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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第14話 若者の戦い

 お食事中のアーマースパイダーを前にして、オルフは得物である扇状の刃の付いた2挺の片手斧にすら触れず、余裕の態度でエイルに話し掛けた。

「エイル、俺達昨日アイツ倒したからお前等やってみ?ギルドで倒し方聞いてるだろ」

「やっぱお前等だったか、そんな気はしてた。それと、アイツは俺達も倒してるぞ」

 オルフとファルはアレクス達に「将来有望だ」と賞賛を送るが、その場から動こうとせず、アレクス達が戦う事は既に決定事項の様だ。


「ガルルの仲間······まだ子供だよ」

「アレクス、本当に私達だけで戦うの?」

「俺は良いぜ。攻略法教えて貰ったんだ、稼がせて貰おうぜ!」

 アレクスはキールの言葉を受けて、エイルとオルフの顔を伺った。

「オルフ、報酬は俺達で貰って良いな?」

 エイルがそう言うと、オルフは「良いぜ~」と手をひらひらさせて返事を返した。


「アレクス、役割を決めてくれ」

 エイルがそう言うと、アレクスは待ってましたとばかりに役割を決めていった。ミーアとガルルが威嚇で引き付けて、アレクスとキールが背後に回り込み脚を潰していく、余計なアレンジをしない教科書通りの配置だ。エイルとベルは待機、アーマースパイダーにはエイルの拳もベルの魔法も、目玉以外には火力不足だからだ。


「おいアレクス。そいつナマクラだろ?コイツ持ってけ」

 オルフはアレクスに、扇状の刃が両側に付いた長柄の戦斧(バトルアックス)を手渡した。

「お、重っ!あ、ありがとうございます。······あれ?オルフさんこんなデカイの持ってましたっけ?」

「失礼な奴だな、俺のはデケェぜ!重いのは頭だけだ。振り方は······先っちょを思いっきり叩き付けてやれば良い」

 アレクスは「片手斧が2挺だったはず」と小首を傾げながら戦いに向かった。


「うおおーーーッ!があおおーーーッ!」

「ウオンッ!ウオンッ!ヴヴゥゥゥウオンッ!」

((声を出す意味はあるのだろうか?))

 ミーアはガルルの背中に乗り可愛らしい声で、ガルルは勇ましく吠えたてて威嚇を始めると、まるで嘘の様にアーマースパイダーの方も腕を高く掲げて対抗した。

 教科書通りの反応を見せるアーマースパイダーの右側がアレクス、左側からキールがジリジリと回り込み、息の合ったタイミングで攻撃を開始した。

 アレクスは振り上げた戦斧を脚の付け根へ叩き付けると、脚を容易く両断し、地面にめり込んだ戦斧に驚愕した。キールは槍を脚の付け根の甲殻の隙間へ突き刺し、両断には至らなかったが、脚としての機能を潰した。

「すご······よし!次だ!」

「本当にこっちを見向きもしねえ。こいつ脳ミソ入ってるのか?」

 痛みからか脚をワキワキ動かして藻掻くアーマースパイダーの背後では、アレクスとキールが次の攻撃のチャンスを伺って待機している。アーマースパイダーにとっては、この痛みは目の前の敵からの攻撃で、攻撃を止めさせる為に更に威嚇に力を注いだ───


 ──アレクス達は全ての脚と腕まで破壊し終わった。アーマースパイダーは役に立たなくなった腕と脚を投げ出して、目玉をギョロギョロ回し、口からギチギチ音を出すだけのオブジェになっていた。

「エイルさん、これ······止どめどうします?」

「どうするったってなぁ······口から剣でも突っ込んでみるか?」

「うわぁ、なんか嫌だ。キール、突くのは得意だろ?」

「俺も嫌だぜ······無抵抗のヤツの口に槍突っ込むなんてよ」

「「······」」

「······え?なんで私を見てるのよ!」

 止どめ役はベルに決まった。


 ベルは渋々アーマースパイダーの前に出て、両手を突き出し、手のひらを目標へ向ける。狙いは開口部、地面すれすれでだらし無く開いている口に照準を合わせる。

「いきます!離れて下さい!」

 アーマースパイダーの近くで警戒していたアレクスとキールが後方に移ったのを確認して、ベルは魔法を発動した。

「マギアフォティアロンヒ!」

 ベルの掌から放たれた魔力は炎の槍と成って、地面を這うように開口部へ突入した。

「マギアネモスフロガトロヴィロス!」

 ベルは炎槍状態で魔物の体内に打ち込んだ魔法を、炎の竜巻へと変えた────

「ひうっ!」

「うおぉ······ひでぇ」

 アーマースパイダーの体内を蹂躙した炎が甲殻の隙間から吹き出し、入口だった口も今や出口になって炎を吹き出している。それを目の当たりにしたベルは引きつった悲鳴を上げ、アレクスも少し引いた。

「炎の······ゲロだな」

「キール、例えが汚いよー······」

 

「マギアネロボーラ!」

 見るに耐えかねたベルが、消火用に仕込んでおいた水の魔法を発動すると、アーマースパイダーを包んでいた炎は水に変わり、辺りに飛び散って延焼を消し止めた。のと────

「······ゲ「お願い言わないで!」」

 体内を掻き混ぜた炎が水へと変わったので、開口部からは内容物が混ざった液体が溢れだした。


「エっグ!エグイわー。オルフは死ぬまで頭を斧で叩いてたけど······エッグ!ベルを怒らせるとこんな拷問されるんだ」

「シュナ違うの!こんなにするつもりじゃ無かったの!」

「冗談だしぃマジにならないで。で、ベルは重畳魔法が使えるんだ。私は重畳魔法はダメ、付与魔法の同時展開なら出来るけど」

「私は付与魔法(それ)がダメ。何かコツがあったら教えて」

「コツ───キスしながらアレとコレを弄る感じ?」

「「······」」

「あー、スベった?」

 シュナは最初からオープンで、性根が悪い娘ではなかった。魔法のマルチタスクのアドバイスも間違いでは無いが、慎ましさのカーテンくらいは、一枚や二枚······もっと必要であった。


 シュナが滑り散らかす中、エイルは何者かに囲まれている気配を感じとった。番犬と番猫と番獣人も居るのだが、彼等は気が付いていないようだった。

「おい、オルフ。多分何かに囲まれているぞ」

「ん、そうか?スンスン······ふ~ん、ゴブリンだな。ガルルとティムも、コイツの香ばしい匂いで鼻がバカになってんだな」

 アーマースパイダーは焼くと香ばしい良い匂いがする。その濃く強い匂いは、ミーアが「鼻が効かなかったんだね大丈夫だよー」と、ガルルをなだめているくらいには強烈だ。そして食欲を刺激される······ここを囲んでいるゴブリンも、この匂いに釣られてノコノコやってきたのかも知れない。


「どうするオルフ、戦るか?」

「ファル私に戦らせてよ?ミアとガルも一緒に戦るっしょ?」

「やるっしょ!ガルルも戦いたいって言ってるよ!」

 アレクスとオルフもOKを出して、魔獣使いによる、魔獣の汚名返上名誉挽回戦が始まった。

「ティム、装備!」

 シュナはティム用の武器の双頭の短剣に、魔法を付与して咥えさせミーアの動きを伺った。

「ガルル、待て!」

 ミーアはガルルを待機させ、先ずは自身で敵の戦力を把握する為に、木の盾を掴んで飛んだ。

「シュナ!見える限りで、棒、剣、棒、棒、弓、棒!弓はガルルがやるよ!ガルル行け!」

 ミーアが盾を捨て、ゴブリンアーチャーに向けて矢を射ってターゲットを指定すると、ガルルが「ウオン!」と一つ吠え颯爽と駆け出した。

 茂みから矢と石が放たれたが、正面から射られた矢など、角山犬の硬い体毛の毛並みには石ころ同然だ。ガルルが矢も石も軽くいなして茂みに飛び込むと、断末魔の悲鳴と共にゴブリンの首無しの胴体が舞い上がった。


「グギャギャー!!!」

 ゴブリンのリーダーの合図の様な叫びで、ゴブリン達が一斉に茂みから飛び出した。その数はミーアの報告よりも多いが、目視による魔法の援護で真価を発揮するシュナとティムのコンビには、願ったり叶ったりな状況になった。

「わざわざ姿を見せてくれるなんてサイコーにバカ。ティム行け!」

 シュナの指示でティムが駆け出し、棍棒を持ったゴブリンとすれ違うと、ゴブリンは棍棒を落とし血が滴る腕を押さえた。ティムは地を蹴り木を蹴り縦横無尽に跳び、手脚を切り付け戦力を奪い、隙を晒せば首筋に刃を這わせる。

 そんなティムもスピードに乗りきっていないと、刃を止められてしまうときもある。

「ティム!右!」

 シュナからの指示を聞いたティムは、鍔迫り合いをしている右の刃の切っ先を、ゴブリンの顔面に向くように調節した。

「マギアフォティアバーラ!」

 シュナが付与していた魔法を発動させ、ゴブリンの顔面に炎弾が直撃した。ティムは、武器を捨て顔を手で覆う隙だらけのゴブリンの首を切り裂き、次の獲物に向かった。ティムが打ち漏らしたゴブリンはシュナが魔法で迎撃し、2発の炎弾の付与が切れれば、付与を掛け直してティムを送り出す。シュナは天啓の儀によれば『魔獣使い』ではあるが、『魔法使い』に迫る魔力量を誇っていた。


 茂みの向こうからゴブリンを咥えたガルルが飛び出し、そのまま力任せに剣のゴブリンに叩きつける。剣のゴブリンは自慢の剣でガルルのゴブリン()を受けるが、鍔迫り合いにもならず、自慢の剣を顔面で受けることになった。

 そしていよいよ最後の一体になり、ガルルが噛み付いて振り回すゴブリンの腕が千切れ、ゴブリンが宙に舞った。そこへティムが飛び付き地面に叩きつけると同時に、短剣で喉を切り裂いてフィニッシュだ。


 ミーアとシュナがお互いの魔獣を褒めあい労っている中、今回何もしなかった先輩三人組は、せっせと討伐証明を回収した。

 

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