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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第4話 ドワーフの鍛冶屋②

 自己紹介が終わると女同士話を始めたので、男達は店内に陳列されている数少ない武具を眺めて暇を潰していた。暫らくすると奥の戸が開いて、二人のドワーフが入って来た。

「あなた、スズ。エイルさんがお友達を連れて来てくれたのよ」

「オウ!久しぶりだな。また変な鍋か?」

「その節はどうも。今日は俺の仲間にお店の紹介をしに来ました。皆んな、この方がタング·アーロイさん、この店の店主だ。」

 アーロイ武具店の店主タングは、ドワーフの特徴の栗色の髪と髭が、熱によってパーマが掛かっている。タングは男のドワーフの嗜みである蓄えた髭を弄りながら、アレクス達を見回してお茶をグイッと飲んだ。

「アッチイ!あー、新人さんか。娘のスズも今年で16だ。天啓の儀をやって、鍛冶屋だったから心置き無く働いてもらってるぜ。見ての通りウチは取り置きが少ないからよ、製作は要相談だ。今日は何か用があって来たのか?」

「まだ、武器の事も良く分からないだろうから、一度タングさんに見てもらおうかと思ったんです」


 タングはただ優秀な鍛冶屋というだけではなく、長年冒険者に寄り添って武具を作ってきた経験から、アドバイスをすることも出来る。

「剣の兄ちゃん、(そいつ)を抜いて見せてくれ」

 アレクスが剣を抜き、タングに刃を見せた。

「スズ。この兄ちゃんはお前が見てやってくれ。次は、投擲槍の兄ちゃんだ」

 剣を見るなり、タングは娘のスズへ仕事を振った。キールは投擲槍を一本取り出し、タングに見せて見るが、当の本人はあまり興味が無いようだ。

「兄ちゃんはアレだな。この先それで戦い抜く訳じゃないだろう?魔獣()が居るなら突撃槍(ランス)は大物刈りには重宝するし、自力の戦闘用に(スピア)を持った方が良いぞ。そこの壁に柄の見本があるから、自分の手に合うやつを探してみると良い」

 キールが槍の柄を手に取って、握り心地を確認し始めると、タングはミーアの所へ向かった。

「鳥人の姉ちゃんは弓か?ウチの弓矢は専門店には負けるが、鏃の貫徹力は抜群だぜ。鏃の交換だけも出来るが、どうだ?」

「私は魔獣使いなんだよー。弓は空を飛ぶのに軽い方が良いから持ってるだけなんだよ」

「オウ、そうか!魔獣の装備も必要なら相談してくれ。鳥人の護身用の(クロー)も翼角用と足用とあるし、防具でこんな物もある───」

 タングは雑然と置かれた商品の中から目当ての物を取り出すと、床に雑に放り投げて、同じく商品の剣で力一杯斬りつけた。斬りつけた物をタングが拾い上げると、それは手袋の様な物体だった。

「どうだ?これは鳥人用の靴だ。鉄綿花の繊維を底側に編み込んで、ちょっとやそっとじゃ切れないようにしてある。エイルの手袋と一緒だ。握り辛くなるが、弓が専門じゃないなら気にする程じゃ無いだろう」

「鉄綿花は高価だって聞くよ······扱いが雑過ぎるよー」

 ミーアはその靴を足で拾い上げ、翼角で摘んで品定めを始めた。高貴な身分の人物は別として、鳥人種は靴を履かない。履いても薄く、動きを阻害しないものくらいだ。物を掴めなくなるし、柵など不安定な場所に掴まる事が出来なくなるからだ。


「そっちの角の姉ちゃんは······エイルと一緒で殴り屋か?」

「え!?な?殴り···屋?」

 タングはエイルの事を殴り屋と呼ぶ。ベルが手ぶらなのもあって勘違いしたのだろう。

「タングさん、その子はベルカノール。魔法使いですよ」

「ハッハッハ!そりゃいけねえ!ウチは魔石の在庫は持ってないが、魔石付きの剣だろうが、槍だろうが、何でも作れるぞ!」

 魔石は魔力の自動収集能力を持ったモノで、一応『石』とされているが、実際何で出来ているのかは分かっていない。魔力の濃い場所に落ちている事が多く、勝手に魔力を吸って充填するが、魔力の薄い場所に置いておくと自然消滅している事もある。

 魔石を使うメリットは、単純に魔法の威力増強。魔法を放つ際に魔石を通過させる事で、自分の魔力に魔石の魔力を上乗せして放つことが出来る。デメリットは、高価で連発が出来ない。自分の魔力を注げば急速充填も出来るが、結局は自分の魔力を使っている。

 もはや国防軍の兵器の部類になるが、金に物を言わせれば、魔石を十個も二十個も付けた武器も作れはする。

「私は、防具の方が欲しいです。この前、脚に矢を受けてしまって······」

「そうか、それは大変だったな。重装甲に身を包めば安心だが、姉ちゃんじゃ動けそうに無いな。厚手の外套に、厚手のスカート、肌に密着してなければ、これだけでも威力はかなり減衰する。胴体はプレートメイルでも着ておけば大丈夫だろう」


 ベルへのアドバイスが終わったタイミングで、スズがタングに声を掛けた。スズはドワーフの特徴の栗色の髪を、作業の邪魔にならないように後ろで纏めており、後ろ髪は母と同じでストレートだが、前髪は父と同じ様にパーマが掛かっている。

「お父さん、もういい?アレクスさんの剣だけど、欠けより凹みの方が目立ってる。生じゃないけど、ちゃんと焼きが入っていないのか硬度は低め」

「ええ!?俺の剣って欠陥品なのか?」

「えーと、アレクスさん。なんでも硬くて刃が鋭ければ良いって訳じゃないんです。全体の硬度が高すぎると衝撃で折れる事もあるから、攻撃を受けるという点ではこの剣は安心出来ます」

 タングが腕を組みウンウンと頷いている。どうやらスズの鋼を見る目は、タングの助手をする内にしっかり養われていたようだ。


「アレクスさん、その剣で素振りして下さい」

 そう言ってスズは、アレクスを連れて家の外へ出て行き、タングも後を追って外へ行った。そして縦斬り横斬り突きと、何度か素振りをして中へ戻ってきた。

「アレクスさんは剣に振られているので、もう少し軽い剣に持ち替えるのをお薦めします」

「悪いな兄ちゃん。スズ、()()だ。まだ剣に振られているだ。その兄ちゃんはまだ剣の扱いがなってない。そんなんじゃあ、まだ剣の良し悪しは分からないぞ」

 狡いやり方だが、物事には結論を焦ってはいけない時もある。何事も慣れないうちは道具に使われるのが道理だ。タングは武器を使いこなしてから、微妙な重心のずれや、太刀筋のキレから武器の調整が出来る。これは長年使用者と共に、武器と触れ合ってきた成果だった。

「アレクスさん······ごめんなさい。今のは無しで······訂正します。···えー···と、ごめんなさい······」

 スズは何て言えば良いのか分からなくなり、ごめんなさいと俯いてしまった。アレクスはそれに見かねて、しゃがんでスズに話しかけた。

「スズちゃん、俺、もっと剣の腕を磨いて、ちゃんと剣を扱える様になるから、そのときは俺に合った剣を打ってほしい」

 スズは顔を上げて、パアっと屈託のない笑顔を見せ、アレクスの手を握った。

「良いんですか?剣を打たせてくれるんですか!私も父の様な立派な鍛冶屋になります!アレクスさん、これから宜しくお願いします!」

 ガッチリと握手を交わす二人を見て、タングもホッと胸を撫で下ろした。

 武具の販売は大通りの大型店がシェアの大半を締めており、タングの店もそこから受注して武具を納めている。タングは「それだけでも食っては行ける」と言ってはいるが「顔が見える客が少ないのは寂しい」とも言っている。スズに贔屓の客が付いて一先ず安心といったところだろう。


 今日のところは皆でお金を出し合って、キールの槍とミーアの靴を注文して店を出た。見送りのドワーフ一家が見えなくなった所で、夕焼けの空を見上げて、アレクスが立ち止まった。

「──スズちゃんの手、マメが潰れて、凄くボロボロだった。それに比べて俺の手は······!エイルさん!明日から俺も一緒に修行させて下さい!」

 アレクスが強い眼差しでエイルに訴えた。「歓迎する」とエイルが言おうとしたところで、キールが名乗りを上げてきた。

「アレクスだけに抜け駆けはさせねーぜ!俺もだ!俺も一緒に修行させて下さい!」

「私も、私も一緒に修行するよー!」

 キールに続いてミーアも乗ってきた。そして皆んなの視線は自ずとベルの方へ向いた。

「わ、私も一緒に修行しますよお!」

 ベルは気には興味があるが、身体を動かす方は乗り気では無かった。しかし仲間の圧力もあり、身体が付いて行けないのは初めのうちだけだろうと、半ば諦めて修行の参加に声を上げた。

「よし!それじゃあ、皆んな今から俺の弟子だ。それぞれの専門的な事はわからないけど、しっかり稽古を付けてやるから、宜しくな!」

「弟子だってさ!弟子!良いねぇ、なんか強くなった気がするぜ!ってことはアレクスが1番弟子になるのかチクショウ!」

「1番弟子は私よ!もう、1つ技を教えて貰ってるから」

「え!?なになにー!ベル、何教えて貰ったの?」

 皆んなが寄って集ってベルを質問攻めにし始めると、観念したベルはスッと腕を出した。

「ミーア、ちょっと軽く抓ってみて······軽くね!」

「えー?なんでかわからないけど抓るよ。痛かったらゴメンねー。いくよー······」

「―――っぃ!······痩せ我慢よ!」

「ははは!確かに!ちゃんと呼吸も出来てるぞ。それじゃ、今日はダンジョン捜索組が帰って来る前に、俺の奢りで飯にしようか?」

「マジっすか!?やった!」

「エイルさん!ゴチになります!」

 アレクスとキールが、お互いの腕を抓り合い我慢大会をしながら食堂へ向かって歩き始めた。それを追って、腕を擦るベルと介抱するミーアが歩いて行く。

 エイルは初弟子達のまだ若く頼り無い、しかし可能性を秘めた背中を見つめ、明日からの稽古に胸を膨らませた。

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