第15話 オッサンの戦い
アーマースパイダーと大量のゴブリンとの連戦を終えて、若者達は体力と魔力と矢を消耗しているが、エイル達先輩三人組はまだ碌な仕事をしていないので、もう少し捜索を進める事になった。
普段は静かな森も、今はあちらこちらから戦いの音が聞こえて来る。人類の森の踏査と、ダンジョンから溢れる魔物により森の縄張りが大きく乱されて、今この捜索のラインが激戦地となっていた。
そしてエイル達の前に、今回の祭りの発端になったアイツが姿を現した。
「エイルさん、アイツは······」
「やっぱスゲー威圧感だ······エイルさん、アレと素手で戦ったんすよね?」
「ベル、あんなのに追われたの?」
「うん、エイルさんが居なかったら、私······」
大剣を持ち重厚な甲冑に身を包んだダンジョン産のオーク、オークナイト。そいつがノシノシと我が物顔で歩いている。
「お!ファル、エイルの仇はあいつか?」
「エイルの仇はアンナが討ってくれたさ。あいつはエイルの仇の仇討ちに来たんじゃないか?」
「······お前等随分と余裕だな。じゃあ、後は任せた」
「ハハハ!エイルお前も余裕そうな顔だぞ!久し振りにパーティー再結成か?」
「アンナが居ねえが、久し振りにいっちょやるか!よおしっ!ファル、エイル、後輩達に格好良いとこ見せるぜ!」
「まったく······ああ!俺達の力、見せてやろうぜ!」
アレクス達を後ろに下げ、オークナイトの前にエイル達は躍り出た。
エイルは鉄綿花のグローブを締め直し、両手を下げ両足に体重を落とし自然体で構える。その顔は久し振りに友と肩を並べられた事に、思わず口角が上がってしまっていた。
斧使いのオルフ、剣士のファル、格闘家のエイル、そしてもう一人ここにパーティーリーダーの騎士のアンナが居れば、懐かしのパーティーが完全再現だったがそれは仕方が無い。
「おーい、アイツどっちが良い?」
「「デカイ方」」
オルフの問に、エイルとファルは揃って即答した。オルフは背負っていた長袋から棒を取り出すと、片手斧の斧頭にある台形の突起を、棒の先端の台形の溝に嵌め、割れた先端部をネジで締め上げ台形の溝を閉じ、2つの斧を強固に固定して両刃の戦斧を作り出した。
この分離合体機構は、エイルの前世の知識をタングが形にしたものだが、まさかほぼ鍛造だけでコレを作ってしまったことには、エイルは脱帽するしか無かった。
オルフが戦斧を担ぎ、ファルが刺剣を地面に突き立て、その上に乗って翼を広げると、オークも戦闘の意志を剥き出しにし、大剣を振り上げ突進した。
対するエイル達の初手は、ファルが飛び、エイルが地を駆ける。ファルとエイル、天と地の同時攻撃から始まった。
「マギアネモスニース!」
ファルが牽制と目眩ましの風刃を放った。しかし、オークの方も感の良い個体で、腕を上げ顔面への不可視の攻撃を防いでいる。
防御されてしまったのなら、そこでエイルの出番だ。オークが防御に上げた左腕を蹴り上げ、風刃が通る道を作ってやる。
「グブオォォォン!」
顔面を風刃で切られ怒ったオークは、蹴り上げられた方と逆の手で握っている大剣を、エイルに向け振り下ろした。
エイルはサイドステップから、オークの背後へ跳ぶ。そのエイルを顔を向けて追ったオークの隙を付いて、ファルが兜を刺剣で叩いてやると、オークはファルに向けて大剣を薙ぐ。当然そんな物に当たってしまう程深追いはしておらず、次に控えるエイルに手番を渡す。
エイルは大剣を振り抜いて踏ん張っているオークの軸脚の膝裏に、転倒させない程度に足刀を入れオークのバランスを崩し、手番をオルフに回した。
「先ずは───一本だァ!」
オルフの戦斧がオークの右腕に叩き込まれ、鉄を引き裂き、骨を圧し折り肉を断つ。鎧の上腕部を両断はしなかったものの、中に腕が残っているだけでもう右手が剣を握る事は無くなった。
怒号と共にオークの左手に握られた大剣がオルフを狙うが、それを止めるのもエイルの仕事だ。再び膝に足刀を入れて、体勢が大きく振れない程度にバランスを崩させると、今度はファルが肩の鎧の隙間を刺突し、オークの左腕は力無く垂れ下がり、大剣を地面に落とした。
「二本目も取ったぞ!やれ!オルフ!」
「オウさ!」
オルフは重心が先端に偏った戦斧に、たっぷりと遠心力を加えてオークの胸に叩き込んだ。耳障りな金属音が鳴り鉄板を断ち切り、オルフの戦斧がオークの肉に埋まった。
「グボオオオーッ!」
「うおお!まだかよコイツ!」
「やはり止どめはアンナだな」
オークは最後の悪足掻きで、胸に戦斧を食い込ませたまま地団駄を踏んで暴れ出した。とても堪えきれるものではなく、戦斧を手放すオルフと冷静に分析するファル。オークは放って置けば出血で死にそうだが、エイルは修行の成果を試す為に、大きく息を吸った。
「練気······」
呼吸で魔力を取り込み、メカニズムは不明だが丹田にて魔力を気に変換する。
「送気······」
丹田から全身へ気を送くり、その感覚を確かめる。この気が駆け巡るタイミングと攻撃の動作のタイミングを合わせる───これがエイルの気合。
繰り出す技は人体の最も硬い部位、肘を使った何の変哲も無い肘打ち。狙いは、背面からオルフの作った傷口を捉える───
下半身は大地を蹴り、上半身はオークへ肘を撃ち込む。丹田から足へ、丹田から肘へ気が流れ、地面からオークの背までが真っ直ぐ一本の支え棒になったとき、全てのエネルギーがオークへ炸裂した。
「うおお!?エイルが何かやったか?」
「血が掛かってしまうところだったぞ」
オークへ伝わった衝撃は、オルフが作った出口から勢い良く血のエフェクトを伴って吹き出した。うつ伏せに倒れたオークナイトの鎧には、強い衝撃で陥没した跡がくっきりと残っていた。
「え!?エイル素手じゃん!何したらこうなるん?」
「エイルさん大丈夫!?鉄の鎧だよー!骨折れて無いか心配だよー!」
シュナとミーアが打撃痕を見て驚き、心配すると、エイルは肘を動かして無事を知らせ、自分も無事を確認できてホッと一息ついた。
「これキっすか!?ここまで出来るんすか!」
「エイルさん!遂に攻撃も成功したんですね!」
キールとアレクスが成功を喜んだ。
「エイルさん、完璧です!」
ベルからもお墨付きを頂き、エイルの気の攻撃への転用は、紛れもなく成功を収めた。
「何だ何だ?お前達面白い事やってるな、酒場でゆっくり聞こうじゃないか!」
エイルとオルフで、オークナイトの大剣を引き摺って持ち帰り、一旦風呂に行ってから落ち合うことになった。
準備が整い、人でごった返す夕焼けの大通りから脇に入り、待合場所の小路で退屈そうに待っていたオルフ達と合流し、裏通りの酒場へ向かう。尤も時計の概念が無いので、待たせ待たされはお互い様の精神が根付いており、待つのが嫌なら家を回って全員で行動するのがここの常識だ。
エイルは御無沙汰しているが、この酒場はエイル達の行き付けの店だった。壁が取り外し出来る様に設計された店内は、今は月明かりをたっぷり取り込んでおり、店の奥では証明兼調理用の囲炉裏に熾を広げて、バイトの子が集客効果抜群の匂いを漂わせている。
エイル達の姿に気付いた強面の猫型獣人の店主が、ぶっとい腕をぶ厚い胸の前で組み、優しげな口調で出迎えた。
「おう、いらっしゃい!よく見る顔と、久し振りの顔と······お前等もとうとう若者に代替わりをする気になったか?」
「タイショー、俺達はまだまだ現役だぜ。後でアンナも来るが、席は適当で良いか?」
「ああん?忙しいんじゃないのか?まあ、来れるなら忙しく無えな······9人か。あっちの机を2つ使ってくれ」
横に広い店内には直径1メートルくらいの円卓が20台程設置されている。既に二組の冒険者パーティーが、テーブルに料理を広げて酒を煽っていた。
「あの方が店主で······給仕も厨房の方も皆んな獣人種の女の子ですね」
「厨房を仕切ってるのが『大将』の奥さんで、あとの四人は従業員で······獣人なのは大将の趣味だ」
「タイショーというのは、店主さんの名前ですか?」
「ああ、なんだ······その、愛称だよ」
「エイルの夢の国の言葉では、軍隊を指揮する者をタイショーと呼ぶらしいぞ」
「夢の国······?」
エイルがベルと話をしていると、ファルが横槍を入れた。『大将』の呼び方は、エイルがここで酔っぱらい、もろに日本語で店主をそう呼んだ事から始まっている。酔って夢見心地なときに喋った謎の言語な為、それからエイルがこぼした日本語を、夢の国の言葉と言うようになった。
バイトの獣人種の女の子が人数分の酒と、大皿に盛られた野菜の盛り合わせを持って来ると、エイルとオルフとファルは樽のジョッキを持ち上げた。
「そんじゃ、神様に感謝を捧げて───『カンパーイ!』」




