戦禍の森(狂)
征圧されたエルフの王都グランヴィラージュ。今そこは、43人の悪鬼羅刹による悪逆非道の宴の真っ最中だった。
そこにアステオンの親友ガルデオの姿はあった。ガルデオは武器は当然の事ながら、衣服も全て奪われ、四つん這いになり、背中に一人の女を座らせている。
そして、ガルデオは動く事を許されていない。それは今、ガルデオは椅子だからだ。椅子は動かない。だから椅子にされたガルデオも動いてはならなかった。
防衛部隊の第一陣として出陣したガルデオは、戦闘により脛を深く負傷し、碌に動けなくなった事で、激しい機動戦を繰り広げる戦場の方がガルデオから離れて行き、それ以上の負傷を免れた。
そして、応急処置を施し足を引き摺って歩いていると、ガルデオはその女に会った。
その女は一人だけ兜を被っておらず、色素の抜けた薄赤色の髪に、エルフの金髪で作った付け毛を飾っている。敵の特徴的な白の装備は改造されており、胸元が大きく開いていたり、肌の露出が多い。
そして、女を囲って歩く四人の女への態度から、その女が高い地位に居ることが分かる。もしその女が敵の大将なら、ここで殺す事が出来れば戦況が変わるかも知れない。そう思うと、ガルデオは弓を構えていた。
結果的にガルデオは成す術無く負けた。矢も精霊魔法も効かず、四人の男達に強い力で押えられ、首輪を付けられた。
首輪を付けられてからは、魔力が全く言う事を聞かず、その首輪に集まってしまう様になってしまい。近付いて来る女に攻撃する事さえ出来なかった。
女はガルデオに顔を近付け、何かを言った。ガルデオは森の外の言葉は、“カクトウギ”“キアイ”の単語だけは知っているが、他は全く分からない。
ガルデオが女を睨み付けていると、エルフ語が分かる男がおり、ガルデオに女の言葉を通訳した。
「彼女は“私に服従しろ”と言った」
ガルデオは腸が煮えくり返る。
「ふざけるな!」
と叫び、女に唾を吐きかけた。
女はガルデオに殴りかかろうとする男達を制し、頬に掛かった唾を手で拭う。そして拭った唾を猥らしく舐め取って見せ、男達に何かを言うと、ガルデオは地面に仰向けに寝かされ、押さえ込まれた。
男達がガルデオの口を強引に抉じ開け、女はナニかを拾い集め、悪魔の笑顔でガルデオの口内を覗き込む。そしてガルデオは、何度も何度もゲロを吐く事になった。
そして女に屈服したガルデオは今、仲間の死体がそこかしこに横たわる王の住居の庭先で、女の尻に敷かれている。そこで、仲間と故郷が蹂躙されるのを見せ付けられ続けていた。
略奪者に家は荒らされ、服や食料が持ち出される。そして気に入らない服は破り捨てて踏み付けられ、果物は一口噛じって捨てられてしまう。
王の住居も荒らされ、エーデルアンジュの服飾品も持ち出された。そして、服は気に入らないのか破り捨てられ、アクセサリーは何点か気にいった物があった様で、身に着けて持ち去られていく。
戦いで死亡した者はその場に打ち捨てられ、まだ歩ける者は縄で繋がれ、歩けない者はぞんざいに引き摺られ、エルフ達は続々と連行されて来る。
そして、一番開けたこの場所に着くと、男も女も、老いも若いも、先ず真っ先に服を引き裂かれ、知的生命体としての最低限の尊厳すら奪われた。
それから選別が始まり、商品価値のあるものはガルデオと同じ首輪を付けられ、傷の手当てが施される。
方や不適合品の扱いは目を覆いたくなる程に凄惨だった。どうせ殺すなら一思いに殺してやればいいものを、執拗に虐待し、凌辱し、まさに“死ぬ迄痛め付ける”の言葉を体現したかの様な残虐な行為が行われた。
そこに一人のエルフが連れて来られた事で、ガルデオは身体を震わせた。二人に腕を引かれて引き摺られてきたそのエルフは、もう自力で立つ事が出来ず、かろうじて生きているだけの先王だった。
そして引き摺っているのが、一方は一本角の男で、もう一方がエルフの女。しかも、敵の白の装備に身を包んでいたからだ。
その男の方が、ガルデオに座っている女に向かって遠くから叫ぶ。
『カシラァ! このジジイ、エルフの前の王らしいぜ!』
『カシラじゃねぇ、隊長だ! 隊長と呼べ! あー? そんなジジイいらねぇわ!』
女も叫んで返し、自分の首の辺りを真一文字に指でなぞった。
ガルデオには何を言っているのか分からないし、女のジェスチャーも見えていない。だが、女の言葉を聞いた男が、先王を地面に転がし剣を抜いた事で、女が「殺せ」と命じた事だけは分かった。
「オイ! お前エルフだろ! そいつを止めろ! 止めてくれ!」
ガルデオはエルフの女に向かって叫んだ。男の蛮行を止めろと叫ばずには居られなかった。
するとエルフの女は剣を抜き、先王の首を斬り落とした。
「───な!?」
ガルデオは言葉が出ない。
『アーッハッハッハ! なんだァそりゃあ! お前が殺るのかよ! 人望無ぇなァ、そのジジイ!』
女はバカみたいに嗤う。
『テメェ! 何してんだ、コラァッ!』
男は先王を痛めつけようとしていた剣を捨て、エルフの女の耳を乱暴に掴む。
「───」
エルフの女は何も言わない。まるで感情が無いかの様に痛がりさえしなかった。
男はエルフの女を殴る。耳を引き千切らんばかりに振り回し、容赦無くエルフの女の顔を殴り続け、地面に叩きつけると、腹を何度も踏んづけた。
余計な事ばかりをして中々進まない選別が進み、首輪の在庫が尽きると、略奪者達は拳大の大きさの石を取り出し、首輪を付けられなかったエルフ達に向かって投擲した。
合計五つのその石からは、魔物が出現し、武器も無く、満足に動けないエルフ達を、棍棒で片っ端から叩き潰していく。
「───うっ! くっ…うう……!」
『おおお!? どうした? 何が悲しいんだァ?』
ガルデオが嗚咽を漏らすと、女はガルデオの頭を優しく撫でた。
飴と鞭。予期せぬ優しさが妙に心に沁み入ってしまったが、ガルデオは悲しいから泣いた訳では無い。
(良かった……! アステオン! エーデルアンジュ様! 良かった、本当に良かった!!)
ガルデオは、親友兄妹の姿を見なかった事に嬉し涙を流していた。
それは戦死をしたか、上手く逃げる事が出来たか。当然後者の方が望ましいが。二人がこんな地獄に来る事が無かった事を、ガルデオは心の底から喜んでいた。
戦禍のグランヴィラージュに残った2000を超えるエルフ達は、何処かに逃げ延びた者も居るかも知れないが、ガルデオの知り得る範囲で生き残ったのは、商品達とガルデオの様に気に入られた玩具達の総勢108名。敵は重傷者無しの軽傷者までが43人。死体の数は、たったの5体。
それらは咆哮と叫喚を背に受けながら、哄笑と慟哭を森に響かせ、地獄と化したグランヴィラージュを去って行くのだった。
資格の勉強したいので、ちょっと(10/19まで)筆を休めます。




