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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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潜入①

 ユリアとの夕食会は、ユリアの体調不良で順延。シノビは「他のギルドで急遽人手が欲しくなった」という口実で、姿を晦ました。



 翌朝。シノビはアルトレーネ領の森で、荷物を運ばせていたゲイルウルフと合流し、忍装束に着替える。暗器を仕込み完全武装。そして、人目を忍んで目指すはトリトニア連合国。


 サングロリア王国を通過し、ラルバルマ王国に入る。ラルバルマ王国も中程に差し掛かると、入念に逃走経路を確認しながら進む。シュンが走り易いルート。シュンを失った時のルート。負傷した場合に隠れてやり過ごせる場所。賊のアジトと構成員。そして、ラルバルマ王国に居るカゲとの連携。それらを念入りに確認して進む。

 目的は報復。報復はシノビが敵に損害を与え、秘匿された情報を持ち帰る事で成される。まだ囚われの仲間が居るかも知れないが、仲間の救出は考えない。元より「逃げられないなら死ね」と命じてあり、敵に囚えられたカゲは既に死人だからだ。 



 シノビは森の中から、トリトニア連合国の国境の検問を見た。警備の人数は警戒を強めているのか、およそ20人と多めだ。それに伴いラルバルマ王国側の警備も同数程度に増員されている。

(ふん、無駄な労力を使う)

 シノビは鼻で笑う。Aランク冒険者の身分を偽る者。ギルドの後ろ盾を悪用する者。それらの悪の芽を摘み、“ギルドの冒険者”の信頼を守ってきたのはシノビ達カゲだ。

 

 その“ギルドの冒険者”のブランドが、トリトニア連合国では使い物にならなくなった。そのとばっちりを受けたのは商人だろう。

 商人はギルドに護衛の依頼を出す事で、ギルドに保証された護衛を雇う事が出来た。それが今ではトリトニア連合国行きも、トリトニア連合からも冒険者の護衛を雇う事が出来ず、どんなに評価の高いお抱えの護衛が居ても、同伴して国境を越える事が出来なくなった。

 かと言って、何処の国にも賊は居り、護衛は必須。その為、商人達が他国を安全に移動するには、足元を見られた代金を払い、その国の兵士に護衛してもらうか。何処の馬の骨とも知れない奴等に、これまた足元を見られた代金を支払うしかない。

 それでも無駄に入手困難になり、無駄に価値が高くなった商品は、価格をつり上げ、利益を多く取る事が出来、商人達は根気良く商売を続けていた。



 商人の様に、大所帯でデカい車両に大量の荷を詰め込んでいない、身軽なシノビとシュンは、警備の目の届かない魔物溢れる森の中を突っ切り、西トリトニアへ。


 トリトニア連合国がギルド加盟国から脱退した事で、冒険者に扮して町の中を歩く事は出来なくなったが、商人を隠すなら商人の中と、シノビは繁華街に繰り出す商人に紛れて、町の様子を見て回った。


 町並みは大きく変わった様子はないが、人の様子は大きく変わっていた。シノビが以前来た時は、魔人種は頭髪を隠したり黒く染め、角の切除痕も見えない様に隠して、申し訳無さそうにコソコソと生きていた。

 それが今はその様子が全く見られない。地毛の色の頭髪をこれでもかと晒し出し、上手く隠して切除を免れた魔人種特有の部位はさる事ながら、背中を開けさせたり、わざわざ下衣を股上の丈を浅め(ローライズ)に手直しして履いたりして、尻尾や羽の切除痕すら堂々と見せ付けている。


 そして街を散策していれば、自然と住民の会話が耳に入って来る。その中で気になった単語は、“神聖(スヴャトーイ)女王(カラリェーヴァ)”、“エルフの店”、“南の大工場”、“神聖(スヴャトーイ)騎士団(オーレン)”。

「“スヴャトーイ”……共通語だと“sacred”。 これはまた大層な冠を……何者なのでしょうか」

 何が“神聖”なのか分からないが、神聖女王は新しく据えられた国家元首の事の様だ。


 シノビはマグナオルド王家からの情報では“女王”としか聞いていなかった。だがそれは、マグナオルド王や他の王達も“王”としての矜持があり、まだまだ歴史が浅いどころではない新参者のひよっこに、“神聖”などと付けて呼んでやる義理は無いと言う事だろう。

 そんな各国の王にもシノビにも受けが悪い神聖女王であるが、即位してから生活や待遇が良くなったと、トリトニアの住民と兵士には受けが良い様だ。


 エルフの店は単にエルフの娼館の事の様で、この街にもある様だが、シノビには下の事情は心底どうでも良い事だ。だが、ここ最近エルフの森が騒がしいとも小耳に挟んでおり、何か関係が有るのかも知れないと睨んだ。


 南の大工場。それはその言葉そのままだ。そして、最初に消息が途絶えたカゲから報告の、「南に物資が運ばれている」と符合している。

 そんな大規模な工場であるが、何を生産しているのかは誰一人把握していない様で、好き勝手なゴシップが酒の肴にされているだけだ。


 そして神聖騎士団。話の内容だけでは全く素性が見えてこないが、女王と同じ言葉を冠したそれは、どう考えても女王直属の最高戦力だろう。

(おそらく、それが…)

 シノビはそれを、ユリアが未来視で見たという、自分を打ち負かす敵と定めた。



 街中を歩き酒場を転々とハシゴするシノビは、次の酒場に入り、雑多な人々が雑多に喋る店内の声に耳を傾ける。

 そして自分も客として入ったのだから、当然酒は嗜んでいる。

「その果実水で作ってください。お酒は1割未満でお願いします」

 だがシノビは今、()()の真っ最中だ。今までの店でも、トリトニア名物の度が強い蒸留酒を、果実水で情けない程に薄く割り、チビチビと時間を掛けてやってきた。


 すると、一人の男が目ざとくシノビの情け無い酒を見付け、早速文句を付けてきた。

「オイオイねぇちゃん! こんな酔えるイイ酒をよぉ、そんな薄くてどぉすんだ! 商人のクセに知らねぇのかァ? アァン?」

 隣の席にドカッと座った酔っ払いの顔を見ると、額に一本角を切除した痕がある魔人種で、シノビは「しめしめ」とほくそ笑む。


 時代の潮流に乗り、更に酒が回りに回って調子に乗っている魔人種。呂律は回らないだろうが、きっとベラベラとよく口は回る事だろう。

「これは申し訳ない。このお酒は大好きなのですが、どうにも私はお酒に弱いもので。その分、沢山味を楽しみたいと思いまして。お兄さんは何で割るのをお勧めしてくれますか?」

 男は余所者に対する敵(がい)心と、背伸びしてまで酒を飲んでいる女を、ちょっと虐めてやろうと声を掛けたつもりだった。だが、まさか反論の一つも言わずに、自分から教えを乞うて来るとは思わなかったのと、不意打ちの上目遣いとで、庇護欲を掻き立てられてしまった。

「オオ! そうかそうかそうか! 俺はこの喉が焼ける様な感じがいいから、あんまり割って飲まないんだけどよぉ。ねぇちゃんには、そうだなァ……『ミルクコーヒー』が良いと思うぜぇぇ!」

「…『コーヒー』? ですか。少し発音が違うのですね」

 シノビは男の些細な発音の違いに気付き、そこを指摘した。


 コーヒーは、エヴィメリア王国では『煎り豆茶』で流通しており、エイルにもコーヒーとして認識されている。

 そして、初代マリアも嗜好したそれは、英語(標準語)で『Coffee』と名付けられ、それぞれの国が独自の名称を付けなければ、『Coffee』の発音で流通している。筈だった。

「おお! さすが商人だなぁねぇちゃん! それはなぁ、神聖騎士団の団長さんがよぉ、そう言ってたからなんだよお!」

「……団長さん?」

 シノビは顔には出さないが、心の中では「何と良いカモだ」と、口角を上げた。



 シノビは酒を飲み干し、男に質問を投げる。

「店員さん、この方のお勧めのミルクコーヒーで作って下さい。…神聖騎士団…ですか? 久し振りに来たら、よく耳に挟みますが、どの様な方々なのですか?」

 男はグイッと酒を流し込み、「カアァァッ!」と息を吐く。

「オウ! 俺にもくれ、勿論酒10割だ! それとねぇちゃんの分、俺にくれや!」

「そんな、悪いですから! 自分の分くらい自分で支払います!」

 そう言いつつも、シノビは心も財布の紐も緩くなった男の二の腕を掴み、艶っぽい視線を送る。

「へへっ、いいってことよ! 今日は俺の奢りだぁ! 楽しく飲もうや!」

「とても男らしい方。それではお言葉に甘えさせて頂きます」

 シノビは尻をずって少し男に近付く。男は察し、隠し切れない感情を口元に表しながら、椅子をずらしてシノビに近寄った。


 そのタイミングで酒が出され、シノビは男の肩に身体を傾け、グラスも傾ける。

「──ああ、美味しい。それにとても逞しい体…あ! ごめんなさい、自分で話を振っておいて! その神聖騎士団と言う方々は?」

 シノビは言い終わると、唇に付いた酒をチロッと舌で舐め取る。男は「ゴクリ…」と生唾を飲み込み、シノビの肩に手を回して抱き寄せ、もう片方の手にグラスを掴み、話し始めた。

「へへッ! 神聖騎士団の方々はなぁ。俺達の恩人だ! こんな情け無い角だけどよぉ、堂々と出せる様になったんだぁ!」

「それで皆さん…。でも、情け無くなんてありません! 私には分かります! この切り口……固くて大きくて、そそり立った太く立派な角が見えます。

 …それで何故、恩人だと?」


 シノビはとっ散らかった酔っ払いの話を誘導し、欲しい情報を聞き出して行く。そして男がテーブルに突っ伏し、「グオー! ガオー!」といびきをかき始めると、男が愛飲している酒のボトルを一本買い、男に抱かせて店を後にするのだった。 

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