白と影②
追っ手の意味不明な行動に困惑しながらも、シノビはシュンの元へと走る。
(こんな奴等にやられたのか? このまま逃げ切れてしまうではないか……)
カゲ達は敵にやられておらず、まだ潜伏中なのではないか。既に未来は変わり、ユリアが危惧した未来は訪れないのではないか。シノビがそう考えていると、城の三階から幾本もの光線が放たれた。
(! 明るい? 火ではない…隙間から射した光の様だ)
ぼんやりと広がる光ではなく、一方向に絞られた光。それがシノビを探す様に動き、シノビの姿を捉えると、城から三人の鳥人種が飛び出した。
「──チッ!」
思わず舌打ちが出た。鳥人種は神聖闘衣を身に着け、気合で羽撃くミーアの様に速く、城から照らしている物に光度は劣るが、同じ様に光線を放つ物を持っている。
そして状況から判断するに、敵は城壁の上と、城の三階の城内とで、遮蔽物が有っても正確に連絡を取り合える、何かしらの手段を持っていると推測出来たからだ。
空からシノビを追う鳥人種が目印となり、城から続々と追っ手が出て来る。空は鳥人種。地上は他の人種。鳥人種は気合で走るシノビよりも若干速く、地上を走る者達も引き離せない程度には速い。それに、
(この足音……歩幅が広いがユニコーン。まさか! 魔獣にも闘衣を!)
追っ手の中にはユニコーンの騎兵がおり、他を圧倒する勢いでシノビに迫っている。
(くっ……! 森へ! 森へ入れば!)
森へ入れば上空からの監視の目を逃れる事が出来るし、木々の間を縫って飛ぶのでは、今の様な速度は出せない。
それはユニコーンも同じだ。障害物の無い平地なら最速で走る事が出来ても、木を躱して走るのでは減速をせざるを得ない。
森へ入る事がシノビの活路なのだが、
「こんなにも速いのか!」
既に鳥人種達はもうそこまで迫り、地上の追っ手は追い付けて居ないがわらわらと数が増し、ユニコーンに乗った騎兵が2騎、グングンと距離を詰めて来ている。
このまま走って居てもユニコーンに追い付かれ、路地に入っても鳥人種に空から見張られている為、巻くどころか袋の鼠になる可能性が高い。
「何か───」
無策のシノビは策を見出すべく、追ってくる鳥人種に苦無を投擲した。
鳥人種は反応出来なかったが、やはり苦無は弾かれる。次にシノビは魔法を試す。
「(ウェントスハスタ!)」
シノビは鳥人種に向けて風槍の魔法を放った───筈だった。魔法は何も出なかった。右手に集中する筈だった魔力は、何故か左手に──左手で掴んでいる首輪に吸われていく感覚があった。
「──ッ!」
シノビは首輪を投げ捨てる。このまま持ち帰るべき物ではあったが、このまま持っていては、どう考えても枷にしかならないからだ。
シノビは魔法を撃つ為に振り返った事で、鳥人種が照明の他に、筒状の何かを持っている事を確認出来た。そしてその筒の先端が、自分に向けられている様に感じた。
(何か嫌な予感がしますね……)
良く見えないが、敵が持っているのは筒状の何か。シノビ達も吹き矢を使う。筒に詰めた物を飛ばして標的に当てるなら、筒の先を標的に向けなければならない。
そう思ったシノビは一歩横へ避けた。その瞬間、シノビは運を使い切ったと思った。シノビが居たその場所へ、大きな針の様な、何かそんな様な物が突き刺さったからだ。
シノビは敵に的を絞らせない様に蛇行を続け、苦無と魔法で応戦する。その間もユニコーンが迫って来ており、もう目視で装備が確認出来る距離になった。
(クソッ! 早く! 速く! シュンの所まで───!)
ユニコーンに乗っている兵士も当然の様に闘衣を装備しており、鳥人種と同じ未知の武器も持っている。もし横に付けられようものなら、鳥人種と合わせて前後左右、全ての逃げ道を塞がれてしまう。
シノビは懐に手を突っ込んだ。懐には、王都エヴィメリアの事件で使用されたと思われる石がある。
見付けたから取り敢えず持ってきたが、何故こんな物が有ったのか。この魔物を産み出す石は、少数ではあるが今や世界の闇に流通している。トリトニアもそれを買い取った一国なのか、はたまた製造した元凶なのか。それは今はどうでもいい──
(……使えるか?)
あの時、シノビはマグナオルド王国の冒険者に扮してアウローラの護衛に就いていた。
その時敵は石に魔力を込めていた様に見えたし、他の目撃証言もそうだった。ビクトリアを襲撃した賊も、石の使い方をそう証言していた。
シノビは石に魔力を込める。
「──!」
石から「ドクン」と、何か脈動の様なものを感じ、シノビは咄嗟に石を投げ捨てた。
無造作に転がる石。ユニコーンの騎兵は、侵入者がまさかソレを持っているとは思わず、進路上に落ちた侵入者の落し物を大して警戒しなかった。
「何だ? ……! 避けっ───」
突然魔力を感じ、兵士はユニコーンの手綱を引く。
ユニコーンの前に現れたのはミノタウロス──の出来損ない。あまりに突然だった為、ユニコーンの回避行動は間に合わず、まだ体を構築している最中のソレに突っ込み、足を取られて転倒した。
追っ手は不測の事態に、シノビはその成果に胸がざわつく。
(弾かなかった? 障害物にぶつかった。───あの時は棚を……物を掴んでいた。──目潰しもだ。当たらなかったが、吸い込んだ───!」
そして、攻略の糸口を閃いたシノビは、手裏剣を頭上に投げた。
投げられたと言うより、撒かれた手裏剣がシノビの頭上に漂う。シノビは気合を使い高速で走っており、手裏剣は一瞬でにシノビに置き去りにされ、そこに高速で飛行する鳥人種が、自ら当たりに行く形になった。
「ぐッ! っああ!」
「ギァッ!」
次の瞬間、二人の鳥人種が短い悲鳴を上げ、不意のダメージにバランスを崩し墜落した。
残った鳥人種とユニコーンの騎兵は焦る。最強の神聖闘衣を装備した無敵の神聖騎士団が、二度も地に落ちるのを目の当たりにしたからだ。
そんな光景を見せられれば、「まさか自分もそうなるのではないか」と無意識に恐怖し、兵士達はシノビと一定の距離を保ち攻撃を開始する。それをシノビは躱し、ユニコーンの前に位置取った。
「成る程……ご先祖様は良い道具を伝えて下さいました」
いつの間にかバラ撒かれた撒菱。踏んづけたユニコーンが「ブルウウンッ!」と悲鳴を上げて転倒する。
「ああ、そういう事ですね───」
シノビは鈎縄を取り出し、網になる様に編んで放り投げる。「クソッ!」と悪態が聞こえると、地面に落ちる音と「ギァッ!」と言う悲鳴が聞こえた。
「攻撃に反応する。その判別方法は向かって来る速度!」
カラクリは解けた。だが、
「そんな都合の良いもの幾つも持っていませんよ……」
まさかそんな迎撃機構も、こんな戦い方も想定しておらず、もう広範囲にばら撒いて使える様な武器は無い。
「──ですが! これは絶対に伝えなければならない事です! それに!」
シノビの脳裏に、マリアとユリアの顔が浮かぶ。
「まだまだ、お二人と仕事がしたいですからね!」
首輪も石も捨て、両手が空いている。逃げながら攻撃しようにも、もう有効な武器が無い。
それならばと、シノビは上衣の翼を広げ、ニンポウ鳥人の術で逃げの一手に徹する。
「何だ? 速くなったぞ!?」
「もっと速く飛べ!」
追い着いて来た後続の鳥人種達も、追うのが精一杯で攻撃の余裕は無い。心配なのは、聞こえてくる新手のユニコーンの足音。
もう街を抜け、森までは魔獣達の庭を残すのみ。後は、
「シュンの所までもってくださいよ!」
自分の脚に喝を入れ、全力疾走するだけだ。




