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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
魔を討つは異世界の拳

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戦禍の森②

 それは突然だった。グランヴィラージュへ駆けて来たのは、走鳥の魔獣に乗ったエルフの戦士達。その誰もが傷付いており、鬼気迫る声で番兵に叫んだ。

「敵襲うう! 直ぐに武器を取れええ!」



 そう叫んだ傷付いたエルフは、グランヴィラージュ所属のエルフではない。他の集落からやって来たエルフであり、「ここに来る迄に魔物に襲われ、気が動転しているのだろう」と思った番兵は、傷付いたエルフを落ち着かせてやろうと声を掛ける。

「ここまで来ればもう安心だ! 魔物…如き……?」

 だが、番兵は言葉を詰まらせた。負傷した同胞の鞄に、“矢”が刺さっていたからだ。

「まさか、ゴブリン(あいつら)に……か?」

 弓矢を使う魔物も居る。それはどこにでも湧いているゴブリン。だが、自分達(エルフ)がゴブリン如きに遅れを取るなんて有り得ない。ゴブリン如きが徒党を組んだところで、こんなにも切羽詰まって走鳥を走らせるなんて事は、絶対に有り得ない事だった。


 そんな全く危機感の無い対応をする番兵に呆れ、負傷したエルフはいよいよ敵の正体を叫ぶ。

「違う! 外の奴等だ! 外の奴等が攻めて来たぞ!」

 番兵は余計に理解が出来なかった。「ここは何処だ?」と、「ここは森の中央だぞ?」と、疑問ばかりが浮かんで来る。何故なら、こんな森の中央まで人類が攻め込んで来た事など、今の今までたったの一度も無かった事だからだ。

「言っただろおお! 武器を取れええ! もうそこまで来てるんだぞおお!!」

 人類が攻めて来たなんて信じられないが、冗談を言っている様には全く見えない。

 番兵はいよいよ弓を構え、矢を番える。それに続いて他の番兵も弓を構え始め、緊張が高まった。



 森の奥に気配を感じる。その気配は騒がしくなく、数は少数だと予測出来る程度だ。だが、人類()は地上だけを来るとは限らない。

 人類には───

「上だ! 鳥の奴だ!」

 索敵魔法(精霊の報せ)を受け取った番兵が、空を見上げて叫ぶ。そこには二人の鳥人種が飛んでいた。


 エルフは排他的であり、奴隷としてすら人類を自分達の集落に置くことはなく、当然グランヴィラージュに人類を入れたことなど一度もない。

 それでも知識として、鳥人種は“鳥の奴”と、グランヴィラージュのエルフにも伝わっている。他にも“獣の奴”、“角の奴”、“尻尾の奴”など、各種族の特徴を捉えて伝わっており、直に見たことが無くても、そういうのが居ることは知っていた。


 そして、この番兵は森の外縁で人類と戦闘をした経験があり、鳥人種を直に見た事があった。

 その時の奴らは、やはり飛ぶ事に支障が出るのか、装備は至って軽装。特に翼には一切の装備が無かった。

「……? あんな格好していたか?」

 体にピッタリの服は同じ。だがその白いの服の上に、黒い帯状ものが蔓の様に張り巡らされている。その帯状の物は肩から翼角迄にも見られ、番兵の鳥人種に対する認識からすれば、異常な姿だった。


 だが、そんな事はどうでも良く。敵は倒さなければならない。番兵が弓矢を番えて上空の鳥人種に狙いを定めると、二人の鳥人種から合計四本の矢が放たれた。

「っうう!! バカな!? いつ弓を引いた?」

 風の精霊魔法により、辛うじて矢の軌道を逸らすことは出来た。だが、その矢はどうやって射ったのか。

 敵の足をよく見れば、そもそも弓を持っていない。持っているのは、鏃が飛び出した矢筒の様な物だけだった。


 番兵が矢を敵に向けると、敵は矢筒の様な物の先を番兵に向ける。そして一瞬、ソレは強い魔力を発した。

 番兵が一本の矢を射ったのに対して、敵は三本の矢を連射。今度は自分の矢の誘導に精霊魔法を使ってしまっており、もう防御に回すには間に合わない。

(死なば諸共だ!)

 ここはエルフの王が住まう地、グランヴィラージュ。ここより後に退く場所は無い。決死の番兵は自分の矢を敵の胸迄誘導する。

 そして番兵の矢が敵の胸のど真ん中に命中。番兵は着弾点に強い魔力の高まりを感じたが、その瞬間、腹を、胸を、眉間を敵の矢に射抜かれ、その魔力の高まりが何なのか分からぬまま、その役目を終えた。




 その頃グランヴィラージュには、敵の襲来を告げる鏑矢(かぶらや)が飛び交い。王の住居にもその音が届き、エルフの最精鋭部隊が動き出した。

 鏑矢が鳴り出したのは、大凡(おおよそ)南西の方角から。王の住居には続々と戦士達が集まりだし、鏑矢の音に向かって隊列を組み始める。


 武装した王ビュイスルノンと、王子アステオンが姿を現すと、戦士達は今にも飛び出して行きそうな程に士気が上がった。

 しかし、王から戦力を与ったエルフの総隊長はまだ隊を動かさない。それは伝令が来ないからだ。鏑矢が飛び交う予断を許さない状況なのは分かる。だが、敵が何なのか。その規模はどれ程か。

 本隊からも能動的に伝令を走らせたが、まだ帰って来ない。そこが大部隊の弱点である。情報が無ければ、大戦力の的確な運用が出来ないのだ。



 それから程なくして、急報が来た。それも幾つも同時にだ。

「敵襲! 敵襲うう! 敵は外の奴らだ!」

「外の奴らが攻めて来た! やたら強いぞ!」

「敵は外の奴らだ! 気を付けろ、彼奴ら精霊魔法が効かないぞ!」

「「「───!!」」」

 総隊長は苛つく。一番聞きたい事が抜けていたからだ。

「敵の数は!」

 総隊長に怒鳴られ、伝令達は顔を合わせる。そして各々口を開いた。

「二人です!」

「三人です!」

「二人です!」

「「「───!!」」」

 それぞれの報告で、たかが二人か三人。まさかそんな人数に負けるは思えないが、実際に敗走してここに居るのだ。そして敵の戦力について報告もあったが、敵は強い、魔法が効かない、矢が届かない───そんな漠然としたものばかりで、総隊長は頭を抱えた。


 だが、それでも分かった事はある。現在はグランヴィラージュに散り散りに居る戦士達が、各個に行動して遊撃戦を繰り広げている様な状態だ。

 そして敵は、西の集落を困らせているカクトウギの力を使っていると推測出来る。それならばと、総隊長は声を張った。

「20名編成で隊を作れ! 敵は少数で行動している。囲って飽和攻撃を仕掛けろ! 卑怯などとは考えるな! 敵は卑怯にも奇襲を仕掛けてきたのだ!」

「オオッ!!!」

 分かりやすく、それでいて戦士達の心情を的確に突いた総隊長の指示に、今か今かと戦いの時を待ちわびていた戦士達は、雄々しい気迫で応えた。



 王子アステオンは護衛に護られ、隊の側面から戦士達の勇姿を見ている。その中にはアステオンと弓の訓練を共にした友人達の姿もあり、その誰もが闘志と自信に満ち満ちた表情だった。


 その友人の一人“ガルデオ”は、王女エーデルアンジュと結ばれたていで「お義兄さん」「義弟」と、王子アステオンと冗談を言い合える親友の仲だ。

 そんなガルデオは、心配そうな目をしたアステオンと目が合うと、口角を上げて「心配無いぞ」の合図を出した。

(10倍の戦力だぞ? 負ける訳が無いだろう!)

 ガルデオはゴブリン程度の魔物なら倒した事があるが、人類との戦いは今回が初の実戦となる。それ故の無知から来る慢心。だが、そうなってしまうのは当然でもあった。


 最精鋭部隊の構成員は、各地の集落から集められた戦士長を務める事が出来る程の実力者であり、更には魔王(ヴレ)を退けた事がある猛者も居る。それが各隊に配置されており、ガルデオの隊には二人も居るからだ。



 ガルデオら若輩達は、共鳴し燃え上がる闘志により、最早自分達が勝利を手にする姿しか見えていない。だが、各隊を率いる古豪の精鋭達は至って冷静。しかし誰も、浮かれて調子に乗る若輩達を咎めようとしなかった。


 知能の低い魔物には知恵を絞って対抗する事が出来る。が、知能が高い人類にはそうはいかない。更に身一つ同士なら、人類の戦闘能力は今やエルフを優に上回ってしまった。

 それでも何件か“カクトウギを倒した”報告は上がっている。その事例は、背後などからの相手の予期せぬ攻撃だった。

 

 個を征すには数。数の暴力である。だが、今回の敵は「何かが違う」と、「嫌な予感がする」と、古豪達の経験が警鐘を鳴らす。


 だから、古豪達は心を捨てた。


 若輩はまだ満足に集団戦が出来ないから若輩だ。その勢いだけの盲目な若輩達を突っ走らせ、それを囮に使う。そうしなれば戦いにすらならないと、古豪達は固く口を閉ざす。

 そして中堅達は、古豪達の口元から僅かに滲み出た悔しみから察し、余計な事を言ってしまわぬよう口を閉ざした。


 だから誰も、若輩達に「逃げろ」とすら言えなかった。

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