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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第17話 後の世の格闘興行の前身

⚠ゲロ注意

お食事の片手間で読むのはお勧めしません

「オイコラァ!ベルから手ぇ離せカスが!」

「なんだァてめェ!ガキは引っ込んでろや!」

「クソガキてめェ何処校だコラァ!」

「南校だァコラァ!」

「後輩が調子こいてんじゃねェ!」

「先輩だァ?テメエなんか知らねえよザコが!」

 騒がしかった店内が静まり、客の視線が怒鳴り合いに向き始めた。ここの下々の者達の間では、酒宴での喧嘩は酒の肴の一つとする習慣があり、民度が低いなりにルールを決めて、とある催しが始まるのだった。


「喧嘩だ!喧嘩だァ!オラ!テメーら机ェ退かせ!一口千リィンだ!オラ、さっさと退かせ!」

 喧嘩が始まると喧嘩賭博が始まる。勝手に親をやる者が現れて、店の備品に被害が出ないように会場を設営、一対一(タイマン)の喧嘩で親が勝敗を宣言したところで終了、止めない場合は全員で止めに入る(ボコる)

 配当は、店に総額の1割(会場提供代)、勝者は残りの1割(賞金及び治療費)、敗者は勝者が取った残りの1割(治療費及び頑張ったで賞)、親は敗者が取った残りの1割(司会手数料)、そして親が取った残りを賭けに勝った者で分ける。負け犬達は後片付け、それがルールだ。

 喧嘩が終われば大体トラブルも解決するので、winwin······なのかは分からないが、これで受け入れられている。もしこれで解決しなかった場合は、大将の匙加減で摘み出される奴が決定する事になる。


「え?何ですかこれ!?何が始まるんですか?」

「アレクス君頑張ってね!」

「俺達は······8だな!俺がまとめて出しとくぜー」

「アレクス大丈夫?なんかよくわかんないけど、ごめん」

「エイルさんじゃらめなの〜?」

「俺が出ると勝負にならないから大将に止められる」

「マジ?あー鉄板凹ませる人だったわ!」

 中央のテーブルが除けられ、人集りが(リング)を作り、その中にはアレクスと相手の2人が向かい合っている。アレクスの方はすっかり熱が冷め、カネの懸ったギャラリーの熱に気圧されているが、相手は慣れた感じで、最初からコレが目的でちょっかいを出した様だ。

「えーと、こっちはカマッセ!あっちはアレクス!負けたと思ったら降参って言え!それじゃあ、勝手に始めろォオオッ!」


「オラー!カマッセ!負けんじゃねーぞ!」

「アレクスっての!彼女が応援してるぞー!」

「アレクス!ガードを上げて顎を守れ!」

 外野の野次に紛れてエイルのアドバイスが聞こえると、アレクスは顎を引いて拳を顎の位置まで上げた。

(ノーシントーってやつだったか?学校で喧嘩したときも、良く分からないけど倒したり、倒されたりしたことがあったな······)

 闘いは顎にラッキーパンチが入っただけで決着が付く場合もある。ここの住民も喧嘩で握り拳を上げる事はあるが、それでも胸や肩の位置くらいまでだ。しっかり顎を守ることは打撃格闘の基本であるが、そんな知識の無い者は、アレクスの姿勢から別の意味を読み取っていた。

「おい、あいつもう頭抱えてるぞ!」

「ビビってんのか!俺はお前に賭けてんだよ!」

(ビビってねーし!相手は······なんか硬いな······力んでる、多分右で殴ってくる──)


「クソガキ死ねぇええ!」

(やっぱ右!大振りで分かり易い動作だ)

 アレクスはカマッセの大振りのストレートともフックとも呼べないパンチを、少し大袈裟ではあるが安全を見て大きく跳んで躱した。

「逃げんじゃねぇ!」

「ビビってる!ビビってる!」

(逃げたけどビビってねーし!───エイルさんの言う自然体が何か分かったような気がする。エイルさんの力みの無い構えは、次に何処が動くのかが分からない。本当に自然にそこに在るだけだ)

「オラァッ!」

「(また右!──左!右!連打か!───)痛てっ!」

 アレクスはカマッセの追撃のラッシュを躱し切れずに、ガードの腕に一発受けてしまった。

「っシャア!ハアッ!ハアッ!───」

「良いぞカマッセ!次は殺すまで止めるなよ!」

「オラ!アレクスっての!逃げてんじゃねえ!手ぇ出せや!」

「エイルさん!アレクスは大丈夫なの?心配だよー」

「あんなのはガードに当たっただけだ。なんも効いてないし、相手は息が上がって疲れてきてる」

 

 息が上がれば無意識に重たい腕(ガード)が下がる。そもそもガードになっていないカマッセの腕は更に下がり、顔面を無防備に晒していた。

「なんだあのアレクスって奴の歩き方は!」

「キモッ!」

「エイル君はあんな歩き方した?」

「あれは摺り足です。俺は必要無いところは普通に歩くので······アレクスはまだあれで良いんです。瞬時に切り替えが出来ないと、ただの隙になりますから」

 前足を地面から離さないようにスッと出し、後足も同じ様にスッと引き寄せる。地に足が付いたままで移動するので、咄嗟の動きに対応出来て、相手の攻撃にも踏ん張りが効く。

 アレクスはまだペタペタ歩いているが、これをエイルがやると、身体が上下左右にブレず視線も変わらない事から、相手はエイルが動いていないように錯覚する。

「死ねコラァ!」

 カマッセは大振りの右を放った。アレクスは最小限の動きで躱すと、連打の左に自身の攻撃を合わせた。

(左が来る!右のガードは残したまま、左足を踏み込むと同時に左の拳を突き出す!セイケンジャブだ!)

「ッシィ!」

 スパン!とアレクスの拳が相手の鼻を捉え、同時にカマッセの拳がアレクスを捉えた。

「ああ!?アレクス!エイルさんアレクスが!」

「踏ん張りが効かなくてよろけただけだ。それより相手を見るんだ」

「───あ、鼻血!······痛そう」

(ベルに心配されたみたいだ、格好付かないな。······相手は鼻血出してるし、もう諦めてくれないかな?)

 アレクスはゆっくりと体勢を戻し、余裕の態度で鼻を押さえるカマッセの次の行動を待った。


「クソッ!死んだぞテメェ!」

 カマッセは鼻血を拭うと、アレクスに向かって走り、大きく跳躍した。

「ヒャッハー!いいね!盛り上がってきた!」

「そうそう、こうでなくちゃ面白くない!」

 飛び蹴りの連撃。体力は大きく消耗するが、見た目が派手なのでギャラリーに人気の大技だ。

「(でも隙は大きい!──今だ!)しまっ!」

 カマッセも冒険者で死線を潜って来た猛者であり、決して無能(バカ)ではない。跳び蹴りの後の隙を囮に使い、見事アレクスを捕らえる事に成功した。

「ハアッハアッ!捕まえたあ!オラァ!ブッ殺してやァる!」

「いいぞカマッセ!ぶっ殺せ!」

「アレクスコラァ!やられっぱなしじゃねーかコラァ!」

「エイルう、アック捕まったけど大丈夫?」

「うーん、あのまま殴り合いの喧嘩に付き合ったら、体格差で負けると思う」

「ええ〜?アック負けんな!飲み代賭かってるんだ!」

「そうだ姉ちゃんよく言った!アック頑張れ!」

「あの女、売りやってる奴じゃねーか?」

「なんかオルフの女になったらしいぞ」

「なんだもう店仕舞いかよ!まあいいか、アック俺の飲み代稼いでくれ!」

「「アック!アック!アック!─────」」


 カマッセは左手でアレクスの右肩を掴み、右手でボコボコ殴っている。頭を抱えガードを固めてやり過ごしているアレクスが、左足をスッと一歩引いた。

「ん?アレクスが一歩退いた!エイルさんこっれてヤベーんすか!?」

「キール、お前ならどうする?」

「俺ならすか?───あ!あの構えはマワシゲリっすか!」

 アレクスはカマッセが右手を引いたタイミングで、左腕をぐうっと振り上げた。身体の左側が伸び切り、伸びれば縮む。その反動で腿を振り上げ、膝から先をカマッセのボディーに叩きつける──

「セアッ!」

 ドシ!とアレクスの脚がカマッセの腹に預けられた。

 アレクスがエイルの腹を蹴らせてもらったときは、腹筋に弾かれる感覚があったが、これは完全に決まった。遠心力、筋力、体重が相手にモロに伝わった感覚だった。

 カマッセは飛び退いて、腹を抱えて膝を付き──

「ゔッ!オゲォオロロロロロロ──ッ!」

「うおおおおッ!汚え!勝負有りだぜ!負け犬共ゲロ片付けな!」

「サイアク!なに負けてんのよ!早くその汚いの片付けなさいよ、パーティーの役目でしょ!」

「連帯責任だろうが!女ァテメーも片付けるんだよ!」

「そうよ!さっさとしてよ!臭くて堪らないわ!」

「なんで私が······そうだ!背中擦ってあげるわ!えーと、カマッセ?カッコ良か「オロロロ······」どうして増やすのおおお!?増やしちゃだめでしょおおおお!」


 一方アレクスは仲間の待つテーブルへ凱旋していた。

「アレクス大丈夫!?ああ!こんなに痣になってる!」

「本当だよー、痛そうだよー?」

「こんなの痣になってるだけだ。全然痛くねーぜ!」

 ベルがアレクスの左腕を優しく持ち上げて、ミーアがそっと撫でている。アレクスが「ミーアの羽毛温かいな」と、思いも寄らないご褒美に悦に浸っていると、親の男の大声で現実に引き戻された。

「テメエ等ぁ!タイショーから一杯奢りだア!」

「「頂きます!!!」」


 その後、アレクスは賞金を受取り、エイル達にも配当金が配られ、カマッセのパーティーが酒を持って謝りに来たりして、エイルも久し振りにしっかり酔えた。

 脱落者も増えて来て、ファルがアンナに付き添って帰る事になり、テーブルに突っ伏したキールとミーアは、オルフがキール、エイルがミーアを背負って帰る事になった。アレクスとベルは千鳥足だが辛うじて歩けているので、シュナに肩を借りて何とか家に帰り、自分の枕で寝る事が出来た。

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