「失礼、貴方は弓使いですか?」

 女の声にレヤンは振り向く。そこに居たのは自分と同じくらいの背丈のエルフの女。頭の左側を隠す様に緑の布を巻き、右側の金髪のもみあげを赤の縁取りがされた緑のリボンで結わえてある。

 左目は眼帯で隠されており、顔の左側は重度の火傷の痕がある。その火傷は首にも見られ、緑を基調とした上衣の中にも続いているのが想像できるのは、左腕にも火傷の痕があるからだ。

 上衣のワンピースは股下までの短めのもので、下に道着の下衣を着用している。その下衣は七分丈で、左の裾から出ている脚は、金属の板で出来ていた。


 レヤンはついつい頭から足まで一通り目を通すと、サッと視線を上げ、エルフに聞く。

「弓使いですが……どうしてわかったのですか?」

 レヤンは弓を持ってきておらず、他にも弓使いを示す様な物は身に着けていなかった。


 不思議そうな顔をするレヤンに、エルフは左手を上げ、くっついて一つになった四本の指と親指を曲げ、物を掴む様な形にして言った。

「左手が弓を握っていましたよ」

 レヤンは左手を上げる。もう握りの形は崩れていたが、無意識のクセから相手の得物を特定した目の前のエルフの女を、レヤンは只者ではないと評価した。

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