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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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潜入②

 シノビは西トリトニアで情報を集め、中央トリトニアに入った。

 中央トリトニアは、元々南トリトニアの最北にあった都市で、トリトニア連合国の会議の場として利用されていた。そこにはランドマークたる巨大な城があり、そこを神聖女王の居城とし、トリトニア連合国の首都“中央トリトニア”として新たに定められた。



 シノビは今、町娘に扮している。これまででトリトニアの新しい風俗は学んだ。以前と変わらないのが殆どだが、やはり魔人種への接し方が大きく変わっていた。

 人種の平等を謳ってはいるものの、首都化を図り、町の各所で急ピッチで進められている工事の現場監督等の上役には、魔人種が多く就いている。

 これは環境がガラッと変わった事で、それ以前の反動が出ているだけかも知れないが、魔人種が優位に立っていると印象を付けるには十分だった。



 女王の居城があるだけあって、町にはトリトニアの兵士の姿が多く見られる。だが、それらは従来の鎧を身に着けた者ばかりだった。

(神聖騎士団……白い装備、神聖(スヴャトーイ)闘衣(フォルマ)を纏った兵士……。まだ見ませんね)

 神聖騎士団についてわかった事は、その姿と、最上位に神聖女王がおり、その直下に神の使徒と呼ばれる団長とやらが居ると言う事。

 そして、騎士団の幹部は魔人種で固められ、前トリトニア軍をほぼ無血で降伏させ、今は傘下に入れている事。

 騎士団の構成員は元賊や、元ゴロツキが多いが、神聖女王の慈愛の心に触れ、改心した事。

 多少実力行使を伴うが、人種の平等を訴え、実現させ、特に魔人種から強い支持を得ている事。

 そんな事ばかりで、その実力は程は未だに神聖なヴェールに隠されたままだった。



 そして、他に目立って多いと言えるのは、人種問わず老若男女の奴隷達の姿で、取り分けエルフの奴隷は、元の数が少なかった事から、異常な程多くなったと感じる。

(トリトニアがエルフの森に攻め込んで、多くの奴隷を獲得したのは事実の様ですね。そしておそらく神聖騎士団の仕業……)

 人類とエルフは敵対していたとは云え。(怠惰の魔界の影響も多分にあるが)互いに致命的な出血を負う全面戦争は避け、局地的な武力衝突の域を超えない様、一線を見極めていた。


 それが武力の均衡が崩れた途端にこのザマだ。殆どのエルフの奴隷の肌には、まだ新しい傷痕が見える。それは往々にして、エルフの奴隷は負傷して逃げる事が出来なかったエルフの末路である為、当然なのだが。その中には、肌が綺麗な者も混じって居た。

(エルフの非戦闘員の男……珍しい。女は…傷の程度が酷い者ばかり……ああ、()()にならないと言う事か……

 それにしても、これだけの数、何処から集めた? トリトニアがエルフの報復攻撃を受けたと言う話を聞かないとなると、近くのエルフの集落は全滅させたのか? ……度が過ぎる)

 シノビにはエルフの血縁者は居ないが、親の様に慕ったエルフは居た。そのジュブルを懐い、その故郷の事を思うと、はらわたが煮えくり返り、沸々と沸き上がる怒りを飲み込んだ。


 


 シノビがそろそろ撤収し、夜の侵入に備えようと思ったとき、背中を見せている現場監督に、一人のエルフの男の奴隷が攻撃の意思を見せた。

 落ちていた木材を拾い、高く振り上げて現場監督の後頭部を狙って走り出す。流石に周りが騒ぎ出し、現場監督は後ろを振り向くが、それは完全に安心し切った様な、状況にそぐわない不自然な動作に見えた。

「ッギャ───!」

「ッッァ───!」

 一度に幾つも上がった短い叫び声は()()()ものだ。あともう少しで仇敵の頭をカチ割れたエルフのみならず、他のエルフ達も、他の人類の奴隷達もが、体をビクッと震わせ、硬直して倒れた。

(───雷の魔法!? あの男、何をした?)

 シノビに分かったのは、魔法が発動したのは奴隷の首輪からという事と、直前に現場監督が下衣のポケットの中で、何かを弄った事だけだった。


 シノビの知る限りでは、奴隷の首輪なんぞ身分証明と精神的に屈服させるためのただの飾りであり、魔法を発する様な機能は無い。

 首輪に魔法を付与しておけば同じ事は出来るが、それは首輪の装着者が自分の魔力を抑え込んで、努めて付与した魔法を打ち消さない様にする事が前提条件だ。

(あの首輪…それとあの男が持っている何か。何処かで手に入れなければ)

 それは全く新しい魔法技術だった。いつの間にかエヴィメリア王国で誕生していた“気”の様に、何処からか降って湧いて出て来た技術。

 “気”はマリアの予言書により、その存在は示唆されていたが、こちらは全くの不明。現物を持ち帰り、その効果の程を検証しなければならなかった。


 シノビは最後に、現場監督の「そいつは工場送りだ」の声と、謀反を起こしたエルフが、兵士に引き摺られて行く姿を見送り、その場を立ち去った。




 その夜。月齢は新月、暗闇の夜だ。シノビは森の中で支度をしている。

 フンドシをしっかり締め、サラシをきつく巻き、胸と二の腕と太腿に保持用の器具を取り付け、暗器を仕込んでいく。

 身体に仕込みが終わると忍装束に身を包み。襟、袴の脇あき、手首、足首等。手が届き、取り出し易い場所にも、動きの妨げにならない程度に暗器と、小振りで魔力量の少ない魔石を仕込む。

 そして、小太刀を腰に履き、太刀を背負い、頭巾を被り、シュンを待機させ、シノビは夜の闇に消えた。



 ギルドを排除した事は、トリトニアの大きな失策だ。ギルドに付いてくるのは冒険者、冒険者に付いてくるのは魔獣。そう、ギルドが有るだけで、魔獣によって警備が強化されるのだ。

 中央トリトニアに配備されている防衛隊にも魔獣は居るが、それだけでは如何せん穴が多く、町に忍び入るシノビを発見する事は叶わなかった。


 街に入ってからの経路は昼間にシミュレートしてあり、シノビは順調に城に向かい、目星を付けていた高い建物に登り、王城を見た。

 敵も灯りが無ければ何も見えず、松明を焚いて警備に当たっており、シノビはその灯りを頼りに、城壁の構造と、警備の配置を確認していく。


 シノビは、ここが中央トリトニアと呼ばれる以前の城に侵入した事がある。城とは言うものの、(まつりごと)の場の体裁を保つだけの張りぼてで、堀の様な防衛施設は無い。城壁も目隠し程度の高さで、民家の屋根の上からでも、十分中の様子が覗える。

 

 城は三階建ての構造で、シノビの記憶では、一階の内部は大会議室と、小さい部屋が多数あるだけだ。二階は宿泊用の部屋があったが、遠方から足を運んだ者も、策謀渦巻く落ち着かない場所に寝泊まりするのを嫌い、近くの宿を使う事が多く、稼働率の低い設備だった。

 しかし、今は控え目に灯りが点いている。そして、三階も含めて警備兵が定位置に立って警備にあたっている事から、物音を立ててはならない神聖女王の寝室が有ると予想出来る。


 三階は四方に開放的な構造で、見張り台として使われており、これが無駄に見晴らしが良く、侵入するにあたって最大の障害になる。──のだが、現在は城の上部に塔が建設中であり、組んである足場が見張りに死角を作っていた。

 その塔が見張りの為なのか、他に目的が有るのか、シノビにはさっぱり分からないが、お陰様で楽に侵入する事が出来る。

「……さて、無理はせず行くとしましょう」

 シノビは自分に言い聞かせ、城に向かった。



 城壁を軽々飛び越え、城まで走り、一旦壁に張り付き息を潜める。シノビは現在、常に練気をしている。それは敵の索敵魔法を回避する為と、身体能力を強化する為だ。

(随分仕事が楽になりましたね)

 気による魔法の無効化は、魔力干渉の様に“波”が返らず、索敵魔法対策で魔力を使い切らなくて済む様になった。気合による跳躍力の向上は、梯子などの道具の持ち込みを削減させた。

 それでも、依然としてどうにもならないのは自分からの索敵だ。そればかりは、知識と経験と感覚による技術に頼るしかなった。



 シノビは壁伝いにある場所を探す。それは便所。下水道も排水トラップも無い、便槽に汚物が溜まるだけの便所。電気が無いので、ファンを回して便槽の臭いを放出する臭突も無い。

 そんな便所の中は当然臭く、換気が必要で、だいたい開放的な造りになっている。そして、そんな臭い場所に留まろうと思う者も少なく。侵入にはうってつけだった。

 


 特に侵入防止の構造も無く、侵入は成功。シノビは警備兵の持つ灯りの揺らめきと足音を頼りに、抜き足差し足忍び足で、現在一階の探索をしている。

(今のところ、旧来の鎧を着た兵士しか見えませんね。それに王城……と言うより、ここを首都としている割には全体的に警備が手薄過ぎる様な……、何処か他に手を焼いているのでしょうか?)

 兵力が少ない原因など単純だ。兵士が他の場所に行っているからだ。


 だが、それは可怪しい。ここは女王の居城であり、護るべき女王が居る。それこそ、主力の神聖騎士団で固めるのが常識だろう。

(───エルフの森へ遠征か? それとも……まさか、南の大工場とやらの方が重要な施設なのか? だとしたら、神聖女王は……)

 主力が居ない事は良い事だ。たが、そうなるとこの城は()()()。神聖女王もただ担がれただけの御輿の可能性が高くなった。



 シノビは標的を南の大工場に変える事も考えながら探索を進める。すると、ようやくソレにお目に掛かり、息を呑んだ。

(白い……あれが神聖騎士団)

 白地に黒のラインが入った、鎧と言うには頼り無い、鳥人種が好みそうなボディスーツの様な物。

 それを装備したのが二人、扉の前に立って居る。ようやく見付けた敵の主力で、調査対象。そんなものが立っている扉の向こう。そんな場所だ。シノビはそこが重要な部屋で間違いないと踏んだ。

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